第133話 久しぶりに会ったらこんなに成長してました

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

たとえ火の中、水の中、森の中。そう、まさにマイは森の中にいた。うっそうと茂る木々に月の光や星の輝きは届かない。
 遠慮のない根っこに足を何度も取られて転びながらもマイは真っすぐに進む。

(でも、本当にここにあのお婆ちゃんはいるのかな?)

 草木を手で分けながらも疑問は次々に沸いて来る。あのお婆ちゃんとはフスベシティで出会ったキワメ婆の事だ。何かあったら来いと言ったとゴールドは言い張るが、マイに記憶はない。本当になんでもかんでも彼に頼ってばかりだったな、肩を落とす。

「うわっ! イタタ……もうくたくただよ~!」

 下ばかり歩いているのは性に合わないと真っすぐ前を見て歩けばすぐに地面とこんにちはをする。上陸した時には汚れていなかった洋服も今は泥や草だらけ。手ではたいて汚れを落とすも、その手が痛い。転んだ時に手を付けて着地するから傷だらけなのだ。

「あー! もうっ! いつまでこんな道歩いてなきゃいけないのさーっ!」
「ここまでじゃよ」
「ほあ?」

 怒りに身を任せてずんずんと進んで行くと、木々が避けている広場があった。マイは沸々と沸きあがる感情を抑えきれずに上に向かって叫ぶ。
 後ろから声を掛けられて振り返れば奴がいる。薄紫色の髪を二つに縛り、それを耳の横まで上げて、ピンで留めているスタイル(卑弥呼様スタイル)をする婆。

「キワメお婆ちゃん!」
「キワメ嬢ちゃんじゃ! 全く、ここまで来ておいてまだその呼び方か」
「よかったよかったよかった! もう死んじゃうかと思った~! お腹減りました!」

 マイはキワメの手を取り、上下に振って喜びを示すが快く思わないのかどこからか杖を出してマイの頭にこつんとぶつけた。
 そんな事より腹が減ったらしく気にもせずにご飯を催促。話しにならない、と諦めてキワメはマイを家に案内する事にした。

「ここがワシの家じゃ」
「わー、意外と大きいんですね。わ、ベッドだ」
「ほんっとに失礼な子供じゃな……。飯食ったらまもとな会話をせぇよ?」
「はーい!」

 近くにある民家がキワメの家。周りにもいくつか家が建っていて、キワメ一人がここに住んでいるわけではなさそうだ。
 何を想像していたかは定かではないが、キワメの家は至って普通の平屋で、今にも壊れそうとかではない。時計が置いてあり時間を確認すると午前5時、流石婆は起きるのが早い。

「作り置きで悪いが、ほら味噌汁じゃ。あと十穀米」
「わ~温かい~! ありがとうございます! いただきます!」
「たんと食え」

 キワメと一緒に早すぎる朝食を終えると、キワメは顔つきが変わる。

「さて、どうしてここに来た? 何か困った事でもあったのか? その腕輪を見るに、色は完全に剥がれ落ちているし――技をマスターした自慢でもしに来たのかえ? あ、後、唇に米粒着いておるぞ」
「違います! わたし、困ってるんです! あ、米粒さんごめんなさい」

 食器を木製のテーブルの隅に置き、キワメは手を組ませて肘をテーブルにつく。マイは、手を膝の上に置いて前屈みになる。

「流星群は完成しました」

 指摘されて米粒を口に入れて飲み込むとまた話を始める。

「やはり」
「ほえ? 知ってたんですか? あっもしかして、ポケモンリーグ観に来てくれたとか!?」
「ちゃうわい! 空の様子がおかしかったからな、勘じゃよ女のカンって奴」

 大きなどんぐり眼を瞬きもしないで言いきるマイに深く頷いてから言葉を返す。が、身を乗り出したマイが調子に乗って話を違う方向へ。すぐにキワメにより修正。

「それで、流星群とかボルテッカーとか究極技? を使った後に身体の変化が大きくて、わたし耐えられなくて……」

 言葉が出てくるにつれてマイは身体を元の位置に戻して、頭を下げ、声が小さくなる。自信が全くない様子にキワメはため息をつく。

「それで? その耐えきれない身体に困っておると?」
「それも違う! ただわたしは……その……」

 探るように言われてマイは顔を起こすが、また項垂れる。言葉を選んでいるのか、ただ歯切れが悪いのか分からないが次の台詞が出てこない。

「ふむ。分かったぞ、確かお主はゴールドとかいう坊主に惚れているんじゃったな? そやつに――」
「そう! ゴールドに迷惑が掛かっちゃってそれが嫌で! でも一人じゃなにも出来ないからここに来たんです!」

 "ゴールド"という人物にスポットライトを当てられると、マイの口調は押し付けがましい響きになった。
 声に出さずに笑うキワメの肩は震えていて、やはり、そう内心思う。

