最終話 私の夢

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 深層からの湧昇流は雪解けのように冷たくて、綿雪よりもゆっくりと落ちていく私の背中をぶるりと震わせた。見上げる水面がずんずん遠くなっていく。水中に浮かぶチョンチーを模した電灯の光を頼りに、地上から覗くミジュマルが出すサインを確かめる。右、左、渦を避けて上に回りこめ。私のすぐ隣を大きな岩が通り過ぎていって、呼吸が詰まりそうになる。慌てるな、落ち着け、信じるんだ。私を押しつぶそうと強まる水圧に抗いながら、岩陰に落ちている資材などの道具をかき集め、サイコキネシスで懐にしまう。窮地に陥った私を颯爽と助け出してくれたエモンガのように、しゅばっ! なんてカッコつけながら。
 地上から見下ろせば、五十メートルも続く井戸は丸い小宇宙のように見えるかもしれない。そこを縦横無尽に傾く真紅のコアは、さながら星間を駆けるヒーローのようだ。エモンガに付けられたあだ名も、あながち間違っていないのかもしれない。
 水面に揺らぐ寡黙なミジュマルの彼は、もうあんなに小さくなっていた。その横に明朗そうなツタージャの顔がひょっこりと現れる。にわかに信じがたいが元人間だというミジュマルと、誰もが夢を見ることのできる環境――ポケモンパラダイスを創設しようとひた走るツタージャの、素敵なコンビ。思い返せば、宿場町には信頼しあえるふたり組が多くいた。ダンジョン研究家のエーフィとブラッキー。数多くの冒険家を支えるヌオーとマリルリ。気高く冷徹な印象を与えるビリジオンも、ここにはいない誰かを信じて待っている様子だった。そして、エモンガとノコッチ。スーパーエモンガーズという名前はイケてないかもしれないが、私にとっては紛れもなくヒーローなのだ。
 ツタージャが私をツタで指し示して、外の誰かを招いている。水面を覗く丸い影が新たにひとつ近づいて、とぷん、そのまま井戸へ落ちてきた。岩をかいくぐり軟体を奔流にはためかせ、馴染みの顔がどんどん大きくなってくる。伸ばされた半透明の触手が私を包む。
 平常だった体液の循環が乱れる、コアが点滅して赤く映る彼の顔が滲む。はあはあ……はあはあ。ようやく二十メートルから先に沈もうとしていたのに、これではろくに息も続かないじゃないか。

「ご心配おかけしました、スターミー様」
「待っていたよ。それから言いそびれていたのだけれど、ごめん。実は――」

 ぶくぶくっ。フリルを揺らして笑う彼の泡がコアをくすぐった。ああもう、明日から練習に付き合ってもらわないとな。ふたりで潜ればすぐに海の底だって到達できるようになる。確かな予感があった。すっかり快復した親友は、私よりはるかに潜水がうまいのだ。





おわり

 
DSの傾き感知機能でスターミーを操り、岩やチョンチー、水流といった障害を避けて井戸の底まで導いてあげる『おたからサルベージ』というミニゲーム。 物語の中盤以降パラダイスに建築できる施設なんですけれど、そこを任されているスターミーが店を開くまで。マグナゲートって登場するポケモンはBW世代をメインに選ばれていて、それ以外はお馴染みのカクレオンやペリッパー、主人公に選べるピカチュウ、物語に関わるヌオーやマリルリくらい(調べればもっといるかも)。物語中盤、発展しかけのパラダイスへ颯爽と現れた、ミニゲームのためだけに選ばれたかのような〝なぞのポケモン〟。彼は一体どうして宿場町に……? しゅばっ! って口癖もなんかカッコつけてるし、しかも水タイプのくせに50メートル潜水するたびにはあはあ言って息切れするし……可愛いね、ってとこだけで書きました。最後まで読んで「あーなんかそんなのあったなあ」くらいに思い出してくれた方がいたら幸いです。ちなみに作中出てきた従者のプルリルは、ポケダン超の特別映像としてYouTubeに公開されたショートムービーに出てくる、司会者ブルンゲルの幼い頃をイメージしています。誰?

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