羽と瞳

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

バトル好きなドデカバシ♀と、彼女に引っ張られてバトル好きになっていくトレーナーの話です。
今回は出会い編で、ほぼツツケラ時代の出来事になります。

原作のトレーナーは出てきません。主に妄想のモブトレーナーと一般ポケモンの話です。設定について一部自己解釈、捏造を含みます。

本シリーズは以前pixivに掲載していた小説の再掲です。
第1話から第5話まで順次投稿しなおしていって、再掲が済んだら続きを書き始めるつもりです。
思いつきでのんびり書いているので投稿頻度は不定期で、完結予定もありません。
 私が相棒のドデカバシと出会ったのは海外出張の最中だった。
 もっとも相棒だと思っているのは私だけで、彼女の方ではそう思っていないかもしれない。日常生活における餌や寝床等の提供とバトルにおける技の指示を行う私のことを、自分に仕える参謀か何かと思っている可能性は低くない。というか出会ってすぐの頃は確実に兵站と戦略の担当だと認識されていた。今は分からない。
 相棒なのか将軍なのか、ともかく非常に近い間柄の彼女と出会うまでの人生において、私は自分のポケモンというものを持ったことが無かった。バトルの知識は学生時代に覚えた基礎的なもの(タイプ相性とか、いくつかの技や特性くらい)に留まっていた。休日には一人で本を読んだり景色を見たりして過ごしていた私が、バトル施設にちょくちょく赴くようになったのは彼女のためだ。

 話が逸れた。ドデカバシ、いや当時ツツケラをゲットした時の話だ。
 私は今の会社に入社して(社会人になって)間もない頃、研修も兼ねて南国の支社に出向くことになった。
 向こうの支社の人は陽気に私を出迎えてくれた。そして歓迎の印として特産品のお菓子と、後に私の人生を大きく変えることになるモンスターボールをくれた。折角来たのだから、この地方のポケモンと仲良くなってほしい、とかなんとか。
 お菓子は美味しかったしボールもありがたく受け取ったけど、その時の私はポケモンを捕まえるつもりは特に無かった。でも野生ポケモンに襲われた時の自衛手段としても使えるし、もらったものを使わないのも若干申し訳なかったので、しばらくボールは持ち歩くことにしたのだ。





 南国での生活に慣れてきたある土曜日、私はこの地方の観光名所として名高い火山公園に行こうと思い家を出た。タクシーが捕まえやすいストリートまで、海の見える小道をてくてく歩く。空は青く、遠くに入道雲の白が映える。海の上を数羽のキャモメが飛んでいた。一定の範囲をぐるぐると飛んでいるのを見るに、きっと海中にいる魚ポケモンを狙っているのだろう。
 ちょっと遠くの景色を楽しみながら歩いていたその時、私のすぐ近く、小道の端の草むらでガサガサと大きな音がした。驚いてそちらに目をやると、2匹のポケモンが争っていた。
 1匹は紫色のガスをまとった、顔の付いた黒い球体。ゴースだ。そういえば近くに墓地があったな、そこから来たんだろうな、と思ったのを覚えている。
 そしてゴースと争っていたのが、黒い体に白と赤の頭、つぶらな瞳の小鳥。ツツケラである。

