18.虚栄なる優しさ、真誠なる欺瞞

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「……幼なじみだって?」
 彼は、未だにその言葉を反芻するばかり。もう数年単位の付き合いになる、あの助手の彼女からそのような話は聞いたことがない。自分が過去を隠すのと同様に。キースもまた、彼女の、イーラである過去を尋ねなかった。
 しかし、それも今にして思えば。虚栄なる優しさに過ぎなかった。

 だが、今はそんな遅疑をしている場合ではない。レスターとの戦いに勝利し、怪盗レイスとしての責務を果たさねばなるまい。
「頼むぞ、フーディン」
 静かに頷く一番手。お得意の『テレポート』は、目の前に居るゴチルゼルの“かげふみ”により、封じられている。自分を倒さねば先に進めない。探偵である彼の言葉は、真であるのだ。
「貴様の実力、見せてもらおうか」
 レスターと意思疎通の取れたゴチルゼル。彼が攻撃の合図を示そうとした、まさにその時であった。
「そうしたいところだが。フーディンは特殊攻撃・素早さ共に優れたポケモン。君のゴチルゼルで、どうにか出来るのか……」
「『マジカルシャイン』」
 金髪の青年は、滔滔と続く、怪盗の言葉には一片の揺らぎも見せず。しかし、ゴチルゼルはタイプ一致でもなければ、二倍の威力でもない。『マジカルシャイン』をフーディンへと浴びせた。
「……私が、貴様の手持ちや経歴を調べてないとでも?」
 そこには、フーディンはいない。代わりに、片膝を付き、“イリュージョン”が解けたゾロアークがいた。間髪入れずに、怪盗である彼の常套手段を見破ったのである。
「そうか。では、初手は痛み分けってとこかな」
 一瞬驚く、青年にその助手であるゴチルゼル。“かげふみ”をされているにも関わらず、ゾロアークはフーディンへの扮装から切り替えし。手早い『とんぼがえり』にて、怪盗の手中へと帰ったのである。
 レスター青年は察する。このような効果を持つアイテム、“きれいな抜け殻”の存在を。同時に、相手もこちら側を見くびってはいないと判る。事前準備の丹念さは、禁書の事件と依然変わりない。
「確かに頭は回るようだ。カロスの怪盗とやら。ゴチルゼル、一旦下がってくれ」
 キースには、この交代は疑問しかない。ゾロアーク以上にゴチルゼルに有効打のあるポケモンは、現在いない。そのゾロアークが退いた以上、あの“かげふみ”にて居座るものだと、彼は考えていた。
「……面倒になってきたな」
 珍しくも口苦く零す、微笑みを絶やさない男。目の前の、謹厳実直が形を成したような青年に、同時に交代先を託す。
 一つ目の霊体、ヨノワールと相対するのはフーディン。こちらは、疑いようのない本物である。相性で云えばフーディンが不利だが、ヨノワールとは機動力が段違いである。
 両者、睨み合ってから動き出す。
「フーディン、『トリック』!」
「『ポルターガイスト』!」
 お互いに驚くキースとレスター。キースの『トリック』や『すりかえ』での搦手を警戒したであろう、ヨノワールの『ポルターガイスト』。レスターの思惑は正しかった。しかし、そこは怪盗も考えが及ぶ範囲。
 フーディンは、持ち物を持っていなかったのである。『トリック』は不発し、持ち物で攻撃をする、ヨノワールの『ポルターガイスト』も失敗。何も行動出来ずに、睨み合っていただけのヨノワールとフーディン。
 さすれば、両者共に、次の一手を迅速に打つ必要がある。
「……やるせないね。お互いに有効打がないとは」
「本当にそうか? 私は、そうではないと思うが」
 わざとらしく、肩を竦めてみる怪盗の男に。探偵を名乗る彼は何も変わらない。ただ目の前の戦況と、マスク越しの男の心理を探るのみ。
「『シャドーボール』」
 静かに告げる怪盗の男に、フーディンが瞬時に応じる。黒い影の塊が、スプーンから錬成される。
「やはり! ヨノワール、『のろい』だ」
 自らの体力を削り、呪いをかけようとするヨノワール。しかし、倒し切ってしまえばその効果も受けない。フーディンは真っ直ぐな機動で一投。ヨノワールは腹の大口を使い、大胆にも受け止めようとする。
「そこだ、『テレポート』」
「な!? そんな破天荒な!」
 瞬間、ヨノワールは刮目する。頭上から第二の『シャドーボール』が降り注いできたのだ。『テレポート』にて転移した『シャドーボール』は、頭上を埋め尽くす。
 これには、流石に鈍足のヨノワールには対応出来ない。勝った、と確信したフーディンとキースであったが。
 倒れたのは、フーディンとヨノワールの両名だった。
「『みちづれ』か……まずいな」
 咄嗟の判断にて、青年はヨノワールへと『みちづれ』を命じた。怪盗が要とする、多様なサポーターであり、『テレポート』使用者のフーディンが倒れてしまったことになる。
「一瞬の油断が命取りというもの。さて、貴様の精鋭、フーディンは討ち取った。次はどうする……怪盗レイス」
 厳しい目を向ける蒼眼。しかし、怪盗である彼は優美に笑う。まだまだ、このショーを楽しみたいかのように。マントを翻し、仮面にそっと触れる。
「余裕があるな、探偵君。さて、僕の“新入り”に出てきてもらうとしようか」
 レスターの後続である、あのゴチルゼル。“かげふみ”にてプレッシャーを与え続けるポケモンに、キースがカロス地方にて捕まえた、プレミアボールが投げ入れられた。
「物語の主役は、遅れて活躍するってものさ……レスター・レヴィングストン」





