【第177話】鎧武者の空中戦、柔よく剛を制す(vs決勝戦)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

«イジョウナリーグ 決勝ルール»
・6on6の見せあいからの3匹選出。
・シングルバトル。交換は1度まで可能。
・先に手持ちポケモンが3匹戦闘不能になった方の負け。

□対戦相手:レイン
・ピカチュウ
・インテレオン
・ワタシラガ
・ダイオウドウ
◎セキタンザン
・サンダー(ガラルのすがた)

□トレンチ
・マネネ
◎サダイジャ
・エースバーン
・アップリュー
・エンペルト
・オーロンゲ
イジョウナリーグ決勝戦。
トレンチとレインはポケモン3匹を決定し、フィールドに降り立つ。
午前10時……開幕の合図と共に、両者は最初のポケモンを呼び出した。

「出番だ、セキタンザン。」
「しゅぽぽーーーーっ!」
「行きなさい、サダイジャッ!!」
「みしゃーーーり!!」
レインの先発はセキタンザン、お嬢の先発はサダイジャ……奇しくも、共に岩石をメインで扱うポケモンだ。

「互いに相手に最も有利を取りやすいポケモンだ……無難な選出っつーところだな。」
「えぇ、あの二人にしては意外ですね。しかしこの盤面……トレンチちゃんがかなり有利ですねぇ。」
観客席から戦局を見守る、ジャックとスモック博士。
実際、じめんタイプのサダイジャは、いわ・ほのおタイプのセキタンザンに対して圧倒的に有利だ。
無論、レイン側はポケモンを交換することも出来る……が、それを行う様子は一切見せない。
彼にはそれだけの勝算があるのか、はたまたただのプライドか……

しかし、その盤面に何も考えなかったわけはないのだろう。
先に指示を出したのはレインの方であった。
「先に仕掛けるぞ……『ねっとう』だ。」
「しゅぽぽーーーーーっ!!」
セキタンザンは口から多量の熱湯を吐き出し、サダイジャに向かって噴射する。
みずタイプの攻撃ゆえ、サダイジャも喰らえばタダでは済まない。

「『巻【自主規制】ソの構え』からの『がんせきふうじ』ッ!!」
「みしゃーーーり!!」
身体を折りたたんでから、前方に展開した岩石を身に纏って空を飛ぶサダイジャ。
その軌道から遅れるように、『ねっとう』が着弾する。
……が、お嬢は遅れて気がつく。

「セキタンザン……『ねっとう』……まさか……!?」
「あぁ、そのまさかさッ!!」
そう、この技の本筋は『攻撃』ではない。
飛び散った水滴を、セキタンザン自身が浴びることだ。

「しゅっぽーーーーーーーーー!!!」
みず技を受けたことで、セキタンザンの特性『じょうききかん』が起動される。
全身から黒煙を吹き出し、身体能力を最大限まで高める。

「(アイツ……遂には自分で『じょうききかん』のトリガーを引けるようになったのか……!コレはヤバい……!)」
こうなってしまえば、もうセキタンザンは止まらない。
「『がんせきふうじ』のパンチ攻撃だ。サダイジャを仕留めろッ……!」
「しゅぽーーーーーーっ!」
鎧を纏いながら砂を噴射して飛び回るサダイジャを、セキタンザンのロケットパンチが狙撃する。
まるでバズーカ砲の如き威力の弾が、マシンガン並みの速度で放たれる。

その馬鹿げた範囲と威力の攻撃は、容赦なくサダイジャの外装を破壊……撃墜した。
「みしゃっ……!」
「さ、サダイジャ!!」
叩き落され、ダメージを受けるサダイジャ。
更にそこへ、追い打ちをかけるようにロケットパンチが着弾する。

「なんて火力だ……蒸気圧、恐るべしですね……!」
「サダイジャの鎧は、元々攻撃と機動性に特化した軽量タイプだ……!無論、あれだけの攻撃の前に散るのは道理ッ……!!」

だがそれだけの攻撃を受けても尚、サダイジャはまだ戦える。
耐久力は人一倍強いポケモンなのだ。
すぐに復帰をすると、お嬢のハンドサインを見て『一【自主規制】ソの構え』を取る。

「『はいよるいちげき』ッ!!」
「みしゃーーーり!」
サダイジャは全身の輪郭を揺らがせ、一瞬の内にセキタンザンの間合いに飛び込む。
「そこっ、『ねっさのだ……」
「バレバレだッ!!『がんせきふうじ』!!」
「しゅぽーーーっ!!」
しかしレインには、その奇襲も知覚されていた。

