HR45:「女子は怒ると怖いぞ!?」の巻

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読了時間目安:25分
 僕とピカっちの仲の良さにチコっちが嫉妬しているんじゃ?そんな心配もあったけど、そんなことは全く無かったようだ。むしろこのちょっとアツアツになりかけてる状況を楽しんでいるようにも見えたぞ?
 でもまあ、これからも僕たち三匹の仲の良さは変わらないままで済みそうだ。本当に良かった。この先何を言われるかちょっぴり不安だけど……………。






 「あ~美味しい♪疲れたときの“オレンのみジュース”は最高だね♪」
 「フフッ♪カゲっちくんってば、子供みたいな感じがして可愛い♪」
 「へっ!!?//////////」


 “10まんノック”の第1セットを終えた僕たちはベンチに戻り、休憩を兼ねて疲労回復効果がある“オレンのみジュース”を各メンバーが受け取っていた。緊張感もあってかなり喉が乾いていたのか、僕はゴクゴクと飲んでしまう。で、先ほどのピカっちとのやり取りである。どう考えても動揺しないはずが無い。結果的に思わずむせて「ゴホゴホ!」と、咳き込む羽目になってしまうことになった。これにはピカっちもビックリした様子で「カゲっちくん、大丈夫!?」と声をかけてきた。


 「まあ。二人ともお似合いね♪他のメンバーを寄せ付けないって感じがするわ♪」
 「もう、チコっちちゃんってば…………」
 「ウフフフ♪」


 この様子を見ていたチコっち。彼女は相変わらず嬉しそうにニヤニヤしながら、僕たちのことをからかってくる。ピカっちはもう困り果てている様子だ。しかし、いざ落ち着いてから考えると彼女も決して悪気がある訳じゃなく、むしろなんだか喜んでいるようにも感じたのは気のせいだろうか。まるで僕とピカっちを弟や妹のように面倒を見るお姉さんみたいなところがあるから、多分間違いじゃないような気もするが。


 「練習………何とか上手く出来て良かったですね」
 「そうですね。この調子で次も頑張りたいですね」


 そんな僕たち仲良し三匹組と違って、ララとロビーの同じクラスのコンビはまったりとした様子だ。どちらも決して積極的に交流できるタイプでは無い分、自分たちがこうして何かの仲間に入れてもらえることが幸せだった。


 「みんな少しずつ野球の練習に慣れてきてるみたいで良かったね♪」
 「まあな。だけど逆を言えば、それだけレギュラー争いも激しくなるって意味だからな。喜んでばかりはいられないと思うぜ?」
 「それくらいわかってるよ。でも刺激が強い方がワクワクするんだよ、僕。リオルって種族の本能もせいかも知れないけどさ♪」
 「なるほど、それは言えてるかもな」


 リオとマーポはこんな感じだ。1年生と言っても経験者だからだろうけど、随分と余裕が残っている感じもする。新しい仲間が増えたことを喜ぶだけでなく、更なるレベルアップへの材料になっているのは間違いないだろう。


 「よっしゃ!!行くか!!」
 「あいよ!!!」
 「ちょっ!!アンタたち早すぎでしょ!!」
 「僕も行くよ~!!」
 「えーーー!!?」


 2年生カルテットと呼ぶべき存在は既に次の練習に向けて気合い充分……………で良いのだろうか?
 まあ、細かいところを気にしていてもしょうがない。唯一の経験者であるルーナに負けないくらい熱意がありそうなユーマ先輩、ラビー先輩、ブイブイ先輩がどんな旋風を巻き起こすのか、かなり生意気な感想になるだろうけど楽しみなところではある。


 「やっぱり後輩が出来るってのは嬉しいもんだな、ヒート!」
 「フン。どうせすぐに挫折して練習に来なくなるのがオチだ。どいつもこいつも野球をナメやがって…………」
 「ったく、お前ってヤツは…………素直じゃねぇな」


 4番とエースは親友の間柄ではあったが、決して価値観が合うわけでも性格が似ているというわけでもない。だから一見すると衝突しても不思議じゃない気もするが、彼らの場合は一切そういうこともなく、むしろ尊重し合って足を踏み入れないようにしていたのである。


