19.皮肉めいた遂行

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 男に並び、聳えるジャラランガ。歴戦のその拳に纏うオーラは、見る者を圧倒せんばかり。事実、彼女の手持ちでも防御に自信のある、ミロカロスを一撃粉砕してしまった。
「さて、続けようぜ。あちらもまだらしいしな」
 ラッセルには、相方の様子を伺う余裕すら、あるらしい。虚をつかれた助手だが、それでもやる事は決まりきっている。
「お願い、サザンドラ……!」
 唯一となったエースに、ジャラランガ撃破という大役を任せる他ないのだ。
『気をつけてロ! あのジャラランガは、全部の能力が上がってるロト!!』
 助手には知る由もないが、専用Zワザ『ブレイジングソウルビート』は、攻撃しながら能力を全て上昇させる。正しく必殺技に相応しい。彼女もその恐ろしさは俄に理解しており、同時に相手のエース級であると確信していた。
「『りゅうせいぐん』!」
 “こだわりスカーフ”を持つサザンドラは、素早さが上がったジャラランガの、更に先手を取る。効果抜群にして、最大火力をジャラランガに叩き込む。
だが、未だに残る『ひかりのかべ』と上がった特防が、流星を阻んだ。
「『インファイト』」
「……っ!」
 再び、三つ首より流星を構えるサザンドラだが、瞬速に見紛うジャラランガの拳が、それを逃がさない。あれよあれよと近距離に持ち込まれ、『インファイト』の拳を真正面から喰らう結果になった。
 結果は自明の理。サザンドラ側の火力が追いつかず、一方的に嬲られて敗北を喫した。
「ご苦労さん。後は、サーナイトとギルガルドかね。さっさと、メガシンカを切らない理由は何だ? 嬢ちゃんよ」
 助手は、ラッセルの言葉には耳を貸さず、ひたすらに思考する。初手にいたオーロンゲを突破するには、ギルガルドを残さねばならない。しかし、あのジャラランガを突破出来るポケモンは、今現在いない。
 どれだけ知略を巡らせようとも、相手の弱点を探そうとも。合致する勝ち筋は、見つからない。

「はみぃ!」
 と、そんな混濁する思考を遮るかの如く。助手の持つボールから登場したのは、ユキハミ。まだ進化してもいない、小さい体の食いしん坊ポケモンだ。
「……貴方が戦うと、言うのですか」
「もす!」
 タイプ相性で云えば、確かに互角だろう。しかし、その種族に於ける攻撃性能の差は、甚だ残酷というもの。
 それでも、わざわざ自分の為に立ち上がったユキハミの闘志を、助手はむざむざ捨てはしなかった。
『ロ……マジでやるロト?』
「やります。本気で、ユキハミを信じます」
 小さな勇気あるポケモンと、己の過去を知る男に立ち向かう。構えるジャラランガは、ユキハミだろうと、全く油断する素振りを見せない。
「顔つきが変わったな。見せてもらおうか……その無謀って奴を!」
 拳の鱗を振り、ユキハミへと一気に詰め寄るジャラランガ。摩擦による音波は『スケイルノイズ』となり、ユキハミに襲い掛かる。
「『むしのていこう』!」
 僅かなダメージ。だが、『むしのていこう』による効果で、『スケイルノイズ』の威力を低下させる事に成功する。ユキハミには手痛いダメージだが、根性のみで、自身の数倍はある体躯に立ち向かう。既に満身創痍。勿論だが、長期戦は難しい。
「『インファイト』……決めてやりな」
「ユキハミ、お願い……『こなゆき』!」
 初撃、拳をかち当てたジャラランガだったが。もうひと振り、という場面で驚愕する。
 空いた左拳を『こなゆき』にて凍らされたのだ。正確にして、細い勝ち筋を負った的確な指示。咄嗟に、『ワイドブレイカー』にて、尾で薙ぎ払う判断を取ったが――。
「ユキハミ……!」
 空中へと放り出された氷の繭。朧な月の光が外殻にて散乱すると、その小さな体は、月光よりも燦々と光り出す。
 透明な翅を羽ばたかせる、美しい氷蛾。彼の名はモスノウ。この土壇場にて、ユキハミはトレーナーの期待にきっちりと応えたのである。