先に読んでいた彼は、『がんせきふうじ』にて地面から岩の防壁をせり上げさせる。
放たれた砂は、堅牢な岩の前に脆く砕けてしまったのである。
「そ……そんな……!」
「(あっちは完全に防御に特化した形状……加えて本職のいわタイプだからな。『がんせきふうじ』の精度だって、サダイジャとは比べ物にならねぇ……!!)」

「追撃だ。『ヒートスタンプ』!」
「しゅぽぽーーーーーーーッ!」
そのまま築き上げたシールドを内側から打ち破り、熱を帯びた直線タックルでサダイジャを弾き飛ばす。
「みしゃっ……!」
まるで一方的な、セキタンザン側の蹂躙である。

……が、こうなるのも必然ではある。
相手は最早、火力・耐久・速度のすべての部門でサダイジャを上回るスペックを獲得してしまっているからだ。
加えて、メインウェポンのいわ技ですら本物と偽物……技術にすら乖離がある。
真正面から肉弾戦を挑めば、勝てるはずもないのである。

……が、埋められない差ではない。
岩の技術で勝てないのであれば、それ以外の所で迫ればいい。
お嬢はサダイジャに『巻【自主規制】ソの構え』をさせ、そこから更に指示を出す。
「順番に行きなさい……『がんせきふうじ』『ねっさのだいち』『ぶんまわす』『はいよるいちげき』よッ!!」
「み……みしゃり!!」
煩雑な指示であったが、なんとか飲み込んだサダイジャはその通りに技を実行していく。
前方に展開していた岩の鎧纏い、砂を噴射しつつ尻を上に向けて上空に飛ぶ。

無論、これだけでは先の二の舞だ。
セキタンザンのロケットパンチで撃墜されるのがオチである。
……しかし。
「しゅ……しゅぽ……!」
セキタンザンは迷っていた。
飛び回るサダイジャを相手に、混乱していたのだ。
「(エイムが定まらないのか……あぁ、そうだろうな。『はいよるいちげき』のせいで輪郭が曖昧になっている……!!)」

そう、『はいよるいちげき』による蛇行を空中で行いつつ『ぶんまわす』で緩急をつけている。
故に定点狙撃の難易度が大幅に上がっているのだ。
無論、セキタンザンは全力でロケットパンチを繰り出してはいる。
……が、その狙いは尽く外れてしまっていた。

加えてサダイジャは天井の僅かな出っ張りを経由しつつ、随時休息を挟んでいる。
無論、地上に降りるつもりなどは毛頭ない。
「ッ、接近戦はやむなしか。鎧装展開だ、セキタンザン。飛翔形態ッ……!!」
「しゅぽぽーーーーーーっ!!」
全身から更に黒煙を吹き出し、それと同時に『がんせきふうじ』でせり上がる岩の山。
煙幕に包まれたその身は、一瞬の内に岩の鎧を形成した。
ちょうど下半身にジェットパックを搭載した、飛翔形態だ。

「しゅっぽーーーーーーーーーーー!!」
多量の煙を下方向に噴射しつつ、上空に陣取るサダイジャを追いかける。
こうなったら直接的な攻撃で仕留めよう、という算段だ。

「み、みしゃっ!?」
「握りつぶせッ!!」
「しゅぽぽーーーーーッ!」
大きく伸びた鎧の腕が燃え上がり、サダイジャの鎧を握りつぶす。
凄まじく上昇した熱が、鎧を溶解した。

「ぬ……脱ぎなさい!『ぶんまわす』ッ!!」
「みしゃりっ!!」
しかし溶けた鎧のダメージが届くより先に、本体は離脱して天井にまで退避した。
更にそこから、『巻【自主規制】ソの構え』に移行すると、『がんせきふうじ』で鎧装を再装填する。

「ッ、復帰が速い……!!」
「突っ込みなさい!!『はいよるいちげき』!!」
「みしゃーーーーーーり!!!」
スクリュー回転を産みつつ、セキタンザンの胸部を目掛けて突入するサダイジャ。
相手の鎧の最も脆い部分を狙い、定点的に穿ったのである。

そのダメージは、本体にまで貫通する。
「しゅっ……ぽ……!!」
「そこよ!『ねっさのだいち』で追撃しなさい!!」
「みしゃーーーーっ!!」
更に鎧に貫通した部分から、多量の砂を噴射して本体に流し込む。
「しゅぽっ……!!」
セキタンザンにこの攻撃は、あまりにも手痛い。

「チッ、『タールショット』からの『ヒートスタンプ』だ!!鎧を爆散させろ!!」
「しゅぽーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
このままでは相手の流れにハマると判断したレインは、サダイジャもろとも蒸気圧爆発で吹き飛ばす事を決める。
起爆剤の油まで含んだ、容赦のない攻撃だ。
凄まじい爆発音と爆炎が上がり、岩石の欠片と風がフィールドを埋め尽くす。
無論セキタンザンとてタダでは済まない……が、背に腹は代えられない。