 「野球部がこんなに賑やかになるのも久しぶりね~♪」
 「そうね♪みんなに元気があるとこっちまで嬉しくなるね」
 「変に優勝しなきゃ、勝たなきゃってピリピリするよりマシだよ!こんな感じでどんどん野球を楽しんでもらえたらいいね!」
 「何だかジャンプしたくなるくらいウズウズするぜ!!」
 「それはダメだ」


 同じ3年生でも楽しそうに会話をするのはラプ先輩、ランラン先輩、チック先輩、ラージキャプテン、それからジュジュ先輩だ。3年生に限れば全員がレギュラー格。やはり気持ちの余裕が全然違うのだろう。後輩たち…………特に未経験者のメンバーがこのあとどのように成長するのか楽しみで仕方ない…………といった様子に感じる。






 あっという間に“10まんノック”の第2セット開始の時間となった。慌ただしくメンバーたちが再びそれぞれのグループに分かれる。もちろん僕たち仲良し三匹も同じだ。だけどそこに不安は全く存在しない。むしろ楽しみという感覚が強くなっているのが本音だ。


 「さぁ、頑張っていくぞ~!!」
 「なんだ?今頃スイッチ入ったのか?相変わらずのんきなヤツだ。遅いんだっつーの」
 「まあそんなカリカリしないでくださいよ、先輩。アイツらなりに野球を覚えようと必死なんですから!」
 「ケッ。ヒート先輩じゃねえけど、オレたちは野球部が潰れるかもしれない瀬戸際なんだよ。遊び感覚でやられたら困るんだっつーの!」
 「それはもう何度も聞きましたって♪」
 「そこのリオル!オレが真剣な話してるってのに、ニコニコ笑ってんじゃねぇよ!」
 「リオルじゃないよ!!リオって呼んでよ!!」
 「うるせぇ!!それからよそよそしく“先輩”とか言ってんじゃねぇよ!!カゲっちのヤツに聞かなかったのか!?オレのことはルーナって呼びやがれ!!」
 「フフフ。わかりましたよ、ルーナ“先輩”♪」
 「ルーナ“先輩”♪」
 「うおおおおお!!お前らぁぁぁぁぁぁ!」


 リオとマーポに先輩としての貫禄を見せようとしたのが逆にイジられてしまい、ルーナはまるで人間の世界で有名な“ムンクの叫び”のように、両手で顔を挟んで絶叫したのであった。



 (ん、声が聴こえる?何かあったのかな?)
 「カゲっちくん、どうしたの?」


 僕の聴覚はその叫びを捉えたのだろう。そのときは一体何なのかわからなくてキョトンとした。急に立ち止まったことを心配したのか、ピカっちに声をかけられた。僕は苦笑いをしつつ首を小さく左右に振り、ピカっち特に異常が無いことを伝える。すると彼女は安心したのか、またニッコリと満面の笑顔となって「良かった♪」と返事をしてくれたのであった。


 「本当にラブラブなんだから。まさか恋のメロディを目の前で奏でられるなんて思いもしなかったわ。フフフ…………」
 「だからそんなんじゃないよ………!」
 「隠さなくても良いじゃない。私が作者さんと一緒になってあなたたちが結ばれるように、ちゃんとシナリオを考えとくから♪」
 「や、止めてくれ…………不安すぎる~~!」


 良くある青春ものの小説だと、こういうときは幼なじみ同士で好きな相手を巡って対立関係になったり、或いは恋のライバルが登場したりして泥沼化したりハラハラするものだろうけど、なんだかこの作品では完全に僕みたいな主人公をイジる為のネタと化してしまってる。


 『どうしてこうなったんだ~!?』


 表情を見せることは出来ないのでがっくりと肩を下げて溜め息をつくのみだったが、僕とルーナは心の中でリンクするように嘆くのであった。


 まあ、何はともあれこれから“10まんノック”の第2セットがスタートした。まず先頭の僕が身構えた姿を見て、ノッカーを務める“みがわり”が頷く。次の瞬間、鋭いゴロが右方向に向かって転がってきた!それに合わせて僕も懸命にダッシュする!!


 「絶対キャッチしてやる!!うおおおおお!」
 「カゲっちくん、頑張って~!!」


 背後からピカっちが声援を送ってくれた。それが僕の力になる。とても心強く、そして不思議と気持ちが癒されてることも感じた。


      パシッ!!
 「よしっ!!キャッチ出来た!いっけぇぇ!!」
 

 そのおかげもあってか、僕はボールに追い付いて上手くキャッチすることに成功した。その勢いですぐにボールをつかみ、マーポが構えている青いキャッチャーミット目掛けて思い切り投げた!!


