4-5 共闘をかけたバトルの始まり

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:15分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください



 俺ことビドーは、ヨアケ・アサヒに、ヤミナベ・ユウヅキを捜す為にタッグを組もうと提案した。率直に言うと、相棒になってほしいと頼んだ。
 ヤミナベという男は数年前にこのヒンメル地方を襲った大規模な神隠し、通称“闇隠し事件”の容疑者だ。そして、ヨアケの幼馴染でもある。
 “闇隠し”で行方不明になった手持ちのラルトスの消息を掴むためにも、俺は事件に深く関わっていると思われるヤミナベに接触をしたかった。
 そしてヤミナベと再会したいと願う彼女に手を貸したいとも思い、手を組もうと誘った。
 俺としては利害が一致しているように見えたが、そう簡単に話は進まなかった。
 ヨアケは俺の誘いにこう返事をした。俺の目を見てこう言った。

「ビー君たちの実力を見せてほしい。相棒になるかどうかは、それから考えさせて」

 それは、ポケモントレーナー同士の間で行われる合図、ポケモンバトルの申し込みだった。
 その申し出を俺は迷わず受ける。するとヨアケは、さっきまでの暗い面持ちを吹き飛ばす勢いで、どこか楽しそうにポケモンバトルの準備を進め始める。その様子に、面喰う俺だったが、その状態に陥ってしまったのはどうやら俺だけではなかった。
 その場にいたヨアケの旧友、アキラ君は俺とヨアケのバトルに納得いかない様子であった。
 そんな彼に気づいているのかいないのか、ヨアケは俺に聞いてくる。

「そういやビー君は、手持ちのポケモン何体持っているの?」
「5体だ」
「私は6体だよ。じゃあシングルバトルの3対3でいい?」
「それで構わない」
「あとは場所か……アキラ君、バトルフィールドってこの研究所にある? できるのなら借りたいんだけど……」

 話を振られたアキラ君は、咳払いを一つしてヨアケに質問をした。

「一応訓練用のフィールドがある。貸し出しも出来るはず。だけどアサヒ……本当に彼とバトルをするのか?」
「うん」

 迷いなく答えるヨアケ。アキラ君は一瞬黙った後、言葉を選びなおして再びぶつける。

「……言い方を変える。アサヒ、君はユウヅキを追いかけるのにビドーを巻き込むのか」

 俺は決して巻き込まれに行くわけではないのだが、と発言しようにも口を挟めない雰囲気だった。アキラ君の問いかけにヨアケは少し考えるそぶりを見せた後、こう言った。

「まだそうと決めたわけじゃないよ。でも、そうなるかもしれない」
「どうしても、ユウヅキを諦める気はないのか」
「うん、まだ諦めたくない」
「……その結果、君が国際警察に捕まることになっても?」

 ヨアケ・アサヒが国際警察に捕まる可能性。
 今はまだ何とも言えないがヤミナベの幼馴染のヨアケが“闇隠し事件”の重要参考人として連行される可能性がないわけではないという現実を、アキラ君は恐れて反対しているのかもしれない。
 ましてヨアケは事件前後の記憶がない。つい先ほどその事実を知ったならば、不安になってもおかしくはない。
 更にアキラ君の上司であるレインはヨアケを国際警察に引き渡すのも手だと考えているとなれば、これ以上ヨアケが下手に動いて、彼女の不利になる状況になるのを望んでいないのだろう。
 要するに、アキラ君はヨアケのことが心配なのだろう。
 だが、レインがヨアケに問うた通り、これはヨアケがこれからどうしたいかが重要だ。
 ユウヅキを追いかけるにしろ、諦めるにしろ彼女がどう動くかによって、恐らく現状は変化するのだろう。もっとも、当の本人は腹をくくっているようだが。
 彼女は覚悟の言葉を告げる。

「いいよ。もし私が憶えてない罪があるのなら、償うつもり。できれば……ううん、絶対ユウヅキと一緒に」
「……そっか。じゃあ、答えは出ているようだね」
「答えって?」

 アキラ君は寂しそうな笑みを作る。それからからかい交じりに答えとは何かを言う。

「レイン所長の質問の答え。君がユウヅキと再会した後どうしたいのか」
「あ」
「もしかして、忘れていたの?」
「あ、あー、うん。そうだった、ちゃんとレインさんに言わなきゃ……!」
「慌てない。もう少し考える時間はあるさ。それこそ彼とのポケモンバトルの後でも」

 穏やかにヨアケをなだめるアキラ君。これは俺の勘だが、アキラ君はヨアケには優しいのではないだろうか。ヨアケとアキラ君、そして一応ヤミナベは古くからの友人らしい。だからこそ気を許しあっているのかもしれない。その距離感が少しだけ羨ましくも思えた。
 兎にも角にもようやく話が俺の方に戻ってきた。俺は話をそらした彼に文句を言う。

