悪魔の実

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 ナックルスタジアムの中でも、関係者しか立ち寄らないエリア。かつて、このガラルの中心と呼ばれた古の城の一部をそのまま活用した施設の中で、私たちはキバナと向き合っていた。
 一旦扉は締め切り、縛り上げた悪党どもは、そのまま地面に転がしておく。念の為、催眠術も重ねがけしておいた。

 悪ダンデが去り、一段落ついた私たちはキバナと改めて対面していた。
 
「なあ。どういうことだ? ここに居るのがチャンプにダンデ。それからダンデのお供の秘書は知ってるが……」
 
 長身の浅黒い肌の男、キバナは短く切りそろえた髪をかきながら一同を見回した。キバナは“ドラゴンストーム”の二つ名を持つ、ナックルジムのジムリーダーであると、先ほど簡単にではあるが、改めて説明を受けた。初対面だとは思うのだけれども、何となく記憶にかするので、もしかしたら、シュートスタジアムで対面し、秒でマスターが勝利していたのかもしれない。
 
「……何者なんだよ、この変な仮面野郎は」
「何者かって!?」
 
 先ほど罵声を浴びせられたせいか、キバナは警戒するように尋ねた。
 しかし、何者かという問いかけが引き金になり、カイトとシャケは嬉々として舞い上がった。いつものやつである。
 
「何者なんだよと聞かれたら! 答えてあげるが世の情け! 世界の平和を守るため、世界の破壊を防ぐため――」
「ねえルパン。それ、飽きたわ」
「そ、そんなこと言わないでフジコちゃぁん……!」
 
 待ってましたとばかりに声を張り上げたルパンことカイトをコサリがたしなめた。その二つ名を聞くとキバナは眉間に皺を寄せた。
 
「ルパン……? 一昔前に暴れてた義賊か? ここの宝物庫を狙って来やがったのか!? いや、そりゃあないな……問題はお前じゃねえ。偽のダンデと、この転がってる連中だ。ひとりは見覚えあるけどな」

 言って、キバナは浅黒い肌の妙な民族衣装のような格好をした男を一瞥した。
 
「そのことだがオレの偽者を見抜けないとは内心ショックだった」
 心底がっかりした様子でダンデが言う。
「キバナといえばダンデ、ダンデといえばキバナ! 昔からオレたちは仲良かったじゃないか! 最近では一部の腐女子にカップリングされて、薄い本にされてると聞くぞ! 大体オレが“受け”だ」
 さらりとよくわからないカミングアウトをするダンデを無視し、カイトは冷静にフォローした。
 
「あのダンデを偽者というのは正しくはない。彼もまた、別の世界の貴方だ。つまり、一歩間違えばそうなっていたかもしれない、ひとつの未来の形とも言える。貴方と彼は表裏一体、根幹にある魂は同じだから、キバナが間違えたのも無理ないことだ」
 
 カイトの言うことは正しい。
 世界がよく似ているように。世界が分岐したように。
 あのダンデも、今この場にいるダンデも、もとを正せば同じ人間なのだ。
 
「なるほど、わかんねえが、だいたいわかったぜ。そうか、お前は別の世界の俺を知ってて、その俺と仲が良かったんだな……なんだその、すまねえな。何も覚えてなくて? ってのは変か。何もわかってやれなくてすまねえ」
 
 いいや、とカイトは首を横に振る。
 
「理解してくれてうれしいよ、古代ガラルの末裔」
「なっ……」
「ガラルの王族はソッドとシルディだ! ちゃんとエンディング後もプレイしたのか!! キバナは違うぞ!」
 
 その言葉に絶句するキバナと、その横で突然割って入るダンデ。明らかに不自然だ。
 
「いいんだ、ダンデ。隠してくれなくていい。驚いたな。別の世界の俺はお前のことを心から信頼してたんだな」
 
 言葉の裏から、この世界のキバナは親友であるダンデにはその秘密を打ち明けていることが読み取れた。そして、それは同様に別世界のキバナがカイトに心を開いていたという意味になる。
 
 かつて、ディケイドライバーという妙な装置で次元を超えてしまったカイトは、孤児院でドクが説明していたとおり、今は普通の様子だった。異世界の影響も受けていない。
 別世界のガラルは過酷だった――そう前置きしたカイトは、同時に世界の危機を知ることとなったと語り始めた。
 
