第6章 第3話

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読了時間目安:25分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

クゥ
「じゃっ、後はひとりで頑張りなさい♪」


「えっ!? クゥさんも一緒に来てくれるんじゃ…?」


唐突なクゥさんの発言に、私は思わずツッコム。
しかしクゥさんはハイダメー!と、すぐにダメ出ししてしまった。
そして角の口を合わせてガチンガチン!と音を鳴らす。
そのまま、クゥさんは私を指差してこう言った。


クゥ
「あのね~、これでも私前線部隊の指揮官だから!」
「今戦争中だって言ったわよね?」
「私は私でやるべき事が有るって訳…」


「…そう、ですか」


冷静に考えたら当たり前だ。
今、ふたつの国は互いの総力を尽くして戦争をしている。
クゥさんはその片側の指揮官であり、戦力的に超重要なのだ。
そうなると、当然私のせいでクゥさんを縛る事は出来ない。
私は、あくまで私だけでどうにかしないと…!


クゥ
「まぁ、何かあったら連絡しなさい」
「これ、アンタにあげるから…」


そう言ってクゥさんは何やら、小さな球を袴のポケットから取り出す。
やや青みがかった球体であり、パチンコ玉位の大きさだった。



「これは…?」

クゥ
「使い捨ての通信機みたいな物よ、『不思議玉』の改良品」


不思議玉…ああ。
でも、こんなに小さいのは初めて見ますね。
改良品って言ってましたけど、それで通信機みたいな機能?


クゥ
「それを握り締めて、心に言葉を込めればそれが私に届くわ」
「ただし、送れるのは3秒位だから長文は無理よ?」


「た、たった3秒…?」


それだと本当に一言が限界ですね…
ですが、何かあった時はこれで一応の連絡は取れる。


クゥ
「修行が終わった時も、それで私に連絡しなさい」
「っても、多分こっちの仕事の方が早く終わるから、私の方から戻って来ると思うけど…」
「まっ! とにかく頑張れ!! じゃあね~♪」


それだけ言うと、クゥさんはさっさと走り去ってしまった。
せっかちだとは聞いていましたけど、本当ですね。
でも、あの動きだけでも只者じゃないのは解る。
素早さに優れないはずのクチートという種族で、あそこまでの健脚なのだから…



(クゥさんもカーズさんも、少なく見積もって多分、守連さん達と同じかそれ以上に強い可能性が有る)


そして、そんな人達を引っ張っていたふたりのポケモン…か。
そのひとりは、私と同じマッスグマなのだという。
もしそれが本当なら、私にもまだまだ成長出来る余地は有るという証明だ。
私は心を決め直し、改めてひとりで山を登る。
霧の深いこの山岳は正直道が整備もされておらず、歩いて登るのも大変だ。
ましてや、大した装備もせずに私はここまで来ている。
果たして、例の拳法家には会えるんだろうか?
ううん…会わなきゃ! 絶対に!!



………………………




「…もう夜か、この辺で今日は休まないと」


あれから頂上を目指して登るも、思ったより時間がかかってしまった。
もう少しで頂上付近だとは思うんだけど、結局例の拳法家には会えなかったわね。
そもそも、山にいるとしか聞かされていないし、いつも同じ場所にはいないのかもしれないけれど…

まず、その人を探す事が第1の修行になるかもしれない…




「こういう時、自力で炎が使えないのは不便ね…」


私は、そう愚痴りながらも薪になりそうな材料を集めていく。
この山は意外な程にこう言った材料が多く、そこまで歩かなくても必要な薪は揃う程だった。
私はそれ等を集めた後、適当な石を集めて竈(かまど)を作る。
後はそこに薪を置いて、火を起こす準備をした。
私がバッグから出したのは、火打石と火打金だ。
この世界に来てからすぐに調達した物で、これさえあれば割りとすぐに火が起こせる優れ物。
とはいえ、ポケモンの力でやると磨耗も激しいから注意しないと。



「ふっ!」


ガチンッ!!と甲高い音が鳴り、高温の火花が散る。
私はそれに息を吹き掛けて薪に火を移していく。
何度か同じ事を繰り返す内、やがて薪からは煙が上がり、程なくして竈には火が着くのであった…