「流れが悪ぃなあ……おい!『インファイト』」
 拳を叩きつけ、無理やり凍傷を回避したジャラランガ。猛進を仕掛け、モスノウを仕留めに掛かる。相手も度重なる『インファイト』と『スケイルノイズ』にて、防御が下がり切っている。仕掛けるなら、この一撃のみ。
「お願い、『ふぶき』!」
 肉薄するジャラランガを襲う、猛吹雪。拳がモスノウを捉えようと、何度も勇み足を進めるが。倒れたのは、氷漬けになり、凍傷だらけになったジャラランガの方であった。サザンドラと二匹がかりで、ようやっとあの大敵を討ち取ったのである。
「……モスノウね。土壇場で根性にやられた、という訳か」
 とはいえ、モスノウの体力は残り僅か。相手のオーロンゲはまだ控えており、最大でも残り三体がいる計算になる。『ひかりのかべ』等のフィールド効果は消えたが、ここまで健闘しても、状況は依然不利である。
 ラッセルは焦る様子もなく。淡々と次のボールを投げ入れる。
「ま、いいさ。今のギルガルドじゃ、コイツは……突破出来んからな」
 現れたのは、アーマーガア。はがね・ひこうタイプにして、鉄壁の黒烏である。モスノウには、天敵並の相性不利を取る相手。
「モスノウ、『ふぶき』」
「『アイアンヘッド』」
 『ふぶき』という命中に難があるわざが、そう何度も当てられるほど、モスノウには体力も気力も、残っていなかった。的確な『アイアンヘッド』にて、沈められてしまう。
「……ありがとう。本当に、よく頑張って下さいました」
 朧気な意識で見上げるモスノウに、礼を告げると、彼女はボールへと戻した。残る手持ちは、二体。手負いのギルガルドを出せる相手ではない。
 彼女が取れる作戦は一つ。彼を指示して戦い、勝つということ。
「……この勝負、私と貴方に、掛かってます」
 彼女が決意に満ちた目で投げ入れた、ゴージャスボール。対戦相手、ラッセルは驚いた様子だが、それはやがて不敵な笑みに変わる。
「へえ、面白いじゃねぇの」
 アーマーガアに向かい合う、今回の助手の真打ち。終局に相応しい顔ぶれに、ラッセルは満足そうに笑っていた。





 場面は再び、旧・ローズタワー15階。
 こちらは探偵レスターの右腕、ゴチルゼルと睨み合う怪盗の男。その手持ちとは、カロスにて新しく仲間に加えた、クレッフィであった。
「さて、クレッフィ。君を連れてきた理由を見せてやりたいがね」
「……何とも、おあつらえ向きだな」
 軽口叩きながらも、レスターはこのポケモンを警戒していた。“いたずらごころ”という強力な特性。また、ゴチルゼルには突破が厳しい、はがねタイプのポケモンだ。
 『ひかりのかべ』や『でんじは』での補助能力にて、後続のゾロアークやドンカラス、ひいてはボーマンダをサポートする算段であろう。青年は、クレッフィを見てそう判断した。
 その上で、ゴチルゼルに出した指示は一つ。
「ゴチルゼル、『コスモパワー』」
 空を仰ぐゴチルゼルに、星天の光が降り注ぐ。防御・特防共に高め、盤石を固める作戦だ。
 だが、怪盗とクレッフィの動きは違う。
「『マジカルシャイン』!」
 何と、ゴチルゼルへと攻撃を仕掛けたのだ。クレッフィの特殊攻撃など、大したものではない。その上、『コスモパワー』で上がった特防にて、ゴチルゼルに与えたのはかすり傷程度だ。

