第47話:終わりへの歩み

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読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 エンテイによる無実のお墨付きをもらい、シアンたちとのまさかの再会。操られたヴァイスやFLBと激戦を繰り広げた直後に、思い出しかけた記憶の負荷で命の危機が訪れて――。そんな忙し過ぎるセナの1日も終わりを告げ、新しい朝がやってきた。

「じゃあ、頼んだよ」
「アンタたちこそ。はるかぜ広場に行って、救助隊のポケモンたちにオイラとホノオの無実を伝えるの、よろしくな」

 背中にソプラ、アルル、メル、ネロを乗せたライコウの言葉に、セナは元気に返答した。ライコウとエンテイは顔を見合わせて微笑み、代表してエンテイが「もちろんだ」と答える。さらにそのまま言葉を重ねた――背中にブレロ、ブルル、ポプリ、スザク、ウォータを乗せながら。

「スイクンが助かったら、わしらからお前たちに伝えることがある。必ず、成功させるのだぞ」

 伝えること。その意味深な言葉にセナたちが首を傾げるが、思考は仲間たちに遮られる。

「おい、お前ら! この可愛いソプラ様とアルル様が応援してやってるんだ。張り切りまくってベストを尽くしてこい!」
「ちょっとぉ、ソプラ。が、頑張ってね、救助隊キズナ……」

 ソプラがアルルを巻き込むように、両手から電気の火花を散らして応援する。アルルは恥じらいながらも、思いを両手の火花に込めて明るく光らせた。

「くじけそうになったら、オラたちの応援を思い出してほしいだ。頑張って帰ってきたら、ご褒美にマトマを食わせてやるだよ!」
「絶対に嫌だ!」

 ウォータの激励をホノオは断固拒否。するとウォータはあんぐりと口を開けて驚き、直後、つぶらな瞳を涙で濡らした。

「ホノオ……おめぇ、オラたちのことが嫌いになっただか……? 嫌だなんて、そんなにハッキリ言わなくても良いでねぇか……」
「だー! 違うって、面倒くせーな! お前らじゃなくて、マトマが嫌いなの! 二度と食べたくないもんね!」
「良かったぁ……。いや、好き嫌いは良くないだぁよ。オラが責任もって、ホノオの好き嫌いを直してやるだぁよ!」
「そもそもお前に食わされなければ、マトマを嫌いになることもなかったんだけど……」

 ウォータのペースに合わせることに疲れ、ホノオは次第にげんなり。一方ホノオの隣に立つシアンは、ウォータの言葉に合わせてウンウンと頷いていた。どうやらこのミズゴロウとポッチャマは波長が合いそうだと、セナとヴァイスは感じたのだった。

「とにかく、無事に帰ってきてね」
「そう、だな。僕とブルルも、セナとホノオに伝えたいことがあるんだ」
「ライコウとエンテイの話より、くだらないことかもしれないけど……ね」

 ポプリ、ブレロ、ブルルも、自分たちなりの言葉でキズナを激励する。ネロとスザクは「言葉で伝えることはない」といった様子で口をつぐみながらも、セナ、ヴァイス、ホノオ、シアンに真っ直ぐな眼差しを送っていた。

「大変な戦いかもしれないけれど、アンタたちならやれる。アタイたちは、救助隊のポケモン共を落ち着かせることに集中してくるよ」
「伝説のポケモンが一緒に居るとはいえ、相手は大人数だ。大変だと思うけど、姉貴も頑張ってきてね」

 最後にメルが言葉を送ると、セナが代表して答えた。決戦前の激励はひと段落。出発の時が来た。
 ライコウとエンテイは、セナたちに背を向ける。

「では、わしらははるかぜ広場に向かうぞ。セナとホノオの無実が伝わるまでは、救助隊のポケモンたちもお前たちに襲いかかってくることだろう……。くれぐれも、気をつけてな」
「うん」

 エンテイとライコウは風のように駆けだした。仲間たちがあっという間に遠ざかる様子を、キズナの4人は手を振って見送った。

「……行っちゃった」

 ヴァイスの寂しそうにつぶやくが。

「でも、この4人で一緒に戦うの、すごく久しぶりだね」

 直後、どこか嬉しそうにしっぽの炎をきらめかせる。セナ、ホノオ、シアンも笑顔で頷き、決戦前にもかかわらずどこかウキウキとした気持ちになった。

「よぉし、張り切って行こうぜ!」
「はい、リーダー!」

 セナの言葉に、3人が声を合わせた。リーダー。少し懐かしいその言葉を、セナは嬉しそうに抱えて歩き出した。


 “雷鳴の山”を抜け、“精霊の崖”が近づいてきた。ここまでは救助隊のポケモンたちに会わず、無事に移動することができた。が、まだまだ道のりは長い。セナはゼニガメの甲羅がどんどん重く感じてしまう。どうにか楽に目的地に着く方法はないか、そればかり考えていた。
 ここで、セナはひらめく。

