6-1 辿る思い出と途切れる記憶

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:18分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



 その顔色の悪い少年、カツミは俺のことを「何者だ」と問うた。
 カツミの言葉に俺は現状の素性を言った。しかし、それだけでは俺が「何者か」という問いへの返答としては不十分だと考え、これまで様々な<ダスク>のメンバーに繰り返してきた説明をしようとする。

「――何者か、と聞かれると一言では答えにくいが、話しておくべきだろうな。ただし、俺の話をするにあたって約束してほしいことが三つほどある」

 一つ目の内容を話す。彼は静かに頷いた。
 二つ目の内容を話す。彼は不思議がった。
 三つ目の内容を話す。彼は驚きをみせた。

 怯む彼に言葉を畳みかける。

「その約束を破るのなら、俺は貴方たちの力にはなれない」

 その場に居たほぼ全員に緊張が走った。カツミもその空気を肌で感じ、それから大きく頷いた。
 念話も静まるように伝え、俺は傍らのサーナイトの頭を撫でる。

「さて、長い話になる。どこかに座りながら聞いてほしい。ずっと立ちっぱなしで倒れて困るのは貴方だ」
「あ……ありがとう」
「礼の必要はない。当然のことだ……それじゃあ、話そうか」

 口にする億劫さがなくなるほど何度も何度も繰り返してきた話を、また一から辿り始める。
 彼にもまた、俺が今の俺である事情を語り始めた。


**************************


 ユウヅキが正式に指名手配された。
 自警団<エレメンツ>のリーダーも大々的に彼を捜索するとのコメントを出した。過去の写真をもとに作成されたモンタージュは、あんまり似ていないなと思った。
 基本的にあまり見ないのだけど、共有スペースにあるテレビをつけると、道行く人のコメントや“闇隠し”の被害者家族を取り扱った特集番組なんかもちらほら流れていた。
 それから、なんかよくわからない専門家や全然関係ない人々がユウヅキのことを「極悪人」だと勝手に話していた。
 怒りや悲しみや申し訳なさなんかより、こういうものが視聴率を集めるのかなー? なんて疑問の方が湧いてくる。
 なんて、ぼんやりしていたら誰かがリモコンを私から取り上げて、画面を消す。
 リモコンの移動先を見上げると、そこには前髪の長い男の子ビー君が立っていた。
 彼はミラーシェードの下の眉をひそめ、ため息をひとつつく。

「ヨアケ。こんな適当な奴らが喋っていることよりも、お前から見たヤミナベのことを教えてくれねえか?」

 彼は私のことをヨアケと呼ぶ。アサヒとは呼んでくれない。
 その理由はわからない。でもビー君の態度的には、たぶん些細なことだと思う。
 呼び名がどうであれ、私に訊ねてくれていることは変わらない。
 ユウヅキのことを知りたがってくれているのには変わりない。

「ビー君にはまだ話していなかったね……それじゃあ話そうか。彼の、私が捜し続けているユウヅキのことを……あと、ユウヅキを追いかけている私のこともね」

 欠けている記憶があるからこそ何度も思い返してきた思い出を、また一から辿り始める。
 彼にもまた、私にとってのユウヅキを知ってもらうために語り始めた。


*************************


 あれは私がまだずっと幼かった頃のこと。
 私はジョウト地方の海辺の町アサギシティで暮らしていた。けどその日は両親と隣町のエンジュシティに来ていたんだ。
 といっても私の親は……その、放任主義なところがあって、あまり構ってはくれなかったからさ、心配してくれたらいいなと思って……私は自分から迷子になっちゃったの。
 そうして迷い込んだのはとても綺麗な紅葉した木が並ぶ小道だった。
 舞い散る落ち葉に見とれながら道沿いに進んでいくと、五重塔を見上げる赤い角のポケモン、ラルトスと黒髪の男の子、ユウヅキが居たんだ。
 最初は軽く挨拶しても、淡白な返事しかしてくれなかったユウヅキなんだけど、じっと一緒に塔を見上げているうちに……ラルトスの角がほのかに光ったの。
 ビー君もラルトスと一緒にいたのなら知っているかもしれないけど、ラルトスって人の気持ちを敏感にキャッチする習性があるんだよね。
 とにかく、その現象に彼はとても驚いていた。ユウヅキが言うには、初めて見たって言っていた。
 彼はかたくなに、ラルトスの角が光ったのは私の感情をキャッチしたからだって言うの。まあ初めて角が光ったからかもしれないけど、なんか意地になっちゃうよね。私はユウヅキからちょっと離れて、ラルトスの角が変わらずに光っていることを確認した。
 それを見て嬉しくなっちゃった。やっぱり彼の気持ちにちゃんとラルトスが反応しているって。その時彼が見せたぎこちない笑顔がこう、きゅん、と来たよね。この子たちと一緒に居たい! って、なったよね。
 だから、今にしては押し付けがましく友達になってほしいと思ってその日以降もエンジュシティに通って付きまとった。

