【第025話】Rally

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読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



 宙を舞ったはずの私の身体は、鳥型のポケモンの背中で受け止められた。
その視線の先には、スーツスタイルの小柄な女性が。
恐らく、このポケモンの契獣者だろう。
月也つきや』と呼ばれたポケモンはゆっくりと降り立ち、その女性の目前まで私を運んでいく。

「ふぅ、危ない危ない……大丈夫?怪我はない?」
女性は私の方に駆け寄ると、全身をくまなく探ってくる。
「ちょ!?何を……ふがっ」
そして遂には、口の中までをも覗いてくる。
「目立った外傷……はないか。」
「ふぁ……ふぁいふふんへふはなにするんですか!!」
『……その辺にしときなよ、姉ちゃん。』
「あ、しまった!つい職業病が……!」
鳥ポケモンが止めに入ると、女性は慌てて手を離す。

「……いえ、大丈夫です。」
私はそそくさと逃げ去ろうとする。
絶対に面倒くさい人だ、と第六感が告げていた。
それに、契獣者に関連することは、もう考えたくなかったのだ。

 だが、それを女性は許さない。
半ば強引に、去りゆく私の手首をつかんでくる。
「ああ、駄目っ!アナタを放っておいたら、また……」
この感触……この言葉。
どことなく懐かしいその温もりは、つい先月のものだというのに。

「………。」
きっと、その腕はもっと簡単に振りほどけただろう。
逃げ出して、この命をまた投げ出そうとも出来ただろう。
だが、心がそうさせない。
私はまた、その優しさに縋ろうとしている。
……つくづく、どうしようもない人間だ。

「ワケありって感じでしょ、キミ。じゃなきゃあんな所にいないもんね。」
流石にその程度のことは、お見通し……ということだろうか。
それにもしこの人が契獣者なら、全てを話しても良いのかもしれない。
私の罪の……全てを。

「ちょっとお姉さんとお話しようか。ロゼットの店員さん。」
「……え?」



ーーーーーー同時刻。
吾妻橋、梅咲家。
「ははっ、そうかそうか……!あのニューラが死んだか!!ハハハハハハ!!ざまぁ見やがれってんだ!!!」
三ツ矢が帰宅し、小枝たち一行を襲撃した旨を伝えると……実紀は嘗て無いほどに大きな笑い声を上げたのだ。
「そもそも、姉さんと契獣関係になろうなんざ烏滸がましいにも程があるんだよッ!!ハハハハハハッ!!」
その興奮ぶりは、ノートパソコンのキーボードを叩く打鍵音の激しさが物語っていた。

「おいおい、随分と機嫌がいいじゃねぇか先生。CMカオスマザーの力も、惜しみなく使っているようだしなぁ?」
「あぁ、これで姉さんの周囲の人間は全滅した!!そろそろ、俺のことを頼りに戻ってくるはずだ!!」
「へぇ……そう上手く行けばいいけどなァ。」
夜行はタバコを蒸しつつ、高笑いする実紀のほうを眺めていた。

「まぁ、三ツ矢の野郎は○○をキメた反動で寝込んでやがるみてぇだけどな……んで?そっちも無事に殺れたみてぇだな。白波ィ。」
彼女はタバコを灰皿に捨てると、目線を白波に移し替える。
「まぁね。ちょっとムカつく奴らだったから……思い切って八つ裂きにしちゃったよ。あの獣医たち。っと……調子悪いなこのメーカー……」
そう言いながら、白波はキッチンの方でコーヒーを入れていた。

「……。」
「おいおいどうしたホスト野郎。テメェはテメェで随分と浮かない顔じゃねぇか。」
次のタバコを取り出しながら、夜行の視線はさらにクマへと移る。
事実、彼の顔はひどく青ざめていたのだ。
暗がりの中でも、はっきりと分かるほど。

