75話 いざ、トリスイルへ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ほとんどの者が寝静まっている早朝の時間帯にハルキ達、トリスイルに向かうメンバーは団長室に集合していた。

「全員揃っているな。 行くぞ、ついて来い」

 全員揃っている事を確認し、団長室から出て行くカリムの後を列になってついて行くと、何の変哲もない通路の突き当りに辿りついた。
そこでカリムは何かを探るように壁を触り、壁の一部分を強く押した。
すると、何の変哲もなかった突き当りの壁が横にスライドしていき、地下に続くと思われる階段が現れ、ハルキは目を丸くして驚いた。

「驚いただろ? このギルドには、いざという時のためにこれと同じような地下への入り口がいくつか存在するのさ」

 得意気に話すカリムを先頭にして、一同は地下へと続く階段を降りて行った。
 どうやらこのギルドは有事の際に地下へ逃げ込めるように最初から考えて設計されていたらしく、切り立った崖の上という建物の立地も崖の内部を通じて、海へと逃げれる脱出路を確保するためのようだ。
そのため、小さな船を隠しながら造るにはうってつけの場所だったというわけだ。

「しっかし、あたしら救助隊の一員もこんな仕掛けがあるなんて知らなかったぞ」
「ハハッ、そりゃあラプラには教えてねぇからな。 っても、マジカルズならイオに教えてあるから何かあった場合でも問題は無かったがな」
「なにぃ?」

 カリムの言葉を聞いてラプラが隣を歩いているイオにいぶかしげな視線を向けた。

「だって、お姉ちゃんが知ったら、誰かにすぐ話すか、何度か仕掛けを動かして遊びそうじゃない」
「あたしの口はそんなに軽くねぇよ! ……まあ、確認のために仕掛けは何度か動かすことは否定しないが」
「やっぱりするんじゃないか!」
「ちょっと待ちな! なんで、あたいにも教えてくれなかったのさ。 あたいはラプラと違って、仕掛けを動かすような子供じみた事はしないよ!」
「……クロネはうっかり話しちゃう可能性が高いから」
「意識していたとしても、クロネは口を滑らすからな」
「……あたい自身、すぐに否定できないところがなんか腹立つよ」

イオとラプラに指摘された事を少なくとも自覚しているクロネは悔しそうな表情をしていた。

「まあ、こうなっちまった以上、事が全て終わったら救助隊にいる奴ら、全員に周知するつもりだ。 お前らが仕掛けを動かそうが、口を滑らそうが救助隊の中なら問題ねぇってこった」
「……なんか、素直に喜べない信頼のされ方だな」
「あたいもさね」
「そう思うんだったら、2匹とも少しは改善する努力をしてよ……」

 ぶすっとした表情で不満を隠そうともしないラプラとクロネにイオはため息をついたのであった。
そんな軽いやり取りを何度か繰り返しているうちに、階段を降り終わり、平坦な道を少し進んでいくと開けた場所に辿りついた。
 そこには、シュテルン島に向かう時に乗った船より小さいが、しっかりと船と呼べる形のものが海に続いていると思われる水路の上に浮いていた。

「おお、カリム。 もう来おったか」
「よう、アバゴーラさん。 んで、船の様子はどうだ?」
「準備は万端じゃ。 あとはお前さん達が乗りこむだけじゃ」
「よし! それじゃあ、どんどん船に乗ってけ。 準備ができたら出港するぞ」

 カリムの指示に従い、一同は順番に船に乗っていき、ちょうどアセビが船に乗ろうとした瞬間――

「兄ちゃん!! 僕も連れて行ってくださいですん!」
「シン! 何故ここに?」

 アセビの弟であるシンが急に表れて抱き着いてきたのである。

「すみません。 見送りのために私も別の入り口からここに来たのですが、ついて来てしまっていたみたいで……」

 サラが申し訳なさそうな表情で説明すると、事情を理解したアセビはしゃがんでシンと目線を合わせながら話した。

「シン。 お主は連れて行けぬと、昨晩、何度も言ったでござろう?」
「嫌ですん! 僕もついて行くですん!」
「わがままを言うな! よいか? 拙者達は遊びに行くわけではござらん。 今回の船旅はそれほど危険な旅になるでござろう。 そんな危険な地に未熟なお主を連れては行けぬでござる」
「で、でも。 そんな危険な場所に兄ちゃんが行く必要はないはずですん」
「……拙者は行かなくてはならぬ。 仲間の仇を取るためにも」
「そんなの僕は望んでないですん!! ただ僕は、僕はッ……!」

 シンが言葉を詰まらせて泣き始めると、アセビはシンの頭を優しく撫でながら優しい口調で言った。

「……すまぬ。 だが、拙者が前に進むためにもこの戦いから逃げる事は出来ないのでござる」
「ひっぐ、ひっぐ。 ……兄ちゃん。 絶対、帰ってくると、約束してほしいですん」
「……わかったでござる。 ならば、兄ちゃんからは次に会う時にその泣き虫を直しておくと約束してほしいでござる」
「……わかったですん! 約束ですん!」

