【ニビ編.二】

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 バトル場の下見の前に、興味本位でニビ科学博物館を訪れた瀬良は、元いた世界でも見たことのない化石や、珍しい石の数々を眺めていた。特に目を引くのはプテラとカブトプス。これらは古代に生きたポケモン達の化石で、この世界ではそれを復元する技術があるはずだ。実際にそれを想像すると、あまりにも進み過ぎた技術だと瀬良は思う。

 絶滅という自然の摂理に逆らい、まったく環境の違うこの世に甦らせてしまうという行為が、とても怖いことの様にも思えてしまう。遺伝子情報さえあれば、幻のポケモンであるミュウの遺伝子を元に更なる怪物すら作り上げられるはずである。瀬良の記憶が正しければ、その怪物はニビより東側に位置する水の町、ハナダシティにあるハナダの洞窟に身を潜めているはずだ。

 凶暴性が高く、戦う事しか考えられない生物兵器。遺伝子操作が行きついた悲しい存在を最後にしようと、法規制の一つでも出来ないものなのか。そもそもミュウツーの存在そのものが協会側隠蔽されているのだとしたら、まったく救えない話だ。

 化石を展示しつつ、復元されたポケモン達のイラスト紹介も行っているニビ科学博物館は、復元に好意的なのだろう。瀬良にはどうしても違和感があった。

 自分自身が、行きすぎた技術によって被害を受けた一人である可能性がある以上、どうしてもすんなりとは肯定出来ない。遠い遠い世界からこの世界に突然連れられてしまったという点で、化石ポケモン達に瀬良は同情を示していた。
 この町のジムリーダーであるタケシもまた、強豪トレーナーとして化石ポケモンを使う。ニビの顔として生きる彼が何を考えているのか、その点バトルとは別に瀬良は興味があった。

 先にジムを訪れてみるのも良いかもしれない。博物館の観覧ルートを一周したところで、瀬良は次の目的地を定めた。

 

 

 岩タイプを冠するジムならでは。岩で装飾されたジムの様相を眺めつつ、奥のバトルフィールドを訪れた瀬良をジムリーダータケシは無言のまま手を上げて歓迎した。
 丁度ジムトレーナーの練習に付き合っているようで、タケシのポケモンであるイシツブテが相手をしていた。オーキドに続く知った顔だったが、もうその事自体に安心感を憶えたりはしない。瀬良は自分自身がこの世界の外の人間である事を自覚している。

 フィールドのトレーナーボックスに立つタケシは、腕組みをしたままバトルの様子を眺めているだけだった。イシツブテに指示を出す事もなく、トレーナーのサンドを相手に戦っている。

 瀬良はフィールドの端で待っているつもりだったが、タケシの手招きを受けてそそくさと近寄った。トレーナーは”レッド”が現れたにも関わらず気付かない。目の前のイシツブテを攻略する事に必死な様子だ。

「お久しぶりです」
「目覚ましい活躍、見事だ。このジムを訪れた頃からすると、えらい成長っぷりだな」
「おかげ様で、随分遠いところまで来ましたね」

 瀬良の言葉に驚いた様子で、一瞬バトルから目を離して瀬良を見たタケシは、「成長するもんだな」と一言呟いてからまたバトルに視線を戻した。

「どうだ、あいつは。最近、うちによく挑戦しに来る奴なんだが」
「え、これジム戦なんですか?」

 こんな片手間に、公式戦を行っても良いものなのか。
 驚いた瀬良に向かって、「ああ、違う違う」と呟いて、タケシは続ける。

「挑戦って言っても、公式のジム戦ではないよ。あいつはこの町の子なんだが、まだ駆け出しでな。公式戦を正式に行う前にこうやって修行をつけてやってるんだ」
「ジムリーダーが直々にですか?」
「駄目か?」
「い、いえ」
 
 何が悪い? と言いたげな、タケシの毅然とした態度に瀬良は押し黙る。町の子ども達をタケシが教えるという事は、それだけあの少年に見込みがあるという事だろう。

「よっぽど才能があるんですね」
「あいつには多分才能があるが、そんなものはどうだっていい。熱意さえあればそれで良いんだ。俺はそう思ってる」

 なるほど、と瀬良は思う。町のトレーナー達は、このジムリーダータケシを慕って教えを乞いに来るのだろう。彼を模範とし、強くなる事を目指している。トレーナー達のレベルを一定に保つ事は、町の治安維持にも繋がる。