「(オニちゃん……友理子さん……)」
クマは夜行の呼び声にも気づかぬまま俯く。
「(俺が……白波に場所を教えたから……)」

「まさかテメェ……昔のお仲間が死んだのが辛いってか?」
身を乗り出し、夜行はクマの眼前までにじり寄った。
「……!!……んなわけ無いでしょ。もう俺は……ロゼットを捨てたんスから。」
「ふーん……なら良いけどよ。」
夜行からクマへと向けられる視線は……どことなく、冷ややかなものであった。
二人の間に、ヒリついた空気が流れる。

「大丈夫だよ。熊野くんの居場所はここだからね。僕がキミを退屈させないよう頑張るよ。」
そこへ、コーヒーを入れ終わった白波が、2つ分のマグカップを持って現れた。
そのうちの一つを、クマの目の前に差し出す。
「ハッ、よく言うぜ!CMカオスマザー頼りのお坊ちゃんがよォ!」
「……何?喧嘩でも売る気かな?」
「……おう、やんのかテメェ?」
夜行と白波が互いに睨み合い、険悪な雰囲気が生まれる。
そのふたりを見つめつつ、興味なさげにするクマ。
しかしこのまま放っておくのも面倒だと考えた彼は……言葉を口にする。
かねてより疑問であった、その言葉を……

「……そういえば、さっきから言ってる『CMカオスマザー』って、一体何なんスか?」
クマが問いかけると、白波が温和な表情に戻って返答する。
「あぁ、それね。そこの実紀先生が持っている力だ。実紀先生はポケモンをこの世に生み出した存在だからね。その根源の力を自由に扱えるのさ。」
「……。」
白波の口から語られた、CMカオスマザーの正体。
それは麒麟寺らの予想通り、梅咲実紀によって蔓野鶏頭のメンバーたちに与えられた、ポケモンの根源たる力だったのだ。

「おっと……それはちょっとばかり違うな白波。俺だって、自由に扱えるわけじゃねェんだわ。」
「あー……そういえばそうだったね。」
CMカオスマザーは俺の母さんを改造ころして作り上げた生命体だ。俺の体内じゃ容量が限界だったから、例の場所にわざわざ保管してある。」
サラッと実紀の口から放たれる、衝撃の事実。
身内を迷いなく殺せる……この男の底しれぬ狂気に戦慄しつつも、クマは怯まずに問いかける。
「保管……?どういうことッスか?」
「そうだな……教えてやらんこともない。その時が来れば……な。」
「……。」



ーーーーーー少し時間が経過して。
江戸川区、某ファミリーレストラン。

 私はこのスーツの女性に奢って貰う形で、店の奥にある席へと座らされた。
彼女の名前は『鷲神陽向おおとりひなた』さん。
都内の児童相談所に勤めている人らしい。
曰く、困っている未成年は放っておけない……とのことだ。
だが……

「あ、えっと、その……」
流石に此処まで面倒を見てもらうのは、忍びないにも程がある。
そう言おうとしたが、鷲神さんは食い気味に遮ってくる。
「ノンノン!悩める若者が気にしちゃ駄目だって!お姉さんに全部任せておきなさい!」
自分が年上であることをかなり強調している……が、はっきり言って私と大差ない歳だろう。
否、寧ろその身長と童顔のせいで、私より子供っぽくすら見える。

「……んで、何があったのかな?梅咲小枝ちゃん。」
私の目を見て、柔らかい笑顔で問いかけてくる彼女。
名前はどうやら、私のネームプレートを見て判断したのだろう。

「その……。」
「ゆっくりでいいよ。私、人の話を聞くのは得意だから。」
その優しい声に、私は不思議と安心してしまう。
私は……この数日の間に起こった出来事を、ゆっくりと話していく。





「……なるほどね。此処まで話してくれてありがとう。」
机に置かれていたのは、冷めきってしまったコーヒーカップ2つと、煮込みハンバーグ。
鷲神さんはここまで、私の話を真摯に聞いてくれたのである。
途中で何度も言葉が詰まったが……それでも、鷲神さんは決して嫌な顔ひとつしなかった。