「俺の事をついでみたいに言うなよ、アキラ君」
「ついで以外の何ものでもないだろう。そしてなんで、僕は君にアキラ君と呼ばれなければいけないのかい?」
「ばっさり言うな。知り合いにアキラさんって女性がいて、彼女が今この研究所にいるからだ」
「ややこしいな」
「ややこしいだろ。だから君付けで我慢してくれアキラ君?」
「君にそう呼ばれると少しむかつくんだけど」
「おっ? ビー君もアキラ君も打ち解けて来たみたいだねぇ」

 言い合いを茶化すヨアケに、俺たちはため息と共に首を横に振った。


**************************


 休憩から戻ってきたレイン所長に俺は、ポケモンバトルをしたいから研究所のバトルフィールドを借りたいと頼んだ。するとレインは「ぜひ使ってください。私もお二人の勝負には興味あります」と、快く貸してくれる。彼らに案内され俺とヨアケは訓練用のバトルフィールドへ移動した。
 フィールドは屋内にあった。それまでの研究所に使われている無機質な壁や床から浮くようにフィールドの部分は土作りにされていた。一階部分に客席などはなく、その代わりに二階部分に観戦できるモニタールームが配備されている。レインはモニタールームへ、アキラ君は審判を引き受けてフィールドのラインの傍にある審判台へと立つ。俺とヨアケはまずフィールドの中央へ向かう。

「まずは、両者の手持ちポケモンの見せ合いを」

 アキラ君の指示で、俺とヨアケはまずそれぞれの手持ちを出していく。
 俺の側の手持ちはカイリキー、エネコロロ、アーマルド、オンバーン、そしてリオル。
 彼女の側の手持ちはデリバード、パラセクト、グレイシア、ドーブル、ラプラス、それからギャラドスだった。
 ヨアケのポケモン達を見て俺は一言突っ込みを入れる。

「草タイプの使い手の師匠がいるのに、その弱点ばかり狙うチームだなおい」
「ふふ、ソテツ師匠は確かに草タイプをよく使うけど、私が教わったのはなにも草タイプの使い方ばかりじゃないよっ」

 ヨアケは意味ありげににやりと笑う。俺はソテツのバトルスタイルをまだちゃんと見てはいないので、彼女がどういった戦い方をするのかは読めなかった。
 一旦手持ちをボールに戻し、それから二人はフィールドの端に立つ。

「ルールは3対3のシングルバトル。交代はありで手持ちが全員戦闘不能になった方の負けとする! それでは両者、一体目のポケモンを!」

 アキラ君の指示に従い、互いにボールを手に取り、勢いよく振り放つ。

「頼む、エネコロロ!」
「お願い、リバくん!」

 それぞれのポケモンがボールの中から姿を現す。
 俺が一番手に選んだのは“おすましポケモン”ことエネコロロ。紫色の耳をピンと立たせ、クリーム色の細い四肢で地に立ち、澄ました顔をしている。
 ヨアケ側の初手はリバというニックネームの“はこびやポケモン”デリバード。白い袋を担いだ赤い鳥ポケモンだ。運び屋というシンパシーは置いておく。俺が彼女と初めて出会った時に連れていたポケモンである。
 辺りに緊迫した空気が漂う。彼女はそれを察したのか真剣な眼差しのまま口元に笑みを作る。それにつられて俺もにやりと口元を歪めてしまった。

「色々言ったけれど、私はビー君とのバトルを楽しみたいと思っているよ」
「楽しむのもいいけど、油断すんなよ」
「わかっているよ」

 彼女なりのアイスブレイクなのだろうけど、少々なめられているようにも感じた。
 その余裕の態度、改めさせてやる。そう思うと、何故だか俺は気持ちが昂っていた。
 彼の合図で試合が始まる。俺とヨアケの戦いが、始まる。

「――――それでは、始め!」


**************************


「先手はもらうよ! リバくん『こおりのつぶて』!」

 開始早々、ヨアケのデリバードの周囲に冷気が集まり始める。氷の礫による先制攻撃を狙うデリバード。もちろん俺もエネコロロもその攻撃を黙ってくらうつもりはない。

「させるか! エネコロロ『ねこだまし』!」

 弾けるバネのようにしなやかに直進し、デリバードの動作よりも素早いスピードで間合いをつめるエネコロロ。乾いた音がエネコロロの手から鳴り、デリバードを怯ませ『こおりのつぶて』を中断させる。

「その冷気、使わせてもらうぜ! 『こごえるかぜ』!」

 デリバードの生み出していた冷気を、エネコロロは凍てつく風撃として利用する。『こごえるかぜ』によりデリバードの動きが少しだけ鈍る。

「エネコロロ、追撃で『ひみつのちから』だ!」
「飛んで!」

 エネコロロは地形を利用する『ひみつのちから』でフィールドの土を変形させる。地面から麻痺効果のもつ土の槍がデリバードに向け突き上げるが、デリバードのいる空中まではぎりぎり届かなった。

「リバくん、ジグザグに『れいとうビーム』!」
「『ひみつのちから』で防げ!」

 上空からデリバードの『れいとうビーム』がジグザクにフィールドを横切りながらエネコロロへ迫る。
 エネコロロは『ひみつのちから』で土の壁を作り防ぐものの、フィールドはほぼ氷漬けに。
 このままでは壁の外に出た瞬間氷の床に足を取られてしまう。しかし、『ひみつのちから』で防ぐにも限度がある。
 今のエネコロロの打てる手で、飛行しているデリバードをどうするか。考えた末にある技を試させてみる。

「『うたう』で眠らせるぞ、エネコロロ」

 デリバードの特性が『やるき』か『ふみん』の場合、デリバードは眠らないのは知っていた。だが特性が『はりきり』だったのなら、エネコロロの『うたう』の歌で眠らせることが出来る。効くかどうか微妙だが、やるしかない……!
 エネコロロの歌が、上空のデリバードの耳に届く。
 デリバードが眠気でふらつくのが、見えた!