 
 ――古の昔、ガラルを守る王がいたと言う。今はその名も伝わっていない。
 名もなき王は聖なる力で、“外”からやって来た黒き魔王を滅ぼし、ガラルに平和をもたらしたという。戦いの果て、名もなき王は力を失ったが、人々を守る剣と盾を遺し、人々の前から姿を消したのだった。
 しかし、黒き魔王は滅んだわけではなかった。長い年月の後、その姿を再び現した。かつての名もなき王のことを覚えている者もいなければ、黒き魔王のことを知る者もいない中、ふたりの勇者が古の剣と盾を手にし、再び黒き魔王を打ち破った。
 剣と盾を持つ勇者は城を作り、黒き魔王の遺した厄災のある地を監視する役目を背負うこととした。
 
 それこそが、現在のナックルシティであり、ワイルドエリアを見渡せる地に築かれている理由なのだという。
 カイトがすらすら説明した半分は、私もすでに事前知識として見聞きしたことがあった。それほどまでに有名な話だ。
 ただし、前半部分は私の知識にはない。未知の話だ。
 
「……まあ、後半は既にみんなもう知ってるだろう。最近ソニア博士によって提唱されたガラルの真実さ。剣と盾を持つ勇者は、ザシアンとザマゼンタを引き連れたポケモントレーナーだったわけだね」
 
 ナックルシティをあずかるキバナは、フッと笑みをこぼした。
 
「ああ。確かにこのキバナ様はガラル王家の末裔だ。だが、ちょっとこのあたりややこしくてな。派閥がいくつかある。まあ大きくは2つ、3つ……いや、やっぱり今も2つだな」
「派閥?」
「今は諸々あって、ガラル王国は解体されてるわけだろ。俺は無くなった国には未練のない【共存派】。ソッドやシルディはかつての栄光にしがみついていた【正統派】だが、ガラルチャンプの解決した前のダイマックス騒動で俺たち【共存派】へと転化した」
 
 ダイマックス騒動が何かはわからなかったのだが、黙っていたマスターが、「ああ、あのときのやつか〜! ガラル中のスタジアム周って大変だったよ」と思い出したように隣で頷いていた。私が来る前の話であるらしい。
 
「で、めでたしめでたしってわけにはいかなくて、【正統派】が解体されたときに、そこから派生したのがあってな。どういう拗らせ方をしたのか、半ば宗教じみてるんだ……頭数そのものは多くないし特に大きな弊害は無さそうだから今は放っておいているんだが……と、すまねえカイト。話の邪魔しちまったな」
 
 キバナが謝ると、カイトは大きく首を横に振った。
 
「邪魔はしてないよ。むしろ、話す手間が省けたくらいだよ」
 
「なあ、カイト」
 声を発したのはダンデだ。
「今ひとつ頭がついていかず、すまない。君の話は、ソニアが喜びそうな内容だが、前半の話は一体何なんだ? 黒き魔王がムゲンダイナを指すことはわかったが……そもそも、過去にムゲンダイナは二度も現れたのか? ブラックナイトは二度……いや、オレたちの時代も含めると三度起きていたのか?」
 
 ダンデもそこのところは詳しくはキバナからも聞いていないのだろう。
 確かに話がややこしい。私の頭の中でも瞬時に整理しきれないでいる。
 
「前提が違う。最初のブラックナイトは……これから先、未来に起きる。それはこの世界を破壊し、時間と空間を超えて、過去に干渉することになる。破壊の連鎖を阻止するためにも、古代ガラルの地を統べていた名もなき王の力を得る必要があるんだよ」
 
「つまるところ、こうかしら」
 頭の中が疑問符だらけの中、理解した様子で頷いていたのは、コサリだった。我がマスターに至っては、もはや半眼で話すら聞いてない。
「この世界の未来に、大きなブラックナイトが起きる。そして、この世界は滅びを迎える。そして、そのブラックナイトは時間と空間を超え、別の世界のガラルの遥か過去に移動し、そこでブラックナイトとして、英雄たちに対処される。……その後は、概ね、私たちのこの世界と同じ道筋をたどる。そしてまた、大きなブラックナイトが起き、その世界も滅び、また別の世界の過去へ……それが繰り返されるような感じかしら?」
 
 平行世界の概念は極めて難しい。
 以前、私とホップの迷い込んだ世界を例に上げてもそうだ。
 
 今いるこの世界をA、私とホップの行った別の世界をBとしよう。
 私達はこのA世界に現れた、B世界の一部“ヨロイ島”へ行った。なお、このヨロイ島は今なおこのA世界へあり続けている。
 そのB世界の過去へ私たちは行き、そこで起きた事象に干渉し、その後、時間と空間を超えて、元いたA世界へ帰ってきた。このA世界のマグノリア博士は、過去に私たちと対面したと言う。
 
 考えられる可能性はふたつ。
 一つ。私たちが関与した後に、滅ばず続いたB世界が、このA世界である。
 もう一つの可能性。それは、このA世界のマグノリア博士が話したこのA世界の過去の出来事に干渉した私たちは別の世界の私たちである。
 
