【第114話】災禍の予感、敗者の錯乱

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

場所は変わって、フウジシティ地上。
お嬢らの潜入から既に経過した時のことであった。
地下鉄の廃トンネルに繋がるシャッターの前に佇んでいたのは、暴力団の長・ダフとその部下数名。
彼らはマホイップの群れに押し流され、そのまま電脳空間の外へと排斥されていたのだ。



「しっかし組長ォ……久方ぶりに外に出てみましたけど……凄くないですか?車の量。」
そう言いつつ部下が見つめているのは、メインストリートの方角だ。
車道が見渡す限りの自動車で埋め尽くされており、その流れと同方向に多くの人々が移動している。
「と……ビルの屋上で統制を取ってる黒サスペンダーの奴らは……」
「リーグスタッフですね。」
街の随所にはイジョウナリーグの制服を着た人員が、警棒を用いて誘導をしている。
中には飛行ポケモンに乗って街から飛び立つ者も散見される。
まるで何かから逃げ去っている……いや、避難しているかのような様子だ。



「……まァ、バベル教団が地下で何をしているか分からない以上は妥当なことだと思うぜェ。」
そう言いつつ、ダフらは表の通りを歩いていく。
暴力団が白昼堂々街中を歩いているなど、普通であれば人々がざわつくのは必至だろう。
……が、人々はそれでもダフらを意に介することはない。
どうやらかなり焦っている様子だ。



『フウジシティの皆様。フウジシティ地下にて特大の不発弾が発見されました。直ちに街の外へ避難をお願いします。』
街中のスピーカーを通して、誘導音声が響き渡る。
その声を聞いたダフは、ピンと来たようだ。
「……なるほどなァ。どうやらこれもスモック博士の指示って事みてェだなァ。」
ダフはそう零しつつ、人の流れを避けるように裏路地の方へと戻る。
「組長!?」



ざわめく部下たちに、ダフは速やかに指示を出す。
「っし……!サブとゴロウ、お前らは俺に着いてこい。」
「の、残りは!?」
「避難誘導だ。リーグのあんちゃん達を助けてやれェ。」
それだけ言い残すと、そのままダフは路地裏へと駆けていく。



「っつーか組長、この方向って……」
「おう、事務所に『アレ』を取りに行くんだ。もしかしたら必要になるかも知れねぇからなァ。」
「そ、そのレベル!?バベル教団がやってることってそんなにヤバいことだったんですか!?」
部下のサブとゴロウは『アレ』の存在をチラつかされたからか、慌てふためいている。
どうやら『アレ』は相当な代物らしい。



「……まァ、最悪の事態を想定してっつー話だァ。」
一瞬の間を置いて、ダフは返事をする。
「それに、ヤバいことは少なからず起きるぜェ。少なくとも、俺はあの教団と手を切って正解だったと思ってるぞォ。」
「ッ………」
ダフの第六感の恐ろしさを知る部下2人は、固唾をのむ。
そんな悪寒を携えつつ、3人は路地裏を抜けていく。





「ッ………!」
しかしダフはふと立ち止まる。
前方に人影が見えたからだ。
……否、それだけなら大して気にも止めなかっただろう。



だが、その人物はただならぬオーラを放っているのだ。
ブロンドのアフロヘアにサングラスをかけ、黒ワイシャツにサスペンダーを着用している長身の男だ。
背後にはピンクと白の人型ポケモン……バリヤードを連れている。
「誰ッスかねアレ……リーグスタッフっぽい服は着ているけど……」
「……!」
その男はダフらの存在に気づくと、近寄ってくる。



「ッ!アンタ達は、指定暴力団の……!」
「おう。ダフだァ。まさかアンタ、こんな所まで逃げ遅れが居ないかどうかの確認か?」
「ッ……まぁ、そんな所だよ。」
男性はややため息交じりに話す。
どうやら街中をかなり忙しく奔走していたらしく、顔には疲弊の色が滲んでいる。



「お前の上司のパーカーちゃんがさっきからしきりに放送で誘導してるしなァ。リーグスタッフ総出ってことだろォ?」
「……おう、そうっすけど。」
「まさかVCO案件のやべェ代物がこの地下に眠ってるなんて表沙汰には出来ねぇもんなァ。」
「全くもってその通り……って違う、そうじゃない!」
何かを思い出したかのように男性は我に帰る。



