No.14 † 鋼鉄塗装 †

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タラッサから次の町へ向かう道中にある街道沿いのポケモンセンター。
そのトレーナー宿泊用ルームに備え付けられている風呂場の浴槽に水を張り、私はそこにヒンバスを出していた。

アーシェ:「…………よし。」
コルボー:「いやいや、待て待て!」

私の背後から、コルボーがたわしを持つ私の右手首を掴んできた。

アーシェ:「おいおい、コルボー。黙って入って来てんじゃねぇよ。私が入浴中だったらどうするつもりだったんだ?まぁ……お前にはもう、全部見られちまってるけど……///// 」
コルボー:「その時はまぁ、殴られても仕方ないかと思ったけど……でも、偶然見えた風呂場で、仲間が自分のポケモン相手にたわしを持って、奇行に走ろうとしてたら……止めるだろ?普通。」
アーシェ:「奇行とは失礼な!私はヒンバスをちょっとでも綺麗にしてやろうと思って……」
コルボー:「だからって、そんな物でヒンバスを擦っても、ヒンバスの鱗が剥がれ落ちるだけだぞ!」
アーシェ:「うっ……確かに……う~ん。ヒンバスを進化させるには、『美しくする』って情報は知ってるんだけど、具体的な手段を知らなくてな……」
コルボー:「それでこの奇行か。」
アーシェ:「だから、奇行って言うな!」

ティア:「ただいま~。回復に出していたポケモン達を引き取ってきたわよ……って、あら?何をしてるの?」

道中のバトルでダメージを負い、ナースさんに預けていたポケモン達を引き取ってきてくれたティアが、戻って来て早々思ったことを率直に訊いてきた。

コルボー:「ん?あぁ。ちょっと、アーシェがヒンバスを綺麗にしようと思って、迷走しててな。」
ティア:「それでそのたわしでヒンバスを綺麗にしようと……?」
アーシェ:「まぁ、擦る前にコルボーに止めてもらったけど……ティアはヒンバスを美しくする方法を知ってるか?」
ティア:「えぇ。ポロックやポフィンというポケモン用のお菓子を対象に……今回の場合はヒンバスね。ヒンバスにそういったお菓子を食べさせて、コンディションを上げてあげるといいわよ。」
アーシェ:「なるほど……じゃあ、そのお菓子の作り方も勉強しないといけねぇな。」
コルボー:「作り方さえ解れば、そう難しい物でもないんじゃないか?そういうコンテストに参加するようなお前より歳下の子ども達でさえ、割りと普通に作れてるワケだし。」
アーシェ:「コンテストのことはよく分からないけど、そう言われると……何か、私でも作れそうな気がしてきた。」
ティア:「あと、ヒンバスを進化させたいだけであるのなら、『綺麗な鱗』というアイテムを持たせて通信交換という手段もあるわ。手間としてはこっちの方が簡単だけど、この場合は綺麗な鱗が無いと始まらないわね。」
アーシェ:「そっか……じゃあ、ちょっと時間は掛かるけど、お菓子でコンディションを上げていく選択肢にするかな。」

私は浴槽で泳がせていたヒンバスを優しく撫でてあげた。

コルボー:「あ……通信交換で思い出した。アーシェ、お前に良い物をやるよ。」
アーシェ:「良い物?」

私はコルボーが軽く放り投げた、短い円柱状の容器を受け取った。

アーシェ:「おっ……とっと。これは?」
コルボー:「『メタルコート』だ。此処に来る道中で手に入れてな……お前の仲間にイワークが居るだろ?その進化に使ってやると良い。」
アーシェ:「いいのか?貰っちまって……結構レアなアイテムじゃねぇのか?コレ。」
コルボー:「そうかもしれねぇけど、俺のポケモン達じゃ恩恵を得られないっつうか、用途が無いからな。それなら、有効活用できる奴にくれてやった方が良いと思って。」
アーシェ:「そっか。じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ。でも……」
コルボー:「まだ何かあるのか?」
アーシェ:「このコート……どうやってイワークに着せてやれば……上から被せてやればいいのか?」
ティア・コルボー:「「え?」」
アーシェ:「え?」
ティア:「あ……あのね、アーシェちゃん。メタルコートの『 コート 』って、塗装する方のコート( coat(ing) )で、外套がいとうの方のコート( coat )じゃないのよ。文字で書いたら一緒なんだけどね。」
コルボー:「まぁ、後者の方にも『装着』って意味はあるらしいが……」
アーシェ:「はっ……!べっ、別に!それくらい知ってたしっ!///// 」
コルボー:「どうした?顔が真っ赤だぞ、アーシェ。」ニヤニヤ
アーシェ:「うっさい!まっ、まぁ……メタルコートが塗料だとして、これ全部をイワークに塗り付けるのか?無理じゃね?」
ティア:「持たせるだけで良いんじゃないかしら?質量的に絶対に足りないと思うし……」
コルボー:「ストライクなら全部塗れたのかもな。」

とりあえず、一度センターの外に出てイワークの頭にメタルコートを乗せた状態でボールに戻し、ティアのドータクンと一時的に交換してもらうことになった。

アーシェ:「ん~……」
ティア:「どうしたの?アーシェちゃん。」
アーシェ:「いや、何かの本で通信交換に出したポケモンはなつき度が下がるみたいな話を聞いたんだけど……大丈夫かな?」
コルボー:「あぁ……大丈夫じゃねえか?一時的な事だし。1度交換してすぐまたお互いの手元に戻って来るんだからさ。」
アーシェ:「そっか。それじゃあ……」

