3-5 約束の報酬の行方

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください




 ユキメノコが『こなゆき』の風を使って霧をのけようとしたが、上手くいかないようだ。
 その行動を見て一つ気になったことがある。
 さっきからユキメノコがすることを、アキラさんは指示していないのだ。まるで事前に見えないやり取りを済ませているように、ユキメノコが勝手に動く。

「アキラさん。あんた、ユキメノコに指示ださないのか」
「んーおユキたちに任せたほうが、うまくいく場合も多いからねー」

 そんな戦闘スタイルありなのか、と俺は肩を落としかけたが、ヨアケは「そういう人もいるよね」と流していた。

「そういやヨアケ、お前は知ってるのか? ソテツとハジメの居場所」
「知らないよ。だから捜しているんじゃない」
「そうか……」
「大丈夫だよ、ハジメ君意識は戻ってたっぽいから、事情聴取しているのなら師匠の声は通りやすいっ」
「それは、アイツが口を割ればの話じゃないのか?」
「そうかもしれないけど……ん、じゃあ大声で呼びかけて捜索してみる?」
「むしろ、最初からそうするべきだったんじゃ……」
「そうだね」

 息を吸い込もうとするヨアケを制止する。

「待て……ソテツだ」

 本人には失礼だがその背の低いシルエットで遠くからソテツだと認識出来た。ソテツの他に女性らしき人物が立っている。戻ってきたガーベラだろうか?
 彼らの前に正座させられている人影もある。その後ろにはもじゃもじゃとしたポケモン、おそらくモジャンボがその人影の腕を縛っているようだった。
 縛られているのは、その前髪から、ハジメだと分かった。
 近づこうとしたその時、怒気のこもった声が、辺りを震わせる。
 それは、ハジメの発したものだった。

「――――俺はただ、ポケモンを捕まえようとしているだけだ。それを貴方達は何故邪魔をする……!」

 霧がだんだん晴れていく。その合間から彼らの顔が見えた。
 眉間にしわを寄せ歯を食いしばり見上げる彼に対するソテツの視線は、とても冷ややかなものだった。先程までとは、別人のように見えなくもない。
 けれども、背格好は紛れもなくソテツだった。

「ここが、ポケモン保護区だからだよ」

 ため息をついて、定型句を述べるソテツにハジメは納得のいかない様子で喰らいつく。
 なかなか入り込みづらい現場になっていたのか、俺もアキラさんもヨアケも黙って様子を窺っていた。

「そうやって他国の顔を窺ってばかりで、自国のことはどうでもいいのか、<エレメンツ>は! ……今この瞬間にも盗賊や悪党が襲い掛かっているかもしれないんだぞ。貴方達の目の届かないところで、強いポケモンを使って!」
「一応他国があって、その援助があって現状なりたっているのも忘れないでね? それと、全ての町村で起きている出来事を全部解決出来ないのは情けないとは思うよ……強いポケモンを使ってくる相手に強いポケモンで対抗すれば被害は少なくなるかもしれない。ハジメ君の言い分ももっともだ。だが」
「……あなたは、本当にその捕まえた子を大切にするの……?」

 ソテツの言葉をガーベラが引き継いだ。ソテツは頭を掻いて、更に彼女の言葉を受け継ぐ。

「オイラ達が言いたいのはそーゆーこと。強すぎる力を持って、それをコントロールできなくなった時のことをオイラ達は恐れている。それは、人間にとってもポケモンにとっても好ましいことではないだろう?」
「コントロール、出来れば問題ないんだろう? そんなことを恐れていたら、人はナイフで料理を作ることすらままならない」
「まあね。ポケモンは道具じゃないけど、一時の感情でそれは凶器に変わるのも、忘れないでよね」

 だんだんと、勢いを殺されつつあるハジメ。彼がそれでも食い下がろうと口を開こうとした瞬間、ソテツは見計らったように、わざとらしい大声で言葉を被せる。

「でさあ! こっからが聞きたいことなんだけれども!」

 満面の笑みを浮かべたソテツは、ハジメの目をガン見しながら尋ね、そして問うた。

「ハジメ君、キミ<ダスク>のメンバーだよね?」

 <ダスク>という単語を聞いた瞬間、彼が唾をのむのが分かった。


*********************


「最近ポケモンを密猟しようとしている輩が多くてね。聞くところによると半数以上が<ダスク>って組織に所属しているそうじゃないか。だから、キミもそうなんじゃないかなって思ったわけ。で、実際のところどうなんだいハジメ君?」