 彼は嫌がるそぶりを見せなかった。ただ、私が居ても居なくても山だったり海岸だったり湖だったり好きな場所に遊びに行くってスタンスは変えずに……要は、相手にしてもらえているのか、分からなかった。
 でもある日、私の家にずっと前から一緒にいた、今では私のパートナーのドーブルのドルくんをつれて遊びに行ったら……凄いこっちを見てきた。ユウヅキのお世話になっている保護者のヤミナベさんが画家だったのもあって、ドルくんのことが気になったんだと思う。私は気に入らなかったけど。
 私をよそに、ドルくんはユウヅキと意気投合してなんか地面に絵を描き合って遊び始めるし、すねていじけてしゃがんでいたら……ラルトスが心配そうに頭を撫でてくれた。勢いでラルトスに思いっきりハグしたら……ユウヅキに珍しく、そう珍しく呼ばれたんだ。
 呼び声に誘われてドルくんとユウヅキのところに行ったら、そこにはユウヅキ、ラルトス、ドルくん、そして私の絵が地面に大きく描かれていたんだ。皆、ユウヅキはわずかにだけどちゃんと笑顔で描かれていた。そして、その絵そっくりな固い笑顔のユウヅキに私は、ええと、ついラルトスと同じ感覚でハグしちゃった。
 たぶん、その時には友達になれていたと思う。

 こほん。でも、楽しいだけの時間は、一回別離で区切りを迎えるんだ。
 彼と別れるその少し前、悲しい出来事があった。
 ある日、イーブイの子供たちに出会った。その子たちは必死な様子で私たちをある場所へと連れて行った。後を追いかけていくと、崖下に母親のシャワーズが力なく横たわっていた。
 ユウヅキとラルトスは、なんのためらいもなく崖を飛び降りた。ラルトスの念力を使って着地をしたあと、同じくその力でシャワーズを引き上げる。
 彼と私は、重くなったシャワーズを担いで近くのポケモンセンターまで運んだ。
 ……でも、助けられなかった。

 初めて目の当たりにした生き物の死に胸の奥が空っぽになった気がした。ユウヅキは目を見開いて、そのシャワーズを焼き付けるように見入っていた。
 イーブイの子供たちは、エンジュシティに住んでいたイーブイ好きのお姉さんたちに預けた。でも、そのうちのひとりだけ私に懐いてくれて、今ではグレイシアに進化したよ。レイちゃんのことだね。

 それから一週間だったかな。ユウヅキが居なくなったのは。
 何度遊びに行っても見つけられなくて、最終的に保護者のヤミナベさんに尋ねたら彼は――――旅に出ていた。

 最初の内私は荒れに荒れた。なんで黙って行っちゃったのか全然わからなくて、怒ったり泣いたり凹んだり、ドルくんやレイちゃんには心配ばかりかけたり。
 しばらくしたら、平気かな? ユウヅキが居なくてもやっていけるかな? なんて思ったりもしたけど、やっぱり何か抜け落ちた感覚はあって、その時自覚したんだ。ユウヅキの存在の大きさに。

 だから私も両親を説得して旅に出た。彼を追いかける為の旅を。

 これが、一度目の別離のお話。


***************************


 ちょっと話それるね。
 それから色々転々としたけど、なかなか私一人の力では見つけることができなくて……でも諦めきれなくて、すがるような思いで、ある大会に訪れたんだ。
 その大会は千年に一度眠りから目覚めるジラーチという伝説のポケモンに贈る為に開かれる、ポケモンバトル大会。
 その優勝者には、ジラーチが持つ「願いを叶えられる権利」をひとつ使わせていただけるというものだった。
 もう、いわゆる神頼みだったね……だけど、残念ながら優勝はできなかった。
 でもその代わりに大事なものを手に入れたんだ。
 堂々と言うのもあれだけど、私にとってユウヅキ以外の大切な……友達、が出来たんだ。
 えっ、ああ、うん。察し着くよね。そう、アキラ君だよ。今【スバルポケモン研究センター】にいる、アキラ君。彼とは大会で出会ったの。
 アキラ君もずっと会えてない人と再会したいって願いを持って大会に参加していたんだ。アキラ君強くてね……私より善戦していて、途中からアキラ君が優勝すればいいのにとか思って応援を……諦めをしようとしてしまったんだ。
 ぶっちゃけその時は、いや今もだけどユウヅキと再会して私がどうしたいのかが分からなかった。だから再会するのも少し怖いし、本当に会いたいのかもわからないし、そもそもユウヅキも理由があって私の前から姿を消したのかもしれない。そんな彼を私は追いかけていいの? って、半分諦めかけて……