私とティアはポケモンセンター内にある交換専用のそこそこ大きい機械の台座にそれぞれイワークが入ったモンスターボールと、ドータクンが入ったモンスターボールを置いた。

すると、すぐにボールが機械に吸い込まれ、私の目の前の台座にティアのドータクンが入ったモンスターボールが届いた。

『交換した』という事実があれば良いらしいので、私とティアはすぐにたった今届いたボールを台座に置き直し、1分も掛からない間に私の元にイワークが入ったモンスターボールが戻って来た。

アーシェ:「これで……良いのかな?」
コルボー:「不安なら外に出て確認したらどうだ?今、此処で出すなよ?たぶん大丈夫だと思うけど……最悪、センターの天井をブチ抜くことになるぞ。」
アーシェ:「あ……うん、そうする。入り口付近だと迷惑になるかもしれねぇから、裏にあるコミュニティ広場で出すよ。」


***


ポケモンセンター・コミュニティ広場
ポケモンセンターに宿泊していたり、休憩目的で一時的に利用している人達が、自分のポケモンと仲良く触れ合ったり、ポケモンを機にいろんな人と知り合う噴水がある憩いの場。

アーシェ:「よし……出て来い、イワーク!」

私が投げたボールが開き、イワークが姿を現した瞬間、イワークの身体が青白い光に包まれた。

光の中、イワークの身体がさらに大きくなり、頭にあった1本の角は2つの突起になって、丸?かった岩の身体の幾つかから棘のような突起物が隆起してきた。

全ての変化を終えて光が掻き消え、イワークはハガネールに進化した。


【 ハガネール 】
てつへびポケモン / 高さ:9.2m / 重さ:400.0kg / 鋼・地面タイプ
イワークよりも深い地中に棲んでいる。地中の高い圧力と熱で鍛えられた体は、あらゆる金属よりも硬い。
土と一緒に飲み込んだ鋼が溜まっていって、体が変化したとも考えられる。
全身に細かな鋼鉄の欠片がくっついており、光をキラキラと反射する。
丈夫な顎で岩石を噛み砕き進む。真っ暗な地中でも見える目を持つ。
地球の中心に向かって掘り進み、深さ1キロに達することもある。


アーシェ:「おぉぉ……やった!やったぁ!進化おめでとう、ハガネール!」

鎌首を下ろしてくれたハガネールの顔に、感極まって抱き着く。

ティア:「うふふ。良かったわね、アーシェちゃん。」
アーシェ:「うん!ティア、交換を手伝ってくれてありがとう。コルボーも、さっきも言ったけど、メタルコートをくれてありがとう!」ニコッ
コルボー:「おう。それだけ喜んでくれたら、こっちも提供して良かったと純粋に思うよ。」
アーシェ:「あっ、そうだ……」

私は噴水の傍まで近づき、残りの4つのボールを投げ、ワカシャモ・キバゴ・タイプ:ヌル・ヒンバスを呼び出す。

アーシェ:「皆!仲間のイワークがハガネールに進化したぞ!あと、先日、その噴水に居るヒンバスが仲間になった。仲良くしてやってくれ。」

コミュニティ広場で対面した私のポケモン達が仲良く遊び始める。
噴水……水から出られないヒンバスにも、キバゴとヌルと一緒に水が苦手なワカシャモとハガネールが積極的に近づいて行き、何か楽しそうに会話しているように見えた。

コルボー:「こんな言い方をしたら失礼なのかもしれねえけどさ……ハガネールみたいな厳ついポケモンでも、小さいポケモン達と遊んでる姿を見ると、微笑ましいな。」
アーシェ:「あぁ、大丈夫。気にしてねぇよ。私もそう思うからさ。」

「わー!すごーい!」
アーシェ:「ん?」

ふと気が付くと、3歳くらいの子ども達が、目をキラキラさせて私のポケモンの周りに集まって来ていた。
どうやら、此処でママ友同士おしゃべりしていて、暇を持て余していたところに、この場に居るどのポケモンよりも大きなハガネールが出現して、テンションが爆上がりしたらしい。

私はこの子達の母親同伴の元、自分のポケモン達と触れ合う機会を作ってあげた。
途中、ヒンバスの見た目を馬鹿にされたけど……グッと堪えて、ちゃんとした知識を教えてあげたりもした。

コルボー:「偉そうに講釈たれるのは良いけど、お前……自分がヒンバスをたわしで擦って綺麗にしようとしたこと、忘れるなよ?」
アーシェ:「うっ……返す言葉も無い。」
ティア:「まぁまぁ、それは未遂で終わったことなんだし……」

その後しばらく遊んだり、軽くポケモンについてお話しをした後、帰宅する時間になったらしく、ふれあい会は終了。
母親は会釈し、元気良く手を振る子ども達を見送り、私達も宿泊用の部屋に戻った。

各々自由に過ごす中、私はハガネールが入ったモンスターボールに視線を落とす。

私のメンバーの中では古参に値するイワークが、仲間の協力もあって無事に進化することができた。

見た目はより厳つくなったが、仲間思いなところは変わらない良い奴なんだよな……
これからも他の皆同様に、改めて頼りにさせてもらうとしよう。

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