………………………




「霧が深いと思えば、こうやってすっきり晴れる事もある…か」


私は食事を終え、葉っぱを集めて作ったベッドに背を預けていた。
今目の前に広がるのは、満点の星空。
見た事の無い星系がそこにはあり、私の知っている配置の星座は何も無さそうだった。
やっぱり、全くの別世界なのよね…



(バシャーモの拳法家、か)


一体どんな人なのだろうか?
バシャーモと言えば、確か炎、格闘のタイプを持つ攻撃型の種族。
物理、特殊とどちらも高水準であり、攻める事においては無類の強さを誇るポケモンだけど…



(…少なくとも、人の気配は感じない)


私は寝ながらも全身の感覚を研ぎ澄ませて警戒していた。
未だ老師程のレベルにはなれていませんが、それでも人の近付く気配位なら私でも捉えられる…はず。




(…でもおかしい、気配は無いのに空気が乱れている?)


私は不穏な空気を何となく感じ取り、体を起こして警戒した。
人の気配は感じないのに、空気は乱れている。
一体、これはどういう事なのか?
つまりこうだ…何かが動いているはずなのに、私にはそれが見えないという事。
私はすぐに立ち上がり、構えを取る。
…が、次の瞬間に私の体は真っ逆さまになって宙に浮かされていた。



「ありゃ…なーんも無いでやんの」
「なーんや、折角酒にでもありつける思たんに~!」


「な、何が一体!?」


気が付けば、私は片足を縛られて木の枝にぶら下げられていたのだ。
こんな仕掛け、全く気付かなかった!
そして私は逆さまになりながら、阿須那さんと同様の方便を使う女性を見る。
その姿は、いわゆる拳法着のそれであり、色は赤とオレンジと白で構成されている。
装飾はそれなりに派手であり、普通の胴着よりも遥かに豪華な感じだった。
髪は長髪で、やや灰色…青い瞳にVの字に尖っている角は彼女の種族的特徴だろう。
私はこの時点で、彼女の正体を察する。



「貴女が、例の拳法家ですか!?」


「あん? 何や、ウチの事知っとるんか~?」
「って、そんな訳あらへんわな…異世界来てまで知り合いおるわけあらへん」


彼女はサラリと異世界とか言い出した。
この時点で私は確信する…彼女もまたカーズさん達と同様の異世界ポケモンなのだと。
クゥさんは、そんな人に会えと言ったのですね。



「お願いします名も知らぬ異世界の方! 私は金萪(かなしだ) 瞳! どうか、私に御教授を!!」


「ふーん、えろう必至やな…?」
「それに、アンタのその格好…拳法家か?」
「何や、訳有りかいな…話してみ?」


いや、それよりも下ろしてほしいのですが…!
って、片足しか縛られていないんだから、自分で切れば良かった!



「!! 貴女が高名な拳法家とお聞きして、ここまで来ました!」
「私には、どうしても強くなりたい理由があります!!」
「どうか、どうか私に修行を付けて頂けないでしょうか!?」


私は着地してすぐに土下座し、理由を話す。
ちなみに高名なと言うのはクゥさんが勝手に言ってた事で、実際には全く知らないそうだ…



「修行、ねぇ~…言うちゃ何やけど、アンタそれなりに強いんちゃうん?」
「少なくとも、今以上に強くなる理由があるとは思えんのやけど?」


彼女はたった一目見ただけで、私のレベルを理解した様だった。
しかし、それでもあくまでそれなりに…なのだ。
つまりそれだけ…彼女とは開きがあるという事。



「とりあえず頭上げや、ウチはリーナ…」
「『鳳凰清拳(ほうおうせいけん)』の創始者、バシャーモの『リーナ・マクシム』や!!」
「まっ、言うても知らへんやろうけどな!」


その場でドカッと座り、ニコヤカに笑ってそう言う。
彼女の顔には皺が若干あり、年齢的にもそれなりの風格を感じさせる。
何より、対峙しているだけでこの気…!!
老師とも違う、まるで異質の気を受けて私は動く事すら難儀していた。
それを見てか、リーナさんは軽く頭を掻いて息を吐く。


リーナ
「…ウチの気に抗える位の器は有るか」
「ええやろ、それよりも強うなりたい言うなら…弟子にしたる♪」


「ほ、本当ですか!?」

リーナ
「ただし! 酒持って来ぃ!! それも今すぐに!!」


「は、はいっ!?」


何と、リーナさんは酒を条件にしてきたのだ。
流石の私も酒は用意してませんし、買うなら街まで降りなければならない。
ここまででもそれなりに時間がかかっているのに、また往復しろと?