 「おっ!!良いボールじゃん!!その調子その調子!」
 「ありがとう、マーポ!」


 きっとマーポにとっても意外だったのだろう。まるで矢のような軌道でボールはミットに吸い込まれたのである。もちろん僕もこれまでアドバイスされてイメージしていたのとピッタリだったので手応えバッチリだった。


 そして何よりも彼から野球のことで誉められたのはこれが初めて。その事が本当に嬉しくてたまらなかった。満面の笑顔で感謝を伝えたことからでもわかるだろう。逆にマーポはというと、あまり感謝されることに慣れていないせいか「なんだよ!気持ち悪いヤツだな!早くピカっちと交代しろよ!」なんて照れ隠しをするのであった。


 「よし!ピカっちも頑張ってね」
 「うん!カゲっちくん、凄くカッコ良かったよ♪」
 「///////!?」


 列の最後尾に向かうときには、当然ながらピカっちとすれ違う。第1セットのときはそこまで気持ちの余裕がなかったので、彼女のことまで気遣うことが出来なかったが、今回は違う。その為出来るだけ声をかけて僕なりに応援しようと考えたのだ。


 ところがその先の展開が予想外だった。ピカっちからも労いの言葉を受けたのである。それもまた満面の笑顔。ドキッとしない訳がないじゃないか…………あんなの。みるみるうちに自分の顔がリザードのように赤くなっていくのを感じた。そしてそんな姿をチコっちやリオが見逃してくれる訳もない。最後尾に着くまでの間、僕はまた冷やかしを受けることとなった。ピカっちはこの出来事が少し気になりつつも、まずは好きな“彼”の気持ちに応えられるように頑張ろうと改めて考えた。







 「こ、こ~~い!!」


 ピカっちは恥ずかしい気持ちと闘いながら思い切り声を出す!それを聞いて“みがわり”がコクリと頷く。次の瞬間、鋭い打球が放たれた!!


 「キャッ!!こ、怖い!!」
 「大丈夫よ!!落ち着いて!」
 「ボールを体の正面で受け止める気持ちだよ!!」
 「そ、そんなこと…………簡単に言わないで!」


 チコっちやリオが一生懸命アドバイスしてピカっちを落ち着かせようとする。ところが当の本人はそうもいかない。鋭いライナーを目の前にしてパニックになってしまってるのだ。後ろに逸らさないためにも積極的にボールをキャッチしに行く必要があるのだが、彼女はそのボールな勢いに完全に怯えて体をカタカタと震えてしまい上手く動かせなくなっていたのだ。


 「ピカっち!大丈夫!自分を信じるんだ!」
 「カ、カゲっちくん!?」
 「カゲっち!?」


 僕はいてもたってもいられなくなった。最後尾からだと上手く伝わらないと考え、サッと手前まで移動したのである。これにはピカっちはもちろん、チコっちまでも驚かされてしまう。


 (今まであんな積極的な子じゃなかったのに………。やっぱりなんだかんだピカっちのことを気にしてるのね?やるじゃない。少し見直したわ♪)


 僕は繰り返し叫んだ!「大丈夫だ!自分を信じるんだ!僕もしっかり応援してるよ!頑張れ、ピカっち!」と。何度も何度も!


 もう周りにどんな風に思われても構わない。自分が誰よりもピカっちのそばにいて、誰よりも力になれるように頑張らないといかないんだ。ピカっちが誰よりも自分のことを必要としてくれるようになりたいと決意できたのである。


 「カゲっちくん…………。ゴメンね。ありがとう」


 誰よりも好きな“彼”の声援を受けて元気が出てきたのか、ピカっちはニッコリと笑った。そうしてから再び前を向く。ボールはもう目の前だ。まだ体の震えが止まってはいない。それでも彼女はすぅーっと深呼吸をして気持ちを入れ直すと、左手にはめた黄色いグローブを自分の胸元の前に構えた!!


 (カゲっちくんばかりに迷惑ばかりかけたくない!!私だってもっと彼の力になりたいの!)


