78話 そよかぜ村での戦い(後編)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「……始まったな」

 月明かりが照らす地上での戦いを、上空から見ているラティオス達は作戦通り、確実に出入り口を狙えるタイミングが訪れるまで待機していた。

「うう~、さっむ! 空の上ってこんなに寒いのかよー?」
「そういえば、地上で暮らしているポケモンは空の環境に慣れてなかったねー。 ほいさー」

 ラティアスから光が放たれると、その光はエイパムを優しく包み込んだ。

「お? なんか少し寒くなくなった気がするぞ!」
「フフン! これが『しんぴのまもり』の力だよー! どう? 私も頼りになるでしょー?」
「うーん、でもやっぱ青い兄ちゃんのが、まだ頼もしい気がするな」
「ガーン! なんでさー!」

 ラティアスが目に涙を浮かべながら必死に自分の良い所をエイパムに言って聞かせているが、当のエイパムは鬱陶しそうにその話を流していた。
 上空でそんなやり取りをしていると、地上の戦いに動きがあった。
陽動組が上手くDPを引き付けた事によって出入り口の周辺にDPがいなくなった場所が1つ出来たのだ。

「急降下するぞ。 しっかり掴まれ」

 その言葉にエイパムはラティオスの首元に腕を回し、離れないようしっかりとラティオスに掴まった。
直後、頭からほぼ垂直に落ちていくラティオス。
 エイパムは物凄い風圧と落ちているという感覚を感じながらも、離れないよう懸命に掴まったが、さすがにエイパムの腕力では限界があり、ついには腕がほどけてしまい空中に放り出された。

「うわあ――」
「おっと。 大声出したら気づかれちゃうよー」

 思わず悲鳴を上げかけたが、背後に控えていたラティアスが両手でエイパムをキャッチすると、右手でエイパムの口を塞いで悲鳴を止めた。

「ラティ兄はこういう事に気づけないんだよねー。 念のために落ちてもすぐ助けられるよう準備しといて正解だったよー」
「あ、ありがとう。 赤い姉ちゃんも頼りになるな」
「でしょー。 さ、もうすぐ地上だよ。 準備はいい?」
「ああ。 任せろ!」

 エイパムはポシェットから[爆破玉]を1つ取り出すと、ダンジョンの出入り口に放り込んだ。
ラティオスとラティアスはそれを確認すると、急いで上昇し、その場から離れると、地上で大きな爆発音が響き、それと同時に強烈な爆風が押し寄せてきた。

「うわあ!」

あまりの強風にエイパムが小さな悲鳴を上げたが、ラティオスとラティアスは体勢が崩れないようなんとか踏ん張り、無事に上空へと舞い戻った。

「すっげぇー衝撃だったな」
「ああ。 だが、出入り口を潰すのに十分すぎる威力のようだ」

 爆発の衝撃で舞い上がった砂埃が晴れると、そこには綺麗に埋まったダンジョンの出入り口だったものが見えた。

「おー、やったね! 大成功だよー」
「おしっ!」
「ところで、エイパム。 なぜお前はラティアスに抱えられているのだ? 確か私の背に乗っていたはずだが?」
「はぁ!? 振り落とされたからに決まってんだろ! 気づいてすらいなかったのかよ!」
「それは申し訳ない事をした。 この村の村長ならば余裕で耐えられるぐらいの速度で急降下したつもりだったので、落下するとは思わなかった」
「あのなぁ~? 言っておくけど、オレはアスタ村長ほど力がねぇの!」
「そうだよ、ラティ兄~。 あのアスタって名前のヌオーが異常なだけで、このエイパム君ぐらいが普通なんだからー」
「そ、そうか。 次は気を付ける」

 ラティアスに注意されて、へこむラティオスを見て、エイパムは青い兄ちゃんも頼りないかもなーと心の中で思うのであった。

「とりあえず、今やったやり方でいけばあと2つも楽勝だろ!」

エイパム達、封鎖組は地上で戦う陽動組が出入り口付近からDPを引き離したら、その隙にダンジョンの出入り口に目標を定めて上空から一気に急降下し、DPと交戦する前に[爆破玉]を放り込み、すかさず急上昇して離脱する戦法をとっていた。
イメージとしてはジェットコースターで高い位置から一気に急降下し、急上昇するまでの短い間でダンジョンの入り口にむけて[爆破玉]を放り込むといった感じだろう。

