第12話 私、クマ同盟です。

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ニドキングの家での宴会は空がほの暗くなるまで続き、気づけば全員がその場に倒れ込むように眠りについていた。そういった状況になっていたことを初めて知ったのは、1番最初に起きたニドキングであった。

「久々に飲んだなぁ。新しい酒も欲しかったところだし、減ってよかったよかった」

 朝日を浴びながら伸びをし、深呼吸で調子を整えてすっきりとした表情だ。凝り固まった首と手首をバキバキと鳴らすと、その場で軽く飛び上がり両足裏を地面へ強く打ち付けた――“じならし”だ。

「おきろー若者どもー」

 床で夢を見ている彼らを現実の世界へ呼び覚ますには充分な刺激であった。急に頭を揺さぶられた感覚に陥ったヒトカゲ達は全員飛び起き、何が起きたかを把握しようと辺りを見回している。

「もう朝だ、1日が始まっているぞ」
「おはよう……」

 声にならない声で挨拶するヒトカゲの目は今にも閉じそうである。ルカリオは無言のままなんとか立ち上がり、水を飲もうと歩き出した。問題は残りの2人である。

「うーあーいってぇ……」
「声出すな、響く……」

 大酒飲みのカメックス、それに釣られて同量の酒を飲んだバンギラス、この2人は二日酔いが酷く、飛び起きた反動で頭痛や吐き気に襲われている。この場から動けない彼らにニドキングは半笑いする。

「なんだ、情けないなぁ。私と同じ量しか飲んでないじゃないか。若いのに酒に飲まれてしまって」

 そう、二日酔いの元凶は彼である。彼のペースに合わせて飲んでいた2人は飲み会終盤あたりには酩酊状態となり、ほぼ記憶がない。それに対し、ニドキングはケロッとした表情で元気ハツラツだ。

「今日は幸い休日だ。お前達は動けないだろうから、私達だけで出かけようか」
「やったね、カレッジあまり詳しくないから楽しみ~」
「え、俺も?」

 すこぶる元気なヒトカゲはともかく、それなりに酒のダメージを受けているルカリオはできれば休んでいたいと考えていた。少々行きたくなさそうな雰囲気を出している彼に、ニドキングは笑顔でこう言った。

「君こそ一緒に来たほうがいいぞ」

 これがどういう意味なのかを理解するのは後の話であるが、強く断る理由もないので、どういう意味だろうとも思いつつ重い腰を上げてついていくことに。
 出かける際、家の扉付近に置いてあるハンチング帽を被るのがニドキングのお気に入りである。本人曰く休日はこれをかぶって出かけると気分良く過ごせるのだとか。


 3人が家を出て少し歩いたところで、ヒトカゲは目的地のことを気にしていた。街中に向かっているようではあるが、今日は休日ということもあり、多くの学校は閉校している。珍しい食材の買い物かなと考えていると、察したニドキングが応じる。

「私の前の職場に配属されてる、有名人に会わせてあげようと思ってな」
「有名人? 署長とか?」
「まぁ、それはお楽しみだ」

 楽しそうに鼻歌交じりに歩くニドキングを、2人は不思議そうに見ていた。そんなにすごい有名人なのかと考えながら、彼の背中を急ぎ足で追いかけていく。


 しばらく歩いていると、学校エリアにたどり着いた。閑散としている道の先に昨日訪れた警察学校があり、その敷地の奥にいくつかある建物の1つである道場へ寄るという。
 言われるがままついていくと、休日であるにも関わらず多くのポケモン達が護身術や格闘の練習に励んでいた。ここにいるのは、全員警察関係者であるという。