 思えば第1セットのときも自分は“彼”に頼ってしまっているような部分があった。一度壁を乗り越えてもう大丈夫だと考えていたはずなのに、また今回もつまずいてしまった。このままじゃずっと変わらない。


 (どうして私はこんなに弱虫なの?もっと強くなって、カゲっちくんを助けたい!これ以上“あのとき”の苦しみに悩んでるカゲっちくんなんて見たくないよ!)


 怖い気持ちをグッと堪えるピカっち。万が一グローブ構えた場所より逸れたり、グローブでキャッチをし損ねたりして体にボールがぶつかることがあれば、ケガは免れない!果たして結果はどうなるのだろうか!!


     パシッ!!!
 「キャッ!!」
 「ピカっちちゃん!?」
 「大丈夫!?」
 「ピカっち!!ピカっちー!!」


 ピカっちのグローブから鋭く乾いた音が響く。直後に彼女の小さな悲鳴が聞こえてきたものだから、ボクやチコっち、そしてリオも駆け寄っていく!ボールの威力もなかなかのものだったのだろう。ズズッとわずかではあったが、ピカっちが反動で後退りしたのだから。


 「てめぇら!!!プレイ中に何やってんだ!!ルールは守りやがれ!!それでも野球選手か!?」
 「え………!?だって………」
 「仕方ないじゃない………」


 直後にルーナの怒号が飛び込んできた。思わず僕とチコっちはビクっとしてしまい、一瞬だが動きを止めてしまう。当然ながら理不尽にも思えたので反論しようとも思ったが、ルーナの鋭い視線にその意志も喪失してしまう。


 「そうだな。今はまだ練習中だ。オレだってそうだし、ルーナや他のメンバーもレギュラーを獲るために力を磨いているんだ。カゲっちたちがピカっちを心配するのはわかるが、ここでアイツが厳しい練習に耐えるくらい強くなるためにも、変な手助けをしないのが賢明だ」
 「そんな…………!!!」
 「好き勝手言わないでよ!!困っていたら助け合うのがチームなんじゃないの!?」


 マーポは僕らを諭すために来たというのは理解できた。だけど話の内容にどうしても納得できない僕は彼に食って掛かったのである。やはり経験者と初心者の価値観の違いなのだろうか。だとしたらそれはそれで悲しい。


 (僕たちは僕たちにチームのために出来ることを探しているはずなのに………それが上手く伝わらないなんてもどかしいな)


 ほのおタイプ故に感情が熱くなりやすいのは百も承知だ。だけどあんまりにも理不尽すぎる。何よりもピカっちが可哀想だと思った。なんとかルーナとマーポと話をしなきゃ…………僕が動こうとしたそのときだった!


 「ちょっとルーナ!!いくらなんでもそれは酷すぎるんじゃない!?カゲっちくんやチコっちちゃんにとって、ピカっちちゃんは幼なじみなんだよ!?心配しちゃうのは当然じゃない!」
 「わ、わかった!!わかったからオレの大切な木の枝を折ろうとするなよ!!」
 「あー!もうリオは毎度毎度めちゃくちゃだな!」
 「マーポだって他人事じゃないからね!?野球のことばかり熱くなってばかりなんだから!少しは周りの気持ちを考えなきゃダメだよ!?」
 「ひぇー!!俺も連帯責任かよー!!」
 「当たり前じゃない!!」


 リオが二匹に“制裁”(?)を加えてくれたおかげで一気に不穏な空気が吹き飛んだだけではなく、流れも変わった。まあ僕たちとしては助かったわけだが、なんだか余りにも展開が早すぎて目を点にしてキョトンとしてしまったのである。


 まあルーナやマーポに向けてリオが話をしていたのを耳にして、シュンと沈んでいたピカっちの表情が和らいだのだからヨシとしよう。


 まあ少しばかりドタバタしてしまったけれど、その後その場が落ち着いたところでピカっちはマーポへと送球を行った。まだまだ山なりに軌道が描いていてしっかりとした送球とは言い難い。それでもコントロールは安定感が出てきているようで、このときもマーポは全くミットを動かすことは無かった。


 送球を終えた後、ピカっちは帽子を取って深々とお辞儀をしてから最後尾へと向かった。その途中でチコっちに笑顔で手を小さく振りながらエールを送る。チコっちも頭の葉っぱをクルリと一回転させてそのエールに応え、また彼女に労いの言葉を送った。


 (やっぱり嫉妬なんてしてないね。良かった。ピカっちが変に気を遣って小さくならないように済みそうで。頑張れ、チコっち!)