「いや、そう上手くはいかないだろうな」
「はぁ? なんでだよ?」
「見てみろ」

 ラティオスに促され、エイパムは地上でDPと戦う村のポケモン達の様子に目を向けた。
数で勝るDP相手に村のポケモン達は各々の役割をしっかりと果たしており、大きな負傷者を出す事もなく、戦線を維持しているようで、優勢とまではいかなくとも劣勢ではない様子だった。

「大丈夫そうじゃん。 何が心配なんだよ?」
「わからないか? では、先ほど我々が潰した出入り口の方を見てみろ」

 ラティオスに言われてエイパムは渋々そちらに目を向ける。
 ダンジョンの出入り口は先ほどの[爆破玉]により、完全に埋もれているが、その周辺にはまだDPが存在しており、村のポケモン達が戦っている様子が見える。
先ほど見た光景と、さほど変わらないように見えるが、何か心配する要素があるのだろうか?
 エイパムはラティオスが懸念している事がわからず、首を傾げた。

「しょうがないなー、不親切なラティ兄に代わって私が説明してあげるよー」
「誰が不親切だ」
「まあまあ、ラティ兄もここは私に任せて~」

 ラティアスの言葉にラティオスは少々不満げな表情をしたが、エイパムの反応から自分が堅苦しい説明をするよりもラティアスからゆるい雰囲気で説明してもらったほうがエイパムもわかりやすいと思い、説明の続きをラティアスに任せることにした。

「それじゃあ、エイパムに問題ねー。 ある部屋の中にポケモンが100匹閉じ込められていました。 その部屋は扉が3つしかありません。 しかし、扉の1つは壊れてしまい、開けることはできません。 さて、部屋に閉じ込められたポケモンはどうするでしょーう?」
「そりゃあ、壊れていない2つの扉のどっちかから出るんじゃねぇか?」
「せいかーい。 じゃあ、その使える2つの扉の内、もう1つも壊れていたとしたら、閉じ込められていた100匹のポケモンはどうなると思う?」
「どうなるって、これも同じで残ってる1つの扉から……ああ!!」

 そこまで想像してようやくエイパムはラティアスが言おうとしている事に気が付いた。

「わかったみたいだね。 私達が今やっている事は、ダンジョンと言う部屋の扉を1つずつ壊しているのと同じなのさ」
「扉が壊されれば、残っている無事な扉を使うDPは増えていくってわけか。 しかも、出てくるDPの数が増えればオレ達に対する妨害も強くなるかも……」
「それだけではない。 この作戦には陽動組という役割のポケモンがいるが引き付けるDPの数にも限界がある。 最悪、出入り口付近で敵味方が混戦している状況の中に飛び込むことになる可能性もある」

 エイパムはやっとラティオスが何を心配しているのか理解できた。
この作戦は敵の出入り口を封鎖すればするほど、難易度があがっていくのだ。
もし仮に、[爆破玉]を放り込んだタイミングでDPの妨害にあい、うまく離脱できなかったら、エイパム達もただでは済まないだろう。 その事は先ほどの[爆破玉]の威力で十分に証明されていた。

「……オレ、なんか怖くなってきた」
「怖気づいている暇などないぞ。 次、2回目行くぞ!」
「えっ!? もう?」

 エイパムの気持ちなど意に介さずに急降下していくラティオスの後を、ラティアスも猛スピードでついて行く。
 1回目と違って今回は最初からラティアスに抱えられる形での降下となるので、1回目よりも落ち着いて準備する事が出来たが、出入り口付近にDPが何匹かうろついている状況が見て取れた。

「このまま敵の隙間を抜けて行く。 通過するタイミングで上手く放り込め」
「はぁ!? それって止まらないって事かぁ!?」
「大丈夫だよー。 ちゃんと速度は落とすからー」
「赤い姉ちゃん……」

 エイパムは助けを求めるように上目遣いでラティアスの顔を見たが、そんなエイパムにラティアスは優しく微笑みかけて言った。

「一応言っておくけど、やり直せるとか考えないでねー? このタイミングしかないんだから」
「で、でもよ」
「大丈夫! 君なら出来るよー! ということで、会話おしまい! 前見て、集中してねー」