 場面は、バトルタワーからは一旦離れる。お互いにポケモンを繰り出した、二人のトレーナー。しかし、その余裕には雲泥の差があった。
 自分の過去を引き合いに出され、動揺した助手がなんとか投げたのは、サザンドラの入ったボール。
 しかし、初手の対面は最悪。フェアリータイプを持つ、オーロンゲであった。特に、専用わざの『ソウルクラッシュ』など喰らえば、ひとたまりない。ともなれば、彼女が出せる指示は一つ。
「う、サザンドラ…… 『とんぼがえり』!」
 焦った末の、苦しい交代わざ。判断としては限りなく正しい。だが、目の前の男はその程度の考えは、お見通しという余裕で指示を告げる。
「だろうな、『リフレクター』」
 オーロンゲの特性、“いたずらごころ”により、サザンドラよりも、素早くフィルターを展開する。これにより、助手の二番手、交代先のギルガルドにすら厳しい状況になってしまった。
『ロ……これ、かなりヤバいロト……』
 助手の補佐を任されていた、スマホ入りロトムが苦く零すのも、無理ない。何せ、彼女の手持ちで唯一の物理アタッカーは、あのギルガルドなのだ。その上、オーロンゲの優秀なタイプは、精鋭であるギルガルドとサザンドラ。両者共に負担になる。
「ここは、ギルガルドを大事にしないと。『つるぎのまい』」
「おい、『ひかりのかべ』だ。したら、下がりな」
 またしても、壁を展開するオーロンゲ。ギルガルドはシールドフォルムのまま、自身の攻撃力を上昇。その動きを見て、ラッセルはオーロンゲを下げようとする。
 これは、相手の引き先に、攻撃を当てるチャンスである。ブレードフォルムになった、ギルガルドが切っ先を向ける。
「『シャドークロー』!」
 影を手繰り、鋭い一閃が駆け抜ける。刃が襲うのは、ガラガラ。しかも、アローラ固有種のゴーストタイプのガラガラである。
 『リフレクター』があるとはいえ、それでもギルガルドの火力は凄まじい。ガラガラを、ほぼ瀕死に追い込んだのだ。
「おう、痛えな。ま、流石にかなり鍛えられてんのな。イーストンの嬢ちゃん」
「私は、怪盗レイスの助手です……ギルガルド!」
 助手の言葉に、ギルガルドは頷く間もない。俊敏な『かげうち』にて、確実にガラガラを仕留めに掛かる。だが、しかし。
「お疲れ、サザンドラとアイツさえ止めておけば……かなり苦しいだろうよ。なあ?」
 攻撃の隙に浴びたのは、『おにび』。リフレクターに加え、ギルガルドの火力を限界まで削がれてしまったのだ。ガラガラは倒れたが、その代償は大きい。手負いのギルガルドは下げざるを得なかった。
「強い……戻って、ギルガルド」
 結果的に、数的有利であっても痛み分けとなってしまった。フィールドや事前情報すら加味すれば、完全に助手の劣勢。その上、相手はかなりの戦闘の手慣れであるのを感じていた。それも、以前に戦った国際警察官の彼女より。格段に上だ。

