【第026話】K

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読了時間目安:9分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 夜も更け、日付が変わろうとする頃。
私は江戸川区内の一軒家に来ていた。
ここは鷲神おおとりさんの家だ。
「ふふん、結構広いでしょ。ローンで買ったからね……ま、上がって上がって。」
自慢気に語る鷲神さん。
一人暮らし……厳密には月也くん込でふたりだが、それにしても明らかに大きな家であることは間違いない。
一体なぜこんな広い家を……?
「お……お邪魔します……。」
私は一礼し、玄関に上がる。
本当であればロゼットに併設されている私の部屋に帰りたかった……が、鷲神おおとりさんいわく。

「あのお店の場所が蔓野鶏頭に割れている以上、もう危ないからねぇ。キミの弟さんとか特に、何をしでかしてくるかわからないし。」
彼女の言う通りだ。
実紀があそこまで私に執着している以上、何をしてくるかわからない。
彼自身じゃなくても、その周辺の連中は危険人物ばかりだ。
そして、私にはオニちゃんがいない。
襲われたって、対抗する力がないのだ。
それを考慮しても、やはり鷲神さんの近くで過ごすのが最善なのだろう。

「……ん?」
靴を抜いて居間へと向かおうとした瞬間……あるものが目に入る。
車輪付きの、低座高の椅子だ。
「(く、車椅子……?)」
何故か車椅子が負いてある。
鷲神さんの一人暮らしのはずなのに……だ。

「服はそこにかけといて。あ、疲れているでしょ?お風呂沸かしておくから、先に入っちゃいなよ。」
「あ……ど、どうも……。」
本当に至れり尽くせり、というか……鷲神さんは私にこれでもかと優しくしてくれる。
……きっと、そこに他意はない。
少なくとも、今の私はそう思いたかった。





ーーーーーー私も鷲神さんも身支度を終え、あとは寝るだけ……となったその時。
「……んで、お疲れのとこ悪いんだけどさ。小枝ちゃんに確認したいことがあるんだよね。」
「……?」
確認したいこと……?
そう思っていると、彼女はメモ帳を取り出してくる。
「とりあえず……いま、小枝ちゃんのやりたいことは何かな?それを確認したくてさ。」
「な……何をしたいか?」
「そう。とりあえず、ちゃんと目標を立てなきゃ。前を向いて生きるには、こういう計画立てが一番だよ!」

 そうか……確かにそうだ。
何のために生きるのか。
それが見えている間は、私は少なからず前を向けていた。
今度だってそうだ。
自分が今何をしなければいけないのか……考えなくては。
出来る、出来ないの問題じゃない。
本当に後ろめたい出来事こそ……きっと向き合わなくてはいけないんだ。

 今、私がやるべきことは……
「……オニちゃんの捜索と、クマちゃんの奪還です。」
「うん!そうだよね。オニちゃん達のこと、心配だもんね。」
そうだ……ふたりとも、私の居場所を作ってくれた大切な人だ。
だったら、せめて連れ戻してあげないと。
あのロゼットに。

「よし、じゃあ目標が決まったところで……今日は寝ましょ。」
「は、はい……!」
そんなこんなで、私は眠りについた。
明日からの決意を胸に……




ーーーーー3日後、新宿区・児童相談所地下室。
獣対部との連絡手段を絶ち、引きこもり生活を始めていた鎌倉とストライク。
その部屋には……多くの書物が散乱する有様であった。
文面に記載されているのは、いかにも怪しげな呪術の方法や魔法陣についての情報だ。
あまりにオカルティックなそれらの書を、警察官である鎌倉が大真面目に読んでいるのだ。
仕事を放り投げてまでこんなことをしているなど、普通に考えたら狂気以外の何物でもないだろう。