「なあ。ネイティオの“テレポート”で、ショートカットできないかな? “マスター”とやらが待つ“水晶の湖”まで、まだまだまだまだ道のりは遠い訳だしさ」

 昨日自分がどのように死の淵から助かったか、セナは詳しく知らない。命の恩人ネイティオを平気でこき使う提案に、ヴァイスは苦笑いするが。

「おっ、それ良いじゃん! でもライコウがいないから、焼き鳥ショートカットはナシだぞ」
「ネイティオにも、元気なセナの顔を見せたいしネ!」

 ホノオとシアンも盛り上がり、ネイティオ活用案を推進する。――ホノオとシアンの言葉の意味が分からず、セナは首を傾げていたが。

「ネイティオ、4人もテレポートさせて大丈夫なのかな……」
「あー。確かにねぇ。跡継ぎのことを考え始める辺り、年齢的にガタが来てそうだしなァ」

 ヴァイスが遠慮がちに懸念を投げかけて、ホノオは半分以上はふざけてヴァイスの言葉に乗る。が。

「でも、一刻も早くスイクンを助けたいし……。身体が乗っ取られたままじゃ、かわいそうだし……」

 セナの言葉で、確かに、今最も優先すべきことはスイクンの救出だ、とキズナ一同は思い返した。かくして、彼らは坂道を登って切り立った崖へと急ぐ。――それはそれで、甲羅が重くて大変だなと、一瞬後悔するセナなのだった。

 休み休み1時間ほど駆けて坂道を登りながら、ヴァイスとホノオとシアンはセナに、昨日ネイティオの活躍で命が助かったことを説明した。ようやく、見上げた坂道からネイティオの頭がチラリと見える。直後、登り切った“精霊の崖”から“聖なる森”が見えた。

「おーい、焼――じゃなくてネイティオー!」

 ホノオが元気に呼ぶと、ネイティオが振り向く。セナの顔を見た瞬間、目が輝いた。もちろん比喩的な意味で。

「おお、セナ……! 無事だったか!」
「うん! 昨日はありがとうな」
「本当にハラハラしたのだぞ。昨日は“テレポート”で力を使い果たしたから、未来も見えず、お主の安否も分からず……いや」

 ホノオがチャンスとばかりに“テレポート”のお願いをしようとするが、ネイティオの話はまだ続く。内心「相変わらず話の長い奴だな」と苛立ちつつも、ホノオは必死に平静を装った。これから、丁重に重労働をお願いする立場なのだ。

「いつも、そうなのだよ。お主に関する未来は、なぜかいつもモヤがかかったように、見えにくいのだ。不思議なことだな」

 ネイティオにしみじみと言われると、セナは首を傾げた。予言者にも分からない未来。その響きが何故か薄暗く思えて、ほんの少し不安で顔が曇る。

「そーんなことより! ネイティオ、お願いがあるんだけど」

 待ちきれなくなったのか、それとも話の展開が怖かったのか。とうとうホノオが強引に話を切り出し、テレポートの依頼をした。

「なっ、また“テレポート”を使えと言うのか!?」
「ウン。だって早くスイクンを助けてあげたいんだモン!」

 シアンはネイティオの嫌そうなリアクションに怯まず主張する。空気を読めないからこそのシアンの強みだなと、セナは妙に冷静に分析していた。

「お願い。昨日ネイティオに助けてもらったボクたちだから、今度はスイクンを助けてあげたいんだよっ!」

 ヴァイスが懸命に頼み込むと、ネイティオはうーんとうなる。ホノオが聞き出す前に、自ら渋っている理由を話し始めた。

「もちろん協力したいのだが……。私は、昨日の“テレポートの結晶”を作り出すのに、多くのエスパーの力を使ってしまった。お主ら4人を“水晶の湖”まで転送するには、少々力不足かもしれん」
「湖まで届かなくてもいいんだ。少しでも湖に近づけたら、それだけでありがたい」

 セナが絶妙なタイミングで条件を引き下げ、ネイティオは「それならできそうだ」という気持ちになる。

「うむ。可能な限りやってみよう」

 精霊の崖に歓喜の声が響き、すぐさまテレポートは実行に移された。


「で、ここどこ?」
「さあ……」

 テレポートの光が消えて目を開けると、一同は森に降り立っていた。ホノオが第一声を発するが、正解を返せるものは誰もいない。

 辺りを見回すが、ひたすらに木々に囲まれている。それもそのはず。この聖なる森は、とてもとても広い森なのだ。
 セナはおもむろに地図を広げた。

「精霊の崖から水晶の湖までワープしようとしたけど、その途中でテレポートの力が切れた……。ということは、この2点を結んだ線上のどこかに居るんだろうけど……。ううむ。何か目印はないものか……」

 皆の視線が地図に集中していたが、背後でガサッと茂みの揺れる音がする。ホノオがいち早く振り返り、「マジか……」と声を漏らす。

「おやおや。とうとうヴァイスとシアンまで、セナとホノオの味方をし始めたんだねえ」

 現れたのは救助隊らしき4人組。ニドクイン、ニドキング、ピクシー、プクリンだ。共通点は、“月の石”で進化するポケモンということ。セナはこのチームの顔ぶれに覚えがあった。チーム“おつきみ”だ。