そして一歩前進すると、ダフを問い詰めるような形で差し迫ったのだ。
「おおう。どうしたァ?スタッフの兄ちゃん。」
「アンタのとこの事務所だ!俺のバリヤードがさっきから異様に反応を示している!」
「ゔぁゔぁり!」
そう言いつつ男とバリヤードは、目と鼻の先にある古びた小さなビルを指差す。
そこにあるのはダフ達が根城にしている事務所の支部だ。



「……アンタら。一体何を隠し持っているんすか……?」
「危険物だァ。それもとびっきりの……な。」
「!?」
「だが良いのか?今最優先すべきは俺達の武器形態を取り締まることじゃねェ。それにアレは、俺達の希望になり得る存在だぜェ……」
そう言いつつ、ダフは男を押しのけて事務所へと歩き出す。



「き、希望だと!?……おい待て、一体この街に何が起ころうとしているんだ!?」
「………おいおい、お前さんなら知ってると思ったんだが。」
「そうじゃない!……まさか、アレがもう『開こうとしている』ってのか!?」
「おう。最悪もう秒読みだぜ。少なくとも、『秘鍵』は全員地下に揃っちまってるしなァ。」
「!?」
その一言に固唾を呑んだ男は、血相を変える。
どうやら彼は、自分らが置かれている状況の危うさを理解したようだ。



「……俺もお前らについて行っていいっすか?バベル教団についてなにか知ってるんだろ?」
「いいぜェ。テメェは話の分かる奴だ。……名前は?」
「……ミチユキっす。」
「オーケイ。さてミチユキ、こっから先は他言無用で頼むぜェ……!」







ーーーーー時を同じくして、地下の大広間。
なんとか死の淵から這い上がってきたマネネを抱き上げ、お嬢たちは喜びに浸る。
「よかった……ホントによかった……!」
その軌跡には、多くの人やポケモン達の頑張りがあった。
彼らのお陰で、お嬢は失わずに済んだのだ。



大切な存在を。
自らの支えとなってくれる者を。
……そして自分自身を。
ジャックもマネネも、彼女自身も……今、此処に生きている。



「……ともかく、ジャックさんとマネネが無事に戻ってきて良かった。……あとはスエットちゃんとステビア君、それとそこに繋がれている信者達の救出だ。まずはあの電脳世界を閉じなくては……」
彼はそう零しつつ、スモック博士は息つく間もなく『扉』の方へと近づいていく。



そんな博士の背中に、お嬢は気がかりだった事項を問う。
「あの、スモックおじさま……エンビやサンダーは大丈夫なの?」
「……あぁ、彼らならレイン君が然るべき場所に運んでいるはずだ。事情を説明して、リーグの医療班も待機させている。すぐさま医療機関に搬送されるだろう。幸い、命だけは助かりそうだしね。」
「ッ………」
それを聞いたお嬢は、安堵のため息を漏らした。
これでようやく、バベル教団に奪われたものはほぼ取り返したと言っていいだろう。
彼らの計画は此処で終わり、皆日常に帰る。



しかしその直後、すぐに別の不安要素が思い返された。
「ッ……そうだ!ねぇ、ジャックは知らない!?」
『……ジャック?』
自らのことかと訝しんだレイスポスが首を傾げる。
が、彼女が指している人物が誰かはすぐに分かった。



そう、「白い方のジャック」……ブリザポスの事だ。
あの後彼はレインと自身のポケモンを見送った後、どうなったのか安否が分かっていない。



「グア…………」
「そ、そうだアーマーガア!なにか知ってるの!?」
事情を知っているアーマーガアがやや俯き、お嬢に経緯を話そうか悩んでいる。
もし今、お嬢にあの事を話したら……無鉄砲な彼女のことだ。
ブリザポスを探すと言って駆け出してしまうかも知れない。
……今は出来れば、穏便に事を済ませたい。
アーマーガアとしては当然、彼の安否が気にならないわけではない。
仮とはいえ、あの男もまた自らの主なのだ。



「ねぇアーマーガア!なんで此処に貴方達しか来てないの!?ねぇ、ジャックは!?」
……否、これ以上はぐらかすのは限界だ。
やはりお嬢には話したほうが良い。
少なくとも今の彼女は、信頼に値する。
話を聞いた上で、冷静な判断を下してくれることを願うしか無い。
そう考えたアーマーガアは、頭をもたげて声を発する。
「グア………ア!?」



……が、しかし。
アーマーガアの視界にはとんでもないものが飛び込んできてしまった。



そう、お嬢の背後にナイフを持って差し迫るクランガの影だ。
意識を取り戻した彼が、再び此方に迫ってきたのだ。
「おら死ねッ!!!」
「グアアアアッ!」
とっさの判断でアーマーガアはお嬢を跳ね飛ばす。
「ぐっ……!」
それど同時に翼を『てっぺき』で硬化させ、レーザーナイフを弾き飛ばした。



