【第115話】もうひとりの豊穣王、終わりの始まり

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください






ーーー暴力団事務所、フウジ支部。
その地下にある火薬庫に、ダフと部下2名……加えてリーグスタッフのミチユキが侵入する。
「うっわ火薬くさッ……」
扉を開いた瞬間に漂ってくる臭気に、ミチユキは思わず鼻を摘む。
周囲の壁には多くの重火器が並んでおり、一面に広がる鉄塊がその光景を仰々しく彩る。
「武器庫だからなァ。チャカとか色々あるんだよ。……ま、俺らの目的はそこじゃねェ。」
そう言いつつ、ダフは部屋の奥までずかずかと進んでいく。



そして更に奥の扉を開くと、そこには強固なジュラルミンケースがあった。
ダフはチェーンロックのダイヤルを合わせ、ケースを開封する。
そこから出てきたのは、多量の白い腕輪のようなものであった。
中央には「X」に似た紅色の文字が刻まれている。
「これは……ダイマックスバンド!?」
「おう、如何にも。」
ダイマックスバンド……それは自らのポケモンを巨大化させる現象「ダイマックス」を引き起こす道具だ。
ガラル地方では普通に流通している代物である。



だからこそ、ミチユキには分からなかった。
そんな物がこんな武器庫の奥に保管されている理由が。
「……これのどこが危険物なんだ?確かにダイマックスは、一歩間違えれば大災害を巻き起こしうる現象だ。だけどダイマックスの発現には『ガラル粒子』が必要な筈。イジョウナ地方ではそもそも使えないのでは?」
「そうだァ。普通なら使えねェ。だが……コイツはちょいとやべぇブツでよ……。」
ダフはその詳細をミチユキに逐一説明していく。
話を聞いた彼は、表情を引きつらせて頷いた。
「なるほどな。こりゃ確かに、暴力団が持つレベルのやっべぇ武器だわ……」
ミチユキの隣にいたバリヤードも、本能的にそのダイマックスバンドを遠ざけている。
どうやら本当に危険な物品なのだろう。



「……さてミチユキ。お前を通した理由は他でもねェ。……お前の持ってる情報を吐いてもらいてぇからだ。」
「……俺の情報?」
「そうだ、あの『扉』の向こうに何がある……?」
「待て待て、どうしてソレを俺が知っていると思った?」
ミチユキの疑問は最もであった。
少なくとも、ダフと彼は初対面だ。
彼がそんな情報を持っている確証は薄い。





「いやよォ。ジムリーダー連合が『扉』の情報をやたらと嗅ぎつけていただろォ?……だが不自然なことに、奴らはその手の神話については門外漢の奴らばかり。だとしたら身内に、入れ知恵をした奴が居ると考えるのが普通だァ。……その中でもお前は『扉』の存在すらも知っているほどの中枢人物だろォ?」
「ッ……見事だ。流石は組織の長ってトコロだな。」
「………。」
「そうだ。俺は以前から連合に頼まれて、カンムリ雪原を調査したことがある。その事は間違いなく、イジョウナ地方の『扉』とも関係があるはずだ。」
ミチユキは近くにあった丸椅子に腰を下ろす。
そこに向かい合うように、団員たちも床へと座す。
「いいだろう。アンタらはそれなりに信用できる。」
「おォ……それはそれは。」
そしてミチユキは、あの『扉』について知る所を話し始めた。





ーーーーーフウジ地下の大広間。
右腕を切り落とし、「レインの腕だったもの」を接合したクランガ。
禍々しく黒に染まったその物体は、傷口から彼の肉体を侵食していく。
「はぁッ……がああああッ………!」
その表情は苦痛に歪んでいる。
否、歪みすぎて寧ろ笑っているようにすら見える始末だ。



あまりの痛々しい様子に、その場に居た者全員が息を呑む。
しかしその隙に、この空間には大きな変化が起こる。
クランガの右腕が激しく光りだし、震えているのだ。
それだけではない。
「ま……ねねっ!」
「マッ……!」
「じじじっ……!」
マネネにカラカラ、そしてピカチュウ……『秘鍵』を持つポケモン達の胸もまた、彼の腕と共鳴するように光りだしたのである。