「うん。セナとホノオは悪くないって、知っているからね」

 ヴァイスは冷静かつ堂々とニドキングの言葉に返答する。しかし、今のガイアでは異端なヴァイスの意見をまっとうに聞いてくれるはずもなく。

「そう。ならば、それなりの覚悟はできているんでしょうね!」

 ニドクインが言い放つと、ニドキングと共に思い切り地面を叩きつけて揺らす。地面タイプの大技、“地震”だ。
 キズナの4人の悲鳴が重なる。地面タイプが苦手なホノオとヴァイスは大きくバランスを崩し、身体を地面に叩きつけられたまま引きずられる。揺れがおさまると、ホノオとヴァイスはうつ伏せに倒れていた。セナは慌てて2人に駆け寄る。

「だ、大丈夫か!?」
「なあに、これくらい……ッ」

 強がりを補強するように、ホノオはスッと立ち上がる。ヴァイスもそれに続いた。

「ふうん、意外と元気だね。じゃあ、今度はボクらがいくよ!」

 ピクシーが言うとプクリンも構える。セナは傷の多いホノオとヴァイスをかばうように立ち、シアンもそれを真似したのだが。

「“10万ボルト”!」

 敵の繰り出した技に、セナとシアンは硬直する。――そうだった。ノーマルタイプのポケモンは、器用に多様な技を使いこなすのだ。

「うあっ……!」
「キャア!!」

 セナは必死に攻撃に耐えようとするが、シアンはそんな余裕もないようだ。このまま電撃を浴び続けては身体が持たない。危機を感じて、セナは行動に出る。

「みっ、“ミラーコート”!!」
「うわあっ!」

 強い光を発すると、セナは相手の攻撃を強力に打ち返した。ピクシーとプクリンの弾力のある身体は、悲鳴と共に弾き飛ばされた。

「へへーん! 攻撃なんて跳ね返してやる!」

 敵の手出しを防ぐために、セナは余裕の表情を見せて言い放つ。ミラーコートを手札としてチラつかせるだけでも、充分な牽制になるとセナは学んでいた。

「くっ……」

 相手が次の手を考えているその一瞬のスキを、セナは見逃さなかった。

「食らえ! 特性“激流”の“波乗り”っ!」

 巨大な大波がうめき声をあげ、敵に襲いかかる。上がる悲鳴をも、大波は押し流した。
 勝利。地面タイプに大打撃を与え、うまく追手を遠ざけた。

「すごいっ、セナ!」

 ヴァイスがセナの頭をポンと叩いて言う。セナはえへへと照れ笑いすると、バッグからオレンの実を取り出した。
 4人の回復が済むと、ホノオが木に登って陽の位置を確かめた。それを頼りに、彼らは南へ向かう。今どこに居るのか分からないが、“水晶の湖”は、“精霊の崖”よりも南側に位置する。そのヒントを頼りに、彼らは湖を目指すのだった。

 しばらくは、ただただ木々を眺めながら、南へと進むだけ。しかし、ここで目印が現れる。
 圧倒的な存在感を放つ、太い幹。時代を感じさせる、苔むした肌。そして、他の木々の10倍の数はありそうな程の多くの葉を抱えている。そんな樹に、出逢った。

「ほえぇ……大きな樹だなぁ」

 と、セナは間抜けな声を出す。その横で、ヴァイスは自分のバッグから地図を取り出した。そして、呟くように。

「“千年の樹”だ」
「せんねんのき?」

 聞き返したシアンに語り掛けるように、ヴァイスは説明を始めた。

「うん。すごく長生きでね、とっても物知りなんだって。お父さんに教えてもらったんだ。昔ね、お父さんがここまで連れてきてくれて、一緒にこの木に会ったことがあるの」
「へえ……」

 父を語るヴァイスの寂しげな声が伝わり、セナは複雑な返事を返す。すぐに雰囲気の暗さに気が付き、ヴァイスは声色を明るくした。

「有名な樹だから、地図にも載ってるはず。……ほら!」

 ヴァイスは皆に地図を見せる。確かに、“聖なる森”エリアの貴重な目印の一つとして、この樹がはっきりと書き込まれていた。そして、そのすぐそばには――目的地。

「おっ、水晶の湖、もうすぐじゃん!」

 ホノオが嬉しそうに地図を指し、歓喜の声を上げる。南東に少し進めば、湖が見えてきそうだ。

「そっか、いよいよだな」

 セナが言うと、皆の表情が引き締まる。ようやく、今回の事件に決着がつく。訳も分からず命を狙われ、物理的にも精神的にもバラバラになった日々を、終わらせなくては。
 セナは改めて“千年の樹”を見上げる。心なしか、この樹はガイアのすべてのことを知っているような気がした。

 行こう。言葉と共に、彼らは進む。

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