 でもアキラ君はそんな私に、「だが、それでも僕もアサヒも彼らに会いたいから大会に出た」「だったら最初から答えは出ているじゃないか」「半分は、諦めていないんだろう?」って言葉をかけてくれた。
 その言葉がなければ、ううんアキラ君がいなければ私はユウヅキを捜すことを諦めていたと思う。
 結局アキラ君が大会に優勝して、ジラーチに願いを叶えてもらった。私は代わりに、アキラ君に祈りを貰った。
 それをエネルギーにして、同じくその大会で知り合ったミケさんという探偵さんに思い切って助力をお願いしたんだ。

 ビー君は直接会ったことないけど、【トバリタウン】で実は再会していたって話した? ゴメン。その時ちょうどきのみ大好きな方のアキラちゃんにリオルさらわれていたよね。その時に会っていたんだ。
 ……うん。そう。今は<国際警察>に依頼されて私とユウヅキのことを調べてくれている方だね。
 確かに、彼ぐらい私とユウヅキのことを知っている探偵さんはいないよ。だって――私と彼の一度目の再会の立役者、なんだから。


***************************


 ミケさんの手際は凄くて、わりとそんなに経たずにユウヅキの足跡と、私が知らなかったユウヅキのことまで調べ上げた。
 ユウヅキはシンオウ地方の海に面した【ミオシティ】ってところに居たの。
 彼はそこから船で【新月島】に通っていた。私がその街に辿り着いたときも、その島に行っているときだった。
 リバくんに乗って飛んで【新月島】に私も向かう。そしてそこでダークライという幻のポケモンとバトルして、負けてしまったユウヅキと再会したんだ。
 倒れ込む彼を私は受け止める。上手く言葉をかけられないでいると、彼は気を失う前に私とは一緒にはいられない。そう言ってダークライが見せる悪夢の中に落ちていった。
 ユウヅキを【新月島】へ通う手伝いをしていた船乗りのおじさんが、ユウヅキを家に連れ帰って“三日月の羽”という悪夢に効く道具で起こそうとしてくれる。
 彼は何度も何度もダークライに挑んでは返り討ちに合っていた。おじさんが言うにはいつもは“三日月の羽”で目を覚ますはずだったんだけど、その時は目を覚まさなかった。
 最後に残った手段は“三日月の羽”の持ち主であるポケモン、クレセリアに直接叩き起こしてもらうことだった。
 船乗りのおじさんにクレセリアのいる【満月島】まで送ってもらう最中、おじさんがユウヅキがどうして旅をしているのか、ダークライに挑み続けているのかを教えてくれた。


 ユウヅキは、彼は自分の出生を調べるために旅をしていた。
 そしてダークライの悪夢で自分の深いところにある一番昔の記憶を呼び覚まそうとしていた。


***************************


 私はミケさんに調べてもらうまで知らなかったけど、ユウヅキは……親にエンジュシティで捨てられた子供だった。彼は私が一緒に見上げたあのすずの塔の入口に置いて行かれた。だからこそ、あのシャワーズの母親の死を目の当たりにして、何か突き動かされたんだと思う。
 それにほら、夢って自分の体験が元になっていることってない? なんともいえないけどね、でもその時のユウヅキは藁でも縋りたかったのかもしれない。

 【満月島】についた私は、なかなかクレセリアを見つけられずにいた。でも電話でアキラ君の助けをもらって、なんとかクレセリアに会えたんだ。そして、お願いして彼を起こしてもらえたんだ。
 目覚めたユウヅキは私に、捨て子だと知られること、そのせいで私が彼を見る目や関係が変わってしまうことを恐れていたって言ってくれた。怖かったからこそ関係を終わらせるために逃げたって言っていた。
 でも、私は変わらない関係なんてないし、逃げはただの先延ばしだし、その時その瞬間でも関係は変化するって思って……伝えた。
 彼はまだ自分は私の友達でいいのかって不安げに聞いて来る。それに私はもちろんと、そして友達だからこそ力になりたいというと、彼は友達だからこそ巻き込みたくないと強情になる。

