第四節 パーティ・アッセンブリング

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読了時間目安:13分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ついにポケスロン大会当日。朝っぱらだというのに、ホテルの窓からはワァワァ、と街の活気が仄かに伝わってくる。
 そんな活気あふれる日差しが差し込む部屋の中、アタシは眠たい眼(まなこ)をくしくしと擦るリリーを、ベットから引き剥がす作業に入っていた。

「ほら起きろちびっ子委員長。今日大会のスピーチならしゃんとしろって」
「うぇー、はーい……」

 怪しい足取りで化粧カバン片手に、パウダールームへ向かっていく背中を見送ると、せっせと服を選ぶミミロップ尻目に今度はアタシがベットにダイブ。
 こんなクソ暑い中着るのがスーツかよ、と正装しなければいけない現実を恨んだ。
 そのまましばらく、エアコンの風に直当たりしていると、顔を洗って完全に目が覚めたリリーが着替えるために戻ってくる。

「まぁフキちゃん暑がりだもんね。それより見て、このネットニュース」
「あん?」

 そこに書かれていたのは、街の治安が悪い地域での乱痴気騒ぎの記事。どうやら地元のチンピラがボコボコにのされて重体らしい。

「アローラでも治安が悪いところは悪いんだな。お前うっかり迷い込まないように気をつけろよ」
「そう簡単に迷うわけないじゃないか失敬な。これでも大人なんだからね」

 昨日リリーに黙って飲みに行った店が見えるし、チンピラも全員殴った記憶が拳に残っているが、きっときっと気のせいだろう。そうに違いない、うん。
 いそいそとアタシも汗を吸った寝巻きを脱ぐと、軽くシャワーを浴び、いそいそとウユリ姉さん謹製のスーツを身に纏う。

「フキちゃんやけに今日は素直だね……昨日私と別れた後、なにかあった?」
「……いやぁ、何もなかったけど」
「ほんとうに?」

 目線をスッと背中側の壁に向けると、リリーは距離を詰めて一段冷ややかな声になる。
 こんな時に限って、場を和ませるユキハミはベットの隅でハミ息を漏らしながら寝ていた。

「そんな事よりだ、今回の護衛はアタシ一人ってマジなのかよ? エデ公のやつ遊ばせとくのか?」
「ううん、先生には別のお仕事があって、それを頼んでるの。一緒にオレアくんも連れて行くみたいだよ」
「男衆女衆分かれて動くってわけか。まぁアタシの背中にいるのが一人になったのは楽だから良いけどよ、なんで今まで黙ってたんだ?」
「え? だってフキちゃんに行ったら何処から秘密漏れるかわかんないじゃん」


◆◇◆◇◆◇◆


「べいべべい、べいべべい!」

 燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びて、ご機嫌に頭を振るのは僕の呑気なベイリーフ。
 どうも、昨日治安の悪いお店に連れて行かれて、乱痴気騒ぎにまで巻き込まれて寝不足のオレアです。
 なんて自己紹介をしてみるが、どうにも頭にもやがかった眠気は晴れなかった。
 朝の僕の部屋に「着いてこい」とだけ、エーデルワイス先生から内線が届き、わざわざ隣の部屋なのにと思いながら外出の準備。
 そのまま「今日は私に着いて来てもらう」とだけ言われ、気まずい沈黙のまま気づいたら小さい飛行機に乗って、ウラウラ島まで来てしまっている。

「あのぉ、すいません……」
「オレア学生、質問する前にまずマスクをつけたまえ」
「あの、気温が30度くらいあるのに……」
「マスクをつけたまえ。ベイリーフ、君もだ」
「べいっ!?」

 無言の圧力に、僕は黙ってマスクをつける。フキさんとは違うタイプの圧の掛け方だった。
 結構蒸し暑いが、そのことを言い出す勇気はなかった。
 すごすごとマスクを自分とポケモン用、二つ分取り出して口を覆う。

「それで、質問は?」
「僕って、そもそも何のために連れてこられたんですか?」
「ふむ……ここまで来れば、誰かに聞かれたとてだな。いいだろう、オレア学生」

 エーデルワイス先生はそう言うと、普段と変わらない切長な瞳を僕に向けてくる。それだけでベイリーフはびくりと体を震わせると、僕の背中に姿を隠す。体が大きいから隠し切れてはいないけど。