「それにあいつ、ひと昔前のレッドにそっくりじゃないか?」
「そうですかね」
 
 瀬良はイシツブテと必死に戦うサンドとそのトレーナーに視線を向ける。見たところ、レッドと同い年程に見える。

「どの辺りがそっくりなんです?」
「まだ駆け出しで、身体中に力が入りすぎていて、でも必死なところだよ。ポケモンの期待に応えようと必死なトレーナーと、トレーナーの期待に応えようと必死なポケモンが一組になって頑張る様子なんか、本当そっくりだ」

 今カントーで一番強いトレーナーも、タケシの記憶では初心者トレーナーの印象が強いらしい。これはここでしか聞けない面白い話だと瀬良は思った。

「勢いよく向かって来る威勢の良いトレーナーが、俺は嫌いじゃない。レッドが初めてここに来た時なんか、ピカチュウ一体で乗り込んで来たの覚えてるか?」
「い、いやあ、なあんも知らなかったんですよ、本当に」

 どうにか抑えて適当に誤魔化したが、瀬良もまた、へえ、と声に出してしまうところだった。無茶苦茶やり過ぎているメディアや雑誌のレッド礼賛とレッド叩きは、創作混じりの眉唾も多かったはず。それでもあんなものに一通り目を通してしまうと、瀬良でさえそれに毒されてしまう。レッドだって人間には変わりないはずで、駆け出しの時代があったのだという事を忘れていた。

「お前達は必死だった。今のあいつみたいに、自分のポケモンの期待に応えようと必死だったよ。その気持ちを忘れてしまうトレーナーが、多いんだと俺は思ってる」

 瀬良はタケシの言葉に返答する言葉を持たなかった。バトルに必死さなんてある訳がない。互いの期待に応えようなんて微塵も思っていない。トレーナーとしては本当に最底辺。それを自覚してしまう。
 レッドはそんなことないもんな、と言われているようで罰が悪かった。
 気づけば、フィールドではイシツブテにやられたサンドが地面に転がっていた。慌てて近寄った少年トレーナーが、傷薬を掛けつつサンドを労い、モンスターボールへ戻した。

「よく頑張った。イシツブテを倒す事が出来れば、次の段階だ。根気よく頑張るように」
「はい!」

 と、シャキリと背を正した少年と瀬良は目があった。今まで気付いていなかったのだろう。悔し気な顔が途端に呆気に取られていく。

「そ、そこにいらっしゃる方って」
「レッドだ」

 タケシがあっさりと紹介する。その事自体は間違っていないものの、その事実は少年にとって重いようだった。

「あ、あの! 俺、タイチって言います。レッドさんの活躍見ていて凄いなって思って、その! 憧れてます!」

 ストレートな物言いに、瀬良の方が困惑してしまう。ここにいるのはレッドであってレッドではない。

「あ、ありがとうございます」
「せっかくの機会だ。何か質問したらどうだ?」

 いいよな? というタケシの表情に押されて瀬良は頷いた。タイチはカチコチに固まったまま歩み寄って来て、会話が出来る程度の距離で直立した。

「あの、もっと身体の力を抜いてもらえると、質問にも答えやすいかな、なんて」
「あ、はい!」

 と、さらに身体を固くする少年は、筋金入りのレッドファンだった。

「初めてのジム戦を、どうやって突破したんでしょう!」

 タケシとのジム戦をどう切り抜けたか。瀬良は質問を引き受けてしまった事を単に後悔した。分かる訳がない。こんな純粋な少年相手に、適当な答えしか出来ない。

「とにかく一生懸命だったんで、あんまり覚えてないんですよね。でも、自分が勝ちたいって気持ちを、ポケモンだって持ってるっていうのを身体で理解するのが大事だと思います」

 それっぽい事を、さっきタケシが言っていた言葉に乗せるように返してみた。うんうん、とタケシは頷き、”レッド”からの言葉を賜った少年も感激したようにキラキラした目を瀬良に向ける。

「そうだな。熱意があるのは良い事だが、ポケモンとそれを共有するのがまた大事。肝に命じておけ」

 切り抜けられた事にホッとする半面、もうこういうのに応じるのはやめようと、瀬良は思った。

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