4-1 警告灯の中の月の瞳

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください





 ――約3ヶ月前、<スバルポケモン研究センター>にて


「くそっ――!」

 赤いライトが照らす施設内の通路を、青髪の青年が白衣を翻しながら駆けていた。
 青年は悪態をつきたくて仕方がなかった。
 その対象は息切れを起こしかけている自分でも、彼自身が鳴らした耳障りな警報でもない。
 目の前を駆けて逃げていく侵入者に対して、だった。

 “闇隠し事件”の謎を解明するため、他地方から調査団の一員としてこの<スバル>に来ていた青い髪が特徴の銀縁メガネの男――――ヨアケ・アサヒとヤミナベ・ユウヅキの旧友でもある、もう一人のアキラという名の青年。彼は、襲撃者を捕まえるべく奔走していた。
 襲撃者はたった一人。研究員から奪った白衣を着て、顔を黒のフェイスメットで覆っている男性である。
 事の発端はその男の手持ちであろう、ヨノワールが研究所の外壁を攻撃したのが始まりだった。

 所長の指示により研究物を守る側とヨノワールの撃退に別れた研究員。アキラは研究物を守る側について行動をしていた。
 守備陣営でもさらに二手に分かれ、所長と一部の研究員が研究室の内部を見に行き、アキラと残された研究員は、二人で研究室の入口の見張りについた。

 侵入者の第一発見者はアキラだった。
 少し経って、中から、一人の研究員が出て来る。外の方へ増援に向かうように指示された、と言って走り出そうとする彼の白衣をアキラは掴む。アキラは彼の影に何かが潜んでいることに気付き、警告しようとしたのである。
 アキラがモンスターボールを構えようとする前に、影からポケモンが飛び出しアキラ達を突き飛ばす。
 視線を彼の方へ向けるとそこにはフェイスメットの人物が、影のように黒い身体と歪んだ口元が特徴のポケモン、ゲンガーを従えていた。
 一緒に見張りをしていた仲間の研究員は伸びてしまったので、アキラは単独で駆け出す襲撃者を追いかける。

「待て!!」

 待てと言われて待つ泥棒がいるわけもないのは、彼も重々承知の上である。ある意味これは一つの警告だ。
 大人しく投降するならば、まだ手遅れにはならない、という警告。どのみち国際警察に突き出す気は満々であることは置いておく。
 フェイスメットは特殊な光学迷彩でも使用しているのか、襲撃者は初め、<スバル>の研究員の顔をしていた。つまり、今逃したら変装されて脱出される可能性が大きい。取り逃がすことは出来ない。
 幸い『テレポート』などの転移系の技の対策設備は整っているので、この施設から出さなければ、追いつめて捕らえられる。

「頼む、メシィ!」

 駆けながらアキラは相棒の一匹である、魔女を連想させる姿をしたゴーストポケモン、ムウマージをボールから出す。
 『くろいまなざし』の一つでも覚えさせておけば、と後悔しながらもアキラは現状で選べる中から最善手を打つ。
 フェイスメットの男の影からゲンガーが顔を出し、こちらをけん制すべく『シャドーボール』を放とうと溜める。その隙をアキラは見逃さなかった。

「今だ『なきごえ』!」

 呪文のように流れるムウマージの声が通路内を反響し男達に襲い掛かる。ゲンガーの『シャドーボール』を暴発させ、その余波がフェイスメットの男をよろめかせる。

「!」

 体勢を崩しかけたが踏みとどまった彼は、直感的に横に飛びのく。すると、先程までフェイスメットの男の居た虚空を爪が切り裂いた。
 男に追撃をかけたのは、他でもない彼の手持ちのゲンガーだった。

「――っ!」

 ムウマージの特徴の一つに、鳴き声によって呪文を唱え、相手を幻術に陥れるというものがある。つまり今のゲンガーは術中にはまり、トレーナーである男を敵と認識しているのであった。
 すぐさまボールにゲンガーを戻す彼。次のポケモンを出そうとする男の動作をアキラは許さない。

「メシィ!」

 アキラの指示に従いムウマージは『シャドーボール』を襲撃者の眼前に湛えた。

「動かないでよね」

 念を押して投降を呼びかけるが油断は出来ない。万が一に備え、他のポケモンを出しておくことをアキラは選択した。
 しかし、それは叶わなかった。何故なら、フェイスメットが変形してムウマージを包み込んだからだ。