「よしっ!」
「当たりだよビー君。だけど、通させない! リバくん速達で『プレゼント』!」

 デリバードは眠りに落ちる前に、担いでいた白い袋から光り輝くプレゼンドボックスを大量にばらまく。
 直後、轟音が周囲に鳴り響いた。その爆裂音は宙に放り出されたプレゼントボックスが一斉に起爆した音だった。あんにゃろう『プレゼント』の箱をすぐに爆発させるように速達なんて指示を……!
 エネコロロの『うたう』も、デリバードの眠気も爆音で一気に吹き飛ばされてしまう。
 もうもうとした煙が晴れ始めたころ、ヨアケとデリバードが畳みかけてきた。

「続けて『プレゼント』」

 『プレゼント』による爆撃で、エネコロロが壁の後ろから引きずり出される。エネコロロはなんとか氷上で立つことはできても、それで精一杯だった。

「いくよリバくん『そらをとぶ』!」

 デリバードが少しだけ上昇し、一気にこちらに向けて急降下し突撃してくる。
 このままではエネコロロはデリバードの攻撃をまともにくらってしまう。ヨアケはエネコロロの特性を、接触した相手を魅了する『メロメロボディ』である可能性を考慮していない。ということは、恐らくこの一撃で決めにかかっているのだろう。
 命中が下がる代わりに物理の威力を上げるデリバードの特性『はりきり』がこの動きにくい
 氷のフィールドと相乗効果を生み出していやがる。
 だが、フィールドを利用するのならば、エネコロロの十八番でもある……!

「『ひみつのちから』で真上へジャンプ!」
「えっ」

 『ひみつのちから』でエネコロロの真下の土と岩が、氷を突き破ってエネコロロの足場になる。そのままエネコロロは真上に飛び跳ねデリバードの攻撃を回避する。飛び出した岩の上に着地し、今度はエネコロロがデリバードの上をとる。着氷したデリバードは、最初に当てた『こごえるかぜ』が堪えているのか、やや動きが鈍い。
 その隙を逃すまいとエネコロロに指示を出す。

「エネコロロ、フルパワーで『ひみつのちから』!」
「阻止してリバくんっ! 『こおりのつぶて』!」

 技の撃ち合いはデリバードの方が早かった。放たれた『こおりのつぶて』がエネコロロにダメージを与える――――だが、エネコロロはその場に踏みとどまる。

「今だ!!」

 溜めの時間を終えたエネコロロが、か細い体の腹の底から力強く荒げた鳴き声を上げる。その声に地面が呼応し無数の大地の槍がフィールドの氷を砕く。その強烈な攻撃がデリバードに命中する。
 フィールドの端まで吹き飛んだデリバードは、仰向けに地面に打ち付けられ、目を回していた。

「デリバード、戦闘不能!」

 アキラ君のジャッジにより、ヨアケのデリバードが戦闘継続不可能とみなされる。まずは一勝することができた。
 ヨアケがデリバードをボールに戻し、小さい声で「ありがとう、リバくん」と労いの言葉をかける。それから俺の方にも話しかけてくる。

「まさか、氷の足場を突き破ってくるとは思わなかったよ、ビー君」
「まあ、コイツなら、エネコロロならできると思ってな」
「そっか……次は、勝たせてもらうよ」

 彼女は冷静に宣言をした後、次のポケモンを出した。


*************************


 モニタールームにて観戦をしていたレインのもとに、髪の毛に寝ぐせを立てた来客が、フライゴンを連れて来ていた。

「あー、レインだー」
「おや、アキラさんではありませんか、調べものは済みましたか?」
「おかげさまでー。んー、アサヒとビドー、バトルしてるの?」
「ええ、なんでもビドーさんがアサヒさんの相棒になれるか見定める為に戦うとか言っていましたね」
「ビドー思いきったなー。形式は?」
「3対3のシングルバトルですね。先程初戦がビドーさんの勝利で終わったところです」
「おおー」

 アキラさんと彼女の手持ちのフライゴンがフィールドをのぞき込む。すると、彼女たちはほぼ同時に目を細めた。

「ああー、これはー……」
「アキラさんも感じ取りましたか」
「まー、んんー、これはー……」
「まあ、ですよね」

 レインは目下の彼らを見据えて、もどかしさを抑えきれずにいた。

「ビドーさん、早く気づいてあげてください……」


*************************
ゲストキャラ
アサヒの旧友、アキラ君:キャラ親 由衣さん
アキラさん:キャラ親 天竜さん

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。