 二匹のやり取りを離れた場所で眺めながら、僕もチコっちの活躍を願うのであった。








 「さぁ来なさい!!私がスーパープレーで、このフィールドを虜にさせて見せるわ!!」



 しかし、他のみんなから一切反応は無い。シーンと静まり返るばかりだ。


 「なんで誰も反応しないのよーーーー!?」


 いや、いつものことだと思うんだよなぁ。多分キミのそのテンションの高さにみんなついて来れないんだよ…………。また“チコっち劇場”がスタートするんだろうか?だとしたらこの後が不安すぎる………。


 「まあ良いわ!!モタモタしないでさっさとノックしなさいよ!!」


 あの“みがわり”までもが動揺している。チコっちに言われて慌てて頷いてぎこちない動きでボールを空へ放るものだから、当然スイングとのタイミングが合うはずも無かった。あろうもことか、空振りしてしまったのである!これにはルーナが一番驚いただろう。あんぐりと口を空けて唖然としていたのだから。


 「何やってるのよ!?ふざけているの!?」
 「!?!!!?」


 チコっちがますますヒートアップしてきた。頭の葉っぱが吹き飛んでしまうんじゃないかってくらい、ブルンブルンと勢い回している。これに威圧されたみがわりが平謝りをするという訳のわからない光景がそこにあった。これじゃあもうどっちが「練習中」なのか全くわからない。僕を含めて他のメンバーも苦笑いするしかなかった。


 それから少し時間を経て落ち着いてきたところを見計らったところで、みがわりが改めてノックをした!………が、問題はここからだった。


 「来たわね!!“ミラクルチコリータハッピージャーーーンプ!!”」
 「はああああ!?何だそれーー!!!」


 もはや意味不明としか言いようがない。さっきまでのあのピリピリした緊張感は一体何だったのだろうか。特段何も変わらない横っ飛びのプレーなのに、わざわざ奇妙なネーミングで派手に魅せようとしているのが見え見えだった。


 「ヤバッ!!キャッチ出来なかったわ!!なんでよ!!」
 「まだ正面に落としただけマシだ!!さっさと拾ってマーポに送球しろ!!」
 「言われなくてもわかってるわよ!!」
 「なんだとてめえ!?」
 「ダメだよチコっちちゃん!落ち着いて!」


 案の定、先ほどのプレイは失敗になってしまい、チコっちは感情的になってしまう。そうしてルーナの指示に反論するものだから、あわや一触即発状態になってしまう。争い事が苦手なピカっちが悲しそうな表情でチコっちを抑えようとするが、ほとんど効き目がない。参ったもんだ。


 しかし、ここでもまたリオの一言によってこの嫌な雰囲気が一掃されることとなる。


 「コラー!!またそうやって初心者相手にムキになるんだから!!萎縮させてイップス(過度な緊張感によって、思うように体を動かすことが出来なくなる状態)になったりしたらどうするの!?」
 「ひぇー!!ごめんなさーーい!俺の木の枝!!!折らないでくれー!!!」


 強引すぎる…………!周りもかなり引いてるぞ………!?でも、これ以降ルーナがリオに対して若干トラウマを感じることになったのは言うまでもない。恐るべし、「あさぽけ」女子メンバーたち…………。


 とまあ、かなり話がドッタンバッタンと脱線しまくって………正直自分でも何の話をしてるのかわからなくなってきたけど、彼女はこの後きちんとボールをマーポの元へと送球して、ひとまず今回の“チコっち劇場”は幕を閉じたのである。


 「お疲れ、チコっち!」
 「お疲れさま♪」


 最後尾に移動するチコっちに向けて僕とピカっちが声をかける。しかし彼女から返事が返ってくることは無かった。まあ僕やピカっちがスムーズにボールをキャッチ出来たのに対して、チコっちはキャッチ出来なかった事を考えたら仕方ないのかもしれないが。


 (まあ、あれもチコっちの良いところなんだけどね。負けず嫌いなところ、僕も見習わないといけないな)






 「ったく。ルーキーたちに構っていられないぜ。野球を何だと思ってやがるんだ…………」


 チコっちの次はルーナの出番である。今年はレギュラーと奪いに行く…………その為にも練習に集中したいと彼は考えていたのだが、なかなか思うように物事が進まないことにフラストレーションが溜まっていた。それでも何故かルーキーたちを憎めないのも事実。やはり後輩がいると何だかんだ楽しいと感じられていたのかもしれない。


 「まあ良いや!さぁ、来い!!」


 ルーナが叫んだ!“みがわり”はそれを合図にコクリと頷き、打球を放った!!