「して、ポケモンリーグとか言ったな? それでマイはどこまで行った?」
「優勝しました! この通り!」
「おお……こりゃ魂消た。やるな」

 発言を聞き逃さなかったキワメの目が二倍程にも見開いた。あのフスベシティで出会った少女がこんなにも成長するとは夢にも思わない。素直に感想を述べる。

「リューくんの流星群で優勝したんだけど、その後右腕が動かなくなっちゃったんです。今は動くけど! けど、半日は何しても感覚がなくて! 怖くて、逃げ出して……」
「それでゴールドに迷惑を掛けた」
「はい……」

 泣き出しそうな切実な声が自信がなさそうに響く。当時を思い出してきゅっと身体を固くする。

「ポケモン神話に、流星群の技を使えるのに選ばれる人と選ばれない人がいるって書いてあって、それで選ばれないのに使えると対価の代償が――」
「ククックククッ」
「キワメお婆……さん?」

 首筋が固まったみたいにキワメを見れないマイが精いっぱいの勇気で話しているのに途中で大笑いをされてしまう。身体の緊張は解けたが少しだけ腹が立つ。

「流星群に選ばれる? 選ばれない? 選ばれないのに使うと対価の物が失う? ハハッー! これは笑える! 下手くそな漫才よりずっと笑えるわい!」

 顔を天井に向け、大口を開けて笑うキワメ。ゲラゲラ笑う顔はしわだらけでマイも思わずほくそ笑む。

「そんな神話聞いた事ないわい! 第一使えるか使えないかと書いてあるのに、どうして使えない者が使えるようになる!? 矛盾とはこの為の事か! そんな事はない! 分かったぞ、お前の身体の変化!」

 手を叩いて笑い、椅子から転がりそうになる。

「いいかマイ」
「――!」

 顔を正面に向けたその目は老人とは思えない程鋭く、力のある眼差し。

「これは単にトレーナーの実力不足じゃ」
「へ?」

 まばたかない強い目に嘘の色はない。反対にマイは何度も瞬きをして混乱している。

「よいか、そのカイリューを出してみろ」
「は、はい。リューくん、出ておいで!」

 モンスターボールを床に投げて出てきたカイリューはマイを庇うように横に立つ。

「そしてワシのカイリュー」

 使い古したモンスターボールから出てきたカイリューは勝ち誇った嬉しそうな目のキワメの横に。それだけでマイはある事に気づく。

(リューくん……小さい?)

 マイは椅子から立ち上がるとカイリューをキワメのカイリューの横に移動させる。

「なんで?」
「ほほう、気づいたか」

 いたずらそうなキワメに見られてマイは思わず疑問を主語無しでぶつけた。それでも意図が分かったらしいキワメは説明をしてやる。

「カイリューの大きさはハクリューの時の脱皮回数で決まる」
「だっぴかいすう?」
「そうじゃ。脱皮をする度に大きく成長するんじゃ。ミニリュウからハクリューの段階でもな。しかし、マイのカイリューは脱皮回数が少なかったんじゃないかの?」

 カイリューを優しい手つきで触りながら懐かしそうに語る。

「確かに……ミニリュウからハクリューまでの道のりは長かったけど、ハクリューからカイリューまではあっという間だった。でも、それは」

 旅を思い出してマイは目を細める。

「わたしを助けようとしてくれて、すぐに進化をしてくれたんだよね」
「成る程、訳ありか。しかし、ポケモンの大きさだけでマイの身体の変化と関係があると思うか?」

 情を含んだ目つきに親しみの光が宿る。愛おしそうにカイリューが顔を擦りつけてきて、マイは顎したを撫でてやる。
 あのテレポートで飛ばされて独りぼっちにされた時のシーンが脳内でカラーで再生される。

「関係ない……ですよね。トレーナーの実力不足で進化が早くなるとは考えられないし」
(ほう。話の通じない"馬鹿"と思ったが違ったの。ただのゴールドの"腰巾着"という訳でもない、か)

 眉間に深いしわをよせて考え込むマイに口角が上がるキワメ。

「そうじゃ、むしろリューくんじゃっけ? 二匹もカイリューがいるとややこしいからボールにしまうぞ。リューくんの実力が高すぎて、マイが変化に追いついていない」
「ほえ……」

 最高速度で頭を回転させる。椅子に座り、鼻の目の前で両手の指を組んで考え込む。

「ごめんなさい、分かりません!」
「言い返事じゃ! お主、ここで修行しろ」
「へ?」

 結局分析しても答えは出てこずにマイは素直に謝る。その心意気を気に行ったキワメは手を叩いてからマイの肩を叩く。

「マイが強くなれば体の変化はなくなる。現代風に言ってやるなら、絆を深めるんじゃ」
「ええっわたしとリューくん仲良しだし、絆だってあるよ?」

 心の高ぶった興奮の中で伝える。旅の中でマイとカイリューは絆を深めてきたのに否定されたみたいで悔しかったのだ。

「分かっている。そのカイリューの目を見れば一目瞭然。しかしそれはトレーナーとしてではなく、ヒトとしての絆」
「どういう意味ですか? ヒトとトレーナーは同じじゃ?」

 頭の上にはたくさんのハテナマーク。首を傾げてマイは問う。

「なんとも分かりにくい世の中じゃよ。よいか、よーく聞くがいい」

 キワメは息を大きく吸ってからマイを見つめた。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想