「ちょっとむさ苦しいかもしれんが、すごいだろう?」

 本気で稽古に取り組んでいる彼らの熱気をひしひしと感じ、ヒトカゲとルカリオは緊張している。

「こういった日頃の鍛錬が私達警察をより強くし、市民の安心・安全を護る糧となる……って格好いいことが、昔教科書に書いてあったよ」

 笑いながらニドキングはこの稽古の意味を語った。照れくさいのか自分の言葉では言っていないが、それが警察官の使命であり、誰もが持つべき志なのだと2人は感じ取った。

「そうそう、有名人はっと……あ、いたいた」

 道場の奥の方に、ニドキングが2人に会わせたい有名人がいたようだ。声をかけて手招きをすると、体格の大きいポケモンが3人やってきた。それを見た瞬間、ルカリオは声が出せなくなってしまった。

「え、く、く、クマ同盟!?」

 彼らの前に現れたのは、リングマ・ツンベアー・ゴロンダからなる格闘遊戯のチーム『クマ同盟』だ。どうしてここにいるかわからず、ルカリオはパニックで頭が真っ白になっている。

「あれ、君って確か、この前船でヤンチャムの相手してくれた……」
「ん、もう顔見知りだったか?」

 完全フリーズしたルカリオに、彼らの言葉は届かなかった。



「へぇーなるほど、警視とそんな繋がりがあったんだ」

 ヒトカゲとニドキングで事情から何から一通り説明し、ゴロンダは大体を理解した。そして彼からも、自分が警察官で、ニドキングとはかつて同じ部署で働いていたと明かす。
 彼のように、警察のPR活動の一貫で格闘遊戯や他団体に所属することは珍しくない。実際、ピジョット警部も過去に勧誘されたことがあるが、「イメージと合わない」という理由で断っている。

「改めまして、僕はクマ同盟のリーダーをしている、ゴロンダです」

 ヒトカゲ達は軽く握手を交わす。その力加減からも、彼の穏やかで優しい性格が充分に伝わってきた。そんなゴロンダを押しのけ、他のメンバーも挨拶したいと手を差し出す。

「リングマだ! パワーはチームで1番だぞ!」
「私はツンベアー。クマ同盟の参謀役とでも言いましょうか」

 リングマは親方、ツンベアーは紳士のような振る舞いで接してきた。ゴロンダも加えて3人が並ぶとその大きい体格に圧倒され、強敵と戦い慣れしているヒトカゲとルカリオも少し身構えてしまった。

「こう見えても、彼ら全員パパなんだぞ」
『みんな!?』

 船で会ったゴロンダはともかく、残りの2人もヤンチャムと同じくらいの歳の子を持つパパなのである。照れくさそうに顔を赤らめつつ、子供が写っている写真を取り出し我が子の可愛さ自慢をし始めた。
 その振る舞いにいてもたってもいられなくなったのか、ゴロンダも加勢する。宿泊所で留守番している息子の写真を並べ、ベストショットを披露する。そんな彼らの光景を、苦笑いしながらニドキング達は見ていた。

「なんか、オフでは子煩悩なパパってのもいいな」

 ステージ上の格好いい姿の彼らしか知らなかったルカリオは、普段の彼らの姿を垣間見ることが出来てより一層好きになったようだ。

「はいはい、その辺にしてくれ」

 彼らが子供自慢を始めると、軽く1時間は止められない。それを知っているニドキングは手を叩いて早々に終了の合図を告げ、クマ同盟の3人は恥ずかしそうに写真をしまう。

「一応ゴロンダも警察官だからな、こいつらの悩みを聞いてやってくれないか?」
「もちろんです、僕に話してくれるかい?」

 優しく話しかけたゴロンダはその場に座り込み、目線をヒトカゲとルカリオに合わせる。2人はこれまでの悪夢の経験と先日巻き込まれた事件について共有した。後者の事件は小耳に挟んでおり認識していたが、悪夢については相談されたこと自体が初めてで戸惑う。

「悪夢かぁ、さすがに聞いたことない事例だな」
「逆ならあるのにな」
「逆?」

 ふと、話を横で聞いていたリングマが発した「逆なら」という言葉が気になる2人。その言葉が意味することをゴロンダは思い出し、半笑いしながら話す。

「僕は逆に、最近夢を見なくなってしまいまして。寝てもなかなか疲れが取れず……」
「俺もだ。なんか試合後並みに疲れてんだよな」
「私も毎回ではないが、たまに同じ症状になりますね」

