第65話 不帰の客に問う

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ──雪が絶え間なく吹き荒ぶ山の頂。 生半可なポケモンなど暫く立っただけで凍りついてしまいそうな世界。
 そこで佇んでいた「2匹の」ポケモンが、急に空を見上げた。 鼠色で何も無いはずの空に、彼らはとてつもない何かを感じ取る。
 
 「......これは」
 「お前も感じますか」
 「やはりそうか......なぁ、知らせるべきか?」
 「当然。 隠したところで意味などないでしょう。 それに、あの方は隠し事を嫌う」
 
 2匹は頷き、山の坂を駆け下る。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 2匹が辿り着いたのは小さな洞窟。 地下へと繋がっているようで、彼らは暗い中を迷うことなく進んでいった。
 最深部のちょうど入口あたりには、宙に浮く1匹のポケモンが佇んでいた。 2匹はたどり着くや否や、その背後で一礼する。 少し慌て気味に。 彼らの息切れの音を聴いたそのポケモンはゆったりとした動作で振り向いた。
 
 「どうしたのだ、そのように慌てて」
 「緊急事態です。 もっとも、貴方様も既に感じてらっしゃるでしょうが」
 「......敢えて聞く。 答えを言え」
 「......魔狼が、目覚めました。 それに、少しの時間ではありましたが、あの塔に似た気配も」
 「やはりか」
 「一応、その気配に関しては今現在消えています。 しかし、魔狼が残っているとするなら安心は出来ない」
 
 話を聞いたそのポケモンは少し俯く。
 
 「如何しましょう。 こちらから出向きますか」
 
 先程の2匹のうちの片方は血気盛んな方なのだろう。 少し早口で指示を仰ぐ。
 だが、相手は首を振った。
 
 「暫し待て。 内容としては確かに至極単純。 だが、正直不可解な事が多過ぎる。無闇にポケモンの里に降りることは避けた方がい。......それに真の魔狼ならば、きっとあちらから来るであろう」
 「っ! しかし......!」
 「魔狼が目覚め、一度あの塔に似た力も目覚めた。 しかし、後者は消えたのだろう? 魔狼だけを残して。
 何かこれには意味がある。 余はそう思う」
 
 強い口調で反論する。 そのポケモンの出立ちは、まるでどこかの王様のようだ。
 
 「まずは山中の信頼出来るポケモンに情報収集を依頼せよ。 ......そうだな、ツンベアー辺りが良いか。 あやつは地理にも詳しい」
 『......御意!』
 
 そう言い、2匹は素早く来た道を戻っていった。








 残された1匹はひとつ息を吐いて、その道に背を向ける。 眼下に咲くのは小さく白い一輪の花。 そこから何かを想起し、そのポケモンは目を閉じる。
 
 「......あれで、終わったのではなかったのか? 普通のポケモンの、人間の生は、余より遥かに短いと言えど」
  

 上を向く。 灰色の岸壁には何も無い。 その向こうには雪の積もった地面があり、そして雪雲に覆われた空がある。
......2度と帰らぬ「あの者」は、それよりもきっと遥か遠く。 その者に向かい、1つ問う。
  




 「......ヒョウセツ、お前の世界に一体何が?」
 









(2022年3月26日)
どうも草猫です。スクエアさんではお久しぶりです。
輝きの探検隊の更新の方をずっと止めていたのですけど、これから本格的に再開していこうかと考えています。
更新頻度に関しては私自身も未知数にはなるのですが、より一層気合を入れてこの物語を紡いでいけたらいいなと思っています。改めまして、これからもよろしくお願いします!

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