【第155話】疾駆のチューニング、爆音のアウトロ(ハオリ&ジャックvsパーカー)

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



場所は変わって、タントシティ総合病院の病室。
スマホロトムから中継されるジム戦を、お嬢とマネネは病室のベッドから眺めていた。
「まねね……。」
「………。」
その初戦は、ひどすぎるほどの敗北であったが……

だが、その結果にお嬢は半ば安堵もしていた。
もしこの戦いでジャックとハオリが負ければ、トレーナーを辞める口実が出来る。
この誰のためにもならない戦いから、降りる理由になるのだ。

お嬢は……その心のどこか奥底で、彼らの敗北を願っていた。
「……何考えてんだろ、アタシ。」
その良心の在り処を、自問しながら。

その時、病室のドアをノックする音があった。
「居るんだろ?邪魔するぞ。」
返事を待つこと無く、その声の主……レインはズカズカと病室に入っていく。

「……何よ。」
「暇だったから来てやっただけだ。その様子だと、身体の方は問題なさそうだな。」
実際は、単に彼女が心配だったから見舞いに来ただけなのだが……無論、本人がそんな事を口にするわけがなかった。

レインは手元に持っていたフルーツバスケットを、デスクの上に乱雑に置く。
決して彼が手荒いわけではなく……『右手』の扱い方に慣れていなかったのだ。
「っ……やっぱり義手は使いづらいな。」
そんな愚痴を零しながら、レインはお嬢の傍らに座る。

「テイラーから聞いたぞ。今、タントジムでジャックが戦っているらしいな。」
「……知ってる。」
実際、お嬢は今……その試合を観戦している最中であった。
最も、あまり明るい面持ちではなかったが……

「……なぁトレンチ。ジャックが何であそこに出向いたと思う?」
レインは問いかける。
彼は既に、ジャックの行動の意図がなんとなく読めていた。

……が。
「……ハオリのためじゃないの?」
「違うよ。アイツは……」
そこまで言って、レインは言葉を飲み込んだ。
「……いや、なんでもない。それ以上は、キミ自身が気づかないと意味がない。」
「何なのよ……。」
そのまま、病室には長い沈黙が流れる。
静寂の中、スマホから流れる試合映像は止まらない。
お嬢はその目で、何を見届けるのか……



ーーーーーー「お兄さん、2匹目のポケモンはどうする?」
「……パルスワンで行こうと思う。相手は当たり判定の狭い攻撃しか持っていないようだからな。スピードで上回れば、俺は護身できる。」
「当たり……判定……。」
ハオリはその言葉を反芻し、握りかけたボールを仕舞う。
彼女の思い描いていた策が、脳内でボツとなった瞬間である。
「大丈夫……俺のパルスワンがチャンスを作る。お前のあのポケモンなら、この状況を打破できるはずだ。」
「あの……ポケモン……」
耳打ちとともに、ジャックは手短に作戦の概要を伝えた。

「……お二方、準備はできましたか?」
長考気味の二人に、パーカーは確認の意味を込めて淡々と質問を投げかける。
ようやく考えの纏まった彼らは、頷いてボールを2構えた。
「……あぁ、大丈夫だ。」
「……。」
そして両者は、ポケモンを呼び出す。

「わわんッ!!」
「ぎゅいーーーーん!」
出てきたのはパルスワンとストリンダー……奇しくも、どちらもでんきタイプのポケモンだ。
互いに牙と胸の弦を鳴らして臨戦の構えへと移行する。

「……油断は禁物ですよドラパルト、タルップル。」
「しゅばばっ!」
「みりゅりゅ!」
既にタルップルは『げきりん』を全開にして戦った後だというのに、未だに正気を保っている。
お嬢のアップリューとの差は、やはり踏んだ場数にあるのだろうか。

どのみち相手側は、傷一つ付いていない状況である。
そろそろ攻め手に回らなければ、ハオリ陣営はジリ貧だ。

「今度は俺から仕掛けるぜ……パルスワン、『サイコファング』ッ!!」
「わわんッ!!!」
先陣を切ったのは、ジャックのパルスワン。
一番厄介なタルップルを狙うべく、その牙を突き立てて突進していく。

