Box.71 人体への回復技使用による重度後遺障害

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読了時間目安:20分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 バシャーモが全身から炎を噴き出した。真っ白な高温の炎が廊下を埋めるように盛ったが、捕縄はびくともしない。燃える気配すらなく、バシャーモが動揺した。

「無駄だ」

 カイトの隣にルカリオが戻った。ブレイズキックを受け止めた両腕が焦げていたが、平然と波動弾を集束させる。
 バチュルが転がったモンスターボールへ駆け寄ったが、黒い影のような手に奪われた――サマヨールだ。その背からヒトモシ達が顔を出す。ゲンガーに負ぶさったリマルカが追いつき、ばちゅばちゅと焦るバチュルの背中にロトムがしがみつく。

「シャモッ!」

 バシャーモがなおも猛々しく燃え上がり、捕縄がチチッと嫌な音を立てる。ルカリオが波動弾をぶつけると、嘶きのような悲鳴が広がったが、バシャーモはその場で耐えた。床へ放射状に亀裂が走る。炎が波動弾の青と混じり合い、海のような深い色を呈した。
 ――仕留めきれない。グッと捕縄をカイトが引っ張り、ルカリオが二発目の波動弾を放つ。即座の行動に移った直後、バシャーモを拘束する捕縄が単発的な音で灼ききれる。青い火花が激しく散った。一瞬の呼吸さえ蒸発する高温が場を飲み込むと、ゲンガーはリマルカを背中に庇い、流石のカイトも目を腕で庇った。
 場の空気が沸騰する。複数の耐性が編み込まれたレンジャー服が灼熱に変色した。床を抉る音がして、カイトのそばを火の玉となったバシャーモが駆け抜ける。とっさにカイトは体当たりしたが、高熱の塊に触れたような死の予感が過ぎった。
 カイトは滅多に悲鳴をあげない。それでも塵埃にされかねない肉を焼く感触にはあげざるを得なかった。バシャーモの目に理性が一瞬閃くが、行く手から聞こえた鳴き声に掻き消える。
 行く手に誰のものでもないガーディがいた。くぅん、と鳴くと、バチュルの代わりに導くように走り出す。その後を追うバシャーモに、カイトが半分爛れた口を開いた。

「――リールッ! 追え!」

 苦痛の波動を受け取ったルカリオは一瞬顔を歪め、弾かれたように追いかけた。カイトに纏わる青い炎が掻き消える。駆け去る主を追うように、しかし追うことは許さないと黒々とした火傷の跡を残した。カイトがその場に崩れ落ちた。
 
「カイトさん!」

 ゲンガーの背中からリマルカがなんとか顔を出す。ボボン!と二つのモンスターボールが開いた。
 ロックはかかっていたはずだった。カイトの無事な右手が腰のモンスターボールを掴む。ブースター、バクーダが場に飛びだした。ブースターの背中に得意そうなバチュルが飛び乗る。
 
「ばちゅちゅ!」

 リマルカの視線がロトムを探す。ロトムの上には溶けた蝋燭のように、何匹ものヒトモシがのしかかっていた。ロックを開けたのも彼らだ。けらけらと笑う周囲に妖しい火が踊っている。透き通るような青い火はみるみる内に大きくなり、リマルカとゲンガーと、半身を抑えているカイトを飲み込んだ。悲鳴をあげてカイトが燃える、燃える。足先から頭頂まで、余すところなく、骨さえも炎が溶かし燃えていく。
 消し炭になってしまったカイトが、炭化したまま口を開いた。

「キュワワー!」

 アロマセラピーの甘い香りがヒトモシ達の幻覚を消し去った。
 現実に帰ってみれば、正しかったのはロトムにのしかかっているヒトモシと、ブースターやバクーダが解放されたこと。現実でなければ良かったのはカイトの体が爛れたことか。キュワワーはカイトの左腕に巻きつき、アロマセラピーを一心にかけている。皮膚の色が甘やかな香りに包まれて癒され、痛みが和らいでいく。ヒトモシがたくさん乗っていたサマヨールは昏倒していた。
 ヒトモシ達が身を寄せ合い、炎が強く揺らめく。一気呵成に膨張した炎が解放されたブースターに合流し、もらい火によって体毛が陽炎のように揺らいだ。
 気温が高い。
 廊下の向こうから複数の靴音がする。追いついたレンジャー達へとカイトが叫んだ。