 いずれにせよ、この概念はこの地上に生きる者たちには観測できないのではないかと思う。
 もしそれを成し得るとすれば、それはこの世界の神ということになるだろう。
 
 わずかな沈黙が場を支配する。
 皆、理解がなかなか追いつけないでいたし、真実を知ることも難しいだろうと思う。
 もしかして、その真実に近づくことができる者がいるとすれば、私のように世界を渡り歩くことのできる存在、ポケモンなのかもしれない。

「とりあえず、オレのこと……いや? あっちのオレのことになるのか? ともかく、別世界の人物についてだが」
 ダンデは話の要点をまとめようとして、頭を抱える。
「もしかしたら、オレ以外の人物も別の世界からやってくる可能性もあるのか?」
 
「可能性は低いだろうけど、基本的にはそういう心構えでいてほしい」

 カイトが頷くと、ダンデは顎に手を当て、難しい表情で俯いた。

「なかなか見抜くのは難しいことだな……簡単に言えば、別の人生を歩んだ同じ人間なんだろう?」

「わたしがダンデさんに会いに来たのも、そのことを伝えようと思ったからなの」
 マスターはワイルドエリアであったことを簡単に説明した。
 異世界のダンデと、彼の所属する組織レインボーロケット団のこと、彼らが何かを企んでいるらしいが、どうもそれは暴力による世界征服などではなく、もっと目に見えにくい形のものであること。

「ガラルの中心にいて、ガラルの将来を担う立場のダンデさんに、これを渡しておくのが一番良いと思って。サナたん、スカウター渡してあげて」
 私はその言葉を受け、身につけていたスカウターをダンデに手渡した。
「それは対象となる人間やポケモンの情報を数値化、テキスト化したものなの。他の世界から来た人やポケモンの場合、テキストデータとして、“時間と空間を超えて、はるばるやって来たようだ”と表記されるから、そのスカウターがあれば見抜けると思う。大事に持っておいてほしい」
 それを手にしたダンデは首を傾げるが、それをこめかみに装着すると「科学の力はすごい」と声をあげた。この世界この時代に無い技術に驚きを隠しきれないダンデだが、冷静を装い、脱線した話を元に戻す。
 
「話を戻すが、今回のもう一人のオレの行動を考えると……エネルギープラントを何らかの形で掌握しようとしていた可能性はある。入室キーを手に入れて、セキュリティを突破しておき、然るべきタイミングでそれを行使しようとしていたということになるかと思うが……」
 
「ご名答。さすがはガラルの前チャンピオン。あのダンデに与えられた使命は、来たるべきブラックナイトのため、エネルギープラントを管理下に置くことにあった」
 
「でもそれなら、異世界の俺を使ったほうが早いんじゃないか? 世界のどっかには悪の道に走ったキバナ様もいるだろ?」
 カイトとダンデの会話を聞いていたキバナが口を挟むが、カイトは首を横に振る。
 
「基本的には人の性質は変わらない。悪い奴はだいたいどの世界でも悪いし、良い奴はだいたいどの世界でも良い……それに、その人の辿る人生もおおよそ、どの世界も同じような道筋を辿る傾向にある。世界には何らかの大きな修正力が働いているらしい。だから狙って人材を探せるわけじゃない。あのダンデはかなりイレギュラーなんだと思う」
 
 似たような話は、ポプラもしていたように思う。
 あのイーブイ娘のハルは、どの世界でも生命を落とす宿命にあったと。今いるこの世界のハルこそがレアケースで、生きていることは奇跡そのものなのだ。
 時間と空間には何らかの人智を超えた力が働いている。それは、もしかすると神と呼ばれる存在なのかもしれない。私の知識の中から思い浮かんだのは、シンオウ地方の神話にある時間と空間の神と呼ばれるポケモンだった。
 一方で、グラが言っていたように、GTSと呼ばれる遠隔交換システムで、ふざけたニックネームをつけられ、交換されていた事例もある。所詮はポケモンとみるか、神話にまで謳われた神とみるか。判断はむずかしい。
 
「僕は、世界は概ね同じ方向へと向かうということを知っている。だからこそ、この今いる世界も同じように進む可能性が高いと考えている。その火種はこのガラルにあり、それこそが――ブラックナイト。ガラル神話の異説では、神々の黄昏ラグナロクとも呼ばれているようだけどね。君たちはレインボーロケット団とやらに、良いように利用されたんだよ」
 
 カイトはそう言って転がる男たちを睨みつけた。
 その目線は、殺し屋のゴルゴではなく、もう一人の男に向けられている。改めて見ると、キバナと同じ浅黒い肌が特徴的な、なかなかの男前だった。どこかの民族衣装なのか、鳥のあしらわれた服や、帽子を被っており、その顔には目元を中心に、十字に入墨が彫られている。
 
