9-2 メッセンジャーとデリバリー

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



 ドアを開け入ってきたのは紫のぷよぷよとしたポケモンメタモンを頭に乗せた白いパーカーの少年と、黒いランプのようなポケモン、ランプラーを引き連れたオレンジの髪の灰色のパーカーの青年だった。
 ココさんがすぐ対応に向かうと、白いパーカーの少年が「あははごめん、注文は後で。ちょっとそこのお姉さんに用があって」と言い、私の方へまっすぐ歩いてきた。

「あなたがアサヒさんだね。初めまして。ボクの名前はシトリー。『シトりん』って呼んでくれるかな?」
「えっと、初めましてシト……りん? どうして私の名前を?」
「どうしてだと思う?」

 私を見て笑うシトりんにビー君とルカリオが警戒を強める。
 その眼差しを感じ取ったのか、オレンジの髪の青年がシトりんとふたりの間に立つ。
 ビー君たちにガンを飛ばす青年の頭を、ランプラーは「おちつけ」と言っているように叩いた。

「ローレンスの言うとおりだよイグサ」

 シトりんはランプラー、ローレンスの行動を支持した。それからイグサと呼んだ青年をたしなめる。
 イグサさんは渋々というか、結構嫌そうな顔をしてから、それでも「悪かった」と謝った。
 そんなイグサさんを見て、シトりんの頭上のメタモンが少し可笑しそうに笑っていた。
 ぽかんとしている私たちに向かって、今度はイグサさんが話し始める。

「僕らは、今日はメッセンジャーとして君に会いに来た。ある人に頼まれて伝言を持ってきたんだ、ヨアケ・アサヒ」

 その言葉を聞いて、私はユウヅキからのメッセージかもしれないと思った。ビー君とルカリオもその可能性を感じていて、彼らの言葉にじっと耳をすませていた。

 「シトりん」、とイグサさんは促す。その言葉に応え、いったんメタモンを床へと降ろし、息を整えるシトりん。

「……うん。伝言はこうだったよ」

 その時、シトりんの佇まいが……変わった。
 姿勢、というか、雰囲気、と言えばいいのか。先ほどまでの無邪気な笑みを浮かべる少年とは打って変わった空気をまとって。

 姿形はそのままで、シトりんは別人になった。

 その演技というにはあまりにも精巧な何かによって形成され現れたそれは、
 私のよく知っている、懐かしい彼の姿が重なって見えた。

「“【暁の館】で待つ、なるべく一人で来てほしい”」

 一言だけ。でも。でもその声は。
 その声はまぎれもなくユウヅキのものだった。

「……っ!!!」

 形容しがたい感情がこみあげてくる。思わず、目頭が熱くなる。
 ずっとその顔を見つめていたくなるような気がして、感情に飲まれそうになって……だからこそ、私は一回目蓋を閉じる。
 ぐっと目をつむって、また開いたそこには、先ほど出逢ったシトりんがそこに居た。

「……だってさ。依頼主からの伝言はこれだけだよ、あはは」
「……伝えてくれて、ありがとう。すごい、似ていた……どうやったの?」
「あはは。ボクはいつだって誰かの模倣者だからね。物真似が得意なんだ。どういたしまして」

 そう笑うシトりん。まるでこの子はそこにいるメタモンみたいな子だなと思った。
 そう思ったことを見抜かれたのか、シトりんは再び頭に乗せたメタモンを私に紹介した。

「ちなみにこの子もシトリーっていうんだよ」
「ややこしいね」

 わりと率直な感想が出てしまった。


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 少年シトリーからの伝言を聞いたヨアケの反応を見て俺は、改めて悟る。
 こいつが本当に、ヤミナベのことが気になっているんだなと。

(意外だな)

 その事実に、俺はもっと嫉妬するのかとも、思ったこともあった。
 もっと、荒れるかなとは、覚悟していた時期もあった。
 でもどこか静かな気持ちで俺は、ヨアケの背中を押していた。

「【暁の館】は【ソウキュウ】の外、東南にある館だ。行ってこい。そして何か困ったらすぐ連絡しろ」
「ビー君……でも私は貴方に送り届けてもらうって、貴方と一緒に捕まえるって……!」
「俺が送り届けることにこだわって、せっかくのチャンスを無駄にしてはいけないからな……うまくやれよヨアケ」

 俺の目を見た彼女はだいぶ迷った後、しっかりとうなずき「ありがとう」と言ってカフェを飛び出していった。
 ヨアケを見送った俺に、イグサが話しかけてくる。

「彼女は何者だ」
「何者って、もうアンタらはヨアケの名前は知っているだろ?」
「そうじゃない。君のルカリオは波導の力を持っているはずだ。ルカリオは、彼女の異常な気配に気づいていないのか?」

 急に名指しされたルカリオは驚き、首を横に振る。
 ヨアケの異常な波導なんて、俺も気づいたことはないぞ。

「波導だと、わからないのか……? いや、でも」
「イグサ、だったか。さっきから何を言っているんだ?」
「…………僕とシトりんは普段、ローレンス、つまりはランプラーの力でさまよう魂をあの世に送る仕事をしている。いわゆる死神みたいなものだ。この国にもある仕事来ている。だから、僕自身も仕事で魂を探すために“見る”訓練をしてきたんだけど……」