「な……!」

 男の顔の姿形が変わっていた、という時点でその正体に気付けなかったことを悔やむアキラ。否、彼はその可能性も考慮していたが、昨今の技術で変装が代用可能なだけに、確信までに至らなかったのだ。知っているが故に単純に考えられなかった、それが彼の敗因である。
 つまり、被っていたフェイスメットの正体は光学迷彩などではなく、メタモンの変身能力だったのだ。
 だが、メタモンに対する驚きと比べられないモノを、次の瞬間アキラは目の当たりにする。

 まず、所々尖った長めの黒髪が見えた。
 それから顔に目をやると、前髪の合間からはアキラの見知った形の眼がそこにはあった。
 赤い光に照らされて見えにくいが、その真昼の月のような白銀の瞳の持ち主は間違いなくアキラの知る者であった。
 アキラは困惑気味にその男の名前を呼ぶ。

「まさ、か……ユウ、ヅキ……?!」

 そう、アキラが思わぬ形で再会したのは、長年失踪して行方不明だった旧友――――ヤミナベ・ユウヅキだったのだ。

 どうしてここに、とか、何やってんだ、とかアキラには言いたいことはいくらでもあった。
 だけど彼は真っ先にこう詰問していた。

「どうしてアサヒを置いていった」

 アキラは知っていた。彼女が、アサヒがユウヅキの隣に居る時に見せる、輝いた笑顔を。彼の隣に居たいと強く想う彼女の願いを。
 アキラは思い出す。“闇隠し事件”で見知らぬ土地に一人置き去りにされた彼女が、何年も経ってようやく自分と連絡が取れた時に見せた、泣き顔を。

「答えろ」

 冷静に勤めようとしても明らかに怒気がこもる彼の問いかけに、ユウヅキはあくまで沈黙の姿勢を見せた。

「答えろって言ってんだろ……ユウヅキ!!」

 ユウヅキの胸ぐらをわしづかみにしようとするアキラ。その前に立ちふさがる影があった。
 そのポケモンは、白いドレスを纏ったようなエスパーポケモン、サーナイト。
 咄嗟にアキラがムウマージに『シャドーボール』を撃つことを指示するが、その前にサーナイトのドレスの下から黒い影の先制技『かげうち』が襲う。

「メシィっ!!」

 影はムウマージを一撃で気絶へと追いやった。そして、
 トレーナーのアキラをも、逃さず攻撃した。

 ――予想外の攻撃にアキラは倒れ込む。地に伏し、思うように動けないなか辛うじて目で彼らの姿を追うアキラ。
 通路の壁がサーナイトの『サイコショック』で破壊され、外へと通ずる。
 薄れゆく意識の中、最後に彼が見たのは、こちらを一瞥するユウヅキだった。

(……待……て…………)

 アキラの念は届かず、彼はアキラに背を見せる。
 そして<スバルポケモン研究センター>を襲撃した、ヤミナベ・ユウヅキは『テレポート』でその姿をくらました――


*********************


 ――――現在、【トバリタウン】

 ビー君とアキラさんが宿屋から夜の散歩に出かけたのが気になった私は、入り口で二人の帰りを待つことにした。
 二人だけ仲良くなるのは抜け駆けだぞ、なんて気持ちがなかったかと言えば嘘になる。でも、一人になる時間が欲しかったのもまた事実なので、これはこれでよかったのかもしれない。
 何故一人になりたかったかというと、単純に、ちょっと考え事をしたかったから。

「ドジったなぁ……」

 具体的に言うと、昼間の喫茶店での出来事について猛反省中だった。まさかミケさんが私を調べていたなんて。
 ミケさんの職業が探偵だということを、探偵ならば誰かの依頼で動いていることを失念していた。完全に、完全に私のミスである。
 今回は乙女の秘密ということで見逃してもらえたけど、一歩間違っていたら危うく全部白状するところだった。危ない。
 彼らとの約束もあり、私の記憶がユウヅキに消されているかもしれないことはなるべく秘密にしなければいけない。なのにやってしまった。
 ミケさんのバックに誰がいるのかが分からないのが怖い。ミケさんなら悪いようにはしてくれると思うけれど。事が事、だし。覚悟はしておいた方がいいのかもしれない。
 ああ……アキラ君にだって、記憶の事言ってないのに……。