「み……みしゃっ……!!」
空中にて大ダメージを受けるサダイジャ……しかしお嬢は焦らない。
「サダイジャッ……『ぶんまわす』で着地よ!!」
「みしゃり……!」
すぐに次の一手に戻れるよう、『一【自主規制】ソの構え』からの『ぶんまわす』で安全な着地を促す。

そしてそれはレインも同じだ。
「『ねっとう』を噴射しろ!!落下の衝撃を和らげるんだ!」
「しゅっ……ぽーーーー!!」
多量の水蒸気を噴射しつつ、セキタンザンもなんとか着地を決めた。

激しい空中戦を経て、互いの身体には多大なダメージが蓄積されていた。
これ以上の鎧の展開は、出力限界を考えるとどちらも現実的ではない。
此処から先は、生身でのぶつかりあいとなる。

「しゅ……しゅぽっ……!」
「みしゃ……しゃり……!」

息も絶え絶え、互いに睨み合う2匹。
呼吸が整ったその瞬間が……どちらか一方の最期である。

そして時は訪れた。
「決めろセキタンザン……『ヒートスタンプ』だッ!!」
「しゅぽーーーーーーっ!」
「迎え撃つわよッ!!『はいよるいちげき』ッ!!」
「みしゃーーーーーーり!」
両者はその間合いを一瞬で詰めるように、全速力で駆け抜ける。
互いの渾身のタックルがぶつかりあい、力の差が雌雄を決する……!





「んなわけないでしょうがッ!!『ねっさのだいち』ッ!!」
「みしゃーーーーーっ!!」
「ッ……何ッ!!?」
真正面からの拮抗……に落ち着くと思われた勝負は一変。
なんとサダイジャは、セキタンザンの真後ろに回り込んでいたのである。
そして背後から不意打ちの『ねっさのだいち』を繰り出し、トドメを刺したのだ。

「しゅ……ぽ……」
無論、セキタンザンが耐えられるはずもない。
彼はそのまま戦闘不能……お嬢の一歩リードで試合は進んだのである。

「ひ……卑怯な……!」
「卑怯で上等!アタシ達の読み勝ちよ!!」
実際、お嬢の判断は正しい。
順当なパワーで勝負をすれば、サダイジャ側に勝ち目はない。
だからこそ、フェイントからの不意打ちを決める必要があったのだ。

「ここまではトレンチが有利に盤面を進めた。だが……」
「えぇ、サダイジャも虫の息ですからね。未だ状況は拮抗していると言って良いでしょう。」


セキタンザンをボールに戻し、次のポケモンを呼び出すレイン。
「……出番だ、インテレオン。」
「みゅい……!」
呼び出されたのは、みずタイプのポケモン・インテレオン。
じめんタイプのサダイジャが相手であれば、当然の選択だ。

そして第2ラウンドが始まるや否や、レインの指示を待たずしてインテレオンは攻撃を行う。
勿論放った技は、『ねらいうち』だ。
高速の噴水が、サダイジャを狙撃する。

無論、お嬢とてそれは読めていた。
「『はいよるいちげき』で避けなさいッ!!」
「みしゃりっ……!!」
サダイジャは身体を高速で蛇行させ、射撃弾を回避しながらインテレオンの近くまで差し迫って行く。

……が、しかし。
「甘いッ……!予見済みだ!!」
「ッ……!?」
「み……しゃ……!?」
インテレオンの後ろに陣取っていたはずのサダイジャは、腹部に痛烈な拳の一撃を受けていた。
『ふいうち』攻撃だ。

這い寄る不意打ちは、あくまでも初見で意外性があるからこそ通じる手段なのだ。
セキタンザンを突き刺した直後に……通じるわけがなかったのだ。

「み……しゃり……」
「サダイジャッ……!」
残り僅かな体力だったサダイジャは、ここで力尽きる。
これで残りのポケモンは、互いに2体ずつだ。

「(やっぱり出てきたわね、インテレオン……!こっちも対策のポケモンを入れといてよかったわ……!)」
そしてお嬢は、次のポケモンに声をかける。
「さぁ、行きなさいマネネ!アンタにかかってるわ……!」
「まねねっ!!」
お嬢の真後ろで待機していたマネネが、勢いよく飛び出す。

「(マネネか……しかしアンコルの公園の時とは実力も経験もまるで違う。その強さは未知数……!)」
レインですら、彼の登場には戦慄していた。

試合は早くも中盤に突入した。

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