「……よし、ある程度、召喚の技術の傾向は掴めてきました。」
目にクマを浮かべながら、メモ帳に写経を繰り返し続ける鎌倉。
その表情は疲弊の色に満ちていたものの……どこか笑ってすらいた。
『ふぅ……なら良かったぜェ。まさか俺の大学時代の研究が、こんなところで役に立つとはなァ……。』
嘗ての日々に、思いを馳せるストライク。
そう、鎌倉が持ち込んでいた書物には……彼が人間時代に呼んでいた文献も多く含まれていたのだ。
「いや……本気でこんな悪魔崇拝の研究とかしてたんですか?」
『してたぜ。アメリカの方は、特にそういうイカれたことをしている連中が多かったからな。俺も卒論の単位を取るために、仕方なく入ってたぜェ。』
「えぇ……。」
『まぁ、異世界からマジの邪神を呼んだやつは流石に初めて聞いたけどな……。』
アメリカ……召喚術……そう、それはまさに、梅咲実紀が手を出した禁忌のことだ。
鎌倉はある観点から、実紀の喉元に噛みつかんと……独自の調査を始めたのである。

「さて……そろそろですかね。実践パートに行くのは。」
『あぁ。多分「奴」も「現地」に着いた頃だろうなァ。スタンバイ、しておいたほうが良いんじゃねぇのか。』
ストライクはそう言いつつ、腕の爪先を起用に使って部屋のPCを起動する。
側面に、「ハーリティ」と書かれたテープの貼られたPCを。

「………っと、専用の連絡サーバーは……こっちですね……」
真横から、目にも留まらぬ速さでキーボードを叩く鎌倉。
「……よし。これで連絡がつくはずです。」
鎌倉が最後にエンターキーを押すと、画面にはメールソフトが立ち上がる。
『お、早速連絡が来ているぜェ……!』
そしてそこには、つい数分前に着信したばかりのメールが届いていた。

 ……差出人は、『K』という人物である。




ーーーーーほぼ同時刻。
アメリカ、カリフォルニア州、某大学。
寂れた研究塔の、更に奥部の廊下。
ガラス片が散乱し、外からの枝葉や泥の乱入で、足場が劣悪なことになっている。
電灯なんてものは当然なく、うっすらと差し込む陽光のみが頼りの、薄暗い場所だ。
そんな場所に、とある男女が2名。
人目を忍んで訪れていた。

「ひどく廃れた場所デス……本当に此処で合ってるんデスか?」
問いかけたのは大手商社の重役職員、レヴィア・マーキュリーだ。
「合ってるとも。……それより、こんな所までついてきて良かったのかい?」
フードを被った長身の男は、マーキュリーに逆に問いかけた。
「えぇ。先方には、しばらくインドネシアから帰らないって伝えておきマシタからね。アナタも事が心配デスし。」
「まぁ……そうだよね。貴方がいなくちゃ、俺は海を渡れなかったわけだし、『俺ら』はそもそも活動もできない。普段から感謝してるよ。」
「……あとはそうデスね。私も、知りたいのデスよ。この力が、果たして何処から来たものなのか……。」

 そうだ……この先にあるのは、感染獣ポケモンに纏る重要な情報。
今現在、人々が苦悶する理由である。
であれば、契獣者となったマーキュリーも……その理由を知りたくなるのは、ある種必然なのだ。

 やがてマーキュリー一行は、最奥部の部屋の前までたどり着く。
既に扉は半壊して、仕切りとしての役割を果たしていない。
「……此処かな。入るよ。」
「ッ………!」
ふたりは紙や枝葉の散乱した部屋を進んでく。

 すると真っ先に目に入ったものは……1枚の写真だった。
「……あぁ。ビンゴだ。」
そこに写っていたのは、老いぼれた男性の研究者。
そして、くせ毛の若い日本人学生。

 ……梅咲実紀であった。


「さて……この部屋に有用な資料が残っていればいいけどな。」
ホコリを被ったファイルをいくつか取り出しながら、フードの男は呟く。
そして近くの机に積み上げると、パラパラと中身を読み始めた。

「……うん、ここまで来ると俺の専門外だな。マーキュリーさん、読める?」
「……無理デスね。こんな言語体系、見たことないデス。」
「ハハハ、じゃあ……餅は餅屋ってことだな。」
そう言うとフードの男は、自身の鞄の中からタブレット端末を取り出す。
そして次々と、資料の写真を撮っていく。
「んじゃ、あとは日本の優秀な警察官に任せますか。邪神ホシを捕まえるのは、彼女の仕事だ。」
そうして彼は、意気揚々とファイルのページを捲る。



「しかし意外デス。貴方でも、出来ないことがあるんですね……
























………ミスター・狐崎。」



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