No.26 † 国外逃亡という名の旅行 †

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リコン・ポケモンセンター

アーシェ:「(はぁ……直接的な原因は私じゃないにせよ、関与しちまったワケだし……怒られるだろうなぁ……)」

私が重い足取りでロビーへ行くと、以前このリコンの町で行われたヴァン神父の葬儀が終わった後、声を掛けてくれた役員さんがロビーに備え付けられている横長の座椅子に腰かけていた。

協会役員:「あっ!アーシェさん、お久しぶりです。」
アーシェ:「ごめんなさい!成り行きとはいえ、大変なことをしちまって……協会のお偉いさんである、あんたに迷惑かけて……」

役員さんに会って早々、私は腰をほぼ直角に曲げ、深々と頭を下げて謝罪した。

協会役員:「えっ!?いえ、そんな……謝罪はしてください。むしろ、我々は今回の件に関しまして、アーシェさん達には本当に感謝しているのです。」
アーシェ:「……………はい?」

思っていたものとは違う言葉が返ってきて、私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

協会役員:「チーム・アプリストスの存在は我々も、警察も把握していました。しかし、秘密裏に活動する彼等のアジトや主要拠点などを押さえられずにいました。正直に申しますと、彼等の規模もそれなりにしか把握できていません。」
アーシェ:「そうだったんですか。」
協会役員:「そんな時、このポケモンセンターから警察と協会の方に『近くの荒野で施設が爆発している』という報を受けまして、調べてみたら……」
アーシェ:「犯罪組織の主要施設で、私達が関与していたと……」
協会役員:「はい。爆発で殆ど吹き飛んでいますが、それでも奇跡的に残った物もあります。それを元に、警察の方々も本腰を入れて捜査に乗り込むそうですよ。」
アーシェ:「そっか。それじゃあ、組織が消滅するのも時間の問題だな。」
協会役員:「えぇ。後のことは警察の方にお任せするとして……ここからが本題です。」
アーシェ:「本題?」

今、チーム・アプリストスのこと以上に重要な話があるんだろうか?

協会役員:「アーシェさん。実はですね、このフィリア地方の中央大都市・エルセアに今度、ポケモンスタジアムが建設されることになった……という話は御存知ですか?」
アーシェ:「いや、初耳だ。へぇ!ポケモンスタジアムができるのか!観光名所が増えるのは、純粋に良いことだな。フィリアに住む人間として嬉しいよ。」
協会役員:「そのポケモンスタジアムで開催される大会の参加資格として、我々はこのフィリアの東西南北の最端の町に『エリアマスター』と称した代表トレーナーを配し、そのトレーナー全員に勝利するという条件を設けました。」
アーシェ:「エリアマスター……ジムリーダーとか、島キング・島クイーンとか……あぁいう人達みてぇなもんか?」
協会役員:「はい、その通りです。それでですね。アーシェさん、貴女に最東端の町・ハイルドベルグのエリアマスターをお願いしたいのです。」
アーシェ:「………………えっ!?」

役員さんの言葉に、私は思わず耳を疑った。
私が……ジムリーダーや島キングみたいな…………

アーシェ:「いやいやいや!そんな、恐れ多い……何で私が?私よりももっと、相応しい人がフィリアに居るだろ!?普通に!」
協会役員:「ちなみに、アーシェさんを推薦したのは、この私です!」ドヤァ
アーシェ:「あんたか!でも、本当に何で、こんな私を……?」
協会役員:「アーシェさんはこのリコンまでの道中、ポケモンの窃盗事件から、ダストダス達に関する環境問題、更には復活したグラードンの進行を阻止……そして、今回の犯罪組織の主要施設の爆破という、短期間でこれだけの功績を残しております。」
アーシェ:「確かにそれらの件に私は関与してるけど、今言ってもらったモノ全部、私1人で解決したわけじゃない。こんな私と一緒に旅をしてくれた仲間ともだちが居なけりゃ、どれも解決なんてできなかったよ。」
協会役員:「傲慢にならず、ちゃんとそう言えるのも貴女の強さですね。あと……アーシェさん。貴女は歴史に詳しく、『古國語』をちゃんと理解して正確に読めると……ハイルドベルグとサルスーラの神殿管理者の方々から伺っております。」
アーシェ:「え?あぁ、うん。父さんが考古学者で、小さい頃から部屋にあった文献とかで目にする機会があったし……父さんや他の学者さん達から直々に教えてもらったからな。古國語は普通に読めるよ。」
協会役員:「私はその類稀なる才能と、アーシェさんが旅の中で無意識に、ポケモンのために行ってきた貢献度を考慮したうえで貴女をエリアマスターにと推薦させていただいたのです。」
アーシェ:「……………で?他の役員さんの反応は?」
協会役員:「異議無し満場一致で、採用とのことです。」
アーシェ:「嘘だろ……」