 だから私は言い切った。
 私がそこまで旅してきたのはユウヅキの無謀に付き合うためだから、どこまででもいつまででもついていく。追いかけていくって。

 根負けしたのかはわからない。けれど彼は私が隣に立つことを、一緒にいることを認めてくれた。
 その時、彼は「俺は一体誰なんだ?」と私に聞いてきたんだ。それは彼の追い求め続けたことで、私の答えがどういう意味をもつかは分からない。でも、私にとって彼は彼。ヤミナベ・ユウヅキでしかなくて、かけがえのない大切な存在だって伝えた。


 それが、一度目の再会のお話。


***************************


 そこから私とユウヅキはいろんな地方を旅したよ。
 ユウヅキがダークライと戦い続けた中で見た、悪夢の中の女性の姿をスケッチして、様々な人に聞き込みをしていながらシンオウを飛び出して。
 カントーではサントアンヌ号に乗ってアキラ君の大切な人と彼の再会を二人でちょっとだけ手伝って。
 カロスではキーストーンやメガストーン手に入れて、【クノエシティ】で怖い家とか覗きに行って。
 ジョウトに戻ってミケさんやユウヅキの保護者のヤミナベさんに顔見せて。
 イッシュでは記憶に関する力をもつオーベムというポケモンを【タワーオブヘヴン】という場所でゲットして。
 ほんと、長いようで短かったけど……一緒に旅していた時はとにかく楽しくて嬉しくて、私は幸せだったなあ。


 そういえば、何でこのヒンメル地方に来たんだっけ?


***************************


 あてもなく?
 いや、なんだろう?
 どこかでてがかりを?
 思い、だせない。思い出せない。

 思い出せる彼との最後の思い出は、思い出は――苦しそうな彼の笑顔と、「絶対に帰ってくる」って約束。
 あんまり遅すぎると捜しに行くって約束。
 その後、別れる前に何か、とても大事で大切なことを言ってもらえた気がするのに、思い出せない。
 思い出したい……、思い出したいよ……。
 それか、聞きたい。そして言いたい。
 あの時のこともう一度教えて。忘れてゴメンって。
 会って、もう一度会って……捕まえて……ちゃんと言わなきゃ……。


***************************


「……ヨアケ。すまん。無理に聞いて」

 顔を覆うヨアケに、どう声をかけていいのか分からなかった。こういう時他の奴ならもっと気の利いた言葉をかけてやれるのだろう。だが、今の俺はただただ謝るしかできなかった。

「ううん。ビー君悪くない。私が抑えられなかっただけ、だから。むしろ……ありがとう。ビー君の前だからかな、なんか情けない姿見せてもいいって思えたのは」
「……<エレメンツ>の奴らとかの前じゃ、無理なのか?」
「無理って程じゃないけど。こんなに無責任に弱音は吐けないよ<エレメンツ>のみんなの前じゃ」
「アキラ君は?」
「隠そうとしてもボロボロでちゃうだろうね」

 ヨアケはそうやって苦笑いを作る。それは、もしかしたら習慣づけされたものだったりするのだろうか。
 ……今は勝手な想像はよしておこう。

「あーもう、昔よりヤワになったなあ。タフだと思っていたんだけど」
「十分タフだと思うぞ十分」
「そうだといいんだけど」

 微妙な空気になってきたので立ち上がると、見計らったかのような扉のノック音。それからユーリィが部屋に入ってくる。

「……ビドー。アサヒさん。そろそろ入ってもいいかな」
「ユーリィ」
「ご、ごごごめんユーリィさん占領しちゃって」
「別に。ああ、ビドー。配達の仕事持って来たから準備して」
「分かった。どこまでだ」
「港町【ミョウジョウ】まで。私もチギヨも一緒に行くから……留守番もなんだしアサヒさんも連れていけば?」
「海……! ビー君私も行きたい!」

 目を輝かせるヨアケ。さっきまであんなに凹んでいたのに忙しい奴だな。
 まあ、無理やり切り替えているのだろう。そういう所がタフなんだよ。

「潮風浴びて気分転換でもしてこいよ、ヨアケ」
「わーい!」


***************************

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想