 無理矢理会話を終わらせられてしまったエイパムは仕方なく顔を正面に戻すと、ポシェットから[爆破玉]を取り出し、目標の出入り口の位置を目視で確認する。
出入り口には片手で数えられる程度のDPしかいないが、1匹もいなかった1回目と違い、今回は敵が存在するという事と止まってくれた1回目とは違い、狙いをつける猶予が短くなっている事がエイパムのプレッシャーになっていた。
だが、それでもラティオスは可能だと判断し降下を始め、ラティアスはエイパムに出来ると言ってくれた。
ならばそれを信じてやるしかないと腹をくくったエイパムは、[爆破玉]を握る右手の震えを左手で抑えると、先行してくれているラティオスの姿を真剣に見た。
 ラティオスが通った道をラティアスが辿るのならば、ラティオスの動きは数秒後の自分とほぼ同じ動きだ。 たとえ出入り口の前で止まらなくても、ラティオスの動きで数秒早くタイミングさえつかめればなんとかなるはずと考えたエイパムは、ラティオスの動きを観察するのに意識を集中させた。

「今だ!!」

先行するラティオスの声が聞こえた瞬間、エイパムは[爆破玉]を投げた。
 ラティオスとラティアスはその行方を確認せず、すぐさま上昇を開始し、少し時間をおいてから1回目と同じく、大きな爆発音が響き渡ると爆風が押し寄せてきた。

「ど、どうだ?」

 爆風が収まり、まだ砂埃が舞っている出入り口付近の様子を3匹とも無言で見つめた。
やがて砂埃がゆっくりと薄れていき、ダンジョンの出入り口が目視で確認できるようになると、エイパムは右手を強く握りしめた。

「よっしゃあああ!」

 ガッツポーズを決めたエイパムの視線の先には、しっかりと瓦礫で出入り口が塞がったダンジョンの姿があった。

「上出来だ。 付近にいたDPも[爆破玉]の衝撃で倒す事が出来た」
「ね? 大丈夫って言ったでしょー?」
「ああ! この調子で最後のも決めてやるぜー!」
「その調子! その調子!」
「お前達まだ作戦は終わって……まあ、委縮してしまうよりかはいいか」

 無邪気に喜ぶエイパムとラティアスの気を引き締めようと口を開きかけたラティオスだったが、下手に注意して士気を下げるのもよくないと思い、無粋な事を言うのは控えた。
 緊張感を保つのも大切だが、張りつめた雰囲気のままでは、おそらくエイパムの集中力が最後までもたないだろう。 それに、ここまでは作戦通りに事が運んでいるが、出入り口が1つとなったことで、DPの抵抗も激しくなる。

「……最後の爆破はずいぶん先になりそうだな」

ボソッと呟いたラティオスの予想はその後、見事に的中することとなった。
エイパム達が2つ目の出入り口を潰してから、3時間以上が経過したが、未だに最後の出入り口は潰せない状況が続いている。
村に近づけさせないよう陽動組が頑張ってはいるが、1つとなった出入り口から出てくるDPの数はすさまじく、引き付けきれなかったDPが村の方に向かい、防衛組も陽動組と同じくらいに激しい戦闘が繰り広げられ、地上の戦いは混戦状態になりつつあった。

「このままだとマズいな……」

 上空から戦況を見ているラティオスには地上で戦っているポケモン達以上に優勢なのか劣勢なのか理解できた。
 1つ目、2つ目と順調に封鎖できた分、地上で戦う村のポケモン達の士気も上がってはいたが、そこから最後の出入り口を封鎖する状況を作ることが出来ないまま、長時間戦闘が続いてしまっている事から、村のポケモン達の疲労は相当なものになっている。
それに対し、感情を持たないDPは疲労とは無縁の存在であるため勢いが衰える事はなく、連携のとれた村のポケモン達の攻撃を純粋な物量で押し返し始めていた。

「おい。 オレ達、こんなところで何もしないでただ見ているだけでいいのかよ? 少しは下のみんなを助けに行ったほうがよくないか?」
「ダメだ。 今回の作戦における我々の役割を忘れたか?」
「けど、ここでこれ以上、何もしないより一か八かでぶっ壊しに行った方が……」
「いくらなんでもあの数の隙間を戦闘なしで抜けるのは、私とラティ兄でも難しい話だよ。 もしうまく抜けられたとして、混戦状態となっている状況で[爆破玉]なんか使ったら、村のポケモンも巻き込むことになるよ?」
「ああ~そうなるのか~! ちっくしょお! どうすりゃいいんだー!」
「話は聞かせてもらったわ~」
「うわっ!?」