 シンは両手で目を擦って乱暴に涙をぬぐうと、泣き腫らした顔でアセビに精一杯の笑顔を向けた。

「ああ! 約束でござる!」

 アセビはシンの右手を握手するような形で掴むと、軽く上下に揺らした。
 その様子を船の上から見ていたクロネは号泣して、手にしたハンカチを握りしめていた。

「くぅ~! 感動するね! あれこそ本当の兄弟愛だよ!」
「いい光景なのはわかるが、そんなに号泣するほどか?」
「っかぁー! ラプラはわかってないね~。 兄と一緒にいたいと思う弟の一途な思いと、弟を思ってこそ連れて行かない兄の苦渋な判断! これで号泣しないでいつ泣くんだい?」
「そんなこと言われても、なぁ?」
「ま、まあ、兄弟の形や感じ方なんてポケモンそれぞれだから、えーと、僕からは何とも……」

 ラプラが困ったように視線をイオに向けたので、イオも何とかそれっぽい事を言ってフォローしようと頑張ったがうまく言葉が出てこなかった。

「まったく。 2匹も一応は姉弟なんだから、日頃からあれぐらいのスキンシップがあってもいいんじゃないのかい?」
「無理」
「無理です」

 声を揃えて同じ答えを返したラプラとイオ。
クロネは昔からラプラとイオの姉弟としての関係性を知っており、この返事がくるのは容易に想像できていたので、あえて大きなため息をついた。

「はぁー。 どうやら2匹には、あたいの純粋な感性が理解できないみたいだね」
「さっすが、自分探しの旅に出て、空腹で行き倒れてた奴はいう事が違うねー」
「そうだろー? あたいの感性は唯一無二なのさ!」
「クロネ、たぶんお姉ちゃんは褒めてないよ」

 マジカルズが茶番じみた会話を繰り広げている間に、当のアセビはとっくにシンとの会話を済ませて、船の船頭付近に腰かけた。

「全員乗ったか? あと残るは」
「私だけのようだね」

 カリムの言葉を引き継いで現れたのは救助隊連盟代表のネロであった。

「遅れてすまない。 急いではみたのだが、ギリギリになってしまったようだ」
「構わねぇさ。 立場があるやつの苦労は身に染みてわかるからな」
「まあ、事務系の仕事はほとんど私がやっていますので、カリムはネロほど忙しくないですがね」
「なんだと?」
「事実を言ったまでです」
「フッ、相変わらず君らは仲がいいな」

 カリムとサラのやり取りに懐かしむような視線を向けながらネロは呟いた。

「さて、遅れておきながら悪いのだが、1つ聞いてもいいかね?」
「何だ?」
「この船の操縦は誰がするのかな?」
「もちろん団長である俺がする! ネロ、お前は安心して休んどきな」
「ほう。 君が操縦とは、……心配だな。 サラ、すまないが今からでも私に船の操縦について簡単なレクチャーをしてくれないだろうか?」
「わかりました。 それなら設計者であるアバゴーラさんから直接伺った方がいいかと」
「あ、おい! お前ら! 俺が操縦できるんだから大丈夫だろ!」

 カリムの声を無視して、ネロとサラはアバゴーラの元に行ってしまった。

「……ったく。 別に俺が出来るんだから問題ないだろ」

引き止めようと伸ばした手をゆっくりと下げながらカリムは拗ねたようにぼやいていたが、この船に乗っている全員はネロの意見に満場一致で賛成だった。
 ガブリアスという種族的な見た目からもそうだが、今までのカリムの性格から船の操縦のような繊細な操作が必要となる事に関しては上手くできるイメージが想像できなかった。
 船の上で待つこと数分、レクチャーが終わったのかネロが乗船してきた。

「待たせてしまってすまない。 マニュアルを貰ったので、細かい部分は操作しながら把握するとしよう」
「その必要はないぜ。 俺がメインで操縦する。 ネロ、お前の出番はねぇよ!」
「そうあればいいんだがね」

 自信満々のカリムの発言にネロはやれやれと言った感じに肩をすくめた。

「さて、みなさんの準備も整ったと思いますので、そろそろ出発とさせていただきます。 トリスイルまでの船旅は1週間と少々長く、狭い船の上では退屈に感じるかもしれませんが各自、気を緩めることなく、船の上で出来る事をしてください」
「はい!」
「オッケー」
「あたしらに任せときな!」

 サラの言葉に乗船しているポケモンが各々の言葉で返事を返し、その反応にサラは頷くと、カリムの方を見て言った。

「カリム。 みなさんを頼みます」
「おう! 俺の留守の間、レベルグを任せたぞ!」
「言われるまでもありませんね」
「ヘッ! そりゃあ頼もしいかぎりだ」

 サラが挑戦的な笑みを向けると、カリムも口元を緩めて笑い、船室の中に入って行った。
少しの間を置き、小さなエンジン音が聞こえ出すと、船がゆっくりと動き始めた。

「兄ちゃーーん! いってらっしゃいですーーん!!」

大きな声を出して見送るシンにアセビは船の上から手を上げる事で答えた。

「大事に扱うんじゃぞー! くれぐれもぶつけんようになー!」
「わーってるよ!」

 アバゴーラの声に負けないぐらい大きな声を船室から張り上げたカリム。
 サラ達の姿が見えなくなると、船はゆっくりと速度を上げていき、暗い洞窟内を抜けて、日が昇ったばかりの明るい海へと出た。
船が進むにつれて、どんどん遠ざかっていくレベルグの街並みを船に乗る全員はそれぞれの思いを胸に、ただ見つめ続けたのであった。
これにて『5章 交錯編』は終了です。
この章は二手に分かれるという事で、それぞれの視点によって時系列が前後する事や
登場するキャラクターの心情などが交錯するという事で章題にしました。
次の6章はいよいよ敵との決戦となります。
また更新期間が空いてしまうと思うので、首を長くして待ってもらえれば幸いです。

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