第62話:勇気の焔――その2

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 一方のホノオとシアンは、ロズレイドとチラチーノのペアと戦闘を開始した。

「以前のあなたたちとどう変わったのか、存分にお見せくださいね」

 言うと、はじめに仕掛けたのはロズレイド。相手を追跡する不思議な葉っぱ“マジカルリーフ”を繰り出した。以前はなすすべなく葉に切りつけられたホノオだが。

「オレは何も変わっちゃいない。ただ……荷物が軽くなっただけだ!」

 吐き出すように叫び、“火の粉”で迫る葉っぱを焼き尽くす。

「あ……できた……」
「ワーイ! やったネ、ホノオ!」

 普通に戦うことが出来た。適度な火加減を調節することが出来た。ホッと安堵して力が抜けるホノオに、シアンが駆け寄って歓声をあげる。そのスキを相手が利用しないはずもなく。

「後ろががら空きよ! “スピードスター”」

 声が聞こえた時には遅かった。チラチーノが放った星型の光線がホノオとシアンに直撃する。

「大丈夫か? シアン」
「ウン。イテテ……」

 すぐに体勢を立て直したホノオとシアンだが、目に飛び込んでくるのは葉っぱと星の連射、連射、連射。すぐさまホノオとシアンも、“火の粉”と“バブル光線”で相殺、相殺、相殺。
 不利な状況であることは目に見えている。“マジカルリーフ”と“スピードスター”は追尾性能があるため、手当たり次第に連射が可能だ。一方ホノオとシアンは、様々な軌道から自分たちを狙う攻撃に狙いを定めて迎え撃つ必要がある。集中力が試され、神経がすり減っていった。
 攻撃を相殺する地点が、じりじりとホノオ、シアン側に近づいてくる。焦りが余計に集中力を削ぎ、ヤケクソ気味に攻撃を放つ。無駄打ちが増え、体力も消耗してしまう。とうとう、シアンが星粒を打ち損ねてしまう。ホノオのカバーも間に合わず、直撃。痛みに怯んだ隙に激しく追撃され、2人の身体が宙に投げ出された。

「うわっ!」
「キャー!」

 悲鳴を上げ、地面に叩きつけられる。“マジカルリーフ”の効果が薄いホノオは、疲れで息を弾ませながらもすぐに立ち上がった。懸命に身体を起こすシアンをかばいながら、ロズレイドとチラチーノを睨みつける。

「すみません。葉っぱの宝石を守るために、つい遠距離攻撃でムキになってしまいましたわ」

 嫌味ではなく、口元を隠して本当に恥ずかしそうな様子でロズレイドが言う。追尾性能のある遠距離技の連射は、確かに護身の最適解だが、いささか大人げないと考えたようだ。

「意地でも距離を詰めないと、宝石を奪えないってことか……。やってやる」

 無謀な作戦かもしれないが、ホノオにはこのひとつしか思いつかない。覚悟を決めると、ホノオは全身に炎をまとってロズレイドに突進を仕掛けた。“火炎車”だ。

「それは困ります……!」

 ロズレイドは“マジカルリーフ”を連射する。狙われていないチラチーノも、“スピードスター”で援護した。葉っぱと星屑は時に炎に焼き尽くされ、時に炎を突破してホノオに切り傷をつける。痛みに顔をしかめつつも、ホノオは加速を続けた。そのまま攻撃に怯まず、灼熱の体当たりをロズレイドに当てる。

「うらあ!」
「きゃあ!」

 はじけるように飛ぶロズレイド。それをしっかり目で捉え、ホノオは追撃の準備をする。
 ホノオの様子を見ていたシアンも、同様の手段をひらめく。心の中で、ホノオもたまには役に立つんだネと呟いた。無傷のチラチーノがホノオに迫り打撃を加えようとしている。シアンはそれを阻止しにかかった。

「“渦潮”!」

 全身に水流をまとい、激しく回転しながらチラチーノを目指す。既に草タイプのダメージを受けてピンチだからこそ、特性“激流”が発動して渦は轟音と共に水しぶきを飛ばしている。チラチーノはホノオへの攻撃を諦め、シアンへの対処を迫られることになった。チラチーノは“スピードスター”を渦の中のシアンに放つ。が、星屑は激流に飲まれて揉まれ、シアン本体には届かなかった。
 遠距離技で対処ができないなら、逃げるしかない。チラチーノは慌てて逃げ始めるが、自慢のふさふさ毛並みが仇となる。しっぽの先端が渦に触れると、シアンの渦潮がチラチーノを引きずり込んでしまった。

「いやーっ!」

 身体をめちゃくちゃに振り回され、チラチーノはなすすべもなく渦の中で舞うしか無かった。

 シアンの善戦で、チラチーノの援護が入らなくなった。ロズレイドに対して有利な接近戦を仕掛けることができ、ホノオは“ブレイズキック”と“炎のパンチ”を駆使して薔薇の身体に灼熱を打ち込む。所作がホノオより緩慢なロズレイドは、防戦一方に見えるが――ニヤリ。“炎のパンチ”に“毒の棘”を突き刺すことに成功した。