 何もできない状況にエイパムが両手で頭を掻きむしっていると、ポシェットの中から急に声がした。

「あ、たぶんバッチだよ。 村長が[爆破玉]と一緒に渡してきたの」
「ああ!」

ラティアスに言われて思い出したエイパムは、慌ててポシェットの中から小さなバッチを取り出した。 この作戦が始まる前に[爆破玉]と一緒にアスタ村長から渡されたバッチで、離れていても連絡が取れる道具と説明されていたのをすっかり忘れていた。

「もう大丈夫かしら~」
「その声はレオン姉さんか?」
「そうよ~。 アスタ村長ったら連絡用にあなたに渡してたのに、自分も村を守るためにあたしと入れ替わりで防衛組の最前線に行っちゃって、困った話だわ~。 だ・か・ら、代わりにあたしが連絡を入れたのよ~」
「なるほど。 それで? ただこちらの声を聴くためだけに、連絡をしてきたわけではないだろう?」
「あら? その声は青い方の彼ね。 ご名答よ。 率直に言って、今の状態が続けばあたし達は負けるわ~。 それは上から見ているあなた達がよくわかるでしょう?」
「そうだな」

 どうやらエイパム達が感じていた事を地上のポケモン達も感じ取っていたようだ。

「でしょ~? そこで、ちょっとした作戦を思いついたからバッチを取り出して繋いでみたら、かわいいエイパムちゃんが何もできなくて、叫んでいるじゃないの~」
「別に叫んではいねぇよ。 っというかオレは雄だぞ!! ちゃんづけなんてすんなよ!」
「フフッ、そういう所がかわいいのよ~……って、何するのよ!!」

 愉快そうに笑っていたレオンの声が遠ざかると、今度はレオンとは違う声がバッチから聞こえてきた。

「うるさい! お前に任せてたらいつまでたっても話が進まないんだよ! ……おい、聞こえてるか?」
「あ、その声はカモネギさん!」
「ようエイパム。 イタズラばっかしてたお前にしちゃ、ちゃんと活躍してるみたいじゃないか」
「へへっ、まあオレだってやる時はやるのよ!」
「そうか。 それで、ラティオスとラティアスとやらにも俺の声は聞こえてるか?」
「ああ」
「聞こえてるよー」
「よし。 それじゃあ、手短に話すから聞いてくれ」

 カモネギが話した作戦の内容は、いたってシンプルなもので、まず、出入り口付近にいる村のポケモン達に退避するよう指示を送る。
全員の退避が完了したのを確認次第、カモネギがとっておきの技でDPを一掃し、ラティオス達の道を作る。
あとは今までと同じようにエイパムが[爆破玉]を放り込んで離脱するという話であった。

「うーん、確かに付近にいるDPがいなくなれば成功するだろうけど、本当にそんな事が可能な技があるの?」
「ラティアスの言う通り、私も現実的ではないように感じる。 ……だが、何かしら行動を起こさなければ負けるのも確かだ」

 作戦を聞いたラティアスとラティオスはその内容に難色こそ示したが、このまま現状を維持しても、ジリジリと追い詰められるのは目に見えているので、何か行動を起こすなら気力も体力も残っている今しかないとも感じていた。

「一か八かな作戦ではあるけど、俺はやる価値があると思う」
「すでに退避の指示は数の多い、あたしの仲間がするように準備もできているわ~」
「あとはエイパム、お前次第だ」
「オレ次第……」

 この作戦は地上のポケモン達がどれだけ作戦通りに事を進められるかが重要ではあるが、結局、作戦の成否はエイパムにかかっている。
エイパムはダンジョンの出入り口を封鎖するために[爆破玉]を放り込むという役割を既に2回成功させているとはいえ、まだ子供であることに変わりはない。
1回目と2回目から時間も経過しているし、ここまでノーミスできた分、自信と共に失敗できないというプレッシャーも増している事だろう。
他に適任者がいなかったとはいえ、この戦いにおけるエイパムの責任は、子供が背負うにはあまりにも大きすぎる。
だからこそ、ここで他のポケモンが作戦を実行するかどうかを決めるのではなく、エイパム自身が実行するか、しないのかを選択すべきなのだと、カモネギは考えたのだ。

