第108話 疑問

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 赤い鎖――それはかつて神族が何らかの形で過ちを犯した際に、躾という名目で動きを封じるための拘束具である。鎖を繋がれた者は絶対に自らの力で脱出することは出来ず、外からの助力を必要とする。
 世界が創造されてからほぼ使用されることがなかったが、ここにきて、第1神族のディアルガが赤い鎖で拘束されているとは思わず、その光景をパルキアが少し遠くから眺めている。

「完全に自我を失ってんな……早く鎖外して、暴走状態止めねーとな」

 全身が橙色に光るディアルガを見て、パルキアは早速赤い鎖を外そうと近づく。一定の距離を置いて、狙いを定めて攻撃を仕掛ける。

「“はかいこうせん”!」

 まずは“はかいこうせん”一発でどれくらい鎖が壊れるかを見極めようとする。攻撃による白煙が消えるのを待って鎖を見るが、ヒビが入ったか入ってないかわからない程、変化がなかった。

「あーめんどくせー。“きあいだま”!」

 休むことなく“きあいだま”を同じ場所にぶつける。集中的に攻撃を1箇所に当てていくことで耐久性をなくすつもりのようだ。だがまだ2発目。そう簡単に傷すらつかない。

「“ギガインパクト”!」

 次々と大技を繰り出し、鎖を打ち砕こうとするパルキア。神族にもなると大技の反動を受けずに攻撃を続けることが出来るため、その体力は相当なものである。
 とにかく徹底的に叩く、これがパルキアの戦闘スタイルなのだろう。だが闇雲にではなく、サイクスのように練られた戦略を持っての行動を得意とする。

「あー全然傷もつかねぇ。“あくうせつだん”もこの鎖には無意味だし」

 “あくうせつだん”はその名の通り、周囲の空間および物質を切断する技である。しかし赤い鎖に対してはその影響は皆無で、鎖はおろか、束縛されている物質も切断することができない。
 次はどうすればよいかと考えあぐねながら辺りを見回していたところ、パルキアはあることに気づく。

「あれ、この部分、鎖に傷が入ってやがる」

 よく見ると、攻撃を加えていた部分とは別のところに傷が入っていた。わずか2箇所であるが、先程の無傷の状況と比べると大分壊しやすくなっていると言える。
 そこに集中的に力を加えれば、赤い鎖を壊すことが可能になる、そう思ったパルキアはすぐに技を繰り出す体勢を整えたが、頭に1つ疑問が生じた。

(ちょっと待てよ。何で鎖の外部に傷がついてんだ?)

 冷静に1歩引いて考えると、そもそも赤い鎖に傷がついていること自体が問題と気づく。外部から衝撃を与えない限り、傷はつかない。そしてこの鎖は特殊な方法で作られるものゆえ、壊れると1から作り直しになる。

(これじゃー、壊してくださいと言わんばかりの状況じゃねーか。ギラティナがこんなミスするなんてありえねー)

 何者かが故意に鎖に傷をつけたに違いないとパルキアは推測する。一旦鎖を壊すのを止め、考え始めた。

(……そもそも、こんなスムーズに事が運びすぎてねーか? ホウオウの羽を隠した“国”へ向かわせたのも予想より早えーし、俺にディアルガの救出を促してのこれだぜ。まるで……!)

 一瞬、何かに気づいたかのように後ろを振り返る。だが誰もいない。しばし何もない空間をただぼーっと見つめ、自分の考えを振り払うかのように首を横に振る。

(そんなわけねーな。余計な憶測は隙を与えるだけだ。今はディアルガを助けて、ギラティナんとこ戻ることだけに専念すっか)

 そう自分に言い聞かせると、パルキアは傷が付いている鎖に対して重点的に攻撃を加え始めた。先程と比べ、攻撃をする度に明らかに鎖の傷が広がっていくのを体感できている。
 更に追い打ちをかけるように攻撃を強めていく。そして鎖が壊れる目処が立ったのか、最後は気合の一発、“きあいパンチ”で決定打を与える。

(うっし、とりあえずは……げっ!)

 鎖が破壊された瞬間、パルキアはふと思い出した。現在のディアルガは暴走状態であることを。

「やっべ! まだ暴走状態だった!」

 案の定、雄叫びを上げながらディアルガは大量のエネルギーを放出する。パルキアは全身にビリビリと直にエネルギーを浴び、数カ所切り傷がついてしまった。

「はっ、はっ……なんて力だ……俺ほどではねーけど」

 傷口からの出血を手で止めながら顔を上げると、それまで橙色を帯びていたディアルガの体が、若干ではあるが正常の青色に変化しつつあった。暴走の原因となっている“負のエネルギー”を放出しきれば元に戻る。

「うし、じゃー俺のエネルギーを注ぎ込んで、悪いエネルギー全部出してやっか!」

 そう言うと、パルキアは暴れるディアルガにがっしりとしがみつき、動きを抑えようとした。そして自身のエネルギーを両手に集中させ、ディアルガへと流していく。
 しかし簡単にはいかず、暴れるのを抑えるだけで相当困難を極めている。体力で言えば双方はほぼ互角、気を抜くとすぐにやられてしまう。

