それ以外無いから

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オノノクスがパーティーに加わるまでの話(さっくり風味)
 とある洞窟の地下深く、太陽の光が届かないような奥地。そこにはキバゴたちの住まうコロニーがあった。彼らはそこで生まれ育ち、仲間と腕ならぬキバを磨いていた。

 今も、とあるキバゴどうしがキバを交えていたが、どうにも一方的だった。優勢な方のキバゴと劣勢な方で、体格的に大きな差はない。しかし、同性である分闘争心が強い方が押せ押せになっているようだ。劣勢な方はキバの扱いもややつたないところがあり、その流れが転じることはなかった。仰向けに押し倒され、勝負が決する。

 ぎゃーす、と勝利した側が吠えると、敗者がむくり、と起き上がる。キバの扱いがつたない彼はまた、分の悪い勝負に挑んでいくだろう。

 エサを食べて、眠り、キバゴどうしで力を高める。グループ内で交流しながら、群れ全体として強くなっていく。キバゴたちの、いつからともなく続いている日常。

 キバの扱いがつたなく、競争心も仲間たちほどではない、そのキバゴ。だが"彼"は、バトルをするのが好きだった。負けても負けても、むくりと起き上がり、何事もなかったかのようにまたバトルを挑む。

 バトルに勝つことは異性への自己主張でもある同族たちとは違って、彼はだいぶ無節操だった。バトルが好きな彼は、バトルを通じて相手と語り合うのを好んでいる節があった。格上を問わず、同性異性を問わず、好きなゲームをいつまでも遊び続ける子どものように、彼は仲間たちに挑みかかっていた。仲間たちは彼を嫌ってはいなかったが、「変わった奴」とは思っていた。

 キバを扱うのが苦手なキバゴだったが、キバの攻撃をおとりにひっかく攻撃を使い、相手の裏をかくような戦い方を身につけた。有利を取るようになったものの、皆もその戦い方に順応する。思考停止で同じ戦法を取っていても、行き詰まるだけ。苦手な、キバを主軸にする戦い方の訓練も続けていた彼は、相手の性格やクセを鑑みて、戦い方を調整する。新しいわざを覚える。ひっかくよりもダメージを叩き出せ、2段の攻勢を取れるダブルチョップ。キバでかみつくよりも、両の手を使うほうが不思議と「やりやすい」と感じた。りゅうのいかり。このわざはただ勝てるだけで楽しくない。どうやって有利を取るか、取った有利をどれだけ押し付け続けられるか、そのためにどう立ち回るか。それを考えながら戦うこと。目の前の相手に通用する手段は何か。それを模索していくのが、彼なりの仲間との交流で、楽しみだった。その時間が、彼にとっての充実だった。仲間とのバトルでのりゅうのいかりは、彼の性格に合わなかった。

 いつの頃に転換点を過ぎたのかはわからない。寝食以外バトルに傾倒している彼は仲間たちにとって「威勢のいい奴」から「苦戦する相手」を経て「どうにか辛勝できる相手」に変わり、いつの間にやら「常に自分たちの一歩先を行っている奴」になっていた。

 楽しそうに、遊ぶように、無邪気にバトルする彼のことを、仲間たちは嫌ってはいなかった。勝ちも負けも気にしていない、気持ちのいい奴だ。変わった奴だけど。

 相手するのに、ちょっと疲れるけど。



 ある時、キバゴたちの前にコロモリが現れた。洞窟の上層から迷い込んできたらしい。珍客だ。

 空中をパタパタと飛び回り、攻撃がなかなか届かないコロモリ。キバゴ達は歯がゆい思いを飲み込むように、コロモリから離れていく。

 そして、彼はというと。

仲間と戦うコロモリをうずうずとしながら観察していた。自分の番がきた、と飛び上がって一直線にコロモリに向かっていく。時間の経過で疲れの色を見せるコロモリに、ずっと飛びっぱなしではいられないだろうことを見越し、りゅうのいかりを牽制がわりに撃った。持て余していたものに使い所ができた喜びに心が躍った。コロモリの飛び方をよく目で追って、クセを測り、コロモリのリズムを掴む。時間をかけてコロモリを徐々に徐々に消耗させる。動きがにぶったところを彼は見逃さず、コロモリをりゅうのいかりで撃墜した。組みついてダブルチョップでたたみかける。落としてしまえば、あとは一方的なものだった。こいつの強みは空中にいることにあるようだった。新しい体験。新しい余韻。

 ごはんを済ませ、彼はコロモリがどこから来たのか思いを馳せる。あいつが元々いた場所には、あいつ以外にも自分の知らない相手がいるのだろうか、と。

 まだ見ぬライバルを夢想して、ワクワクを沈められないキバゴ。しかし、そこに向かうということは仲間たちと別れるということでもある。うしろ髪を引かれる思いはあった。最近マンネリ気味になってきたとはいえ、仲間と離れるのをさびしいと感じるセンチメンタルなところも、彼にはあったのだ。

 でもワクワクには変えられないからね! 仕方ないね!!

