【マサラ編.十】旅立ち

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 翌日、瀬良は母が作った朝ごはんを食べてから、心配を掛けないようになるべく元気よく「行ってくるね」と、笑顔で家を出発した。
 旅立ち当日の朝、レッドはどういう顔をしていたのだろう。彼が成長した姿を、レッドの母は感じとってくれているだろうか。母は母で、笑顔で「いってらっしゃい」と瀬良を送り出した。その笑顔にも、彼女なりの色々な想いがあるはずだった。

 次に目指す場所はトキワシティ。チャンピオン陥落後、トキワのジムリーダーになるべく動いているはずのグリーンに会う予定だ。いるかどうかは分からない。
 スカンと晴れた青空は、そんな判然とした予定を感じさせない。空だけは元いた世界と変わらない。あまりに変わらなさ過ぎて、別世界だという実感もない。ポケモンという生き物だけが、今は別世界を実感させてくれる。

 マサラを出る前に、瀬良はそれを実感させてくれる人物であるオーキドの元を再び訪れていた。また旅に出ます、と一言挨拶をするつもりだった。昨日あの後会えなかったので、色々レッドの事を気にかけてくれた彼にも筋を通しておくべきだと思った。
 昨日と同じようにインターフォンを押し、再び訪れた理由を助手の男に伝えて中に通される。

「また旅に出るんじゃな?」

 オーキドは、昨日と同じ研究棟で分厚い書類を読んでいた。助手の男が研究している分野のレポートらしい。
 訪れたレッドに対し、書類を置いて心配そうな目を向ける。

「はい。もう一度、カントーを回ってみる予定です」
「何故? と聞いてもよいか?」
「チャンピオンになった後の、カントーの景色を眺めて置きたいんです。それは今しか、出来ませんから」
「強いトレーナー達が、前よりもたくさん挑んでくるという事かの?」
「そうですね。バッジを集めている途中のトレーナーよりも、バッジを集めてチャンピオンになった俺に挑んでくるトレーナー達の方が強いでしょうから」
「それが終わったら?」
「分かりません。他の土地へ行くかもしれないし、どこかに引きこもるかも」
「この先もずっと、強さを求めるという事か」

 それがレッドの真意かどうかは分からない。だが、レッドはきっとこういう行動を取るんじゃないかと瀬良は考える。
 チャンピオンを降りた事でバッシングされたからと言って、マサラに愛されたレッドがカントーから逃げるようにシロガネ山に入る事もないだろう。一日マサラにいた瀬良が出した結論はそれだった。

「気持ちは分かるが、あまり目立ちすぎるな。チャンピオンは降りても、元チャンピオンとしての品格とやらを求めてくる輩は本当に多い。誰彼かまわず戦っていると、収拾つかなくなるからな。覚えておくといい。昔ならいざ知らず、今は猶更な」
「もしかして、それ」
「うるさい。じじいの言う事は黙って聞いておれ」

 経験済みを察した瀬良は、オーキド博士に従って黙って頷いた。

「それとな、そんなに強いやつらと戦いたかったら、もう一度ジムリーダー達の元を訪れると良い。あやつらは仕事や教育者としてジム戦を行っておるが、元は強豪トレーナー達じゃからな。本心はお前みたいな奴と戦いたいはずじゃ」
「なるほど、分かりました。行ってみます」

 色々お世話になりました。
 オーキドは「何かあったらまた来い」と、最後まで優しさを見せてくれる。頼れる心強さに感謝しつつ、瀬良は頭を下げて、長々と仕事の邪魔をしてはいけないとオーキド博士研究所を後にした。
 
 レッドがマサラから受けた愛はとても大きく、それを理解出来ただけで来た甲斐があった。
 一番最初にここを訪れて、本当に正解だったと瀬良は思う。そうじゃなければ、レッドという人間を読み間違える。
 トキワに向かって歩き出し、いよいよカントー地方を回る旅が始まる。何故ここに飛ばされたのか、何故レッドになったのか。明らかにしたい謎は多く、楽な旅ではなさそうだ。
 それでも楽しさが混じってしまうのは、カントーを夢見ていた頃を思い出したからだった。不安はあれど、ポケモンがいる世界に高揚する。それは意外と、悪いものではない。

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