「ぐぅー強ぇー……早く元に戻りやがれ!」

 必死に抑え、どうにかしてエネルギーを注ごうとするが、思うように注げずにいる。だが徐々にではあるが確実に、ディアルガの橙色に帯びた体が青色に戻りつつある。
 よし、この調子だ。早く戻れと思っていたその矢先、いきなりディアルガがパルキアの肩に噛みついた。本能とは別に、エネルギーの注入を防ぐかのように。

「ぐあっ!」

 痛みが全身を駆け巡った。ディアルガの牙数は多くないものの、苦痛を与えるには十分な鋭さはある。一瞬怯みかけたパルキアだが、滴っている血の勢いが増すくらいに力を込め、エネルギーを送り続けた。

「早く……早く!」

 焦りを募らせながらも、必死にディアルガを押さえ込みながらパルキアはエネルギーを与え続けた。自我を取り戻し、一緒にギラティナを止めてほしい、それだけを祈って。


 無我夢中になっている間に、ふと、ディアルガの動きが鈍くなったのを感じた。一旦パルキアは手を止めてディアルガの姿を見ると、その体は完全に元の青色へと戻っていたのだ。
 一呼吸おき顔を上げると、瞑っていた目を開いたディアルガがパルキアの方を向いた。顔を見合わせたまましばし互いに何も言わず、出方を伺っている。

「……パルキアか」
「そうだ。もう十分暴れただろ?」

 そこにいたのは、紛れもなく自我を取り戻したディアルガであった。しかし相当な体力を消耗しているせいか、疲労を隠せないでいる。そしてそれはパルキアも同じである。

「ちょっと疲れちまったから、回復するまで何があったか聞かせてくれ」
「そうだな。何処まで事情を知っているかによるが、共有しよう」



 今から10年程前の話。神族の中ではホウオウがあまり姿を見せないことを気にしていた。それまでのように頻繁に神族と交流していたのが嘘のように、ぱっと数週間単位でいなくなることが増えていたのだ。
 そんなある日、ディアルガのもとにホウオウが突如やって来た。話を聞くと、ギラティナを説得できそうだという。だが、神族の中でも自分達だけで話がしたいと言ってきたとのことで、内密に行動しようと提案してきたのだ。
 長年誰もが説得を試みて失敗に終わってきたギラティナの件なだけあって、ディアルガは何も疑うことなく、ホウオウに従いこっそりと、冥界へ向かった。

 “国”を通り抜け、いとも簡単に冥界へと2人は足を運んだ。なぜ結界がないのかディアルガは一瞬考えたが、それよりもギラティナのことが頭に浮かび、すぐに忘れた。

「もうすぐの場所に、ギラティナは待ってくれている」

 そう説明したのはホウオウだ。ここまで来ると何の疑いもなく、ホウオウの後ろをディアルガはついていく。だが次の瞬間ディアルガが目にしたのは、衝撃的な光景であった。

「ギ、ギラティナ……!?」

 ディアルガの目に映ったもの、それはギラティナの身体“のみ”であった。俗に言う“亡骸”が宙に浮いている光景は、頭を混乱させるのに十分な印象を与えた。

「そうだ。我が身は回復できる状態にあらず」
「我が、身……?」

 ディアルガの混乱はさらに続く。それは“我が身”と口にしたのがホウオウだからである。どういうことだと問いただすと、素直にホウオウ、もとい、ホウオウの姿をした者が応える。

「マナフィの“ハートスワップ”だ。我とマナフィ、そしてマナフィの身体を持した我とホウオウとでな」
「何だと! つまりお前は……!」

 そこまで言いかけたところで、突如ディアルガの周りに赤い帯状の物が現れ、瞬く間に片側の足に絡まりディアルガを拘束してしまった。

「あ、赤い鎖だと!?」
「よく聞け。汝、我が身体を治せ。時の力で、完治させよ」

 赤い鎖を使える者は第1神族だけと定められている。そのため、ディアルガは確信を持った――目の前にいるのは、ホウオウの身体を有したギラティナであることが。
 ギラティナは、ディアルガの持つ時を司る力を利用して自身の身体を元に戻そうと企てたのだ。何故再起不能な状態になっていたかは語られなかったが、状況から察するに、ホウオウと戦ったに違いない。

「ギラティナ、お前!」
「手荒かもしれぬ。だが我とて為すべきことあり。邪魔させぬ。さもなくば、汝居ぬ世界の平衡が乱れ、世界は滅ぶ」

 どうやら、ギラティナの身体を元に戻すまでは、赤い鎖から解放される術はないようだ。黙っていても状況が変わらないと悟ったのか、ディアルガは素直に要求に応じた。

「相当な損傷とみた。それに鎖で半分拘束されている故、時間を要する」
「我に時間はない。急げ」

 時間稼ぎも兼ねて、ディアルガはギラティナの身体の修復をゆっくりと始めた。この間に、ギラティナに気づかれないよう、時の力を無作為に放っていた。誰かに危機を伝えるかのように。
 過去を超え、未来を超え、世界も超え、あらゆるところに放たれた時の力は各地で影響を与える。育った花がつぼみに戻り、休火山が活火山に戻りもした。

 ――そしてある世界では、時の力の影響を受けたポケモンが退化した。

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