「…………」

 そんなカモネギの気持ちをバッチ越しに感じ取ったのか、エイパムはしばらく黙り込んでから、ゆっくりと自分の決めた選択を口にした。

「……やる。 オレは、やりたい!」

――――――――――――――――――――

 エイパムが作戦を実行すると決断した後の動きはあっという間であった。
通話越しにエイパムの言葉を聞いたカモネギは「わかった。 作戦開始の合図はこっちでする。 頼んだぞ、エイパム」と言って通話が終了した。

「いやー、君があそこでやるなんて言うとは思わなかったよー」

 エイパムが一息ついたタイミングで、背後からエイパムを両手で抱えて飛んでいるラティアスが気の抜けた話し方で声をかけてきた。

「オレだって、本当にあれで良かったかわかんないよ。 ただ……」
「ただ?」

 エイパムは地上で戦う村のポケモン達に視線を向けてから言った。

「ヒカリ姉ちゃんがよく『何もない穏やかな日常こそが一番大事』って言っていたのを思い出したんだ。 そしたらさ、早くこんな事は終わらせて、穏やかな日常ってのを取り戻したいなって思ったんだ」
「ふーん。 なるほど。 それはとってもいい理由だね」
「な、なんだよ。 恥ずかしいこと言ったから茶化してるのか?」
「茶化してなんかいないよー。 素直にいい理由だと思っただけさ」
「お、おう。 そ、そうかな?」
「もっと自信を持て。 お前の言った理由はこの作戦を実行するだけの価値があるものだ」

 ラティアスの感想を後押しする形でラティオスがエイパムに向けて言った。

「そ、そうだよな! 青い兄ちゃんが言うんだから間違いないよな! おお、なんかそう思ったらやれる気がしてきた!」
「ええぇ!? なにそのラティ兄に対する絶対的信頼感。 今の流れは私のが先にすごくいいこと言ったんだから、私の言葉で自信を持ってよー」
「なーんか赤い姉ちゃんの言葉だと不安なんだよな」
「そ、そんなああぁ~。 なんでさー!」
「んー、なんでだろうな?」

 涙目でわめくラティアスにエイパムも「わからないや」と苦笑いを浮かべた。
ラティオスはまさに目の前の光景が全てを物語っているなと思ったが、そこがラティアスの良い所でもあるため、あえて口にはしなかった。
そんな気の抜けたやり取りをしていると、地上で動きが見られた。

「2匹ともそろそろ始まるぞ」

 ラティオスの声にエイパムとラティアスはハッとしたように地上に目を向けると、ダンジョンの出入り口付近にいた村のポケモン達は、ただ退避するのではなく、なるべく多くのDPを村とは別方向に誘導するようにして後退していた。
 出入り口の位置から直線状の離れた場所に、自分の体以上に大きなネギを地面に置き、腕を組んだ状態で作戦開始のタイミングを窺うカモネギの姿も見えた。

「うわっ、カモネギさん。 まだデカいネギ持ってたのかよ」

 夕方の森で見たネギとはまた違う形状のネギにエイパムは驚いた様子であったが、ラティオスとラティアスは別の地方であれと同じ形状のネギを武器に戦うカモネギの進化形が存在することを知っていたので、これから繰り出されるであろう技も想像がついた。
だが、それはあくまで進化する事ができるカモネギの話であり、そよかぜ村のカモネギは進化しないカモネギだ。
 果たして本当にあの技を繰り出せるのか疑問はあるが、今はあのカモネギの言葉を信じるしかない。

「おっ、カモネギさんがネギを持ったぞ」

 エイパムの言葉通り、自分の体格よりも大きいネギを持ちあげたカモネギが、上空に視線を向けると、ネギを高々と天に掲げた。 おそらく作戦開始の合図だろう。

「ラティアス、2回目の時と同様、私が先行し、風よけになる。 遅れるなよ」
「わかってるよ、ラティ兄。 エイパムも覚悟はいい?」
「ああ。 任せろ!」

 上空で待機する3匹が地上のカモネギの動きを注視すると、槍のようなネギの先端を目標に向けて構えると、一拍置いてからカモネギが走り出した。
 その速度は徐々に速くなっていき、DPの群れの中へと突っ込む時には凄まじい速さとなり、超高速のカモネギによる突進攻撃を受けたDPは為す術もなく、空中に吹き飛ばされ、次々に消えていった。
 進化していない事と盾のようなネギを持っていないカモネギという2点をのぞけば、その攻撃はまさしくネギガナイトの『スターアサルト』と同等かそれ以上の技であった。