ちょっと出来過ぎて信じられないけど……

アーシェ:「でも、あんた以外の役員さんまでそう言ってくれているなら……少しでも必要とされているのなら……うん、わかった。こんな孤児の私で良ければ、その大役を責任を持ってお引き受けします。」
協会役員:「おぉ!ありがとうございます!」
アーシェ:「それで?具体的にはどこまで決まってるんだ?」
協会役員:「いえ、それが……まだ殆ど決まっていません。フィリア地方の中央大都市エルセアにスタジアムを建設することと、エリアマスターもアーシェさんの他3人を誰にするか決まっていません。ハイルドベルグにもまだ施設を建てていませんし……」
アーシェ:「課題が山積みなんだな……」
協会役員:「つきましては、アーシェさん。提案なのですが、しばらくの間……フィリア地方以外の土地を旅してみませんか?」
アーシェ:「フィリア地方以外の……?」
協会役員:「はい。ハイルドベルグにアーシェさん専用の施設を建てる間の時間潰しと……アプリストスの幹部に顔を見られていますよね?そのほとぼりが冷めるまで……と言いましょうか。しばらく、フィリアから離れて身を隠した方が良いと思うのです。」
アーシェ:「確かに……あっ、それじゃあ、いきなりで悪いんだけど、お願いを聞いてもらえねぇかな?」
協会役員:「はい、何でしょう?」
アーシェ:「私と一緒に旅をしていたあの2人……黒髪の方がフクスで、茶髪の方がサモンっていうんだけど、あの2人をこの地に留まらせて危険な目に遭わせたくない。サモンはどうするか聞いてねぇんだけど、フクスは元々カロス地方へ行く予定があるみたいでな。できることなら、2人を要望を聞いてやって、安全に目的地まで送ってやって欲しい。」
協会役員:「わかりました。安全に……そうですね、陸路で移動できるように手配しましょう。」
アーシェ:「あぁ。これからも色々迷惑かけるかもしれねぇけど……よろしくお願いします。」
協会役員:「はい、わかりました。こちらこそ、色々お願いすることがあるかもしれませんが、宜しくお願いしますね。」
アーシェ:「もちろん。私にできる可能な範囲でまでなら。」

私と協会役員さんは微笑み合いながら握手を交わした。


~ 数時間後 ~


フクス:「アーシェさん!」

ロビーの長椅子に座って缶コーヒーを飲みながら本を読んでいると、フクスが声を掛けてきた。

アーシェ:「ん?おぅ、どうした?フクス。」
フクス:「ポケモン協会の方が何か高級車を手配して……私とサモンちゃんを送って行ってくれるそうなんです。」
アーシェ:「もう手配してくれたのか……仕事が速いな。」
サモン:「協会役員の人から聞いたよ。ボク達が安全にこのフィリアから離れられるように、アーシェさんがお願いしてくれたんだよね?」
アーシェ:「まぁ……私の我儘に付き合わせて、敵の幹部に2人の顔を覚えられちまったわけだし……せめてもの罪滅ぼしっつうか……これもまた、勝手に決めちまって悪いと思ってる。」
フクス:「いえ、そんな……爆破の件に関しては、私も少なからず関わっているわけですし……」
サモン:「少なからず?」
アーシェ:「まぁ、こんな形で旅を中断することになって申し訳ない!ほとぼりが冷めた頃に私から連絡を入れるから、機会を見てまた遊びに来てくれ。」
サモン:「うん。楽しみにしてる。」
フクス:「今度は、東側や北側も案内してくださいね。」
協会役員:「フクスさん、サモンさん。準備ができました。いつでもカロスへ向けて出発できます。」
フクス:「あっ、はい!」
サモン:「それじゃ、アーシェさん。またね。」
フクス:「寂しくなったら、いつでも電話してくださいね。」
アーシェ:「おう。……今日の夕方に、多分連絡入れる。」
フクス:「早すぎぃ!もうちょっと我慢しましょうよ。」

ポケモンセンターの外に出て、高級車に乗り込んで車内から手を振ってくれている2人を見送り、私は役員さんとポケモンセンター内へと戻った。

アーシェ:「ぁ……そうだ。ハイルドベルグの施設って、まだ建築が始まってすらねぇんだよな?」
協会役員:「はい。何か要望があるのでしたら、言ってくださったら可能な限りですが実現させるよう手配しておきますよ。」
アーシェ:「じゃあ……バトルする場所は室内で……両壁の上の方を、ステンドグラスで装飾して欲しい。それと……牧場っていえばいいのかな?多少ハイルドベルグの外れになっても良いから、私のポケモン達を自由に放し飼いできるような広い庭が欲しいかな。この2つの条件が可能な限り実現できるのであれば、他はどんな風になっても構わないよ。」
協会役員:「両壁の上方にステンドグラス、アーシェさんのポケモン達が自由に遊べる広い庭……ですか。わかりました!そのように建築会社の方と交渉しておきますね。」
アーシェ:「ありがとう。それじゃ、私も『一時的に』他の地方へ遊びに行くとするかな。」
協会役員:「おや?どこか行きたい地方があるのですか?」
アーシェ:「ふふっ、まぁな。」

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