 しかし、その時のレスターはまさか、と蒼白した。相手の狙いは、削りではない。そして、何もクレッフィは“いたずらごころ”とは限らない。
「君はゾロアークが退いた時。何故かフーディンからゴチルゼルを退かせた。あの時こそ、『コスモパワー』にて、ゴチルゼルを要塞化するチャンスだったというのに。何故か? 答えは一つ」
 クレッフィの『マジカルシャイン』は、ゴチルゼルに命中した。しかし、それだけに留まらず。
 相棒ゴチルゼルの隠し持つ、とあるアイテムを、“特性:マジシャン”にて華麗に奪い去ったのである。
「フーディンの『トリック』を何より警戒していたから。違うか?」
 クレッフィの小さな手には、褪せた青い表紙に世界樹の絵。彼らの探し求める、『エイクスュルニルの福音書』そのものだった。

 自分の仕掛けと推理。それらを全て看破され、上を行かれた。レスターは薄く微笑むと、余裕ある怪盗の男に語りかける。
「貴様は凄い……大したものだ。この機転の早さには、賞賛しかない。しかし、だからこそ聞かせて欲しい」
 大切な神話学書を失っても、青年の真っ直ぐな眼差しは変わらず。ゴチルゼルも、不意を突かれようが戦意は保ったまま。まだ、彼らの勝敗は決していない。
「どうして、彼女と組んでいる……! キース・アンドールフィ!!」
 仕掛けた金髪の青年とゴチルゼル。ゴチルゼルの一手は、福音書を取り返そうとした『トリック』。しかし、それを見越したかのように、クレッフィには防がれてしまう。先制にて全ての変化わざを防ぐ、『トリックガード』がクレッフィらを守ったのだ。
 キースは、初めて自分の名を口にした敵に、一瞬動揺したが。それ以上に、相手の執念ともいえよう気迫に、疑問しか残らない。
「どうしても何も……僕と彼女のコンビは、成り行きに近い」
「成り行きではない! 彼女の両親や、兄こそが!」
 小競り合いに負け、膝をついたゴチルゼルが立ち上がる。キースは、次なる指示をクレッフィに出した。しかし、それ以上に。青年の次の言葉に、意識を割かれていってしまう。

「お前の父親を巻き込んだというのに! 」

 『アシストパワー』がクレッフィを襲う。攻撃に切り替えたゴチルゼルに、クレッフィの特大の一撃、『てっていこうせん』が貫く。ゴチルゼルは立ち上がり、代わりに自主退場という形でクレッフィが倒れた。
 戦況が良くなる一方で。キースの心はさざめいてならない。精神攻撃だ、と自分を納得させたい一方で。相手は、『福音書』の中身やイーストンという一族を、よく知る可能性が高い。それを否定する術はない。何度も自分で調べて、得た情報だからだ。
 ゴチルゼルは、主人の心を察したかのような、悲しい目をフィールドへ向ける。それでも尚、“かげふみ”にて最後までプレッシャーを与えている。一息ついた、金髪の青年はまたも言葉を紡ぐ。
「……それでも、私は苦くも納得している。彼女があんなに楽しそうなのは、初めて見た……怪盗レイス、お前が腑抜けた場合には、私が許しはしない」
 その言葉にこもっていたのは、ただの幼なじみに対する感情とは、到底思えなかった。恐らく自分以上に、“消えてしまった幼なじみ”を彼は探していたのだろうと、察してしまうほどに。
 決意も固く、彼を必要以上にライバル視してきた、この私立探偵。彼に託されたと見て良いのか、キースには図りかねていた。

「そうか。何だろうと僕は、この“怪盗レイス”は。ただ、華麗に舞うのみ。最後までね」

 怪盗の責務は果たしたが、このままではゴチルゼルを倒しても、お得意の『テレポート』による逃走は封じられている。勝敗はまだ付いていないのだ。
「ゴチルゼル、いつも済まない」
 傷ついた相棒を気遣うレスター。忠義心が高いのか、ゴチルゼルは薄く微笑むのみ。つまり、戦意はそのまま。戦況は互角に近い。
 そのような、闘志を再び焚き付けた彼らに。優美な怪盗の男は、ゆるりとマントを翻す。取り出したのは、一つのモンスターボール。
「だがな、探偵。僕は怪盗……泥臭い勝負事は、苦手でね」
 解放したポケモンに。見覚えがあるにも関わらず、一切の警戒がなかったその正体に。レスターとゴチルゼルは驚愕する。