「BRAF-2遺伝子」
「えっ何で大腸癌なんですか?」
「二つのLTR領域」
「今度はレトロウイルス……」
「ふむ……その年にしてはよく勉強している。やはりあの愚か者が見つけてきた人材とは思えん」

 彼はそのままふいと顔を正面に向き直すと、ツカツカと早歩きで歩き始める。夏場だと言うのに、どうして暑くないのかと思うほどにきっちりと白衣を着込んだ彼は、息一つ乱さないで淡々と言葉を続ける。

「知識は力だ。君が自身の有用性を示すように、いかなるときでもその事実は揺るがない。特に、未知が既知になるのは顕著だろう」
「ええっと、つまり……?」
「この前のコンテスト崩落事故……いや、真実を言うなら崩壊事件か。氷の証言が間違っていなければ、ウルトラビーストというものが関わっているとの話らしい。して、件(くだん)の存在はどうやらアローラ地方に過去出現し、さらにそれらの存在を秘匿しつつも、それを研究してる機関があるとの話だ。それが、エーテル財団という超大物」

 その名前は聞いた覚えがあるが、どうにも僕の認識と食い違う。確か世界で幅広くポケモンの保護活動を行なっている慈善団体のはずだ。それも、僕でも知ってるくらいの超大規模な。
 それが何故今この場で話題に出てくるのだろう。

「細かい話は教えられなかったが、どうやら財団がウルトラビーストを研究しているらしく、その事実を国際警察が認知しているらしい。まあ私がそんな事情を知った所ではないが、その情報を国際警察の許可を受け、この前の襲撃の当事者であるヌクレアリーグがその情報を、秘密裏に受け取るに至った」

 何だか、嫌な汗が背中をダラダラと伝っていく。先生の声が後になるにつれ、怒りが篭ったように口早になっていく姿は、水と油なはずのフキさんによく似ていた。

「つまりは、だ。ウルトラビーストに関する書類を秘密裏にエーテル財団から受け取る。それが私の”四天王”として与えられた仕事だ」
「……僕、場違いじゃありません?」

 どう考えても、僕の出る幕じゃなさそうだ。これだったら暑さに不機嫌なフキさんの相手をしてる方が億万倍ラクだろう。

「君も一瞬だが、その生物を見たのだろう? ならばすぐさまその確証が欲しい。人混みの護衛なら氷のが向いているし、秘密を知れば不自然な動きをするに決まっている。結果、消去法で君を連れてきたという事だ」

 告げられた言葉にあぁ、また巻き込まれたんだなと己の運命を呪う。が、呪った所でどうにもならないので、しょうがなくエーデルワイスさんの後ろをトボトボ付いこうとしたそのとき。
 トン、と前を歩いていたはずの先生に軽く、ぶつかった。

「あの、どうしたんで……」
「オレア学生、私の背後にいるように」

 その声色は、明らかにさっきまでとは違っていた。ピリピリと緊張感が張り詰めるような雰囲気で、彼は軽く舌打ちをする。
 視線の先にいたのは、昨日バーであった筈の、肩にヤトウモリを乗せたおじさんだった。

「やぁやぁやぁ、昨日あった少年じゃないか。そうかそうか、それじゃあ隣にいたのは、やっぱり氷の嬢ちゃんか」
「誰だ貴様は」
「うーん、流れのルポライターって言ったら信じてくれます?」
「はっ、愚問だな」

 そう言いながら、エーデルワイス先生は、ゴム手袋をピッチリと装着する。交渉決裂、という事だろう。二人とも腰元に手を当てると、モンスターボールを膨らませる。

「はぁーあ、おじさんも貧乏くじ引いたなぁ。リーグ三位の方が来ちゃうなんてさ」
「どこからその情報を得たのかは不明だが……引く気はなさそうだな」
「ま、これも仕事の内なんでね」

 そして、投擲。
 片や、腹部が膨らみ針を持った、紫色の生物。そして相対するは――。

「行け、バクーダ。可及的速やかに事を収めよう」

 背中に二つの火山を背負った朱色の体躯。アローラの熱気を吹き飛ばす殺人的な熱気を、一身に生み出すポケモン。

「さて、先に名前を聞いておこうか、自称ルポライター」
「あー、今はおじさんこう名乗ってるんだ。モンロー・モンローってね。長いってんならM・ Mでも構わねえぜ」
「そうか。それではモンロー・モンロー、貴様を消毒する」

