鏡のような(ディアナ視点)

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読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 わたしの分析によると、ロジャーというヒトは自分が正しいと思うから本当は間違っていることになかなか気が付けないタイプのようだ。さん、を付けるかどうか迷ったが、ここは付けておいた方がいいだろう。
 案内と聞いてイメージされるものを前提にして動いていると、あっという間に迷子になること間違いなしの案内をされた後で、わたしはそう考えていた。イツキが何度か置いて行かれそうになったのをクレアが何とかしていたのが何よりの証拠だろう。
 ちなみにそのクレアは突然立ち止まった案内者、というより彼を追っていたデュークさんに反応できず、転びそうになりながらも立ち止まったところをこれまた反応できていなかったイツキがぶつかり、双方かなり痛そうな事態になっていた。
 クレアは地面に顔からダイブしたダメージだけだけど、イツキはクレアにぶつかったこととその後の発言による物理的ダメージがある。場所やポケモンを考えてか威力は控えめだったようだけど、イツキは半分泣きそうになっていた。
 ふん、というクレアの鼻息を聞いていると、いつの間にか移動していたロジャーさんがとても当たり前で、とても危険な提案をしてくる。ここは今までのところと違ってアクセサリーをしているポケモンが多いように見えたから、今の提案は彼にとってはより「普通」のことなのでしょうね。
 ここはどう切り抜けるのが吉かを導くため頭を回転させていると、誰も行動しないことを怪しんだロジャーさんが声を出す。アランが聞こえるかどうか、の大きさで実力行使を口にした時、場違いな音が鼓膜に突き刺さった。
「な、何だ!?」
 わたしが驚くのとほとんど同じタイミングで、イツキが驚きを口にする。ロジャーさんも石のように固まっているのがわかった。音の方向からして恐らく城からヒトが出てきたのだろうけど、普通に開いただけであれほどの音がするのだろうか。
 もしあれが普通なら、周りにヒトや家があまりないのも音が原因だからと納得できる。しかし、今の音はどちらかというと扉を「開けた」というより「ぶち破った」といった表現が合いそうな音だったような……。
 そう考えていると、ロジャーさんが慌てたような声を発した。

「あ、アリーシャ様!」

 アリーシャ様。それは、わたし達の目的である紅蓮の女王の名前だった。わたし達は名前しか知らないからどんなポケモンかはわからないが、補佐をしているロジャーさんが言うのなら間違いないだろう。
 一体どのようなポケモンなのか、と視線をロジャーさんが向けている方向に移す。距離の関係からか姿はハッキリとは見えないが、別名に相応しい姿をしているのだろう。……いや、既に正体を知っている二匹を思い返すと、決めつけるのはよくないかもしれない。少し失礼かもしれないが。
 サリーと共に去っていった彼の姿を思い出していると、段々と女王の姿がハッキリ見えるようになってきた。それと同時に、驚きを飲み込む音が聞こえてくる。そうなってしまう理由はわかる。
 それは種族がキュウコンとデュークさんと同じで、顔だけでなく体格まで同じだったから。ほんの一瞬だけ幻影か何かかと錯覚したわたしは、思わず彼女と彼を交互に見比べてしまった。