 そんなこんなうだうだ言っていたらライブキャスターの着信音が鳴った。こんな遅い時間帯に誰だろう、と見てみるとアキラ君の名前が表示されていた。
 彼とは定期的な連絡を取っているものの、タイミングがやや早い気がした。急用かもしれない、と慌てて出る。
 画面に映った青髪の青年、アキラ君は苦々しい顔をしていた。

「どうしたのアキラ君、なんか珍しく取り乱しているけど」
『アサヒ、落ち着いて聞いてほしい。ユウヅキが……』
「ユウヅキが、どうしたの」

 アキラ君は言い澱んだ後、手に入れた情報を教えてくれる。
 それは、本来なら関係者以外に洩らしてはいけない情報だったのだと思う。
 それでも彼は真っ先に私に伝えてくれた。
 そしてそのことを聞いた私は――

『ユウヅキが“闇隠し事件”での誘拐の容疑をかけられた』

 ――とうとうこの時が来てしまったことを、悟った。


*********************


 ヨアケと会話していた男は、俺とリオルとアキラさんの気配に気づいたのか、短く『とにかく、詳しいことはまた明日【スバルポケモン研究センター】で会って話したい』とだけ彼女に伝えて通話を切った。
 それからヨアケ・アサヒは長い金髪を弄りながら、ばつの悪い、といった表情でこちらを向き直りこう言った。

「えーっと、ビー君にアキラさん……おかえり」
「お、おう」
「ただいまーアサヒー。なんか電話邪魔しちゃってごめんねー」
「ううん、気にしないで……っていうのも無理、かな? 特にビー君は」
「まーな」

 アキラさんはこの地方のトレーナーでもなければ“闇隠し事件”に関わりはないはずだ。とすると、被害者の俺の反応が気になるのも無理はない。つーか気になって当然だろう。
 しかし、ヨアケの捜していた奴がこの国をほぼ壊滅まで追いやった神隠し、“闇隠し事件”の容疑者になるとは……実感はまだないが、とんでもないことになっているのだけは分かった。そして、動機になるには十分過ぎるほどだった。
 ヨアケが俺に申し訳なさそうに謝る。

「という訳で急用が出来ちゃった。一緒に王都まで行こうって話だったのにゴメンねビー君」
「気にすんな。そういやヨアケ、【スバル】って確かこの【トバリ山】を越えてその麓沿いにあったよな? 今からじゃ流石に遅いから明朝出発するのか?」
「場所はその辺だったと思う。行けるのなら今からでも出発したいなとは思っていたけど……」
「いくら道路あるって言ってもー、流石に危ないってー」
「俺もアキラさんに同意見だ」
「そう、だね。うん、そうしておくよ」

 二人がかりで念を押して、ヨアケはようやく引き下がった。こいつ、強行する気満々だっただろ。
 アキラさんが眠たげな様子で欠伸する。

「じゃあ、明日早いなら、そろそろ寝よっかー。お先におやすみー」

 そう言いながら、宿とは別の方向へ歩き出すアキラさん。俺とヨアケは慌てて彼女を呼び止める。

「って、どこ行くんだ、宿はこっちだろ?」
「あー、いつも外で寝る方が好きだから、野宿してる癖でー、つい?」
「ついついって、宿に荷物忘れてるよっ」
「あ、そうだった。危ない危ない、ありがとー。それじゃあ改めてお先ー」
「うん、おやすみ」
「おう、おやすみ」
「二人も早く寝るんだよー」

 そして彼女は宿に入る手前でちらっと俺を見て、目配せした。
 その意図はなんとなくしか汲み取れなかったが、ヨアケに何か言え、と言いたかったのだろう。
 アキラさんが見えなくなった後、続こうとしたヨアケを呼び止める。