「サーナイト……!? 馬鹿な、助手の彼女は『テレポート』を切ったのか!?」
 怪盗が出した真打ちは、助手のサーナイトであった。“特性:トレース”にて、相手のゴチルゼルをコピーする、優美な抱擁ポケモン。
 “かげふみ”という特性は、全ての交代または戦闘離脱を禁ずる。しかし、ゴーストタイプまたは同じ“かげふみ”のみが、その縛りからは外れるのだ。
 つまるところ、怪盗とサーナイトがこの場で取る行動は、ただ一つ。
「オ・ルボワール! ガラルの探偵、レスター・レヴィングストンよ」
 サーナイトが礼儀正しく頭を下げると、『テレポート』にて彼らの姿はバトルタワー内から、煙のように消えたのだった。





「ドンカラス……だから、サーナイトが出てこなかったのか」
 ラッセルとアーマーガアの前に羽ばたくのは、同じく黒鳥。怪盗のドンカラスである。相変わらず懐いてはいないが、今は助手の指示を仕方なく聞いてやる、という気概を感じる。
「面白い……『ボディプレス』!」
「来ます! 『ねっぷう』!」
 ドンカラスとアーマーガアでは、素早さで若干ドンカラスに武がある。熱風を浴びせ、『ボディプレス』を受ける前に墜落させた。
「ドンカラス、『ふいうち』」
 助手の指示にて、アーマーガアへと、渾身のとどめを刺しに掛かる。しかし、ラッセルはそれを易々とさせてくれはしない。不意打ちの指示を聞いた瞬間に、アーマーガアを引っ込める。
 しかし、その行動こそが命取りであった。交代際のアーマーガアに、ドンカラスの重鈍な一撃が突き刺さる。『おいうち』にて、戻すことを許さなかったのである。実際の指示とは違う攻撃。助手が、ドンカラスを預けられていたからこその、連携であった。
「やるじゃねえの、馬鹿正直に信じちまったな……おう、オーロンゲ!」
 恐らく、口ぶりからして最後の一匹。フェアリータイプも持つオーロンゲは、ドンカラスに対しても厳しい。しかし、“自信過剰”な彼からすれば、全てを討ち取ってやると、猛禽に見紛う目付きをしている。
「仕留めろ、『ソウルクラッシュ』!」
「『ブレイブバード』!」
 燃えるような勢いを纏うドンカラスに、拳に力を溜めるオーロンゲ。勇ましい黒鳥の一撃が、僅かに早く、オーロンゲの腹部に突き刺さる。『ソウルクラッシュ』の拳が眼前に迫るが、惜しくもドンカラスには届かなかった。
「マジかい。本気だったがなあ。俺も、もう引退かね」
 深く息を吐き、ボールをしまう男とは違い、彼女は、助手は。ギリギリで勝ち取った勝利に、未だ緊張が解けない。
『ヒヤヒヤしたロト! 良かったロ〜』
 彼女の周りを飛び回る、スマホ入りのお喋りロトム。助手は目の前に飛んできた、ドンカラスを労うつもりだったが、それは拘りの強い彼に拒否された。
 長きに渡るラッセルとの勝負は、助手の勝利で幕を下ろしたのだった。

 憑き物が落ちるかの如く、激情を矛先にした男は既にいなかった。代わりに、傷ついた自分の手持ちを気にして、助手とロトムの事は見逃す様子を見せる。
「……いい仲間に恵まれてんだな。精々、大事にするこった」
 助手は、男の最後の言葉は、皮肉に思えてならなかった。何故なら、彼女達の勝利そのものが、作られた舞台であると。
 “助手”として振る舞う彼女は……知っていたからだった。

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