彼は上層を目指して探索をはじめた。コロモリが通ってきたであろう道を、えっちらおっちら進んでいく。

 すべては、楽しい語らい(物理)のために。



 どれぐらい進んだのかキバゴにはわからない。しかし、彼はたどり着いた。

 パタパタと飛び回るコロモリ。歩き回るダンゴロ。あたりの様子を伺うミネズミ。岩を持ち上げて得意げなドッコラー。今まで会ったことのない、不思議な奴らがここにはいっぱいいる!!



 やっほぉーい!!!



 キバゴが真っ先に殴りかかったのはドッコラーだった。ためしにりゅうのいかりをぶつけてみると、平然としている。タフなやつだ! キバでかみついてみた。かわしたらダブルチョップで追う、という見込みでの一撃。なんと、噛みつかれることに物怖じせず手にしたものをぶん回して殴りかかってきた。痛い! こいつは腕力に自信があるのだ!

 そ、それじゃ、もしかしてこんなことができちゃうのか……? ダブルチョップを連打するつもりで肉薄してみる。木材を使って受け止められるものの、やはりかわしたりしない、真っ向勝負だ。バチボコの殴り合いができる! 楽しいぃ!!!

ダブルチョップとけたぐりやつっぱりが交差する。かわそうとせず、手で受け止めてみる……のもアリだ! こんなバトルもあるんだ?!

 楽しい時間だったが、どうやらドッコラーの腕力がキバゴよりも高いことは間違いなく、キバゴは結局押し負けてしまった。おそらく実戦経験の差もあるのだろう。しかし、得難い時間だった。

 踵を返したドッコラーのうしろで、キバゴはむくり、と起き上がった。



 続けよう。






 もう勘弁してくれぇ、とばかりにドッコラーが逃げ去っていくまで、キバゴはキバが折れても気にすることなく挑み続けた。その甲斐あって、力でゴリ押すタイプの戦い方を存分に味わうことができた。お腹はすいた。

 そうだ、ごはんの前にあの丸っこいのとバトルしておこう。歩くことくらいしかできなさそうに見えるが、何か、あいつなりの武器を持っているにちがいない。気持ちよく疲労感をひきずりながら、キバゴはダンゴロを探して洞窟を歩く。

 結局この日はごはんにするまで4匹のポケモンとバトルした。今までにない充実した1日になった。

 翌日も、その翌日も。来る日も来る日も、キバゴは洞窟のポケモンたちとバトルした。アザを作ってキバを折られて爪が割れても、キバゴはまた立ち上がった。バトルをするために。

 倍増しになった体の負荷を力づくで乗り越えるかのように、彼はオノンドに進化した。体つきのバランスがいい感じになったかも。彼はキバを使った戦い方に工夫ができるようになった。明日はどんなバトルができるだろう。ワクワクしながら毎晩眠りについた。

洞窟上層のポケモンたちからすると、毎日毎日楽しそうにバトルに明け暮れるオノンドは決して嫌な奴ではなかったが、少しメンドーな奴だった。

そして、オノンドにとっての転機───その時はやってきた。

オノンドが初めて洞窟の入り口、太陽の光が差し込む場所に臨んだとき、彼は初めて、



人間を見た。



 うわーっひゃーっ! 人間だ! 初めて見た! スゲーッ! 女の子!? 女の子だ!!

 バトル!? バトルするの!?



「……オノンドはかたやぶりだ? あっ」



 少女が発した言葉の意味はわからない。気づくと体が勝手に動いていた。ダブルチョップを発現し、少女に飛びかかっていた。しかし、攻撃は空を切った。

 かわされた!? と思ってすぐに気づいた。違う、少女はオノンドに面食らって尻餅をついたのだ。タイミングよく。それで運良くかわせた。

 少女の引きつった表情。驚愕の感情をオノンドが読み取ることはできなかったが、どんくさい所作や体つきでわかった。こいつは戦うことができない。

 オノンドががっかりしそうになったのも束の間、少女は懐から何か取り出す。その手には、何らかの存在、その息遣いを───気配を感じた。



 何出すの何出すの!?