     カーーーン!!
 「バウンドか!!おっしゃ!!」


 次の瞬間、地面に叩きつけられたボールが高く弾んだ。ゴロやフライと違ってタイミングを合わせないと頭の上を越されてしまったり、或いは変に方向が変わったりして見失う可能性もある。それだけではない。あまりにも打球速度が遅いとキャッチして送球しようとしたときには、ランナーが次の塁に到達していたりしてアウトにすることすら出来なくなる可能性もあるのだ。
 …………しかし、そこはもう経験者である。いかなる状況にも戸惑うことが無い。ルーナはいとも簡単にバウンドをキャッチしたと思うと、すぐさまマーポへと送球した!!


 「ナイススローイング!!やっぱり動きが違うねぇ!!」
 「フン!これくらい当たり前だ。俺は前の三匹と違って、いちいちギャーギャー騒がねぇんだよ!!」
 「何よそれ!?イヤミったらしいわね!」
 「まぁまぁ落ち着こうよ」


 ルーナの言葉にチコっちが不機嫌になる。決してその気持ちが理解できない訳ではないけれど、これ以上変な騒ぎになってしまうのも面倒なだけ。そんな風に考えて僕は彼女をなだめるのであった。


 「次はリオか?経験者ならさっさとやれよ。アイツらのせいで大切な練習時間が無くなっているんだからよ」
 「何もそんな風に言わなくても良いじゃん。マーポと同じで本当にわからず屋」
 「ケッ、何とでも言え」


 一連の流れを終えて最後尾に向かうルーナ。当然ながらその道中ではリオと視線が合ってしまうので、変にスルーすることはできなかった。そこでリオにエールを送るなりして先輩たちの懸念材料、1年生たちとの対話を少しでも良いのだが、やはり簡単にはいかない様子だ。ついつい自分の変な弱味を見せるわけいかないと、逆に溝が深まる言葉を残してしまうのであった。


 「まぁ、気にしても仕方ないか。練習練習っと!!こーーーい!!」


 自分にとって嫌な状況が起きても引きずらない。それがリオの長所だった。楽しそうに振る舞うことでルーキーである仲間にも不安を与えないようにする。確かにルーナの言うように野球は………いや、何か物事に挑戦するということは決して簡単な話ではなかった。だからこそ自分が楽しめることを見つけ出す………そんな続けられる努力をしていくことが大事なんだと、リオは感じていたのである。


    カーーーーン!!
 「来た!オーライ!!」


 リオの掛け声を受けて“みがわり”がコクリと頷く。直後に放たれた打球は高々と夕焼けになりつつある空へと吸い込まれていくフライとなった。まぶしい夕日と重なってボールの行方を見失うリスクもあったが、そこは落ち着いてひとつひとつの動きでカバーをした。直後にボールが落下している。リオはそれを難なくキャッチした。


 「ナイスキャッチ!!」
 「ありがとう!マーポ、行くよ!!」
 「あいよ!!」


 直後に彼女はマーポへと送球した。やはり力強い。まるで矢のごとく「パスン!」と鋭い音を立ててマーポのミットに吸い込まれていったのである。


 「ナイススロー!!」
 「やった!!」


 こうしてリオもノックを終えたことで、第2セットの1巡目が終了した。タイムリミットの20分まではまだまだ時間がある。


 「頑張って、カゲっちくん!」
 「うん、ありがとう!」


 最後尾に向かうリオから激励を受ける。おかげでまた気持ちにスイッチが入った気がする。


 (よーし!頑張るぞ!!マーポやリオ、ルーナや先輩たちに追いついてみせる!ピカっちに喜んでもらえるように頑張るぞ!)


 2巡目がスタートする。僕はまた心の底から大きな声で「こーーーい!」と叫んだ。









 

 


 










 



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