「いっ……!」

 満身創痍ながらも、ホノオの怯みを見逃さない。ロズレイドは最後の抵抗のように、毒を浴びたホノオに追い討ちをかけた。

「“ベノムショック”」
「ぐ、うあっ……!!」

 体内に回る毒が衝撃波に反応し、全身を内側から刺されるような痛みにホノオは悲鳴をあげた。呼吸が制限され、チカチカと視界が点滅する。
 互いの息遣いがやけに大きく聞こえる。ホノオとロズレイド。今ここで先に手を下した方が、相手を制すことができる。互いがそう確信していた。体力の限界を感じながら、最後の一撃を放つ。

「“火炎放射”!」
「“マジカルリーフ”!」

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 至近距離から放たれた攻撃が押し合う。特殊攻撃はロズレイドの得意分野。しかし、ホノオには心強い味方があった。特性の“猛火”だ。今日一番の火力はついにロズレイドを貫いた。

「ああっ!」

 悲鳴を上げて、ロズレイドはうつ伏せに倒れた。すぐにホノオはロズレイドに駆け寄るが――どうやら、彼女は“葉っぱの宝石”を持っていないらしい。となると、チラチーノが狙い目だ。
 ホノオは振り返り、シアンとチラチーノを探した。すると。

「おーいホノオ。“葉っぱの宝石”とったヨ!」

 得意げなシアンの声に拍子抜け。まだまだ戦わなくてはと、傷だらけの身体に鞭を打っていたホノオは全身の力が抜けてしまった。確かにシアンの奥に、灰色の毛並みが全身ずぶ濡れでぐったりと倒れているのが見えた。

「おお……マジ? ありがたい誤算じゃん」
「誤算とは失礼だナ!」

 動けなくなってへたり込むが、口だけは達者なホノオにシアンはぷりぷりと怒る。

「ちゃーんと計算通りなんだヨ。ホノオの真似をして“渦潮”しながらチラチーノさんに突っ込んで、そのままぐーるぐる! 目を回してやっつけちゃったノ」
「なんだよ、オレの戦い方のパクリじゃねーか。オレのお陰ってことで、今度アイス奢れよ」
「むう~。仕方ないナ。灼熱のマトマアイスでいい?」
「それだけはいいわけねーだろ! ナナシのサワーアイスがいいっ!」
「はいはい。ホノオの味覚はおこちゃまだからネ~」
「む。おこちゃまって言われる方がおこちゃまなんだぞ」
「……逆でしょ?」
「……おっと、逆だな」

 当たり前のように戦えて、当たり前のように仲間と雑談を交わせて。そんな当たり前を、ホノオはシアンとの軽口で身に馴染ませるのだった。


 ホノオとシアンがロズレイドとチラチーノを倒して宝石を奪い取り、戦闘を止めた。マリルリはセナとヴァイスを捉えるのに必死になりながらも、その光景に気が付いてしまった。つまり今この瞬間、2つの葉っぱの宝石は、どちらもキズナが手にしている。ということは。

「そこまで!」

 マリルリが大声で言うと、宙に浮くセナとヴァイスはびくりと反応する。セナは着地に失敗してしりもちをつき、ヴァイスは葉っぱの宝石を握り締めたまま、セナにのしかかってしまった。

「しまった!」

 セナはマリルリのびっくりさせる作戦にまんまと引っかかったのだと解釈し、焦って体勢を立て直そうとする。が、ヴァイスの重みで地面に押さえつけられた。マリルリとオオタチが近寄ってくる。まずい、立たなくては。セナが必死に顔を上げるとそこには。
 救助隊キズナをたたえて拍手をするジュエリーの面々の笑顔があった。その背後に、シアンが誇らしげに葉っぱの宝石を掲げている。ホノオが照れくさそうに笑っている。

「昇格戦闘試験、終了。救助隊キズナ、合格!」

 マリルリの終了宣言が、空気を、そしてキズナの心を震わせた。――やった。やったんだ。セナはヴァイスとハイタッチした。慎重さがあり、ヴァイスがだいぶ手を下げてくれたのだが。
 こうしてキズナは、2回目の昇格試験を無事終了し、めでたくハイパーランクへと昇格したのであった。




「月は静かに現実を照らし、太陽は勇気の焔を纏った」

 ぽつり。天空にて。

「そして闇は、行き先の分からぬ憎しみを抱え、空を飲み込もうとしている」

 さらに、ホウオウは続きを呟く。

「またそろそろ、運命を動かす時が来ましたね」

 今度は語りかける。雲の下を見下ろし、スイクンに。ライコウに。エンテイに。そして“彼女”に。

「今、“6度目の世界”を賭けるとき――」

 彼女――“ポケモン”はそう言うと、手に持ったひとつぶの種を大事そうに握り締めた。

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