 その言葉を皮切りに、両者のポケモンはぶつかり合った。


◆◇◆◇◆◇◆


 まず最初に動いたのは、やはりというか紫蜂の生物――アーゴヨン。
 己が下腹に鋭く生える針のような器官を煌めかせ、一瞬のうちにバグーダへの距離を積める。
 目にも止まらぬ一撃。思わずオレアは目を瞑るが、エーデルワイスは落ち着き払った様子でバクーダに指示を出す。

「前方範囲3m、『やきつくす』で迎撃しろ」

 その言葉に応え、バクーダは口を大きく開け、喉の奥に光るは燐光。直後、溢れ出すのは莫大な熱。メガネをクイと持ち上げると、空に放たれた光線に遅れて、熱波がに巻き散らかされた。
 その風圧のみでアーゴヨンは、空中での姿勢の制御を失ってしまう。グラついた体はM・Mモンロー・モンローの後方まで吹き飛んでいった。

「私は汚れるのが嫌いだ。綺麗好きと言ってもいい。故にだ、君が私に近づくことは許さない」
「へぇ、そう言われるとますます近づきたくなるのが人の下がって思うんだよね、おじさんはさ」

 二人が軽く言葉を交わす間にも、バクーダの溶岩はグツグツと煮えたぎる。それでも、彼らは涼しい顔を保ったまま、オレアだけがダラダラと汗をかいていた。
 そんな中、戦う二人は間合いを図りながらもお互いに思考を巡らせる。
 エーデルワイスは、アーゴヨンを知らないないため、如何にして相手の攻撃を潰し、自身の得意分野に持ち込むか。
 M・Mは、存在を知っていてもなお熱波のみで強力すぎる威力を持ったバクーダに、どうやって接近戦まで持ち込むか。
 だが、M・Mは襲撃者。時間の限られている彼は、仕掛けなければいけないのだ。

「ま、卑怯者には卑怯者なりのやり方ってものがありますよっと。悪いね少年」

 その言葉とともに、アーゴヨンの姿が風を残して掻き消える。さっきまでのはほんの小手調。
 紫の生物は素早くバクーダの頭上を飛び越える・・・・・、鋭く直角に曲がってオレアを『とどめばり』で急襲する。

「……その程度、織り込み済みだ愚か者。バクーダ、『だいちのちから』」

 エーデルワイスは後ろを向くことなくそう呟くと、バクーダが地面をドスンと踏み鳴らす。上空から差し貫かんと急降下。
 ベイリーフが涙と鼻水を撒き散らすが、その針は彼らの元までやってこない。彼らを守ったのは灼熱のひさし、ドロリと垂れる岩石のカーテン。
 それは、表面が灰に固まり始めた溶岩だった。バクーダが盛り上がらせた地面の岩々は、彼のポケモンの火力に耐えきれず、その姿をドロリと変えた。

「おいおい、いきなり溶岩なんて冗談きついぜ」

 M・Mは思わず脂汗をかきながら、咄嗟に針を引き戻したアーゴヨンの様子を確認。太く突き出した正中の針には溶岩が入り、そして冷え固まっていた。

「虫のから聞いた話によれば、そこな針から毒液を飛ばすとの話だろう? ならばそこを防ぐに決まっている。そちらから近づいてきてくれたのは助かったがな」
「はぁ、時間稼ぎも簡単にはやらせてくれないですか。いよいよもってこりゃ俺の方が不利ってものですかい」

 そう言いながら、彼はこの場をどう切り抜けるか。それを考えながら、相方は果たして上手くやれているかどうか、それが少しばかり気がかりだった。




 ――同刻、アローラ国際競技場。
 本来ならば活気あふれる大会の開会式、そうなっている筈だった。だが会場は現在、阿鼻叫喚。

「嘘でしょ、一体何が起きてるっていうのさフキちゃん」
「知らねえよっ! ひとまずアタシから離れんじゃねえぞ!」

 宙に浮かぶのは黒い巨体のポケモン、アクジキング。その生物は口から自身の体躯以上の鉄骨を吐き出し、周囲に吐き出し続けていた。
 晴れときどき鉄骨の雨。後に『鉄骸事件』と呼ばれる大規模テロ事件の、始まりの喇叭だった。

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