「来るな!」

 ブースターが呼吸すると、烈火の如く火炎放射を吐き出した。

「悪の波動!」

 悪の波動が火炎放射と衝突して霧散するが、入れ違いにバクーダが噴煙を吹きだす。真っ赤な炎が周囲に撒き散らされ、リマルカのポケモン達が主を守る。ケタケタと嗤うヒトモシ達が狂ったように転げ回る。無数の鬼火が囂々と弾け周り、制止にも関わらず飛び込みかけたレンジャーとポケモン達を襲った。一匹一匹は大したことがなくとも数が多く、炎が〝力を借りた〟ように異常な盛りをみせている。カイトがロズレイドを繰り出した。

「神通力!」

 ロズレイドの目が光ると、バクーダの噴煙がぎゅうっと見えない力に押し込まれた。バクーダが顔を真っ赤にして神通力に対抗する。ロズレイドが力を強める姿を尻目に、バチュルを肩に乗せたブースターが身を翻した。その足に捕縄がかかる。ブースターが火炎放射を集束しつつ、鬱陶しそうに振り返ると、その顔面に回し蹴りが飛んだ。壁に激突したブースターからバチュルがこぼれ落ちた。
 肩で息をしながら、カイトは逃げ出そうとするバチュルを掴んだ。赤黒く爛れた反対の腕は、まだキュワワーがアロマセラピーをかけ続けている。電撃を纏いかけたバチュルをぎゅっと握ると、くたりと動かなくなる。ふらつく体で崩れ落ちたブースターを睨んだ。
 キュワワーの手助けを使っての瞬間的な身体強化。その上で攻撃したとはいえ、この程度で沈む相手とは思えない。キュワワーが輝き、前方に破壊光線を溜め始める。アロマセラピーの中断により、中途半端に治癒したカイトの半身が灼けつくような熱を孕む。
 リマルカ達がヒトモシ、バクーダ相手に奮戦し、沈むような破壊音が響く。それに振り向きかけた直後、キュワワーが破壊光線を撃った。耐衝撃構造の壁ごとブースターを貫く――かと思われた。
 機会をうかがっていたブースターが直前で跳ね起きた。纏ったフレアドライブで、真っ向から破壊光線へと突っ込む。ぶつかった破壊光線が乱反射のように周囲を破壊した。轟音。鬼気迫るブースターがカイトへ肉薄する。キュワワーは反動で動けない。ロズレイドが駆けるが間に合わない
 ニヤリとブースターが嗤い、火の塊が食らいつく。

「ハ……ハイドロポンプっ!!」

 押し寄せる水がブースターの横頬を殴った。激しく蒸発する音。なおも止まらないブースターに、カイトがバチュルを握ったまま左拳を叩き込む。じゅう、と肉の焼ける感触は想定内。もとより、ハイドロポンプなくとも殴るつもりの左ストレートにブースターが沈んだ。

「リーダー生きてる!?」
「るんぱっ!」

 ルンパッパとコダチが手を振るが、体に複数のヒトモシがしがみついている。生命エネルギーを吸い取られているのか顔色が真っ青だ。ヨマワル達がひぃひぃ言いながら引っ張り落としている。
 カイトは服が一部焼け落ち、回復途中の肌は赤黒く変色していた。巻きつくキュワワーが必死に反動から早く立ち直ろうとしていた。慌てて走ってきたロズレイドがアロマセラピーをかける。
 状態異常は、野生のポケモンにもよく見られる症状だ。覚えられる限りは覚えさせていることが幸いした。

「問題ない。捕縄を寄越せ」
「や、火傷が……リーダー……!」
「捕縄を寄越せと言っている!」
「ひゃい!」

 コダチがなんとか捕縄を投げて寄越した。ブースターにかけ、同じく這々の体で近づいてきたレンジャーへと引き渡す。リマルカはなんとかバクーダを下したようだ。レンジャーが取り囲み、気絶するまで嗤い続けるヒトモシを捕まえている。