「チィッ……このクソ鳥ッ!」
クランガはすぐに劣勢と判断し、バック転で距離を開ける。
そして弾き飛ばされたナイフを拾うや否や、ものすごい形相でお嬢らを睨みつけてくる。
あまりの勢いに、歴戦のポケモン達すら恐れを為すレベルだ。



「お前らよぉ……もしかしてハッピーエンドだと思ったか?マネネもジャックも戻ってきて万事解決……って思ったか?」
鬼気迫る様子のクランガは、声を上ずらせながら気味の悪い事を言う。
「なっ、何を言うんだクランガ君!?君にはもう出来ることなど……」
「あぁ、無いね。」
そうだ。
既にクランガ側に出来ることはない。



マネネもジャックも既に此方側。
スエットやステビアや信者も救出の目処はついている。
脅しの材料が、彼の手元には無いのだから。
全ては負け惜しみに過ぎない。
……その筈なのだ。



「もうマトモな手段じゃ俺らの計画は全部パーだ。そこのトレンチちゃんも格好の玩具に出来ると思っていたが……まぁこの際どうでもいい。」
「ッ………!」



「それよりもムカつくのはよぉ……俺を差し置いてテメェらが勝ち誇った顔をしてやがる事だ!!!!」
怒鳴り散らす彼の表情は、狂気……燃え盛るような狂気に駆られていた。
異様としか言えぬその様を、
「どうだ満足か!?俺たち教団に勝って、大事なものを取り返して、それで満足か!?勝者の立場で俺らを見下して、満足か!?」
「そ……そんなこと……」
「おいおい否定するなよ。俺は良いと思ってるぜ。それが普通だ。力のあるもの……勝利を得たもの……それが驕る事は何も悪くねぇ。俺は心底ムッカつくけどなぁああああああ!」
「ッ……」
既にマトモな話ができる状況ではない。
クランガは完全に興奮し、錯乱している。



「だがな……オレは知ってるんだ。そういう絶頂に居るやつが……幸せそうにしている奴が堕ちる瞬間っていうのが、人間の一番美しい瞬間だってなぁ!!!」
叫びつつ、クランガは腰元のボール2つを投げる。
「マッ……」
「じじっ……?」
そこから呼び出されたのは、既に傷だらけのカラカラと、尻尾の切り取られたピカチュウだ。
この2匹は、そう。
「獄炎の秘鍵」と「迅雷の秘鍵」の持ち主だ。
「アレは……レインの!」
そう、レインのボールホルダーから1つボールが欠けていた理由……それはこのクランガが、ピカチュウ入りのボールを自らの腰元に携えていたからだ。



その後クランガは、左手にナイフを携える。
本来であればそこは彼の利き手では無い方だ。
嫌な予感を本能的に感じたスモック博士は、彼を怒鳴りつけた。
「まさか……辞めなさいクランガくんッ!それ以上は取り返しがつかんッ!」
「うるせぇええええッ!!!これ以上もう俺に未練はねぇッ!!!!!」
そして彼は、ナイフを振りかぶった。



「さぁ……絶望しろ!勝利の余韻の中でッ……!パンドラの函は俺が開くんだよぉおおおおおおおおおおおおおッ!」
絶叫。
凄まじいほどの絶叫と共に、クランガの腕のナイフが振り下ろされる。
そして彼の前腕はその肉体から切り離され、多量の鮮血と共にその場に落下する。



「ッ………!」
あまりに壮絶な光景にお嬢は言葉を失う。
そんな彼女の顔をイエッサンが咄嗟に覆い隠したが、既に手遅れであった。



「クハッ……ハハハッ……ざまぁねぇぜ……!」
自らの右腕を切り落としたクランガは、近くに転がっていた『レインの右腕だったもの』を拾い上げる。
痛みなど些末なことと言わんばかりに、彼は滞りなく作業を進めていく。
拾い上げた腕を、そのまま自らの傷口にあてがったのだ。



その様子を見てスモック博士の表情は一気に青ざめた。
……そう、この状況が真に危機的だということに気づいたのである。
「……!しまった、皆!逃げろッ!」
「え!?」



此処には全ての秘鍵と接続出来るマスターである「右腕」、そしてカラカラ、ピカチュウ、マネネの3匹が揃っている。
つまりはどういうことか。



……そう、揃ってしまったのだ。
『扉』が開く条件が。





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