「目が覚めたのか、ペル」
 キバナは男が目を覚ましたことに気づき、しゃがみ込み、声をかけた。
「フッ……、誰かと思えば異端者キバナか。我らが理想をわからぬ愚か者よ」
「なあ、ペル。俺らは元を正せば同じ血が流れてるんだ。昔はよく遊んだろ?」
「汚らわしいわ! 気安く我が名を語るな……名前には魂が宿る。貴様なんぞに口にされるとダストダスに身を落とすわ……」
 
 そう言って、ペルはそっぽを向いた。
 その仕草に、ふいに思い出した。私はこの男に会ったことがある。
『マスター。あの男、ランクマッチバトルに居ましたか?』
 気づき、小声で隣のマスターに聞いてみる。
「ああ! 確かに居たね。マスターボール級だった、確か……何だっけ」
 
 完全に思い出した。そうだ、ハヤブサのペル。彼の二つ名の逸話は、ナレーションでも紹介されていた。
 
 ――悪魔の実を食べたことで、隼に似たポケモン、ファイアローに変化できるようになったガラル最強の戦士。しかし、ファイアローに変化したため、ハイパーボールで捕まえられた。……コードネーム“ハヤブサのペル”。
 
「ハヤブサのペルだ!」
 マスターも思い出し、叫ぶ。
 その名を聞き、ダンデが眉をひそめる。
 
「ペルだって? かつて、ひこうタイプジムの次期リーダーだったペルか!? オレは面識は無かったが……何かの事故があって、ジムリーダーになる道から退き、その後は違法賭博などを行う非公式バトルに顔を出すようになったと聞いたが……元は公明正大な人物だったと聞く。よほどの事故だったのだろう」
 
「……だ」
 ペルは何事か口にした。
「なんだ?」
「なってしまったのだ!! ハヤブサ、いやファイアローに! 全ては失われたあの日。奇妙な木の実を食したが為……全てそこの男の業でもある」
 
 キバナを見ると、そっぽを向き、白々しい様子で急に口笛を吹いてみたり、スマホロトムのカメラ機能で髪型を整えたり、Poketterポケッターでツイートしたりし始めた。明らかにあやしい。
 
「キバナ……!? 今の話はほんとなのか!?」
 ダンデは衝撃を受けた様子で二人の顔を交互に見やる。
「俺たち王族の末裔は格の違いこそあれど、みな等しく王族としての威厳を持ち生きている。その代表例が、外に落ちているものは食べちゃいけませんという厳格な規則だった……」
「なんて厳格な教えなんだ……オレなんて、家の前に落ちてたオボンの実を何度も拾い食いしていたというのに……!」
 厳しい王族としての生き方を振り返り、ペルは肩を振るわせ、同時にダンデはその話を聞いて感情移入してしまい、涙を流していた。
 
「俺もあの日まで、王族としての誇りを規律を守り生きていた……しかし、あの日、この世のものとは思えぬ美しい木の実が、我らがナックル城の屋上にその身を委ねておったのだ。木の実はひどく悪魔的に美味そうに見えた」
 
 後にも先に聞くことの無さそうな表現からして、本当に美味しそうだったのだろう。その悪魔的な木の実は。
 
「そこのキバナは俺をまるで実験動物モルペコのように扱い、俺に試しに一口食べてみろと命じたんだ……王族の格でいうと、本家であるキバナの方が身分は上。俺は従わざるを得なかった。俺は地べたに這いつくばって食べた! 悪魔的に上手かった!」
 
「見損なったぞキバナ! 今まで厳格な掟に従って生きてきた誇り高き王者の生き様を無下に扱うとは!!」
 
 慟哭しながらペルは説明し、なぜかそれに便乗し激昂するダンデ。しかし、その横でキバナは白けた顔をしていた。
 
「いや確かに俺も食ってみろよとか適当なこと言ったけどさ……悪魔的にうめぇ!とか言って一気に全部食ったのお前じゃん……そりゃあファイアローになったとかいう話を聞いたら同情したけどよ……」
 
 そもそもファイアローになるとはどういうことなのか。比喩的表現なのか? そんな疑問も頭を過ぎったが、とりあえず二人の確執に水をささないほうが良いと判断し、その場を見守ろうと完全な傍観者に徹した。
 ちなみに、この場にはマスター、カイト、コサリ、いつの間にか目を覚ましたゴルゴもいたのだが、みんな話についていけずにいた。
 ただ、悪魔的に美味そうな木の実ってどんなのだろう、という疑問は恐らく全員が共有していたに違いなかった。
SpecialThanks,ONEPIECE

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