第4話 俺も行く

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

『ゴースト!』

 2人が目にしたのは、かつて旅でお世話になった、この村の役員をしているゴーストだ。

「聞き覚えある声したから覗いてみただ。やっぱ2人だっただ」

 ちょうど仕事帰り途中に通りかかったところに、2人の声が聞こえてきたという。ちなみにこの島には方言がないものの、彼だけ訛りがきつく、語尾に大体「だ」がつく。

「久しぶりだね! ちょうどよかった!」
「ん?」

 早速、ヒトカゲはここへ来た理由と村長へ会わせてほしい旨の話を始める。大まかに説明を理解したゴーストが「じゃあ村長の家行くだ」と案内してくれることになり、2人の期待がふくらむ。
 だが、ゴーストは困った表情で「うーん」と唸りながら彼らの悩みについて考える。

「あえて悪夢を見せるのは、あんまり聞かないだ。思い当たる出来事もないだ?」

 彼が言うには、自分は“あくむ”という技を使用することはできるが、同じ内容を複数人に見せる効果はないため、彼らの現象の原因が技なのかすらわからないという。

「それがないんだよね。もう全然事件なんて起きてないし」
「逆に平和ボケするくらいだよな」
「そうかだ。だら、後は村長が何か知ってればいいだ」

 ゴーストが2人の手を引っ張りながら、村長の家へと向かい始めた。道中は互いの近況報告で話が持ち切りとなり、特にゴーストの「左手がなくなったと思ったらきのみを取ろうとしてそのまま置き去りにしていた」という話題が1番盛り上がったようだ。


 程なくして、3人は村長の家に到着した。すると扉の前に1本のスプーンが浮遊しており、彼らがそれを見つけた瞬間にスプーンは勝手に曲がった。不思議そうに見ているヒトカゲとルカリオだが、ゴーストは慣れた様子だ。

「ちょっと手が離せないから、左奥の書斎まで来てくれってだ」

 スプーンの曲がった角度で部屋までわかる程、ゴースト役員はフーディン村長に精通している。というのは表向きで、実際は役職関係なく親友に近いくらい仲が良いのだ。
 鍵の空いている扉を開け、ゴーストが先導する。小綺麗な廊下を渡り、スプーンの指した左奥の部屋へ入るとそこにフーディンの姿があった。しかし、彼の様子に3人は困惑を隠せない。

「……何してるだ?」

 村長たるもの、常に忙しく業務に勤しんでいるかと思っていたが、そこにいたフーディンは床で横になり、頬杖をついて書籍を読んでいた。

「見てのとおり、疲れたからくつろいでいる」

 良く言えば、堅苦しくなく自由にしてくれて構わないというのを全身で表現している。特に姿勢を変えることなく、フーディンはそのまま会話を続けようとする。

「久しぶりだな、ヒトカゲ。元気そうで何よりだ。そっちのルカリオは……なるほど、ライナスのご子息か」

 彼は少し先の未来の事であれば予知できる能力を持つため、大体のことを見透かせる。本来であれば彼らが部屋に入らずとも誰かわかるが、疲れているせいか、ただのだらしないおっさんのお出迎えとなってしまった。

「どうも。で、早速聞きたいことがあるんだけど……」

 軽い挨拶を済ませ、すぐさまルカリオから相談事が伝えられる。時折悪夢を見る、その内容が2人で完全一致する、それが複数回発生していると説明しつつ、何度かフーディンとの質疑応答を繰り返した。
 一通り事情を把握したフーディンが目を閉じ、指で顎を触りながら考え事をする。自身の経験や知識を総動員し、彼が口を開けるのをみんなは期待していた。

「……すまぬ、ワシにもわからん」

 何かしら有益な情報が出てくるのではと思っていた反面、ゴーストが予期していたように初耳の事象だから仕方ないという両方が入り混じり、ヒトカゲとルカリオは複雑な表情をしてしまった。ゴーストも少々残念なのか、口から大きめに息を漏らす。

「“あくむ”や“ゆめくい”はあるが、複数人に同時に同じ夢を見せるような技はワシの知る限りない」
「やっぱりだ。何かの呪いみたな効果とかは知らないだ?」
「うーむ、見当もつかんな……」

 技以外の可能性も探ってみたものの、少なくともフーディンの知る範囲では存在しないという。調べようにも彼が悪夢の内容を見れるわけでもないため、お手上げだという。

「すまない、せっかくここまで足を運んでくれたのに、役に立てず」

 まぁまぁ、仕方ないよと、頭を下げるフーディンをヒトカゲがなだめる。ルカリオも次に打つ手をどうしようかを考えていたところ、ゴーストが気を利かせてくれたのか、みんなに提案を持ちかけた。

「悪夢さえ見なきゃいいだ。だら、今日はここ泊まって、明日は観光でもするだ」

 2人にとって嬉しいことに、気分転換を兼ねて泊まっていいとのこと。笑顔でありがとうとお礼を伝えたが、観光に関しては少々難色を示した。それもそのはず、このビオレタ島はゴーストタイプが多いゆえ、基本的に骨や廃墟だらけ。とても観光に向いているとは言い難い。

「あ、じゃあルカリオが行ったところない島に行ってみようよ。どこがいい?」
「そうだな、行ったことがないとこなら……アスル島だな!」

 話し合いの結果、2人はみずタイプのポケモンが多く住み、アイランド8島の中で1番栄えているアスル島へ行くことにした。アスル島へは船で半日以上かかるが、次の出港が翌々日になる。他の移動手段はないかと考えていた時、ルカリオがふと妙案を思いつく。