「リマルカ。ヒトモシ含めて任せた。私はルカリオとバシャーモを追う」
「僕が――」
「ヒトモシはお前じゃないと抑えられない。明らかに様子がおかしいだろう」

 カイトが言っても聞かない性格である事は承知しているらしく、リマルカは止めなかった。カイトはふらつく足に力を込め、駆け寄ってきたコダチへとバチュルを押しつけた。

「これソラ君の……?」

 カイトの目が、記憶を辿るように動いた。

「クロバット、キルリア、ムクバード。あとはカゲボウズだったか」
「え?」
「あいつの手持ちはそれで全部だ。イミビがルーロ―出身である裏はとれている。隠していたんだろう……お前の目と勘の良さなら、逃すこともない。任せたぞ」
「は――はい!!」

 ぎゅっとコダチがバチュルを握りしめ、ぷきゅぅと気絶したバチュルが苦しそうに鳴いた。駆け出そうとするカイトへリマルカが叫んだ。

「リアンさんから伝言があります!」

 一瞬、カイトの足が止まる。

「森の毒は潰して帰るから、ユニオンは任せたって!」

 リアンは森でタマゴを破壊しに行っていたが、気になることがあると言ってそのまま残った。
 確認されている襲撃事件のポケモンは複数いるが、毒を操るポケモンはエンニュートだけだ。
 捕虜となっている二人、そしてノロシに複数体のポケモンを操る技量はない。なんらかの理由があって、あの数のポケモンを従えている。
 ――森か、ユニオンか。
 どちらかに件の人物が来ている。





 分厚い扉の向こうから爆破音がしてリーシャンは目を覚ました。ピンと持ち上がった耳は続報を待っている。
 リクは大丈夫だろうか。駆けつけたい気持ちはあったが、鉄の扉を振り返ると座り直した。
 リクはもう独りではない。
 タマちゃんも、ゲイシャもいる。ソラやリア、コダチもいて、ミナモシティにいた頃の彼と同じように、まっすぐな瞳を取り戻しつつある。守ってくれる人がたくさんいる。
 留置所入り口の扉が開いた。また来る、と言っていたから、リーシャンはリクだと思った。もしくはエイパムだと思った。エイパムはリーシャンがここで寝泊まりするようになってから、毛布や食べ物を頻繁に差し入れしてくれる。そのたびにここでは体に悪いから、外で休まないかと声をかけてくれるが、やんわりと断っていた。
 リクは少し抜けていて、騙されやすいところがある。ゲイシャがいれば、今までよりも上手くやっていける。そう言うとエイパムは、彼はレディが思っているよりも強いから大丈夫だよ、と言った。
 入ってきたのはウインディだった。黒い瞳の奥で炎が灯っている。リーシャンはその炎に不安を感じた。身震いするような色だ。目の前が真っ暗になるような――。
 白髪に赤い服の男も続けて出てくる。手には同じ色の服を抱えており、足下には狛犬のようなガーディがちょこちょこと、隣にはシャンデラを従えていた。シャンデラの炎は元々不気味な色をしているが、あれほどまでに寒気のする色をしていただろうか。うっとりと、シャンデラの円く黄色い目が曲がっている。他者を惑わすポケモン自身が魅入られているような顔をしている。
 戸惑うリーシャンを無視して男は鉄の扉を解錠した。レンジャーではなさそうだが……男の出てきた方を振り返り、リーシャンは息を呑んだ。
 真っ黒だった。
 鉄の扉が開く。留置所出入口を消し炭にした男――アカが言った。

「迎えに来たよ、ホムラ」

 リーシャンはアカと扉の間から、体をねじ込んだ。アカはそこで初めてリ-シャンに気がついたと言わんばかりの顔で、「おや」と呟いた。ウミはまだリーシャンがいたことに驚き、アカとリーシャンの間で視線を行ったり来たりさせる。その反応に、アカがリーシャンへと尋ねる。

「君、誰?」
「……リ?」

 ここにリクがいればすぐにアカだと気がついただろうし、服装から朱色の外套集団だと分かったはずだが、あいにくとリーシャンが朱色の外套の人間と相対したのは、ウミを除けばこれが初めてだった。ゴートでのゴルトとリクの会話、エイパム達から聞いていた話が、アカの発言や見た目、ウミの状況からようやく繋がり始めていたくらいだ。

