【第006話】Exploitation

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

□ブーバー
……火山の噴火口から生まれ出づると伝承あり。傷負いし折は溶岩に温泉の如く浸かりて身体を癒す。
「今此処で斬り捨てます……夜行百々やこうももッ!!」
「いいぜ……殺れるもんなら殺りやがれ……!」
両者が夜の路地裏にて啖呵を切った……次の瞬間。
ストライクのカマとバクフーンの腕が互いに混じり合う。

『チィッ、流石に速ぇ……!』
『ふふっ……凄い攻撃……』
だが単純な筋力とスピードの差であれば、ストライク側に分がある。
『おら、「エアスラッシュ」よこせ鎌倉ァッ!!』
「ッ!!」
ストライクは続くもう一つの腕で、首筋を斬り伏せようとする。
風を纏った斬撃が、横一文字に走っていく。

 ……が、しかし。
鈍い音を立てて、その攻撃を遮るものがあった。
黒焦げになった人間の肉体……先程バクフーンに焼き殺された田村の身体だ。

『エアスラッシュ』の攻撃は田村の焼死体にぶつかり、そのまま身体を真っ二つに切り裂く。
「なっ……死体を盾に……!?」
「おぉっとアブねぇ……!死体操りネクロナイズがなけりゃ即死だったな……!」
死体操りネクロナイズ……なんとバクフーンは、自ら殺した生命体を支配下に置くことが出来るのである。
そのため田村の肉体を使って、ストライクの攻撃を防いだのだ。
卑劣……あまりにも卑劣極まる行動であった。

「ふざけるな……どこまで人間の命を虚仮にする気ですかッ!!」
鎌倉の怒りに呼応し、ストライクがバックジャンプとともに『サイコカッター』の斬撃を飛ばす。
「別にいいだろ。こいつは情けなく、地元の不良にカツアゲされていたような雑魚野郎だ。此の世に雑魚の居場所なんかハナからねぇ。」
「ッ……!」
「寧ろ、こうして肉盾としてアタシの役に立たせてやってんだ。感謝してほしいくらいだぜ。」
「貴様……貴様ァアアアアアッ!!」
夜行のその言葉が、鎌倉の冷静さを確実に蝕んでいく。
怒り狂った彼女は、脳内の強い念でストライクに技を装填させていく。

 瞬間……『エアスラッシュ』と『サイコカッター』の斬撃が宙を舞い、更にそこに追撃で『シザークロス』を纏ったカマがストライクを斬り伏せた。
『ちょっとまて鎌倉ッ……指示が多すぎだッ……!』
しかし、その多大な情報をストライクは処理しきれていない。
結果、出力した技は全て思いもよらぬ方向へと飛んでいく。

「おいおい、サツのくせに随分と取り乱すじゃねぇか……ポケモンが一級品でも、契獣者が三流じゃ可哀相だなぁ!!」
『いくよ……「ひゃっきやこう」!』
バクフーンが紫の炎を吐き出すと、空中に放たれた斬撃を飲み込んでしまう。
更にそのコントロールを奪取し、ストライク側の方へと反射したのだ。
『ぐ……あああっ!!』
「す、ストライク……!!」
力強く放ったことが仇となり、自らに帰ってきた攻撃が手痛く効いてしまう。

 更に怯んだストライクの方へ、容赦なくバクフーンは追撃を加えていく。
まっすぐに放たれた炎の放射攻撃……『かえんほうしゃ』だ。
虫属性のストライクに対して炎の攻撃は、文字通り致命的だ。
次の一撃は、手負いの彼には耐えられない。

「よ……避けてッ!!」
『くっ……そがッ!!』
よろめく全身と揺らめく視界の中、翅に全力を込めて飛び上がるストライク。
なんとしてでも炎攻撃だけは食らってはなるまいと、上空へ退避した。

 ……が、それすらも夜行とバクフーンの計算ずくだった。
なんとストライクが飛び上がったのと同時に、バクフーン側も挟撃のために飛び上がっていたのである。
『なっ……!?』
「そんなこったろうと思ったぜ……!!」
『行け……「かみなりパンチ」……!!』
電撃を纏った拳が、ストライクの頬を横方向に殴りつける。
『ぐあっ……!!』
重力加速度に従い、叩きつけるように落下していく……最早勝負は付いたも同然であった。

「くくっ……弱ぇ弱ぇ……!!そんな役立たずのサツなら要らねぇなぁ……!!」
「ッ……!!」
「そんな弱い奴がポケモンをコキ使って、挙句の果てには『貴方を斬り伏せます』なんてイキってんだぜ!!まったく、飛んだ笑い草だ!!」
『ふふふ……面白い……面白い!!』
頭を殺られて瀕死のストライクと、追い詰められた鎌倉。
既に虫の息の彼らに出来ることは……壁に追い詰められ、無様に嗤われることだけだった。