「ッ!いけない……早く逃げないとッ!」
事態の重さを再度認識したスモック博士は、すぐに駆け寄ってカラカラとピカチュウを抱き上げる。
そして年相応に華麗なUターンをすると、ダッシュで広間の出口へと駆けていった。



「ちょっ……おじさま!?」
『……博士の言う通りだ。早く逃げろ……ッ!』
スモックの離脱の後、レイスポスはお嬢の傍らに寄って背中を差し出した。
『……乗れッ!』
「じゃ、ジャック……!」
だが既に迷っている時間はない。
お嬢は胸を抑えるマネネを抱きかかえると、そのままレイスポスの背中に飛び乗った。
瞬間、彼は廃トンネルを走り去っていく。



「みわわ……」
「わんっ!」
「……グアッ!」
全員の脱出を確認したアーマーガアはボールを差し出し、パルスワンとイエッサンを収納する。
彼らの戻ったホルダーを掴み上げると、遅れて広間の出口から飛び立って行った。



「ハハハッ、良いだろう、逃げろ逃げろ……だがもう遅いッ!テメェらはこれから、理想郷という名の終末を迎えるんだ!!!!!!もう!何もかも!終わりなんだよぉおおおおおおおおおおおおおッ!」
クランガの叫び声と共に、扉が激しく光り始める。
徐々に……徐々に。
上向きの二枚扉が開いていく。



「起きろバドレックスッ!!!!お目覚めの時間だァアアアアアアアアアアッ!」
クランガの叫び声とともに、『扉』からは黒い植物の弦が滝のようにとめどなく溢れ始める。
瞬間、全ては跡形もなく飲み込まれた。





ーーーーー「まず、だ。アンタらは『バドレックス』というポケモンを知っているか?」
暴力団員達は椅子に腰掛け、ミチユキの話を聞く。
「うろ覚えだけどよォ……ガラルに棲んでいた『豊穣の王』だっけかァ?」
「そうだ。そこだけ覚えておけば問題ない。奴の住まう土地は自然が豊かで、農民たちも飢えることがなかった……と言われている。まさに『救い主』だったってわけだな。」
自然の恵みを与える系統の神は多くいるが、バドレックスはそのうちの1匹だ。
一説によればガラル地方の大災害・ブラックナイトに立ち向かったポケモンの一角とさえ言われている。
特にその伝承は、ガラル地方南部の「カンムリ雪原」という場所にて細々と語り継がれている。
……どの伝承を聞いてもミチユキの言う通り、「救い主」の名に偽りはないようだ。



「んでそのバドレックスだが……俺の調査によるとだな。なんと約5000年前、このイジョウナ地方にも棲んでいた可能性が高い。」
「!!?」
ダフらは息を呑む。
あくまでもガラル地方の土地神として祀られていた筈のバドレックスがイジョウナ地方にも居たなど、前代未聞だったからだ。
だが神秘性のランクから考えると、バドレックスレベルのポケモンならば複数体存在していてもおかしくない。
それにイジョウナ地方は、地理的にも気候的にもガラル地方に近い。
もしかすると、近縁の別個体が存在していた可能性は大いにあるのだ。



「んでだ。その時、イジョウナ地方に居た『心優しき救い主』バドレックスはとんでもない失態を犯したみたいでな。」
「失態?」
「あぁ、奴はとんでもないものに手を出し……」
ミチユキが続けようとした……その直後であった。



空気の震えとともに、凄まじい爆発音が鳴り響く。
地下の武器庫に届くほどだから、よほどの音である。
「なっ……なんだ一体!?」
そう狼狽えるミチユキの声も、大音量の爆発音にかき消されて聞こえない。
明らかな異常事態を察した彼らは、すぐに地上へと駆け上がる。



「ッ……う……嘘だろッ!?」
そこで目にしたものに、彼らは言葉を失う。





フウジの中央に顕現していたのは巨大な……否、あまりにも巨大すぎる存在だった。
頭の上に冠を乗せたような、人型の超巨大生物。
全身が極彩色の泥のようなもので構成された、液体巨人とでも言うべきものだ。
地下の扉を……更には廃トンネルを突き破り、その上半身のみを地上に出している。



そのサイズは電脳要塞にいたコイルの比ではない。
半身のみだが、優に400mを超えるほどのサイズだ。



「で……デカすぎるだろッ!?」
ジムリーダー連合やスモック博士が危惧してた事態は、最悪の形で顕現したのである。







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