リーナ
「夜が明けるまでは待ったるわ、それまでに何とかし!!」


「よ、夜明けまで…!?」


だとすると、多分10時間も無い!
今からなら、明海の所まで戻ればお酒はあるだろうけど…



「こうなったら、やるしかない!!」

リーナ
「あんじょう気張りや~♪ それまでウチは寝とるさかい!」
「あ、何やったらツマミも頼むで~!!」


私はそれを聞きながらも全力で走る。
往復までを考えると、かなりギリギリだ。
ただでさえ、慣れていない道を走らなければならないのだから…



………………………




「つ、着いた…!!」


あれから約4時間、私は何とか明海達のいる店に辿り着いた。
そしてややフラフラしながらも、お酒が有るであろう貯蔵庫に向かう。
そして鍵を使って中に入り、そこから適当に見繕って私はそれを背中に縛り付けた。
ビンだけど、持つより背負った方が楽だ。
後はツマミとか言ってたけど…流石にそこまで余裕は無い!
とにかく、今は急がないと…!!



………………………




「マズイ…! もう日が昇り始めてる!!」


もう少しでキャンプ地点。
本当にギリギリになってしまっていた。
だけど、もうすぐ…! もうすぐ到着…!!


リーナ
「zzz…」


着くと、リーナさんはまだ寝ている様だった。
幸いまだ日は昇り切っていない…早く起こさないと。
…と、私が手を出そうとした瞬間。



「っ!?」


ゾクゥ!!とした気が背中を駆け巡る。
私は一瞬呼吸を止められ、その場で踞ってしまった。
ほ、本当に眠っているの!?
それとも、無意識下でこんな気を…!?


リーナ
「ふぁ~あ! 何やもう朝か~?」


「……っ!!」

リーナ
「ほ~ちゃんと帰って来たんか~?」
「もう日は昇り始めとるけど、酒は持って来とる様やな♪」


そう言ってリーナさんは私の背から酒ビンを取って笑っていた。
そして指だけで栓を飛ばし、すぐにそれをラッパ飲みする。


リーナ
「ぶふっ!? な、何やコレ!?」
「炭酸かいな!? 清酒ちゃうやん!!」


「え…でもお酒ですよ?」

リーナ
「ちぃ…もっと正確に言うとくんやった! まぁ、しゃあない…酒は酒やからな!」
「ほんでツマミは!?」


リーナさんはやや苛ついた表情でそう尋ねる。
って言うか、起きてすぐに飲むんですか…?
私は渋々バッグを漁り、食料を探す。
とりあえず出て来たのは、干し肉だった…まぁ味付けは濃いし、悪くは無い?
私はそう思い、それをリーナさんに差し出すと露骨に嫌な顔をされた。


リーナ
「よりによって干し肉かいな…ウチ、あんま良い思い出無いねんな~」


「一体、干し肉で何が?」


逆に気になってしまった。
過去にトラウマにでもなる事があったんだろうか?
リーナさん程の年齢なら、かなりの体験談があるとは思うけれど…


リーナ
「ウチな、小さい頃戦争で家族引き離されて、師匠の所に預けられたんや」


「戦争で、ですか…それでご家族の方は?」

リーナ
「もう皆墓の中や…両親は戦争で死に、唯一おった兄貴も若い内に死んでしもた」
「ほんでそん時干し肉ばっか食うててなぁ~…思い出すのも嫌なんや!」


そう語ったリーナさんは、とても悲しそうな顔をして笑っていた。
私はそれを聞いて何だか悪い気になってしまう。
そんな私を気遣ってか、リーナさんは干し肉を私から取ってビールと一緒に食べてしまった。


リーナ
「何コレ美味っ!? 干し肉ってこんなんやったっけ!?」
「酒が進むーーー!! 干し肉革命や~♪」
「40も過ぎて、こんな干し肉に出会うとは!」


「あ、気に入って頂けて何よりです♪」
「それ、私の親友の娘が作った特性の燻製肉なんですよ?」


何気に明海の得意分野だったりする。
明海、昔から料理は上手かったけど、悠和がいる時はあまり厨房に立たなかったもんね…
今でも、良く燻製肉を作って保存してるから、今回も持たしてもらってたんだけど…役に立って良かった♪