 ツツケラの後ろにはオレンの実が転がっていた。どうやら2匹は木の実をめぐって取り合いをしていたのだ。
 ツツケラは地面に足を付けた状態で、少し上を見上げて懸命に鳴き声を上げていた。よくよく聞いてみると、2種類の違う鳴き方をしていることが分かった。その時の私には分からなかったが、"なきごえ"と"エコーボイス"を使い分けていたのだ。しかしエコーボイスはノーマルタイプなのでゴースには効かないし、なきごえはダメージを与える技じゃないから決定打にならない。
 対するゴースは楽しそうに、からかうようにツツケラを舌でなめたり笑ったりしていた。ゴースが動く度に、心なしかひんやりとした空気が漂ってくるようだった。
 野生同士、タイプ相性をよく分からずにやみくもに無意味な技を打ち合う不毛な争いが続いていた。しかし膠着状態は不意に破られた。
 ゴースが"あやしいひかり"を放った。不規則な軌道を描いてカラフルに明滅するそれは目の前の小鳥に吸い込まれるように飛んでいく。不気味な光を顔に浴びたツツケラは急に取り乱し、バサバサと羽ばたいて飛び上がったかと思うと不意に羽ばたきを止めて地面に落ちた。上手く着地できず横倒しになって、痛そうに涙をにじませつつもがく。周囲の草がこすれてザラザラと音を立て、青い匂いに交じって鉄の匂いがほんのり漂う。
 傷ついた羽根がいくらか抜けて飛び散り、そのうち1枚がこちらに飛んできて、私の足元に落ちた。私はしゃがんでそれを拾った。体の黒い部分の羽根だ。油で少しべっとりしている。
 そこで、ふと、我に返った。
 何故私は、野生のポケモンの争いをじっと見ていたのだろう。道端で、町の隅で、野生のポケモンが争うのはよくあることだし、何度も見かけた。小さい頃じっと観察したことはあるけど、世界のあちこちで日常的に起きていることだと分かってからはスルーしていた。ついさっきもキャモメが魚ポケモンを狙っているのを眺めてスルーしたばかりではないか。ゴースなんて地元でもテレビでもこの地方でもありふれた存在だし、ツツケラはこの地方にはわんさかいる。なぜ今この時、私は目を離せないでいたのか。いつもと、何が違う。
 しゃがんだ姿勢のまま考え込んでしまった。モヤっとした思いを抱きつつ立ち上がって、手に取った羽根から顔を上げると、

 ツツケラと、目が合った。

 その瞬間私の頭の中を、いくつものことが"でんこうせっか"のように駆け巡った。先ほどまでのゆったりとした考え事がヤドンなら、この瞬間の私の頭の回転の速さはテッカニンだった。
 まず私は周囲の状況を一通り認識し直した。ツツケラの目はちょっぴり涙をたたえながらも、闘志を失っていないキリッとした目だった。ゴースはツツケラの背後を取っていて、口角を上げて笑みを浮かべながら舌を出して次の攻撃に移ろうとしている。効果の無い技だが。争奪戦の対象だったオレンの実は何かの拍子に転がったようで、先ほどの位置よりもほんの少し私の近くに来ている。周囲に2匹以外のポケモンの姿は見えないので、乱入や漁夫の利を心配する必要は無さそうだ。木の実のなる木が風にそよぐ音とキャモメの鳴き声が微かに聞こえた。
 そして何故ツツケラがこちらを見ていたのか、その経緯を脳内でシミュレートした。私が物思いにふけっている間にツツケラはなんとか立ち上がって、見失った敵を探して辺りを見渡した。その過程でこちらを向いたときに、私の姿をその目に映したのだ。たぶん。きっと。
 次に、どうすればツツケラはあのゴースに勝ってオレンにありつけるのか、その方法を考えた。レベルの低い野生の鳥ポケモンが覚える技でゴースにダメージを与えられるのは、"つつく"以外にない。そして、私はそのことをツツケラに伝えないといけない、と直感的に判断した。
 ゴースには悪いけれど、私は今からツツケラの味方をする。オレンが元々どちらのものだったかも分からないし、どちらが正当ということも無いのだろうけど、私はあの小鳥の味方をしないといけないのだ。それは同時に、何故私が2匹の争いから、いやツツケラから目を離せなかったのか、その理由と直結する。
 私は左手を自分の顔の前に持ってきて、くちばしのジェスチャーを作った。そのくちばしを前に軽く突き出しながら、「つつく」と声に出して指示をする。同時に空いた右手でゴースのいる方を指し示した。
 それを見たツツケラは目を見開いて、でもすぐにキリッとした顔に戻って小さくうなずき、クルリと振り向いて背後のゴースにとびかかった。混乱中とは思えない程に迷いなく、勢いよくくちばしを突き出してぶつかっていく。外傷は見えないもののダメージは受けたらしいゴースは、少し後ずさって驚きと怯えを顔に出す。突然に干渉してきた通行人と突然に反撃に転じた小鳥の間で少しだけ目をさまよわせるが、即座に切り替えてあやしいひかりを再び放つ。2匹とも驚いてから戦闘に戻るまでの判断が速い。さすが野生。しかしツツケラは既に混乱しているのであやしいひかりは無効だ。空中で光を受けたツツケラは頭を軽く振って混乱を振り切って、もう一度ゴースに突っ込んでいく。2度目のつつくを受けたゴースは、フラフラと草むらの中に消えていった。

