10話 色違い?
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「やっと終わった……」
ルカリオから回収した軍資金で、念願の木造二階建ての家と家具を購入し、買ったものを運び込んだり組み立てたりしてると日が暮れてしまっていた。
一階は広いので俺の部屋兼リビングで、二階はロコンの部屋とブースターの部屋という形だ。
未だ馴れない小さな手で全員分の家具を組み立て、ロコンの部屋に荷物を運び終わった俺がグッタリとしていると。
ロコンがベッドの上でぴょんぴょん跳ねながら。
「すっごい跳ねるわ、ピカチュウ! こんなにフカフカのベッドで眠るのは久しぶりよ!組み立てありがとね!」
「マジで疲れた……っておい、壊すなよ? それ、家の次に高い買い物だったんだからな。もう金ないんだから、壊しても新しいの買ってやんないからな」
「大丈夫よ! 中量級ポケモン向けのベッドなんだから、何十キロあるポケモンが寝ても大丈夫なんだから! ほら、この通り……」
調子に乗ったロコンが本気でジャンプしようと、力を込めた瞬間。
ベキッ。
「………おい」
「…………………。」
「つまりお前は百キロはあるってことか?」
「ち、ちがうわよー!!」
◇
「………依頼、ないなあ……」
「………そうね………」
ギルドの掲示板の前で立ち尽くす、頭にたんこぶのできたロコンとピカチュウ。
生活費とベッドの代金のため、依頼がないか見に来たのだが、おたずねものの依頼以外ほぼなかった。
おたずねものの依頼ならあるじゃないか、と思うかもしれないが、懸賞首の手配書が張り出されているだけで、おたずねものがどこにいるかは書かれていない。
おたずねものを捕まえるには、まず居場所を突き止める必要があり、そのためには聞き込みやら警察まがいのことをしなければならなくて…とても一日では終わらない仕事だ。
ちなみにブースターはダンジョンでは役に立ちそうにないので、家でベッドの修復を試みている。
「あれ、一枚だけおたずねものじゃない依頼があるわよ? なになに……『色違いのポケモン募集。報酬は50万ポケ。詳細は会ってからご説明を……』」
「なるほど、無理ということはわかった」
お金に余裕が出来たので冒険者家業に専念できるかと思い、バイトをやめたのだが。
毎日こんな調子なら、またバイトに明け暮れる日々になるかもしれないな……。
チクショウ、世知辛え。
人間の時、低学歴の俺が歩むはずだった人生となんら運命が変わってねえ。
養成学校とやらを卒業してギルドに就職したやつらは楽しい冒険人生歩んでるんだろうなあ…。
ポケモンの世界ですら、学歴がモノを言うのかよ……。
と、思っていた矢先。
「ああーっ!! その姿は!!」
振り返ると、ロコンを指さして叫ぶエルレイドが。
「え……な、なに?」
「お願いします! 私の依頼を受けてください!」
◇
ビビるくらいデカいエルレイドの屋敷。
入り口では何匹かの執事ポケモンが出迎えてくれたが、エルレイド本人が案内をしてくれた。
エルレイドに付いて行く道中では、高そうな壺やら絵画、芸術品の数々が目についた。
それらの横を通り過ぎるたびに、後ろを歩くロコンがうっかり倒してしまわないかヒヤヒヤした。
やがて案内された部屋で、椅子に座るよう促され、姿勢を正しながら何を言われるのかドキドキしていると。
「申し遅れました。私、隣町の領主を務めさせていただいている、ベイカーと申します。」
俺は目を見開く。
俺たちは『ピカチュウ』『ロコン』など種族名で呼び合ってはいるが、ちゃんと名前がある。
なぜ名前で呼び合わないのかというと、人間と違い、この世界では名前を名乗ることはタブー視されているらしいからだ。
ではなぜタブー視されているかというと、同じ種族間で見た目の区別がつかないからだそうで。
たとえば俺の名前が世に知られてしまったら、他のピカチュウが俺の名前を騙り、なりすましても偽物だとすぐにはわからない。
故に、セキュリティ対策のため、家族や仲のいい友人以外には自分の名前を教えてはならない。というのが常識らしい。