 快音がはじけ、光とともに、オノンドが見たことのないような体躯のポケモンが現れる。"彼女"が出てきた瞬間、ヒヤリと背中が緊張するような感覚を覚えた。静かで、丸みを帯びた鋭さをまとう、澄んだ視線に、オノンドは沸き立つ。



 うわっうわっうわっ! 何そいつ! 何その青いヤツ! 超つよそーじゃんやっべーきんちょーやっべー!!!!



「ラプラス!! れいとうビーム!!」



 開口したラプラスから、ピシッ、と光が一閃。オノンドの右足を撃ち抜く。



 痛ええ!!?!!! 冷たい冷たい冷たい!!!! あ!! これ苦手だ!!!!

 地面と半ば接合されかけていた足を引き抜き、オノンドは距離を取───らなかった。

 ラプラスがステゴロで勝負するタイプではないことが、今の一撃でわかったからだ。こいつは最速で殴りかかった方が有利を取れる。突撃。

 だがラプラスはひるむことなくれいとうビームを即撃ちした。顔面から浴びるオノンド。耐える、というよりは笑いが堪えきれないかのように歯を食いしばり、オノンドは踏み込む。

もう1発れいとうビームを食らっても、一瞬で完全に動けなくなるわけでもないはずと踏んでの突撃だったのだが。

 ダブルチョップ、本日2度目の空振り。がくん、と膝から力が抜け、オノンドは倒れた。



ウヒャーツエー!! ワンチャンあるかと思ったけどなかったーっ!! ラプラスツエーー! 寒ィーッ!!



「なんなのこの子……」



 すごいのと出くわしてしまった。やはり、上へ登ってきたのは正解だったのだ。オノンドが震えるのは身を貫く寒さからだけではなかった。高揚感。洞窟に吹き込む風の感触。ここを出れば、もっととんでもないものと出会える! 存分に語り合うことができる!!

そして、オノンドは立ち上が───



「そいつ捕まえた方がいいよ」



 端的に発せられたその声は、不思議とオノンドにも意味が聞き取れた。

直後、額にこん、と何かが当たりオノンドは天を仰いだ。ぱか、と割れた球に、逆らえない引力で吸い寄せられる。



 おわっひゃっ! 吸われた! 吸われたよ吸われた!!! なんだここなんだここ!!



 少し不安定にゆらゆらした後、オノンドは不思議な居心地の良さをおぼえる。なぜだか腰を下ろして落ち着いてしまう、ソワソワするのにイヤじゃない、今まで知らなかった快適さ。



 めっちゃ快適ーっ!! こんな風になってんだー! スゲー! マジパネーッ!!!



「……嫌な感じはないけど、すごく変わった子を捕まえちゃった気がする」

「特性かたやぶりの、ドラゴンタイプか。旅の助けにはなりそう……図鑑図鑑」



 え? 旅? うっひょぉおおお超楽しみうっひょおおおお!! いったいどこに連れてってくれんだろう!!



「……へぇ、オノノクスになったらハサミギロチンおぼえるんだ」



 ハサミギロチン?! 何そのトガってるわざ!? ひょっとして俺、そのオノノクスにもなれちゃうんじゃね!? 超タギルーッ!!



「火力でゴリ押しが効くようになるかも、か。バトル快適になるのかな……そう考えると色々楽しみだなぁ」







 ハイテンションなオノンドは彼女と旅をするようになって、食う寝るバトル以外のことをたくさん覚えた。ただ走ったり、くつろいだり、癒されたり、鑑賞したり、撫でられたり、じゃれたり、嗜んだり、責任感を抱いたり、好きを見つけたり、愛でたり、失敗してからかわれたり、誰かさんの役に立ったり、調子に乗って痛い目を見たり、進化したり。

 オノノクスは、今はもうだいぶ旅慣れして落ち着いている。───今のところは。
「シャンプーの後にリンスするの知らなくて、リンス後シャンプーして髪キシキシになってました」ってバラエティ番組で喋ってる人見て「あぁ、そうやって使うもんなんだ」って知った子どもだったりした。

新しいゲームを始めて、「こうプレイするのが効率的やなw」ってコスパ追求して調子のってたけど、たぶんあっちいったりこっちいったりと効率的でない遊びやってた方が、得られた充実や満足感は多かったんじゃないだろうか、と思ったりすることがある。

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