「す、すげぇ……」
「道が開かられた。 我々も続くぞ!!」

 エイパムが感嘆の言葉を呟くと同時に、ラティオスが急降下を始め、ラティアスも追従するように降下を始めた。
 2回目の時よりも遥かに速く、前を飛行するラティオスが風よけになってくれていなければ、エイパムは目を開ける事すらままならない。 それほどの速度で2匹は降下している。
 カモネギが道を切り開いてくれたとはいえ、その道が通り抜けられるのは、ごく僅かな時間であり、うかうかしていると、すぐにDPの群れによって塞がれてしまう。
 だからこそ、1回目や2回目の時とは比にならない速度を出すのはエイパムもわかっていたが、ここまで風圧がすごいとは思わなかった。

「くッ……」
「大丈夫? エイパム?」

体に感じる風圧の強さに苦悶の声を漏らしたエイパムに、ラティアスは視線を変えずに、気に掛けるよう声だけかけた。

「大丈夫じゃねぇけど、心配しなくていいぞ。 カモネギさん、青い兄ちゃん、そして赤い姉ちゃんがここまでしてくれてるんだ。 必ず決めてやる!」
「ふふっ。 頼もしくなってね。 ほら、もうすぐだ」

ラティアスの言葉通り、カモネギが出入り口に到達し、すでに出入り口前のDPは一掃されていた。
エイパムは手に持った[爆破玉]を軽く握りしめ、通過する一瞬を逃さないようダンジョンの出入り口に意識を集中させ――

「い・ま・だっ!!」

 エイパムの手から[爆破玉]が離れた時にはすでに、ラティアスは急上昇を始めており、狙い通りに[爆破玉]がダンジョン内に放り込めたか確認できないが、結果はすぐに分かる。
――ドッカーーン!!
 地上で大きな爆発音が聞こえた。
 安全な高度まで達したラティアスが上昇するのを止めて、エイパムを抱えたままダンジョンの出入り口があった場所を振り返り、2匹は爆破の衝撃で舞い上がった砂埃が晴れるのを静かに待った。
砂埃の中からは依然とダンジョンから既に出ていたDPがうろついていたが、肝心の出入り口はというと――

「うん。 ちゃんと塞がっているね!」
「やったああああぁぁぁーー!! やった! やったあああーー!!」

 エイパムが両手を突き上げて、大喜びしていると、カモネギを両手で抱えたラティオスが合流してきた。

「あ、カモネギさん! オレ、ちゃんとやったよ!」
「ああ。 よく頑張ってくれたな」

 ニッコリと笑みを見せるエイパムの頭を空いている左手でカモネギが優しく撫でると、エイパムは笑みを浮かべたまま涙を流し始めた。

「あ、あれ? 成功して嬉しいのに、なんか、涙が……止まらない」
「すまなかったな。 エイパム」
「何で、カモネギさんが、謝るんだよ?」

 急に止まらなくなった涙に戸惑っていると、頭を撫でたままカモネギが謝ってきて、エイパムは困惑した表情を浮かべた。

「今回の作戦は急降下と急上昇を繰り返す、体に負担のかかる内容だという事と、お前に与えられた役割の重さは計り知れないものだ。 怖かったろ?」
「あ……」

――怖かった
 その言葉を聞いた瞬間、エイパムは自分の涙が止まらない理由がわかった。

「……怖かった。 高いところから降りるのも、敵の中に突っ込んでいくのも、失敗した後の事を考えるのも、オレ、……すっげぇ怖かった!」

 カモネギの胸に顔を埋めてエイパムは声を出しながら泣いた。
集中を切らさないよう無意識に押しとどめていた物理的、そして精神的な恐怖の気持ちが、成功したという安堵の気持ちから緩んでしまったのだろう。
 それがわかっているカモネギは、エイパムがひとしきり泣き終えるまで、ずっとエイパムの頭を優しく撫でていたのであった。