この世界特有の、面白い文化だ。
だが、領主ともなれば、話は別なのだろう。
他のエルレイドが名前を騙っても、領主を騙るのはすぐにボロが出て偽物だとバレてしまう。
だから高名なポケモンは名前を隠す必要がない、といったところか。
「…お、俺の名前は…」
「いえ、あなた方は名乗らなくても大丈夫ですよ」
名乗られたら名乗り返すのが筋だしという俺の考えを見通すように、優しく微笑みかけるエルレイド。
きっといい領主様なのだろう。
「それで、本題なのですが」
雰囲気が変わって、真剣な表情のエルレイド。
「そちらの色違いのロコンさんに、頼みがありまして」
「…今、なんておっしゃいました?」
「? リージョンフォームのロコンさんは、本来真っ白な毛色のはずです。灰色ということは、色違いなのでしょう? 実は、私の娘も色違いでして…。そのことで、学校でいじめられてるみたいなんです。話を聞こうとしても、私どもでは相手にされず、部屋に引きこもってしまって………」
……………。
目に涙を浮かべながら、力強く訴えるエルレイド。
「ですが、同じ色違いのポケモンの話なら、耳を傾けてくれるかもしれません! そう思い、色違いのポケモンの方を探していたんです! ですが長らく見つからず、娘もどんどん心を閉ざしていくようで…。わ、私達にはもうロコンさんしか頼れないんです! どうか、娘を励ましてやってくれませんか!? この通りです、お願いします!」
「「「お願いします!」」」
エルレイドが頭を下げると同時に、執事のポケモン達も一斉に頭を下げる。
本当にお嬢様のことを案じているのだろう、執事のポケモンの中からは、すすり泣くような声も聞こえる。
ロコンも目に涙を浮かべ、頬を膨らませながら。
何かを傷つけられたような、それでいて相手に申し訳ないような、何とも言えない悲しい表情を向けてくる。
…………………言えない。
この色は生まれつきとかじゃなく、ただコイツがホコリまみれで汚ねえだけだなんて…………言えない。
ルカリオから回収した軍資金で、念願の木造二階建ての家と家具を購入し、買ったものを運び込んだり組み立てたりしてると日が暮れてしまっていた。
一階は広いので俺の部屋兼リビングで、二階はロコンの部屋とブースターの部屋という形だ。
未だ馴れない小さな手で全員分の家具を組み立て、ロコンの部屋に荷物を運び終わった俺がグッタリとしていると。
ロコンがベッドの上でぴょんぴょん跳ねながら。
「すっごい跳ねるわ、ピカチュウ! こんなにフカフカのベッドで眠るのは久しぶりよ!組み立てありがとね!」
「マジで疲れた……っておい、壊すなよ? それ、家の次に高い買い物だったんだからな。もう金ないんだから、壊しても新しいの買ってやんないからな」
「大丈夫よ! 中量級ポケモン向けのベッドなんだから、何十キロあるポケモンが寝ても大丈夫なんだから! ほら、この通り……」
調子に乗ったロコンが本気でジャンプしようと、力を込めた瞬間。
ベキッ。
「………おい」
「…………………。」
「つまりお前は百キロはあるってことか?」
「ち、ちがうわよー!!」
◇
「………依頼、ないなあ……」
「………そうね………」
ギルドの掲示板の前で立ち尽くす、頭にたんこぶのできたロコンとピカチュウ。
生活費とベッドの代金のため、依頼がないか見に来たのだが、おたずねものの依頼以外ほぼなかった。
おたずねものの依頼ならあるじゃないか、と思うかもしれないが、懸賞首の手配書が張り出されているだけで、おたずねものがどこにいるかは書かれていない。
おたずねものを捕まえるには、まず居場所を突き止める必要があり、そのためには聞き込みやら警察まがいのことをしなければならなくて…とても一日では終わらない仕事だ。
ちなみにブースターはダンジョンでは役に立ちそうにないので、家でベッドの修復を試みている。
「あれ、一枚だけおたずねものじゃない依頼があるわよ? なになに……『色違いのポケモン募集。報酬は50万ポケ。詳細は会ってからご説明を……』」