しかし、それはあまりにも愚かしい選択だ。
「正気ですか!?自ら突っ込んでくるとは……自殺行為も甚だしい!」
さすがのパーカーも、ジャックのこの行動には困惑と隠せない。
パルスワンは僅かにでもダメージを受ければ、即退場だというのに……

「迎え撃ちなさい、『りんごさん』!」
「みりゅりゅっ!」
自らを襲わんと飛びかかってきた相手目掛け、タルップルは粘度の高い蜜の弾を吐き出した。

しかしそのまま、技をぶつけ合うワケがない。
パルスワンは飛びかかる寸前、その膝を急速に歪めて直角に方向転換をする。
「ナイス判断だパルスワン!『ニトロチャージ』で加速しろッ!!」
「わわんっ!」
脚部の筋力が急速に増大し、パルスワンの走行速度が上がる。
彼は自らの被弾に恐れ慄くことなく、音速の壁を突き破りながら戦場を駆け巡る。
「確かに速い……ですが、これなら十分にタルップルで追いつける。『ころがる』を撃ちつつ『げきりん』です。」
「みりゅりゅりゅりゅーーーーーッ!!」
タルップルは僅かに頭を引っ込め、前転の動作を始める。

『げきりん』の高火力と『ころがる』の高速を併せ持った身体が猪突猛進する様は、まさしく地上の魚雷とでも言うべき凄まじいものであった。
視認すら困難なデッドレースが、外周を主にして展開されていく。

一方の中央では……
「っし、タルップルはパルスワンがタゲを取ってる……!アタシたちはドラパルトをどうにかするよ、ストリンダー!」
「ぎゅおん!」
その言葉の後、ストリンダーは合わせた両手を飴細工のように伸ばし、『ライジングボルト』で手元にプラスマのギターを生成する。
彼女の得意なわざ『オーバードライブ』のために使用する武器だ。

しかし、せっかく作り出した武器を……彼女は地面に突き刺して放棄してしまった。
そしてそのまま、両方の拳を前に構えてファイティングポーズを取った。
「ぎゅおおっ……!」
「自らの武器を……捨てた……?」
「そうだよ。アンタの相手は、生身で十分ってこと……ッ!!」
ハオリの掛け声の直後……

ストリンダーは大きく飛び上がり、空中に鎮座しているドラパルトに一瞬で近づいた。
「は……速ッ!」
「しゅば!?」
あまりに突然の出来事に、ドラパルトもやや面食らう。
「よしッ、『どくづき』ッ!!」
「ぎゅーーーるるるるるるッ!!」
そしてそのまま、毒液を込めた両拳をドラパルトへと叩きつけた。

「しゅ……ばばば………!!」
腹部と顔面……時間差で叩き込まれた拳が、じわじわとドラパルトの体力を削る。
拳がストリンダーの発音器官から小刻みな振動を起こし、何度も短いスパンで打撃を与え続けているのだ。
そして送り込まれていく毒が、更にドラパルトの身体を蝕んでいく。

「確かに凄まじい火力……ですが、空中は我々のテリトリー!!」
「しゅばばーーーーーッ!!!」
攻撃を受け続けていたドラパルトが、いよいよ反撃に出る。
正面から組み付くようにしていたストリンダーへ、発射孔のドラメシヤたちを射出して『ドラゴンアロー』で攻撃する。

退避する場所のないストリンダーには、この接射攻撃は直撃する。
「ぎゅるっ……!!」
そのままストリンダーは、ノックバックするように投げ飛ばされてしまった。

……が、この程度の反撃はハオリとて想定済みだ。
「そう来ると思ってたよ……ストリンダー、『ギアチェンジ』ッ!!」
「ぎゅぎゅぎゅぎゅーーーーーッ!!」
彼女の指示の直後、ストリンダーの全身から何かが弾けるような音が鳴る。
弓なりの軌道を描いて落下していた彼女だったが……

なんと空中でいきなり身を起こし、そのまま着地もせずにドラパルトの所まで戻ってきたのである。
「何ッ!!?」
あまりにも荒唐無稽なその技術……が、これもハオリの計算通りだ。
『ギアチェンジ』は全身の関節を外して、全身の組織を異常に活性化させる技。
一度身体を異常なまでに畳んでから体内電力で推進力を生み出すので、空中からの復帰もお手の物なのだ。