「ヨアケ」
「なあに、ビー君?」

 ヨアケは振り返ると俺の顔真っ直ぐ見て、不自然なぐらい穏やかに聞いてくる。
 彼女のそういう所が苦手で、俺はとっさに視線を反らしてしまう。その視線の先でリオルと目があった。
 リオルからさっさと言え、と促され俺はヨアケに向き合った。
 じっと見られて僅かに緊張する。何をどう伝えればいいのか分からなかった。
 なんとか辛うじて言葉を絞り出す。

「その、見送りぐらいはしたいからさ、ポケモン屋敷の時みたくさっさと行かないで、今度は声かけてくれよな」

 ヨアケがきょとんとした顔をした。ああ……言ってしまった後に恥ずかしさが込み上げてきた。目が泳ぐ。
 その俺の様子が可笑しかったのか、ヨアケがくすりと笑って、それからはにかんだ。

「うんっ、わかった」

 その笑顔を見て、夜風がすっと胸の奥を吹き抜けた気がした。


*********************

 翌朝。私はビー君に頼まれた通り一声挨拶してから出発しようとした。しかし部屋に彼らの姿はなく、ロビーに行くとアキラさんと彼女の手持ちの火焔ポケモン、ゴウカザル居た。名前はライというらしい。よくポケモンを外に出すんだな、と昨日今日の彼女を見ていて思った。私も見習わないとな。

「アキラさん、ライくんおはよー。おユキちゃんの具合はどう?」
「おはよーアサヒ。んー、もう大丈夫ー」
「そっか良かった。そう言えばビー君知らない?」
「ビドーなら、町の入り口で待っているって言ってたよー」
「一声かけてくれ、って言ってたから声かけようと捜したのにっ。もう」
「まーまー」

 膨れた私をアキラさんは宥める。彼女も私と同様に旅立つ支度を終えていたようなので、一緒に歩いて。町の入り口まで向かった。
 町の出入り口にはもうぱっと見でも何となく彼だと分かる、ちょっと長い群青色の髪の頭を持つ小柄な背姿があった。
 彼の隣にはリオルの後ろ姿もあり、彼らは何故か仁王立ちしていた。その傍にはサイドカー付バイクもあった。
 足音に気が付いたのか、彼らがこちらを向く。
 目と目があった。一瞬バトルが始まるかと思ったほどの気迫を彼らから感じた。
 開口一番ビー君はこう言った。

「乗っていけ」
「えっ」
「サイドカーに乗っていけ」
「えっと、どうして?」

 わざわざ言い直してくれたビー君に、思わず疑問を口にしてしまう。少し経って、ようやく言葉の意味を理解した。彼の厚意を無碍にしようとしたのだと気づき、気まずくなる。
 気まずい空気の中助け舟を出してくれたのはアキラさんだった。

「あーつまりあれだねー。送っていくって言いたいんじゃないかなービドーは」
「そう、なの?」

 確認を取ると、何故か彼に文句を言われる。

「むしろ、この流れで置いていかれるのも結構あれだぞ」

 あれって……ビー君には悪いけど、素直じゃないなー、と思ってしまった。更に、アキラさんがすっと手を挙げる。

「ちなみにアタシも行くよー。研究所なら珍しいきのみの本とかある気がするしー」
「ええっ、ついてくる気満々?」
「アタシはリュウガに乗っていくから席の心配はご無用だー」

 挙げていた手の親指を立てて前にグッと突き出すアキラさん。
 ビー君とリオルはこっちをじっと見ているし、だんだん断れない流れになってきたっ。

「か、勘違いするなよ。俺もそのヤミナベの話を詳しく聞きたいと思っただけだ」

 いや、まあそれは分かるけど、その通りなの分かるけど、なんでそういう言い回しするかなこの子は。
 悩んだ末、断り切れず私は二人に同行してもらうことにした。

「分かった。旅は道連れデリバード、一緒に行こう、【スバル】へ!」
「旅は道連れユキメノコー、おー」
「今は手持ちにいないが旅は道連れラルトス」
「何この道連れ率」

 そう言えばユウヅキの手持ちやアキラ君のメシィちゃんも『みちづれ』覚えた気がする。道連れ率高すぎ。
 今の内に……気乗りはしないけどアキラ君に怒られる準備しておこう。


*********************
ゲストキャラ
アサヒの旧友、アキラ君:キャラ親 由衣さん
アキラさん:キャラ親 天竜さん

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