――――――――――――――――――――

「……それで、少しは落ち着いたー?」
「……あ、ああ」

 あれからひとしきり泣いてスッキリしたエイパムは、ふと自分がどういう状況なのか思い出した。 いや、思い出してしまったという方が正しいだろう。
 涙が止まり、顔を上げたエイパムが見た光景は、優しく笑いかけるカモネギ。
とそのカモネギを抱きかかえて、滞空しているラティオスの姿であった。
 そして、エイパムは思い出した。
カモネギもエイパム自身も、ラティオスとラティアスに抱えられた体勢で滞空しているのだという事に。
 ラティオスは普段通りの表情だが、ラティアスの方はわかりやすく顔を緩めて、ニヤニヤした表情でエイパムを見ていた。
 それが恥ずかしくてエイパムは両手で顔を覆い隠すと、ラティアスは片手でエイパムを抱き寄せると、空いたもう片方の手で先ほどカモネギがしていたように、エイパムの頭を優しく撫で始めた。

「や、やめろよー!」
「えー、いいじゃない! さっきのカモネギに甘える君はすっごくかわいかったよー」
「やー! その話はやめてくれ! ってか、忘れろ! 忘れてくれーーー!」

 冷静になった頭で先ほどの事を思い出したエイパムはいっそう顔を赤くして恥ずかしがり、ラティアスは楽しそうに笑っていた。
 2匹がそんなやり取りをしているうちに、カモネギはラティオスに頼んで地上に降ろしてもらっていた。

「ありがとう。 俺は地上で戦っている村のみんなと合流して、残りのDPを倒すから、その間、エイパムの事を頼む」
「わかった」

ラティオスの返事を聞いたカモネギは、村と別方向にDPを引き付けた陽動組を助けに行くため、森の中を大きなネギを片手に走り去って行った。

「……もうじき夜明けか」

ラティオスは空を見上げながらそう呟いたのであった。

――――――――――――――――――――

「ヌシらのおかげで、助かっただぬ」
「こちらこそ、良い経験をさせてもらった」

そよかぜ村を脅かしたDPを一掃した後、アスタの家の前でアスタがラティオスとラティアスにお礼の言葉を述べていると、エイパムが名残惜しそうに言った。

「2匹共、もう行っちゃうのか?」
「ああ。 我々にはまだやるべき事が残っているからな」
「そっか」
「あれれー? 私達がいなくなるから少し寂しいのかなー?」

しょんぼりとした態度のエイパムをからかうようにラティアスが笑顔を浮かべて言うと、エイパムはムッとした表情で答えた。

「そんなんじゃねぇよ! ただ、その、お礼に村の案内ぐらいはしたかったってのはある」
「ふーん。 じゃあ、全部終わったらまた遊びに来るよ。 いいよね? ラティ兄!」
「そうだな。 やる事を終えたらまたこの村に来ると約束しよう」
「ホントか! よし! また来るって言うなら大丈夫だ! じゃあな、青い兄ちゃん! 赤い兄ちゃん!」
「えっ! ちょっと待ってよー」

 ラティオスの言葉を聞いたエイパムは笑顔を浮かべると、ラティアスの静止を無視して、大きく手を振りながら走り去ってしまった。

「えぇ……。 さっきまでのしんみり感はなんだったのさー」
「エイパムなりに気を使ったんだぬ。 2匹はまだやる事が残っているのに、後ろ髪を引くような事をしたくなかったんだぬ」
「なるほどねー。 私達に気を使ってくれたんだ」

 エイパムの気遣いを知り、小さく微笑むラティアス。

「それでは我々はここで。 あなたを背に乗せて飛ぶ約束は次に訪れた時に果たさせてもらおう」
「だぬ。 ヌシらが来るのをワシも待っているだぬ」
「じゃあねー」

 アスタに見送られながらラティオスとラティアスは高度を上げていき、そのまま朝焼けの空を飛んで行ったのであった。
区切り的に後編が1番文字数多くなってしまいました(^^;)
実はこのラティオスとラティアスは[47話 チームアミスター]の最後の部分で登場しているんですよねー
そよかぜ村のポケモン共々、ずっと再登場させたかったポケモンだったので、なんとか出番を与えられてよかったです!!

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