「レスターも、お前さんの相方も。可哀想にな……くだらない揉め事に巻き込まれ、嬢ちゃんの為に躍起になっている。こりゃ、俺が汚れ役になるしかないってもんよ」
 助手であるイーラには。この男の言葉の一つ一つに、震えていた。振り解けない罪悪感に、腐食されていたのだ。
 何せ、ラッセルの言う言葉はどれも事実であり。彼女がレスターの事や兄のことをキースに黙っていたのは、彼女自身が認める罪であった。限りなく真誠な欺瞞だったのだ。
「やめて……」
 か細い声は、途切れ途切れに彼女の悲鳴を紡いでいく。今にもこと切れそうな心魂を声にする。
「他の奴が許そうと、俺は許さん。どれだけ不幸な生い立ちだろうと! 理由があろうと! お前らは、イーストンは……他人を巻き込み続ける」
「私は……」
 ラッセルの言葉に、戦意すら喪失しかけた助手。相手はバンギラスを出したというのに、まだ後続を出していない。理性を蝕む呪詛に、手は動いてくれない。
 その時だった。ロトムすら唖然とする、あの精神的な応酬の最中。勝手に、彼女の手持ちより飛び出たのは。
「ミロカロス……?」
 そう、あのミロカロスだった。彼女は普段の素直でない態度からは一変。イーラを庇うような素振りを見せ、目の前のバンギラスよりも、ラッセルをキツく睨んでいる。
『ロト! ミロカロスが怒ってるロト、「好き勝手言うな、アタクシの認めた人に」って!』
 驚くラッセルに、トレーナーの助手。ミロカロスは虹色の鱗を輝かせると、助手の指示すら待たずに、特大の『ハイドロポンプ』を、不意打ち気味にバンギラスへと命中される。
 倒してはいないものの、腑抜けたトレーナーを引っぱたくかのように。一転して、形勢を覆すほどの鼓舞を、自分自身の戦闘で魅せたのだ。
 彼女は、思い出す。サザンドラに助けられた、あの時。自分と二人で一人、と言われたあの怪盗の言葉を。
「ごめんなさい……いえ、ありがとう。ミロカロス」
 ミロカロスは、決して振り返らない。当然だとでも云うように、背中を預けるばかり。それならば、助手も最前の指示を出し、この局面を乗り越えるだけ。
「まあ良いぜ……バンギラス!」
「来ます!」
 特性“すなおこし”による、砂のフィールド。ラッセルの指示を受け、ミロカロスに近づきながら、岩隆を次々に立てるバンギラス。『ストーンエッジ』による盾だ。
 ミロカロスの『れいとうビーム』すら防がれてしまう。『がんせきふうじ』にて、頭上から攻撃を仕掛けるバンギラス。命中するが、そこには“ふしぎなうろこ”にて、防御を上げたミロカロス。かすり傷で済ませる事に成功した。
「“火炎玉”ね……なかなかガチじゃねえの」
 ラッセルは、バンギラスに距離を取らせようとする。その動作を見た、助手はすぐさま命じる。
「ここで『くろいきり』です……ミロカロス!」
 黒い霧にて、両者の視界一面が塞がってしまう。効果としては、『がんせきふうじ』の素早さ下降を戻したのみ。ラッセルが疑問に思った時には、既に作戦は完了していた。
 なんと、先程の『ストーンエッジ』の盾が、全て凍りついていたのだ。ますます呆気に取られる、バンギラスとそのトレーナー。
「『ハイドロポンプ』!」
 ミロカロスの最大火力、『ハイドロポンプ』がその凍った岩隆を打ち砕く。その瞬間、彼らは察することになる。『ハイドロポンプ』の潮流と併せて、無数の氷の礫がバンギラスを襲ったのだ。
 その物量と、『ハイドロポンプ』そのものの相性により。バンギラスは地に伏せたのだった。
『や、ヤッターロト! 咄嗟にこんなこと出来るなんて、すごいロ!』
「ええ……本当に、ありがとうミロカロス」
 助手としても、胸を撫で下ろすばかり。一時はどうなるかと思ったが、彼女の機転と、ミロカロスの意志の強さが勝利を収めたのだ。
 心底自慢そうに、微笑むミロカロス。勝利を分かち合う、そのような隙は。

 トレーナーにとっては、命取りと言う他ない。
「……な、何ですか。あの攻撃」
 目の前に立つのは、無数の鱗を付けた身軽なドラゴン。ジャラランガ。彼は踊るかのように構えると、全ての体表から、特大の音波を浴びせる。
 その攻撃、『ブレイジングソウルビート』は。特殊耐久に自信のある、あのミロカロスを。完全に一撃で倒してしまった。
「別に、見くびってた訳じゃねえが……俺が油断しねぇってのは、嬢ちゃんがよく知ってるだろうよ」
 見た事もないオーラを纏う、ジャラランガ。全ての能力を底上げした、渾身の一撃は。助手に対する“試練”の主に、相応しい絶望を奏でていた。

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