 イグサは俺に問いかける。まるで似たようなものを見てきたかのような質問を、問いかける。

「彼女、変なことを言ったりしていなかったか? 例えば心当たりのない記憶があるだとか、変な光景が見えただとか」
「……あった」

 港町【ミョウジョウ】でヨアケが気を失い、変な景色を見たと言ったことがあった。
 それ以来ちょくちょくその現象があると聞いてはいた。でも当人に特に影響があるようには見えなかったから、深く気に留めていなかった。
 俺の反応を見て、奴は深刻な表情で一つの結論を導き出す。
 ヨアケに起きている状態を、俺に伝える。

「おそらく彼女の体には、二つの魂が重なっている」


 イグサに詳しい話を聞こうとしたら、カフェの扉が思い切り開かれた。
 入ってきたのは大きな帽子をかぶった銀髪ショートカットの女。
 鋭い赤い目つきでシトリーと雑談していた(一方的にからかわれて困惑していた)ココチヨさんに注文を突き付ける。

「マトマピザ。チーズ多めの。デリバリーで」
「えっと、デリバリーはやってないのだけど……」

 女はこめかみをかき「察しろ」と言わんばかりにイライラした。
 そしてなぜか俺の方を指さして言う。

「そこの配達屋に届けさせればいいでしょ?」
「! 生ものは扱ってないぞ?」
「じゃあ今から扱え。届け先は【暁の館】で。それじゃあ“早め”にね」

 言い放つだけ言い放って、女は去っていった。何かを感じ取ったココチヨさんとミミッキュは慌てて厨房へ走っていく。シトリーとシトリー(メタモンの方)が残念そうに笑っていた。
 さっきの続きを聞きたかったが、なにやら一刻を争う事態のようだ。そのことはイグサもわかっていたようで、静かに彼は首を横に振った。

「今僕から話せることはもうない。えっと名前はビー……」
「ビドーだ」
「ビドーか。君も準備をした方がいい」
「……ああ、そのようだな。行こうルカリオ!」

 俺とルカリオは、駐車場に置いていたサイドカー付きバイクを取りに向かう。

(悪いヨアケ、今行くからな)

 曇り空の中見える太陽は、傾き始めていた。


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「もっと警戒するべきだったかな」

 その青髪の青年、アキラの声は暗い通路の中をこだましていく。
 【スバルポケモン研究センター】の地下施設に、アサヒの旧友のアキラは閉じ込められていた。
 2日前所長のレインに彼の部屋に連れてこられたアキラ。
 その部屋の隠し扉から、地下施設へと案内されるも、隙をつかれ扉にロックをかけられてしまう。
 電波は、繋がらない。何かしらのジャミングがかけられているのかもしれない。助けがくるという希望にすがって待つという選択肢は、彼は最初から持ち合わせていなかった。

「向こうがその気なら、思う存分調べさせてもらうよ。後悔するぐらいにね」

 “闇隠し事件”の調査団のメンバーとして<スバル>に来てからだいぶ経つというのに、アキラはこの場所の存在を知らされていなかった。
 知らされていない、ということは知られてはいけないことがあるとアキラは判断する。
 アサヒのことも心配だったが、彼は今自分がすべきことを彼は見据えていた。
 冷静に、落ち着いて、一つ一つ彼は観察をする。

「僕がフィールドワーク専門ということをあなたが忘れているわけでもないだろうに。ラルド。『フラッシュ』を頼むよ」

 アキラは手持ちの一体。フシギバナのラルドに『フラッシュ』をさせ光源を確保する。
 幸い、居住区画を見つけられたので食料や水といったものには困らない様子だった。充電口もあったので、手持ちの携帯端末と予備バッテリーにも問題はない。ポケモンを回復できる装置も見つけた。これなら思う存分に探索できる。

「いや、いくら何でも充実させすぎだろ」

 レインの目的がここにアキラを隔離することだとしても、待遇がよすぎると彼は感じていた。誘導されているようにも感じるとアキラは思う。

 現在調査中の書斎区画には、膨大な資料が管理されていた。
 ポケモン関連の書籍が大半を占めるのは分かるが、医療関連の本も多い。
 アキラの目に留まった本の一つに“レンタルポケモンの基礎理論”というやたら分厚い本もあった。
 知識欲を抑えつつ、アキラたちは探索を続ける。

 一つの机の上に、伏せられた写真立てがあった。深緑色の髪の少年、おそらくレインの幼少時代の姿と、彼のパートナーのカイリューの進化前のポケモン、ミニリュウの姿。

 ……そしてもう一人。
 見覚えのある真昼の月のような銀色の瞳をもった、見知らぬ黒髪の女性がそこに写っていた。
 写真立てから写真を丁重に取り外し、その裏側に記された文字をアキラは読む。
 そこには、こう記されていた。

 “スバル博士と僕とミニリュウ。××××年×月×日”、と……。

 この場所について、もっと詳しく調べる必要性があると、アキラは考え行動を再開した。


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ゲストキャラ
シトりん:キャラ親 PQRさん
アキラ君:キャラ親 由衣さん

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