「しらないポケモンです」

 ウミがリーシャンを見つめた。

「迷い込んだポケモンだと思います。アカ様が気にかける必要のない存在です。――おい、お前。いつまで呆けているつもりだ。邪魔だ。出ていけ!」

 ウミが苛立ったように叫んだが、口端は左右の動きがちぐはぐで、瞳はまったくもってウミの言葉を反映していなかった。頼むから、早く行ってくれと泣きそうな声さえ重なって聞こえる。
 アカが朱色の外套を鉄格子の隙間から押し込んだ。

「着て。ちょっと危ないから、端っこに寄ってて」

 ウミが慌てて袖を通し、大人しく壁の端に寄った。シャンデラが歓喜の声をあげて炎の密度を高め、気温が異常なほどに上昇する。リーシャンの表面が炎を反射して赤く染まった。ぺたりと左右に下がった長い耳に、アカが囁く。

「君って本当は、ホムラの友達だったんじゃない?」
「リリ……」
「一緒に行きたい?」

 紅玉の瞳がほっそりと弧を描いた。リーシャンがコクコク頷くと、アカが更に笑みを深くする。

「そう。だったら連れて行けない」
「――りゥ!?」

 リーシャンの背に鉄格子がぶつかった。ウミが目を見開いて振り返る。叩きつけたアカが「じゃあ、壊して」と言うとシャンデラの〝煉獄〟が膨張し、鉄格子へと食らいついた。鉄格子が真っ赤に染まり、どろりと融解する焦熱は直視すれば網膜さえ蒸発しかねない。
 ウインディが前足を叩きつけると鉄格子が完全に壊れた。リーシャンが焦げついた壁にぶつかり、床に落ちる。ウミが転げるように近づいた。触れたリーシャンに衝突の傷はあったが、火傷は浅い。咄嗟に"まもる"を使ったのだろう。ウミはリーシャンを抱え、表情の抜け落ちた顔で見つめた。ビー玉のようなアカの瞳が歪み、ウミを咎める。

「嘘をついたんだね、ホムラ。駄目じゃないか」
「そんなつもりじゃ」
「君と一緒にいてくれるのはシャモだけだよ。さぁ行こう」

 アカがリーシャンの片耳を掴んだ。ウミは手を離さず、ふるふると首を横に振る。近くから同調するような低い唸りが聞こえ、アカは目をパチクリさせた。
 ウインディの黒い瞳の奥に、自分へ向けられたかすかな敵意があった。
 どの炎ポケモンもアカに従ったが、彼だけはいまだに抗っている。約束の炎を持つこの身に従うことがどうしてそんなに嫌なのか、アカには理解できない。祖母に義理立てでもしているのだろうか?

「彼も君も、本当に強情だね。諦めてテレポートしてしまおうかな」

 途中で振り落とせば良いし。呟くとアカがリーシャンを強く引っ張った。リーシャンの悲鳴にウミが反射的に手を離す。
 アカがそっとウインディを撫でる手に炎を込めると、黒い瞳から抵抗の遺志が消える。
 ――炎。
 プロメウはかつて、三匹の名もなき生き物を復活させた。人間であったテセウスをポケモンへと変じた。
 アカはプロメウを愛している。信じている。
 しかしその愛が決して自分には向けられないであろうことも知っている。飲み込んだ炎は彼の顔を焼き、美しい炎は真っ黒に染まった。
 それでもなお美しく。アカが火を分かち合った炎ポケモンに力を与え、彼らはアカを愛するようになる。
 正しくは彼の中にある約束の炎を、だろうが。
 母の顔も知らず、父の顔も知らず。炎こそが、決して振り返らない彼の父母。それでも彼は炎を愛している。
 果ての暗闇より、あなたの炎を見つめて死んでいく。

「バシャーモはホムラを愛している。でもその愛は、唯一の炎じゃないといけない。お互いに唯一であってこそ人の身でありながら神話が成立する」

 ポケモンへと身を変じたテセウスと、死より甦った三匹のポケモン。
 プロメウ/ホウオウの炎には、境界線を覆す力がある。
 そこに必要なものがなんなのか。それをアカはよく知っている。