しかし元来、このような使い方をする攻撃ではない。
彼女らが物理戦闘を行うことを見越して、独自にアレンジを加えているのだ。
故に歴戦の猛者であるパーカーにも、この攻撃は見切れなかったのだろう。

再度復帰してきたストリンダーは、再度ドラパルトへ『どくづき』の一撃を加えた。
「しゅ……ばば……!」
不意を再度突かれたドラパルトは、二度目の攻撃に悶絶する。
しかも1度目の攻撃で出来た傷口を、明確に狙う攻撃……あまりにもえげつなく、隙がない。

「ッ!ドラパルト、振りほどいて下さいッ!!」
「無駄だよッ!『どく』に侵されたドラパルトじゃあ、思うように力は発揮できない!」
そう、『どく』状態のもたらす効果は、相手の筋力や判断力など……基本的な身体能力の低下だ。
本来のスペックであればストリンダーに空中で有利を取れるはずのドラパルトは、この状態異常のせいで身動きがうまく取れていないのである。

ドラパルトの身体では抵抗することはもはや不可能……そう判断したパーカーは、次の策に移行する。
「ドラメシヤ達!『ドラゴンアロー』で迎撃して下さい!!」
そう、外部ユニットのドラメシヤ達は『どく』に侵されていない。
遠くに一度飛ばされた彼らを呼び戻すようにして『ドラゴンアロー』を放てば、ストリンダーを背後から迎撃できる。

無論、ドラメシヤ達はストリンダーを目掛けて攻撃をしに来る……が。
「これをお見舞いしてやるッ……行きなストリンダーッ!!」
「ぎゅいーーーんっ!!」
ストリンダーは胴体を180度回転させ、拳にめり込んだドラパルトを突き出すようにする。
所謂『肉壁』戦法だ。
「ッ……!?」
「しゅばばっ!!?」
そのまま『ドラゴンアロー』はドラパルト自身に着弾し、大ダメージを与えた。
効果は抜群だ。

空中の攻防は、ストリンダーがかなり優勢な状態で進んでいった。
一方の地上戦はと言うと……

相変わらずパルスワンとタルップルの熾烈な走行が展開されていた。
両者はストリンダーとドラパルトの攻撃に巻き込まれない場所で、ひたすらにチェイスを続けていたのである。
音速を超える速度で数分動いているにも関わらず、両者は互いに差が縮まらない。

……本来ならばそんなことはあり得ないのだ。
何故ならタルップルの攻撃技『ころがる』は徐々に加速し、最終的には『如何なる攻撃よりも速い技』へと変わる。
故に『ころがる』から逃げ切れるのは原則として同じ技のみであり、パルスワン如きではいくら加速しても振りほどけない。
……が、現にパルスワンはタルップルから逃げ切っていた。

その理由に、パーカーは地上へ視線を移してからようやく気づく。
「『ほうでん』ですか。逐一電撃を放つことで、タルップルの動きを『一瞬だけ』鈍らせている……。」
彼女の考察取り……パルスワンは爆速で駆け抜けながら、微弱な電撃を無差別に放っていたのである。
この電撃にヒットしたタルップルは一瞬だが足止めを喰らい、『ころがる』の連鎖加速を断ち切られていたのだ。
故に彼女は……永遠にパルスワンに追いつけない。
まさに時間稼ぎ……タゲ取りには最適な行動であった。

それに気付いたパーカーは、新たな指示を飛ばす。
「……作戦変更です。タルップル、上空のストリンダーを狙いなさい!」
「みりゅりゅりゅりゅーーーーーーッ!!」
狂気に焦がれながら加速をし続けていたタルップルだが、未だパーカーの声を聞く分別も持ち合わせていた。
飛び上がったタルップルは空中のストリンダーを目掛けて、ドラパルトごと巻き込む勢いで『げきりん』と『ころがる』の連鎖攻撃をヒットさせた。

「ぎゅおおおっ!?」
「うっ、流れ弾……!!」
流石のストリンダーも、このダメージばかりは痛手だ。
そのまま激突と同時に背中に噛みつかれ、ドラパルトから剥がされるように叩き落された。
空中で繰り広げていた膠着状態が、ここで終了した。