「なるほど、無理ということはわかった」
お金に余裕が出来たので冒険者家業に専念できるかと思い、バイトをやめたのだが。
毎日こんな調子なら、またバイトに明け暮れる日々になるかもしれないな……。
チクショウ、世知辛え。
人間の時、低学歴の俺が歩むはずだった人生となんら運命が変わってねえ。
養成学校とやらを卒業してギルドに就職したやつらは楽しい冒険人生歩んでるんだろうなあ…。
ポケモンの世界ですら、学歴がモノを言うのかよ……。
と、思っていた矢先。
「ああーっ!! その姿は!!」
振り返ると、ロコンを指さして叫ぶエルレイドが。
「え……な、なに?」
「お願いします! 私の依頼を受けてください!」
◇
ビビるくらいデカいエルレイドの屋敷。
入り口では何匹かの執事ポケモンが出迎えてくれたが、エルレイド本人が案内をしてくれた。
エルレイドに付いて行く道中では、高そうな壺やら絵画、芸術品の数々が目についた。
それらの横を通り過ぎるたびに、後ろを歩くロコンがうっかり倒してしまわないかヒヤヒヤした。
やがて案内された部屋で、椅子に座るよう促され、姿勢を正しながら何を言われるのかドキドキしていると。
「申し遅れました。私、隣町の領主を務めさせていただいている、ベイカーと申します。」
俺は目を見開く。
俺たちは『ピカチュウ』『ロコン』など種族名で呼び合ってはいるが、ちゃんと名前がある。
なぜ名前で呼び合わないのかというと、人間と違い、この世界では名前を名乗ることはタブー視されているらしいからだ。
ではなぜタブー視されているかというと、同じ種族間で見た目の区別がつかないからだそうで。
たとえば俺の名前が世に知られてしまったら、他のピカチュウが俺の名前を騙り、なりすましても偽物だとすぐにはわからない。
故に、セキュリティ対策のため、家族や仲のいい友人以外には自分の名前を教えてはならない。というのが常識らしい。
この世界特有の、面白い文化だ。
だが、領主ともなれば、話は別なのだろう。
他のエルレイドが名前を騙っても、領主を騙るのはすぐにボロが出て偽物だとバレてしまう。
だから高名なポケモンは名前を隠す必要がない、といったところか。
「…お、俺の名前は…」
「いえ、あなた方は名乗らなくても大丈夫ですよ」
名乗られたら名乗り返すのが筋だしという俺の考えを見通すように、優しく微笑みかけるエルレイド。
きっといい領主様なのだろう。
「それで、本題なのですが」
雰囲気が変わって、真剣な表情のエルレイド。
「そちらの色違いのロコンさんに、頼みがありまして」
「…今、なんておっしゃいました?」
「? リージョンフォームのロコンさんは、本来真っ白な毛色のはずです。灰色ということは、色違いなのでしょう? 実は、私の娘も色違いでして…。そのことで、学校でいじめられてるみたいなんです。話を聞こうとしても、私どもでは相手にされず、部屋に引きこもってしまって………」
……………。
目に涙を浮かべながら、力強く訴えるエルレイド。
「ですが、同じ色違いのポケモンの話なら、耳を傾けてくれるかもしれません! そう思い、色違いのポケモンの方を探していたんです! ですが長らく見つからず、娘もどんどん心を閉ざしていくようで…。わ、私達にはもうロコンさんしか頼れないんです! どうか、娘を励ましてやってくれませんか!? この通りです、お願いします!」
「「「お願いします!」」」
エルレイドが頭を下げると同時に、執事のポケモン達も一斉に頭を下げる。
本当にお嬢様のことを案じているのだろう、執事のポケモンの中からは、すすり泣くような声も聞こえる。
ロコンも目に涙を浮かべ、頬を膨らませながら。
何かを傷つけられたような、それでいて相手に申し訳ないような、何とも言えない悲しい表情を向けてくる。
…………………言えない。
この色は生まれつきとかじゃなく、ただコイツがホコリまみれで汚ねえだけだなんて…………言えない。
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