リーナ
「ふーん、親友なぁ~」
「もしかして、強くなりたい理由ってそれなん?」


「はい…半分は」
「もう半分は、もっと…大切な人の為に」

リーナ
「おっ? 何や隅(すみ)に置けへんなぁ~?」
「もしかして彼氏かいな?」


そう言って小指を立てるリーナさん。
何だか、フランクな人だな…40過ぎらしいけど。
でも、私はやや俯いて首を横に振る。



「そういうんじゃ、無いんです…」
「ですが、私にとってはそれ以上…」
「あの人の存在は、ある意味私の全てですから…」

リーナ
「…まぁ細かい理由はええわ」
「ただ、ひとつ教えたる…女は男だけを見るな」
「せやないと、いつか周りを不幸にするかもしれへん」


リーナさんの言葉は、何故か重く感じた。
まるで自分自身が経験したかの様な雰囲気で、彼女は厳しい表情を私に向けていたのだから…



「…リーナさん、それは?」

リーナ
「…アニキには奥さんがおってな、そのポケモンがドエライ立場の奴やってん!」
「アニキもアホやから、何やかんやあってそのポケモンに惚れられてもうてな?」
「もう馴れ初めからアレや! とにかく色々あってん!!」
「で、結果…ふたりの間には子供が産まれた!!」


リーナさんの説明はよく解らなかった…!
何だか勢いだけで説明する様は大阪のオバチャンみたいで、割と理知的な阿須那さんとは全く正反対のタイプに感じる。
同じ関西弁キャラでも、ベクトルが違うんだなぁ~


リーナ
「…せやけど、子供が産まれた瞬間に奥さんは死んでもうた」
「アニキはしばらくひとりで子供の面倒を見とったけど、それでもすぐに事件におうてアニキも死んだ」
「残された子供は、ウチが引き取ったんやけど…何かなぁ~」


リーナさんは遠い目で何かを後悔している様だった。
そしてふぅ…と息を吐き、ビールをグビッと飲んで空を見上げる。
今はもう日も上がり、すっかり朝だ。


リーナ
「兄貴だけしか見えんかった奥さんは、子供を残して死んだ」
「早くに両親を亡くしたその子供は、まるで宿命に呪われる様に戦いへと駆り出されたわ」


「戦い、ですか?」


リーナさんの表情はまるで、その宿命を憎むかの様な険しい物だった。
リーナさんが付いていながら、その子を止める事は出来なかったのですね…


リーナ
「…男しか見えん女は、そうやって周りに不幸をバラ蒔く」
「本人は幸せやったみたいやけど、残される立場を考えぇっちゅえねん!」


「リーナさんは、その人が憎いのですか?」

リーナ
「んな事はあらへん! せやけど、色々アレなんやその人は!!」
「兄貴もなぁなぁで流されて結婚したし、とにかく適当やねん!!」
「それで産まれた子供がどうなるかって…ハナから予想出来とったわ!!」


ひとりで自分にノリツッコミをし、リーナさんは憤慨する。
うわ…もう一ビン無くなってる、ペース早いですね。
酔いも程良く回ってるみたいですし、これは絡み酒かも。


リーナ
「あんな両親の子供なんや…バケモンになんのは目に見えとった!」
「せやけど兄貴が余計な教育したばっかりに、あのバカタレは!!」


「バケモン…ですか?」

リーナ
「せや! アイツは15にしてウチを超えた!!」
「そのままアイツは、どっかの異世界にレッツラゴーや…」
「せやからもう、ウチには家族はおらん…おっても勘弁や」
「…あり? 酒切れた~!」


15にして、この方を超えた…?
そんな規格外の何かが、この方の甥…か姪?



「その子は、バシャーモなのですか?」

リーナ
「いんや、『フリーザー』や!」
「元々規格外のバケモン兄貴と、伝説のバケモンが掛け合った結果なんや!!」



「…!? フリーザー? あの伝説のポケモンの!?」

リーナ
「伝説のポケモンから子供が産まれる…只でさえそんな話は歴史上初の事やった」
「そんな中、産まれた子供は親の死と引き換えに生を受けた…」
「今頃…何やっとんねやろな~『氷華(ひょうか)』~?」


氷華…それがその子の名前ですか。
伝説のフリーザー…
どれ程の強さなのか、純粋に興味はありますね。
しかし今は、目の前の存在を私は目指さねばならない!