有利と思われていた局面が、一気に傾いてしまった
……かのように思われた、が。

「よし、予定通りだハオリ!!」
「オッケイ!!おまたせストリンダー!!」
地面へと叩き落されたストリンダーは、『ギアチェンジ』を使って上手く落下の衝撃を逃した。
そしてすぐさま、地面に突き刺さっていた電磁ギターを拾い上げる。

「アレは……ギターが巨大化してる!!?」
最初に捨てたはずのギターが、なんと数倍の大きさに膨れ上がっていたのだ。
『ライジングボルト』は、周囲に放逐された電気を吸着して強化される性質がある。
そしてその電気がどこから供給されていたかというと……

「!!……パルスワンの『ほうでん』!!」
そう、パルスワンが電気を放逐しながら縦横無尽に駆け回っていたのは、タゲ取りだけが目的ではない。
このギターを成長させることこそが、最大の目標だったのである。

最大級に膨れ上がったギターを抱え、ストリンダーは攻撃の体制に入る。
「よしっ、ぶちかませッ!!」
「おっけー!!ストリンダー、『オーバードライブ』ッ!!!」
「ぎゅいいいいいいいいいいいいいいいいんッ!!!」
爆音・爆速・爆発的……凄まじいタッピング音が奏でられ、衝撃波が戦場へ無差別に広がっていく。
回避手段は皆無……防御も困難……まさに絶対的な高火力の攻撃であった。
必殺技としては十分すぎる。

この策は、ジャックの考案だ。
ハオリは元々、広範囲で高火力な大技を好んで使う傾向にある。
しかし今回のルール上、彼女は味方を巻き込む攻撃を自粛せざるを得なかった。
だからこそ、本調子が出なかったのだ……とジャックは考えた。

だったら『一撃だけ』に全てを賭けてやればいい。
それならパルスワンが巻き込まれても、相手を倒しきれば問題ないのだから。
そのために、『オーバードライブ』を最大限強化して、最後の一撃でパルスワンもろとも吹き飛ばそう……という経緯である。

「っし……決まった!!」
「うん……確実にヒットしてる……!!」
パルスワンにセットされたセンサーから、ブザー音が鳴る。
が、そんなことは些事だ。
何故ならタルップルもドラパルトもこの攻撃で倒れ……










「……て、いない!?」
……倒れていなかった。
『オーバードライブ』を限界まで撃ち込んだにも関わらず、両者は空中で悠然と構えていた。
「そんな……確かに当たってたはずじゃ……!!?」
彼女の言う通り、攻撃は間違いなく当たっていた。
実際、両者とも無傷ではなく、それなりのダメージを受けている。

「た……耐えた……!?」
「えぇ、その通り。私のポケモンは耐えました。」
「馬鹿なッ……アレだけの攻撃を耐えられるワケ……」
そこまで言って、ジャックは気付いた。
……パルスワンだって『オーバードライブ』を耐えているじゃないか、と。

ならば原因は守る側でなく攻める側……
「そう、原因はストリンダーです。貴方は私のドラパルトに触れた時点で『のろい』状態に罹患していた……『のろわれボディ』でね。」
「ッ!!?」
パーカーの言う通り……原因はストリンダーの火力不足だ。
彼は『のろい』状態になったことで、『どく』状態と動揺の症状に陥っていたのである。

「そ……んなッ!!?」
「余所見ッ!!」
狼狽えるハオリには目もくれず、タルップルから『りんごさん』の一撃が飛んでくる。
「ぎゅ………い…………」
既に体力の限界を迎えていたストリンダーは、ここで力尽きる。

「そ………そんな………!」
ジャックとハオリが緻密に組み上げた一点特化の作戦は……僅かな誤算で狂ったのであった。
これにてハオリ陣営は、残り1匹ずつにまで追い詰められたことになる。

「はぁ………ハオリさん、アナタはいつもそうです。何時まで経っても……大事なものが何も見えていない!旅をしていたというのに、何も変わっていない!!」
「ッ……………!!」
確信を突くように、言葉を突き刺すパーカー。


「アタシが……何も………見えてない…………!?」

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