「そん――」
「“テレポートで送ってくれないか?”だろう?」

 ルカリオが目線を合わせる前に、フーディンは彼が何を企んでいるかを予知していた。その図々しさに若干呆れたのか息が漏れるが、すぐさま笑いに変わり、快く引き受けた。見透かされたことに恥ずかしくなったのか、顔を赤らめる彼を見てヒトカゲとゴーストは小さく笑った。


 次の日の昼前、フーディンの“テレポート”により2人はアスル島の港へ到着した。都会と呼ばれるだけあり、港から街の中心に向けてポケだかりができている。
 この島は基本的にみずタイプのポケモンが多く住んでいるが、アイランド中から観光やデート、買い物に集まるため、様々なタイプのポケモンがあちこちにいる。

「すっげー、シーフォードより栄えてるな」
「すごいでしょー。有名な観光スポット知ってるから、まずあっちから行こう!」

 ヒトカゲの案内により、崖から眺める青い空と海原がきれいなポイント、新鮮な食べ物がずらりと並ぶ屋台通り、島に古くから存在する宝を納めていたと言われるアルギロ神殿といった観光スポットをゆっくりとまわって楽しんだ。
 都会と自然が入り混じったこの島をルカリオはすぐに気に入り、観光を満喫していた。一通り巡ったところで、ヒトカゲから行きたい場所があるとのことで、気分高らかについていった。

「行きたいとこってどこだよ?」
「ゼニガメの家!」

 聞いた瞬間、それまでの楽しさが一変、ルカリオは硬直する。
 これから行こうとしているのは、ヒトカゲが1番最初に旅の仲間となったゼニガメの家だ。彼と出逢う前のゼニガメは少々やさぐれて“番長”をはっていたが、ちょっとしたことをきっかけに旅のメンバーとなった。明るい性格だが心配性の一面を持つ。
 だが、ルカリオが気にしているのはゼニガメではなく、彼の兄・カメックスの方である。カメックスも途中から旅の仲間として加わったが、過去に負った怪我のせいで左目が見えない隻眼となっており、さらに肝が据わっているため、見た目は恐い。それ故、ヤクザ扱いしてしまったことを契機にしばしば焼きを入れられるのだ。
 もちろん旅を通じて信頼関係は出来たものの、いまだに慣れない部分があり、一瞬怯えたり咄嗟に目を逸らしてしまうことがある。

「はやく行くよー!」

 そんなのお構いなしに、ヒトカゲがルカリオの手を引っ張る。手汗がにじみ出始め、心拍数が上がり、頭の先から足先にかけて血の気が引いてくのを感じながら、ルカリオはついていくしかなかった。


 程なくして、中心部から外れたところにあるゼニガメの家に到着した。まだ心の準備が出来ていないルカリオをよそに、ヒトカゲが勢いよく扉を叩く。
 よく考えたら、今は日中じゃないか。2人とも仕事に行っているだろうし、仮に休みでも家でじっとしている訳がない、ならば出迎えるのはゼニガメしかいない! と考えたルカリオの気分は少し晴れ、表情が柔らかくなった――が、すぐに固くなる。

「誰だ?」

 扉から出てきたのは、目付きの悪い、彼らより大きな体格のカメだ。彼こそ間違いなく、ルカリオが1番恐れているポケモン――隻眼のカメックスである。

「あっ、カメックス!」
「ヒトカゲか。珍しいな、うちに来るなんて……なんだ、てめぇも一緒か」

 寝起きなのか、カメックスは大きなあくびをする。そしてほんのり酒臭い。酒が大好きな彼はおそらく明け方まで飲み明かし、日中ずっと寝ていたのだろう。2人にはそれが容易に想像できた。

「とりあえず入れ」

 ルカリオが気づいた時には、ヒトカゲが家に入りかけていた。久々の対面だったこともあり、しばしの間魂が遊びに行ってしまっていたようだ。慌てて彼も家へとお邪魔する。



「ゼニガメはいないのか?」
「買い物行ってるはずだ」

 適当に座ってくれと言われ、2人は藁で出来た座布団のようなものに座る。この時にはルカリオも普通に会話できる程に緊張が解けたようだ。カメックスはというと、酔い醒ましのためか、水を一気飲みしていた。

「で、2人揃ってどうした。また何かあったのか?」
「まぁ、なんていうか、ちょっと奇妙な出来事があって……」

 2人はこれまでの経緯を説明した。同じ悪夢を複数回見てしまうという不思議な現象にはカメックスも興味を持ち、話を聞きながら思考を巡らせている。

「夢って記憶を整理してる時に見るもんだが、お前らの言う悪夢は確かに奇妙だな」

 ふむ、とあれこれ考えてはみるものの、さすがに思い当たる事象もなく助言もできずにいる。かと言って、カメックスの性格上彼らを放ってもおけず、どうしようかと考えあぐねていた。その間にも前後の出来事や最近の悩みなどがないか質問を繰り返すも、大きなヒントにつながるものはなかった。
 ついには考えても仕方ないと思ったのか、苛つきながらカメックスは右手で床を殴った。そして2人を見ながらこう言った。

「俺も行く」
次回、「第5話 一旦戻るか」

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