 着地して相手の姿が見えなくなるのを確認したツツケラは、顔だけ動かして私を視界の端に捉えた。私は先ほどのジェスチャーの姿勢のまま固まって、ぼんやりと今の出来事を反芻していた。考え事をしていると動きが止まってしまう、野生だと生き残れないタイプの間抜けな人間を少しの間観察したツツケラは、お目当てのオレンの方に向っていった。
 私はようやく気を取り直して、背負っていたリュックサックからモンスターボールとスマホを取り出した。その場できのみをついばみ始めた小鳥を横目に見ながら、『ツツケラ 飼い方』『鳥ポケモン 飼い方 初心者』『ツツケラ 進化』等のキーワードで検索をかける。よし、飼える。詳しいことを後でまた調べたり、必要なものを揃えたりしないといけないが。
 オレンの皮まで残さず食べたツツケラがこちらを見た。その視線は私の顔の方から、手に持ったボールの方に移って、もう一度顔に戻ってきた。その時の彼女は、私のことをどう思っていたのだろう。仲間という認識なのか、恩人という認識なのか。野生のシビアな世界で生きてきた子だから、利用できそうな間抜けだと認識していた可能性が一番高いか。
 感情なのか損得なのか、ともかく警戒する必要のない存在として認識してもらえたらしい私は、右手のスマホをリュックに戻し、左手に持っていたボールを右手に持ち直した。右利きだから。
 私はボールを持った右手を恐る恐る持ち上げる。ツツケラが飛んで私に近づいてくる。オレンの香りが漂ってくる。手の届く距離で滞空を始めた小鳥に、私はボールをそっと当てた。
 ツツケラが光になってボールに入っていく直前、笑顔を浮かべたように見えたのは、気のせいじゃないと思いたい。
 これが、私が人生で初めて自分のポケモンというものを持った瞬間である。餌と作戦を安定供給してくれるカモをツツケラがゲットした瞬間とも言う。


 道端で出会った初対面の相手から目を離せなくなる理由なんて、数える程しかないだろう。その相手に急に肩入れして味方までする理由となると、もっと少ない。この時のものは中でもとびきり理不尽な奴、いわゆる一目惚れである。ただし恋愛的な意味ではなく、相棒的な意味の。
 この子と一緒なら日々がもっと楽しくなると、この子のいろんな表情を見たいのだと、理由は分からないけどそう思ったのだ。





 その日私は火山公園に観光に行くのをやめて、ツツケラとの生活の準備の準備を始めた。詳細はまた後日に譲るが、ツツケラについて色んなことを知ることができて、ツツケラにも私の色んなことを知ってもらった。
 バトル好きでトレーナーを引っ張りまわして様々な相手に勝負を吹っ掛ける彼女に、トレーナーにも都合があってバトルにずっと付き合ってはいられないということを分かってもらうのには苦労した。その代わり私は空いている時間の多くを彼女がバトルで強くなるための計画やトレーニングに費やすようになった。

 今では手持ちも4匹にまで増えて、休日は地元のバトル施設でダブルバトルに励む日々だ。ノーマルランクとスーパーランクを行ったり来たりする程度の実力だけど、色んな相手と戦えるこの状況をドデカバシは楽しんでくれているようで、良い表情をたくさん見ることができる。
「対戦よろしくお願いします。...うちの子達に迂闊に手を出すと、火傷しますからご注意くださいね。」
 ドデカバシにくちばしキャノンを指示してイエッサンにサイドチェンジを指示して、相手の出方を伺う。物理アタッカーをまんまと火傷にした時の、あのドヤ顔を今日は見られるだろうか。勝利した時の嬉しそうな顔は、見られるだろうか。失敗したり負けたりした時の顔も個人的には嫌いじゃないけど、やっぱり君の笑顔を、一番近くで見たいと願う。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想