「リーナさん、私は…まだ強くなれるでしょうか?」


それは、ある意味後ろ向きな聞き方だったかもしれません。
ですが、それだけ私は自分に自信が無かったとも言えます。
それでも、リーナさんは私をどう評価するのでしょうか?


リーナ
「…師匠から言える事はひとつや、己に聞け!」


「己…自分に?」


私は自分の手を見て考える。
そして、私は自分に問うてみた。
果たして自分は強くなれるのか?と…



(当然…その答えは帰って来ない)


ここで自問自答を返せる程、私は強くないのでしょう。
なら、強くなれば良い。
ある意味原点ですね、清山拳を初めて学んだ頃と。
あの時老師が私を育ててくれねば、私は未だにただの弱いジグザグマのままだったでしょう。

ですが、私は強くなれた。
ただ、聖様を護る為にと…



(そうです、私は聖様の為に強くなると決めた)

リーナ
「…答えは、出たんか?」


私はコクリと頷く。
そしてキッと顔を引き締め、拳をギリッと握った。
強くなれるかはもうどうでも良い。
私は、強くなれば良いのだから!!



「リーナさん…いえ、師匠!」
「これから、よろしくお願いいたします!!」


私はそう言って中国式の礼をする。
すると師匠は頬をポリポリと掻きながら、何とも言えない顔をしていた。
そして開口一番、師匠はこう話す。


リーナ
「とりあえず、酒が足らん!!」


「……は?」

リーナ
「飲まんとやってられるかい!! もっと酒持って来るんやー!!」
「無かったら修行はつけへん!!」


私はここまでの決意は何だったのか?と思ってしまった。
ですが、あくまでコレが今の私の師…ある程度従うしか無いのでしょう…
私はそう思い、疲れた体を動かしながらまた下山を試みるのだった…



………………………



明海
「えぇ~!? それで貯蔵庫のビールがひとつ無くなってたの…?」


「ゴメン…時間が無かったから」
「それとついでに、ストック貰っても構わない?」


明海はそれを聞いてため息を吐くも、貯蔵庫から清酒を複数取り出す。
とりあえずこれで少しは持つでしょう…


明海
「本当に、大丈夫なの?」


「心配はいらないわ、私は必ず強くなる」
「明海も……頑張って」


私はそう言って彼女を激励する。
どうやら彼女は彼女でカーズさんに師事したらしく、特訓をしているらしい。
あの優しい明海が、戦う事を…強くなる事を選ぶなんて。
初めは戸惑ったものの、それでも私は親友の明海を信じる事にした。
もう、私達も子供じゃない。
お互いがそういう道を選んだのなら、ただそれを信じよう。



………………………



リーナ
「遅い!! いつまで待たせんねん!?」


「ここまで、3往復もしてるんですが?」


私は結局夕暮れ時に元の場所に戻る。
師匠は律儀に待っていてくれた辺り、期待はしていたという事でしょうか?
とにかく、私は必要そうな物をわんさかと背負っていたので、それ等を全て下ろした。


リーナ
「何や、えらい持って来たのぅ?」


「………」


私はそのまま、バタリと前のめりに倒れてそのまま眠る。
流石に…限界です。


リーナ
「…ふーん、これ背負って3往復目か」
「結果的に1日2往復…ほなスピードやスタミナはまだ伸びそうやな♪」



………………………




「……?」


私が目を覚ますと、お馴染みの風景が映る。
どうやら次の日の朝まで寝ていたらしく、鳥がチュンチュンと朝を告げていた。
私は所々ギシギシに痛んでいる体を動かし、その場から立ち上がる。



「…師匠は?」

リーナ
「zzz~…」


まだ寝ている様でした。
しかし、こうしていればただ無防備に見えるのに…
ここから1歩でも踏み込めば、私は身動きすら取れなくなる。
一体どれ程の鍛練を積めば、ここまでになれる物なのでしょうか?
鳳凰清拳の創始者との事ですが、その拳法は一体?