「ホントに……私が……私が殺したようなものです。私はどう生きていけば……」
私がそう言うと、鷲神さんはコーヒーをようやく口にして……そして一言。
「でもさぁ……今の話で、少し気になることがあるんだよね。」
「き、気になること……?」
「契獣者がただの人間に戻るなんて、聞いたこと無くてさ……」

 ……そういえば、そうだ。
普通はポケモンが死ねば、契獣者も自然と死ぬはずだ。
だがオニちゃんは……私との契獣関係が、確実に切れたのだ。

「どう?心当たりはある?」
「……多分、三ツ矢っていう男のせいです。彼の連れていたジュナイパーっていうポケモンが……なんというか、特別な力を使っていたというか……」
「……ふーん。そっか。」
……気のせいか?
鷲神さんの口元が、少し歪んだように見えた。

「あとさあとさ、その熊野くんっていう男の子?ホントに裏切ったの?」
「え……?だって、狐崎さんが殺されたんですよ……?」
「いやいや、そっちの方が信じられないって。だってあの狐崎くんだよ?私たち『ハーリティー』の主要メンバーの……」
「は、『ハーリティー』?」

 鷲神さんの口から、聞き慣れない単語が飛び出す。
え……?
というか『あの』狐崎くん……?
もしかして、狐崎さんと知り合い?
すると彼女は、「しまった」と言わんばかりに口を閉ざす。

「げふん……と、とにかく!あの狐崎くんがナイフで刺された程度で死ぬわけがないって!」
「で、でも……」
そんなことを言ったって、狐崎さんはもういない。
……が、確かに。
私はその現場を、その目で見ていない。

「それに……その熊野くんだっけ?話を聞く限り、そんなに悪い子のようには思えないけどね。」
「………。」
悪い子じゃない……なんてことはないと思う。
彼は明白に、オニちゃんや狐崎さんの信頼を裏切っているのだ。
だが……それでも。
私は思わず、鷲神さんの言葉に頷いてしまった。

 まだ、心の何処かで信じていたかったのだろう。
クマちゃんの良心を。

「それに、そのオニちゃんっていうポケモンだって、厳密には死んでいないんでしょう?なら……今ある命を助けることが、キミに出来ることなんじゃない?」
「お……鷲神さん……」
「大丈夫!お姉さんも出来る限りのことはするよ!月也っていう頼もしい味方もいるからね!」
そう言って鷲神さんは、ぐっと親指を立てる。
ウォーグル月也くんの姿は見えなかったが……それでも、彼らの存在は、なにより温かいものだった。
居場所を自らの手で消してしまった私に与えられた……最後の救いの手のような気がして。

「ちょ……ちょっとお花詰んできます。」
「どうぞ、ごゆっくり。」
私は自らの目頭に熱を感じ……思わず離席した。








ーーーーー「………ふぅ、危なかった。」
『余計なことを喋っちゃ駄目だろ、姉ちゃん。』
「ハハハ、いやいや失敬失敬。」
頭を掻きながら笑う鷲神と、呆れるウォーグル月也
彼ら姉弟は、念話の中で語り合っていた。
「小枝ちゃんもびっくりするよね。まさか私と狐崎さんが、陰の児童保護組織『ハーリティ』の一員!なんて言ったら。」
『「陰の組織」っていうか、やってることはほぼテロリストと変わらないけどね。世の「毒親」を一体何人殺したことか。』
「ね。特に狐崎くんとか、やり口エグかったからな……」
鷲神はコーヒーを飲み干し、ドリンクバーへおかわりを注ぎに向かう。

「……でも、有給使ってロゼットに来て正解だったわ。小枝ちゃんのことも引き止められたし。」
『だね。何より……「ジュナイパー」と「三ツ矢」の情報はデカい。』
鷲神の口元が……ニヤリと大きく歪む。

「ま……これから忙しくなりそうだ。」

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