「デュークさんと……瓜二つ? もしかして、双子? いや、仮にそうだったら――」



 一瞬の停止と静寂からしばらくした後、わたし達は紅蓮城の中……正確にはアリーシャ様の部屋に招待されていた。和風な外見に違わず中も和風で、畳や掛け軸、屏風が絶えず視界に入ってくる。
 そんなところにわたし達を招いたのは他ならぬアリーシャ様で、ロジャーさんは反対することなく、いやできるはずもなく即実行となった。
 今は見るからに高そうな木の実をご馳走になっていて、イツキなどは緊張で味がわからないと書かれた顔で頬張っている。それもあってか、何ともいえない静けさが辺りを包んでいた。
 彼の緊張が移ったのか、わたしも木の実の味がよくわからなかったが、心の隅では安堵していた。理由は誰も腕輪を取られることなく城に入ることができたからだ。アリーシャ様がいなかったらどうなっていたかわからない。
 あの時、アリーシャ様の言葉を聞いてロジャーさんは大慌てで腕輪の回収を強制実行しようとした。一瞬で緊張に包まれたわたし達をよそに、彼女は笑顔でこう告げたのだ。
「あら、腕輪だったら私もしているわ。もし腕輪が怪しいというのなら、ロジャーはまず私のから取り上げないとね?」
 見た目に気を取られて気が付くのが遅れたが、よく見ると確かにアリーシャ様も腕輪をしていた。どこかで見たような見た目をしていて何かが引っかかる感じがしたが、それの正体がわかる前に、ロジャーさんの態度が一変して長々と語り始めた。
 ここで思い出そうとすると頭が痛くなってくるので短くまとめると、アリーシャ様がしているものを自分が取り上げるなんて恐れ多い。アリーシャ様が大丈夫と思うのなら、わたし達の腕輪も見逃そうということだった。
 それで大丈夫なのかと思ってしまったが、危険がなくなるのならとあえて気付かないふりをした。イツキは単純にロジャーさんの変わりように引いていたようだけど、他は大体わたしと同じような感じだったのだろう。
 回想するのはここまでにしておいて。わたしはそっとデュークさんと少し離れたところに座るアリーシャ様を見る。何度見ても、まるで鏡のようにそっくりだ。
 同じ種族だから顔や体格まで同じかそっくり、ということはきょうだいや親子といった関係でしか見られない。仮に先ほど呟いたように双子だとしたら、タイミングを見てデュークさんが話を始めているはず。
 いや、仮に性別の違う双子だとしても、見た目は似るだろうがこうも鏡のように同じになるとは思えない。同じであればありえることだったが、そもそも年齢が違うように思えるので少し無理な考えだったかもしれない。
 声や雰囲気から推測される年齢の差だと親子の線も考えられたが、親子でもこうも似るのかどうか。もう、奇跡的なまでにそっくりな互いに知らないヒト、と言われた方がしっくり来そうな感じさえしてくる。
 アリーシャ様も同じような考えを辿っているのか、先ほどからデュークさんをじっと見ながら首を捻ったり諦めたように小さく息を吐いたりしているのがわかる。対するデュークさんは不思議なことに、目に見えるアクションはほとんどない。
 これはデュークさんが何かを知っている、ということなのだろうか。期待にも似た思いを抱きながら眺めていると、デュークさんは一つ大きな息を吐いた。
「お主ら、そんなに見つめても何も起こらないぞ。……儂とアリーシャ様は完全に『初めまして』で、何の関係もないのじゃからな」
『え?』
 純粋な驚きの声が部屋に広がる。声の主は、恐らくデュークさん以外全員。ひっそりと端の方に移動していたロジャーさんも反応していたことから、彼も同じように考えていたのだろう。
 そういえば、わたし達にはよそ者として対応するのに対し、デュークさんに対してだけは特別対応しているように見えていた。それは決して焔の町出身だから、というわけではなくアリーシャ様と何か関係があると考えていたからだろう。
 その関係がデュークさん自身の口から否定されたということは、ただ奇跡的なまでにそっくりな知らないヒト、以外選択肢がなくなったのを意味する。沈黙の疑問を絡めた視線をいくつも集めた後、デュークさんは一つ大きく息を吐いた。
「……まあ、驚くなという方が無理かもしれないがの。儂は本当にアリーシャ様の親でもきょうだいでもない。こうなったのは何というか――、驚くくらい偶然が重なった。それだけじゃ」
 それだけ、という割には少しだけ言いよどんだように見え、本当にそうなのかと疑問は種で終わらずその芽を出す。イツキは遠慮なしにデュークさんとアリーシャ様を眺め続け、クレア達は小声で何か言い合っているように見える。
 アリーシャ様はどこか期待を込めた視線を送っており、ロジャーさんはいつの間にか端から段々こちらに近づいてきている。わたしは皆の様子を観察しながらも、しっかりとデュークさんに視線を送っていた。
 デュークさんは苦笑いを零すも、続きを語ろうとはしない。自分が言えることはあれが全て、ということらしい。続く沈黙に我慢の限界が到来したらしいイツキが口を開き、怒りに似た疑問の声をぶちまける。