「だから、ねぇ。君って本当に邪魔だ」

 リーシャンを掴んでいた手と、ウインディのテレポートがサイコキネシスによって弾かれた。アカは浮遊する相手を、先程まで弱っていた相手を眺めた。さほどレベルの高い個体には見えなかったが――強い想いが念に乗っている。先ほどまでの小さなリーシャンの姿はなく、風鈴に似た姿形のポケモンがいた。
 ウミが呆けた顔で、自身とアカの間に立ち塞がるチリーンを見上げる。
 チリーンの全身から強い光が溢れている。ウインディの〝テレポート〟と拮抗している事に、アカが表情を消した。

「シャンデラ、ガーディ」

 名前を呼べば命じる言葉がなくとも伝わる。ガーディから火炎放射が、シャンデラから数十の鬼火がチリーンへと急襲した。強烈な業火はテレポートを抑えながら防ぐことは出来ない。ウミが後ろからチリーンを抱きしめた。朱色の外套には強い耐火性能がある。

「ッリー!」

 チリーンの〝守る〟が発動した。炎が割れ、チリーンが見た黒々とした部屋と同じ色に染まる。アカは動じず、もう一度やってみようか、と言った。

「守るって技は、二回連続で出すと失敗しやすいんだよね」

 ガーディが疲弊の色さえ見せずに火炎放射を吐く。シャンデラの妖しい光が輪を作るように踊ると、目の前が真っ暗になっていく。チリーンの守るが発動の気配を見せ――上手く決まらない。吸い込まれるような妖しい光に、ウミもチリーンも上下とも分からぬ暗闇で、炎が腕を広げて迫ってくるように見えた。ウミが腕に抱くチリーンは、炎となって消え失せていく。幻覚の中、ウミがチリーンのいた場所を抱きしめた。テセウスもこんな気持ちだったのだろうか、とウミは思った。信じた相手に裏切られ、愛した友が焼き死んでいく。
 テセウスはバルジーナに耳を貸してはいけなかった。しかし、しかし――それでも彼は、多くの友を守ると信じて炎を盗んだ。耳を傾けてしまった。
 テセウスの許されるときはいつか来るのだろうか。永遠にこないのだろうか。
 それとも、果ての暗闇より誰かに語りかける声は、いつか返ってくるのだろうか。
 リリン、と鈴が鳴った。
 硝子のような高くて涼しい音。ウミの腕の中で、何もないはずの場所が光っている。妖しい光を引き裂いて、サイコキネシスが炎からウミを守る。ふわりとウミのもとから浮かび上がったチリーンが炎に相対する。
 チリーンの願いがサイコキネシスへと加算する。

「リー!」

 爆発するサイコキネシスが炎を押し返す。散っていく炎に、ガーディがぐぅう、と苦しい顔をした。アカが白い手をウインディに重ねて、赤い瞳の奥に炎を揺らめかせる。ウインディの目の色が変わり、悪夢のような火炎放射がチリーンを更に襲った。防ぎきれない。残る力を振り絞り、チリーンが技を瞬間的に切り替える。
 炎が弾けた。
 火がチリーンの全身にまとわりつき、そして消えた。とさっと地面に落ちたチリーンを拾い、アカは扉の外へと放った。咳き込んでいたウミが顔をあげ、外へと這いずるように追いかける。チリーンが〝守り〟きれなかった足に火傷を負っていた。
 可哀想に、とアカは呟いてウミを抱きとめた。なおも手を伸ばすウミが、外の誰かに向かって口を動かした。アカが肩越しに振り返り、体を少しずらした。スピードスターが頬を抉り、煩わしそうに眉を寄せる。

「今度はアイドルさんか」

 殺気だったエイパムがくるりと回転し、再びのスピードスターが飛ぶ。チリーンを抱えたリクが一呼吸でトドグラーとサザンドラを繰り出し、二匹が同時に冷凍ビームと竜の波動を撃ち込んだ。
 シャンデラがけたたましく嗤いながら全身に、全ての炎をかき集めて突撃する。ガーディの火炎放射がシャンデラを包み込み、爆発する熱風と炎の衣装がうねり狂う。炎――炎炎!! 幾重にも重なる炎のヴェールの奥深くから、ウミが呼んだ。
 さざなみのように、応えてリクが叫んだ。

「――ウミ!!」

 シャンデラが最期まで嗤いながら燃え尽きる。魂までも焼き尽くして、笑い声だけ残して霧散する。
 晴れた視界にウインディの姿はなく、アカもウミもおらず、残されたガーディだけが、置き土産のように立っていた。

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