 クマ同盟の全員が、ヒトカゲ達とそれとはまた違う悩みを持っていた。これがこれまでの出来事に関係しているかは不明だが、おそらく格闘遊戯の練習が相当ハードなのだろうと誰もが考えていた。

「練習大変そうだもんな。こういうこと言うの失礼だけど、あえてファンとして伝えさせてほしい。頑張ってください!」

 彼らを気遣い、ルカリオは少々緊張しながらも激励する。彼にとっては目の前にいる3人は憧れの存在ゆえ、失礼なことを言っていないだろうかと不安にかられている。それが伝わってきたのか、代表してゴロンダが優しく語りかける。

「ありがとう、君達の言葉が僕達にとっては本当に励みになるんだ。これからも期待に応えるパフォーマンスを届けるから、どうかその声を送り続けてほしい」

 手を握られながら伝えられたそのメッセージは、真にファンを応援している者達からの熱い想いが込められていた。それがたまらなく心に流れ込んできたルカリオはじんわりと涙が目に浮かんでいた。

「あっ、時間が押してるな……お前達そろそろ設営補助行くんだろ?」
「そんな時間ですか! 申し訳ないです、あまりお役に立てなくて」

 ちょうど日が真上になった頃、道場のポケモン達が片付けを始めている。これから2日後に開催される格闘遊戯のイベントに向けて、警察署の関係者も会場準備を進めている最中だ。

「そうだ、これよければ。警視もどうぞ」

 思い出したかのようにゴロンダはみんなにあるものを配った。よく見ると、それは格闘遊戯の観戦チケットであり、かつ関係者限りに配られる、どの試合でも使える特別優待券であった。ヒトカゲとニドキングは喜んだが、それ以上にルカリオは発狂寸前まで至っていた。

「悪いな、これ家族分だろ?」
「いいんですよ。余分に貰ってましたし、僕らの子供達は実質チケットフリーなので」

 ありがとう、と各々握手を交わし、少々慌てた様子でクマ同盟は会場へと向かっていった。ニドキング達も買い物へ行こうとしたが、夢のような時間を過ごしたルカリオは現実世界へ戻ってくることができず、しばらくその場に立ちすくんでいた。


 それから彼らは街中で食材などの買い物をし、帰路についていた。その間、ルカリオの興奮は若干治まっていたものの、貰ったチケットを見るたびに顔をにやつかせている。余程嬉しかったのだろうとニドキングも微笑んでいる。

「ただい――」

 家について扉を開けると、今朝まで酔いつぶれていたカメックスとバンギラスが早速飲み直しをしていた。

「おい、てめぇいつ結婚すんだよ。もういろいろ『済んで』るんだろ?」
「はっ、す、す、済んでるって何だよ! どこ情報だよ!?」

 大分酔いが回っていたのか、ニドキングが扉を開けたことに気づかずにちょっぴり成人向けの会話で花を咲かせていた。買い物帰りの3人はキョトンとする他なかった。

「その言い方はホシ確定だな。もう秒読みだな」
「だから違ぇーって! まだやっ……んあーもう!」

 危なげな会話を繰り広げる2人の間に、ニドキングが割って入る。ルカリオの想像では、ここは警視たるもの冷静に状況を沈めて健全な飲み会へ誘導する――はずだが。

「ちょっとおじさんにも『済んだ』話を詳しく聞かせてくれるかな」

 気づいたらニドキングの右手には酒入りのコップが握られており、話題を変えるどころか乗っかってバンギラスをいじり倒す方向へ持っていった。誰が見ても、今の彼は中々にゲスい。
 この場に深入りはよそうか、とヒトカゲとルカリオは目で意識を合わせ、そっと扉を閉じてしばらく外で過ごすことにした。
次回、「第13話 気になりマすネ」

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