「何の関係もないって、いくら何でもそれはないだろ! 偶然にしては、あまりにも似すぎている。何もないのならスラスラ言えそうなところも、少しためらっているように見えた。……どうして、そんな嘘を吐くんだよ!? ちゃんと言ってくれよ、デュークさん!!」

 真正面から嘘と言われ、デュークさんの目が少しだけ鋭くなる。しかし、それはほんの一瞬のことですぐに元に戻すと「……にそこまで言われたら、言わないわけにはいかないの」と、静かに言葉を漏らす。
 黄金の尾がゆらりと動き、赤い目が今は閉ざされて見えない空の向こうを見つめた。デュークさんは二、三度瞬きをしてこちらには届かない声で何かを呟くと、ロジャーさんに少し出て行って貰えないかと頼む。
 ロジャーさんは頭にクエスチョンマークを浮かべていたものの、有無を言わせぬ視線に粘っても無理だと思ったのか、不満そうにしながらも部屋から出ていく。戸が完全に閉まるのを確認してから、デュークさんはわたし達の方に顔を動かす。
「実を言うと、儂とアリーシャ様は全く関係がないというわけではない。だからといって、先ほど否定したものを肯定するわけではないのじゃが」
「へえ、だったらどういう形で関係しているって言うんだい?」
 ずっと発言らしい発言を控えていたアランが嘲りの笑みを浮かべる。その声の裏には「あれだけ見られても黙っていたのに、イツキに言われただけで話そうとするなんて……」という思いが滲んでいるのがよくわかった。
 デュークさんも自覚はあるのか、僅かながらも視線を逸らせる。アランは追撃しようとしてシャールに止められたのか自分で考え直したのか、何か言いたげな目をしながらも続きを促した。
「本題に入る前に、少し話をしておこうかの。皆はこの町の情報を集めている時、ある噂を聞いていないじゃろうか。『紅蓮の女王には子どもがいて、前々から行方不明になっている。しかし、行方不明になる前から子どもの姿は誰も見たことがない』というものじゃ」
 その言葉を聞いて、すぐにクレアとアリーシャ様が反応した。言われてみればわたし達はその噂を、クレアを通して聞いた覚えがある。直接聞いたクレアと噂の中心近くにいるアリーシャ様なら、すぐに思い当たったことだろう。
「ええ。私には子どもがいます。……いえ、『いました』が正しいですね。姿をちゃんと見る前に、ずっと考えていた名前を付ける前に、行方不明となってしまいました。噂を信じるのはそれを流した私だけで、今となっては大半が都市伝説だと思っているようですが」
 寂しそうに、そして悔しそうに。アリーシャ様は言葉を落とす。見ることさえできなかった子どもをずっと、待ち続ける。確かに子どもはいたと誰にも言われないまま待つのは、どれほど不安だったか。わたしでは到底分析しきれないだろう。
 それにしても、その噂を「本題」に入る前に持ってきたということは。ある考えが脳裏をよぎり、ほとんどのヒトがハッとした顔になる。
「そう。皆が想像する通りじゃ。儂はアリーシャ様の子どもを知っている。いや、知っているといえば、皆もそうじゃな。ただ、正体を知らなかっただけで」
 アリーシャ様――キュウコンの子どもで、わたし達も知っている。その情報で、あっという間にわたしの中であるポケモンの姿が思い描かれる。そもそも、デュークさん達の一族はあの村に彼らしかいないから間違いようがない。彼の孫のようで、そうじゃないあの子。

「あの子――サラは、間違いなくアリーシャ様の子じゃ」

 あの村での思い出話でしか登場しないと思っていた名前が、するりとデュークさんの口から落ちていった。

 続く

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