(…? そういえば、かつて老師からこんな話を聞いた事が)



………………………




「清山拳の歴史~!? 興味無ぇなぁ~…」


「ほっほっほ、まぁそう言わずに話だけでも聞きなさい」
「清山拳の伝承者になる以上、その歴史を知っているだけでも意味はあります」


「清山拳の歴史かぁ…どうやって生まれたとかそういうのですかね?」


「まぁ、歴史の深い拳法なら色々有るだろうけど…」
「中国4000年の歴史…! とか言うのも有るしなぁ~」


「聖様、実際には中国拳法の歴史に関しては、まだ2200年前後だそうですよ?」


「あ、いや…ネタにマジレスせんでも」


私がそう言うと、聖様は少し残念そうでした。
うーむ、私には余りネタという物に愛されていないのかもしれませんね。
しかし、清山拳の歴史…一体どんな物か興味は有ります。



「そもそも、清山拳は歴史で言うならばまだ1000年も足っていません」
「これを浅い歴史と見るか、深い歴史と見るかは人それぞれでしょう」


「1000年って事は、現実なら平安時代か…何とも言えねぇな」


「ほっほっほ、まぁ異世界の人間である聖君にはピンと来ないかもしれませんな♪」
「ですが、これは私達にとってはとても重い物です」
「何より、清山拳の生まれとは…そもそもこの世界で生まれた物では無いという言い伝えが有るのですから」


その言葉に全員がギョッとする。
それはそうでしょう、ただでさえこの謎の異世界に私達は放り込まれているというのに。
その上で、更に異世界の技術がこの世界に…?



「あくまで口伝での伝えでは有りますが…かつて世界が滅びを迎え、新たに生まれた世界で既に清山拳は世にあったと言われます」
「ならば、世界の創造と共に生まれた拳法なのではなく、それは異なる世界から現れた拳法だったのでは?と、語り継がれているのです」
「…とはいえ、どこまでが真実なのかは正直解りませんが♪」


「ガクッ! って、その辺は正確じゃないんですかい!?」


ツッコミを入れる聖様に対し、ほっほっほと朗らかに笑う老師。
この時の私は、特に気にもしていなかったのですが…



………………………



リーナ
「……zzz」


(異世界から来た拳士…しかも、世界が滅んだ後に現れた?)


これは果たして偶然なのでしょうか?
私はまだその答えは到底出す事が出来なかった。
でも…何処か気になる。
少なくとも、私がこの方に師事する理由のひとつにはなり得ると思います。

鳳凰清拳と清山拳…果たして何か関係が有るのでしょうか?



「……とりあえず、朝食の用意をしましょう」


私はそう思って竈を見るも、既にそこには酒ビンが散乱していた。
まさか、もうあれだけ飲んだのですか!?
かなり余裕を持って持って来ていたのに…!
私はこの惨状を見て深いため息を吐き、すぐに片付けから入る事にした。
全く…! 本当にだらしない方ですね!
師匠でなければ、放置している所ですよ!?

私はそんな風に憤慨しながらも、テキパキと作業をこなす。
コレでも元メイドです、これ位なら朝飯前とはこの事ですね!
そしてすぐに火を起こして今度は朝食の準備にかかる。
とりあえず卵と、ハムで簡単にスクランブルエッグです。
今回は鉄鍋も持って来たので、ある程度の料理ならすぐに対応可能!


リーナ
「ん~? 何か良い匂い~♪」


予想通り起きましたね…本当に本能で動いているのでは?
師匠はフラフラと体を起こしながらも、竈の方に歩いて来た。
そして大きな欠伸をひとつし、ドカッと竈の前に座る。



「…おはようございます」

リーナ
「ん…卵と肉かいな…定番のコンボやな」


「素早く仕上げるのに丁度良いですからね…どうぞお召し上がりを」


私はそう言って更に師匠の分を盛って差し出す。
更に箸を渡し、私は自分の分をよそった。


リーナ
「おっ、コレも美味いなぁ~♪ アンタ料理凄いんやな!」


「それなりに経験を積んでいますので」


師匠は嬉しそうに笑いながら美味しそうに料理を食べる。
本当に、感情表現が激しい方ですね…
しかし、この方は紛れもなく達人であり強者。
私はこれから時間をかけてでも、この方の元で強くならなければならない。
クゥさんはかなり時間がかかるだろう…と言っていましたし、この際慌てる事は無いでしょう。
私達が足止めになっていたとしても、きっと他の家族の方も動いている。

私達はその結果を信じて今やるべき事を成します!
全ては…聖様の為に。










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第3話 『鳳凰清拳呑んだくれ師匠』


…To be continued

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