「この……人殺しがッ……!」
「ハハハハハハ!!吼えるなぁ……!!アタシがやってることが人殺しに見えるってのかよ!!」
じりじりと鎌倉に迫り、夜行は胸ぐらを締め上げたまま壁に彼女を叩きつける。
「ぐっ……!」
「アタシのやってることはなぁ、人殺しじゃねぇ。ポケモンという新たなステージに生まれ変わらせる、いわば救済だ!!」
口角を大きく上げて笑いながら、腕の勢いを強めていく夜行。
「きゅ……救済!?あれだけの人間を焼き殺しておきながら、何が救済ですか……!!」
指が強くめり込んでいくに従って、鎌倉の表情は険しくなっていく。

「人間はなぁ……弱ぇ人間を踏み台にして成長してきた生き物だ。劣った奴が居るから優れた奴がいて、醜い奴がいるから美しい奴がいる。絞られる奴が居るから栄える奴が居る。そうだ……生き物っつーのはな、弱きを斬り捨て、強気を助けて生きているんだ。弱い側はなぁ、罪なんだよ……存在そのものが!生きてることそのものがなァ!!」
「ッ……!!」
夜行は唾を飛ばしながら、力強い口調で主張を繰り広げる。
人間の……否、生物のそのものの機構に異論を唱えたのだ。

「だがポケモンにそんなものはねぇ。奴らは互いに傷つけ合わず、虐げることもしねぇ。全人類がポケモンになれば、強者も弱者もなくなるんだ!これを救済と言わずしてなんという……なぁ!!」
「ッ……!!」
「『アタシら』はなぁ、全人類がポケモンになれる理想郷を目指しているんだよ……!コレはただの殺しじゃねぇ!!」
「………!!」
夜行の声を聞きつつも、鎌倉は徐々に意識が遠のいていく。

「一方のテメェらは何だ?ポケモンになったからと言って……人間じゃなくなったからと言って……見境なく殺処分を行う。それは元人間だってのになぁ!寧ろてめぇらの方がよっぽど殺人鬼らしい所業をしているんじゃねぇのか!?お!?」
「だ……ま……れ………!!」
己の持論がヒートアップするに連れて、夜行の腕の力は更に強まっていく。
あと一歩で……鎌倉の命は消えてしまう。

「そして一度契獣者になった奴は、二度とポケモンになれねぇんだとさ。残念だがテメぇはアタシらの理想郷には入れねぇってことだ。」
『ふふ……仲間はずれ……キミは入れない……!』
「ならここで殺しちまってもしょうがねぇなぁ……!!ポケモンの世界に、契獣者は必要ねぇもんなぁ!!」
夜行は腕に力を込め、いよいよ鎌倉の命を奪いにかかる。
「がっ……っ……!!」


 が、その時。
『………ぇ……!!』
「……あ?」
後ろから、か細い声が聞こえて振り返る夜行。
『んな話聞くんじゃねぇ……鎌倉ァ……!!』
「す……と……ライク……!!」
そこに居たのは……死にかけてなお、絞り出すように声を発したストライクだった。

『人間がどんだけ醜い存在だとしてもなぁ……それでも奪われちゃなんねぇモンがある!平凡でも人生があるし、狭くても居場所がある!ソイツを奪わせねぇために、俺らは覚悟決めて手ェ汚してンだ!!』
「ほぉ……?」
『理想郷だかなんだか知らねぇが……テメェみたいな安い正義語ってる外道が、鎌倉に説教垂れんじゃねぇッ!!』
そしてよろめく身を起こし、攻撃の構えに入ろうとするストライク。
だが……既にそんな事ができる体力ではなかった。

『うるさいなぁ……ボク、キミ嫌い。』
「がッ……ああッ……!」
立ち上がったストライクに、嫌悪感混じりの目とともに『ひゃっきやこう』を食らわせるバクフーン。
瀕死の相手に対しては明らかな、オーバーキルだ。

「おいバクフーン。そのカマキリも徹底的に殺せ。そこのガキもそろそろポケモンになる。死体操りネクロナイズで挟み撃ちだ。」
『ふふ……いいよ……ちゃんと殺さないとね……!』
やがてさっきまで田村だった燃え滓の肉塊は姿を変え、赤と黄色の炎を纏ったポケモンと化す。
『Boooooo………』
しかも目は死に、完全にバクフーンの支配下に置かれている。
そして殺意をまといながら、瀕死のストライクへじりじりとにじり寄っていく。

「じゃあな………ここで死ね。」
「ッ………!!」
鎌倉にもストライクにも、最後の一手が夜行とバクフーンによって下された。














 ……と思われた、まさにその矢先。
「ん……何だコレは……?」
ひどく冷え込む黒い靄が、路地裏を埋め尽くした。
『さ……寒い……!!』
『Booo………!!』

 やがて路地裏は全ての光を遮り、あらゆる者の視界と呼吸を奪う。
「げほげほっ……チッ、ひでぇ靄だ……!!」
咳き込む夜行。
思わず鎌倉を締めていた手を放し、喉に手を当ててしまう。
しかしそんな彼女にお構いなく、白い影が靄の中をまっすぐに突っ切っていった。
たてがみの混じった、狐のようなポケモンが……颯爽と過ぎ去っていったのだ。

『も、百々……アイツらが……!!』
「何……!?」
そしてその黒い靄が消える頃には……


 鎌倉もストライクもそこには居なかった。

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