 やれやれといった様子のソテツだが、彼の目は笑っていなかった。ハジメは視線を逸らそうとした。だが、逃れられないでいるようだった。
 その沈黙がある意味答え、無言の肯定だったのかもしれない。
 空気が、霧と共に風に流されていく。沈黙を破ったのは、ハジメでもソテツでも無く――――アキラさん、だった。

「あのー」
「どなたです? 今取り込み中……なのですが」

 アキラさんの声にとっさに反応するガーベラ。つられてハジメもソテツも俺達にようやく気づいたようであった。
 皆の視線を一身に浴びて、しどろもどろながらも、アキラさんは言葉を紡いだ。

「えーっと、アタシはハジメに協力してたものです。うん。ハジメは、自分の妹の為にポケモンを捕まえたいだけだって、だから、そんな<ダスク>とかとは違うんじゃーないかと…………ね? ハジメ?」

 不安げながらもハジメを庇おうとするアキラさん。少なくとも彼女は、彼を信じていたのだろう。僅かにリオルを抱く力を強めているのが証拠だった。
 だが、ハジメは目を伏せ、彼女の気遣いを払いのけるように、アキラさんの言葉を否定した。

「違わないさ」
「……ハジメ?」
「俺は、<ダスク>だ。そこの女は俺が騙して協力させただけだ」
「うーん、嘘、だよね? だって、報酬にめずらしいきのみ、くれるって……」
「その言葉は偽りだ。残念だったな」

 呆気にとられ、棒立ちするアキラさん。その隣のユキメノコはわなわなと肩を震わせていた。
 ソテツがハジメに次の質問を重ねる。ハジメはそれに即答した。

「キミら<ダスク>はポケモンを集めて何を企んでいる?」
「企んでなど、いない。俺達はただ救いたいだけだ」
「誰を?」

 その問いに彼は一息つき、グラサン越しでも、意志のこもった鋭い眼光で応えた。

「この国の民全部を、だ」

 彼は言った。
 歯を食いしばり、忌々し気に――――それはこの国の誰もが一回は想った、純粋すぎるほど、純粋な願いを。

「怯えながら待ち続ける仲間も、連れていかれた仲間も、全部。全部取り返したい。ただ、それだけだ」

 “闇隠し事件”の被害者である彼、ハジメの願いは、同じくラルトスを“闇隠し”によって奪われた俺には痛々しいほど分かった。
 ――――だけど、だからこそ俺はハジメが間違っているとも思った。

「ハジメ。お前のその思想は立派だと思う……だがな、その目的のために無関係の人間巻き込んで、ましてや騙していいって通りはねえだろ」

 ほぼ全員の顔がこちらへ向く。俺はハジメの理想を、容赦なく切り捨てた。

「何が全員救うだ。信じてついてきてくれた仲間一人すら救えないで、何が全員だ……矛盾しているぞお前」

 ハジメはしばらく黙った後「そうだろうか」とぼやいた。
 「そうだ」、と返すと彼は俺を蔑んだ。

「ビドーといったか。有利な立場の時は随分と威勢がいいようだ……そして、何を勘違いしているんだ、お前は」
「勘違い?」

 あえて問い返したが、奴の口ぶりから、その先の言葉は安易に予想できた。予想できたからこそ、言わせたくなかった。
 ――――まるで、道具を見るかのような目つきで、奴はアキラさんに対して吐き捨てた。

「その女は、たかだかきのみごときによく働いてくれる駒だった。仲間だと? 俺はソレにはなんの感傷もない」
「くっそ、てめぇ!」

 反射的に俺は殴りかかろうとした。すると、凍てつく風が吹き荒れた。

「待っておユキっ!」

 アキラさんの制止を聞かずに『ふぶき』をハジメに向けて放つユキメノコ。
 その余波は、俺達全員に襲い掛かる。
 勿論、ハジメを縛っていたモジャンボになんかは効果は抜群だった。
 ハジメを拘束していたツルが緩む。その隙をついて、ハジメはアキラさんへ突進した。
 駆けながらドンカラスを繰り出すハジメ。
 ユキメノコが立ち塞がり、再び『ふぶき』を放とうとするも、『ふいうち』の一撃によって背後を取られてしまう。
 彼女からリオルを強奪するとハジメは、ドンカラスの『そらをとぶ』で逃げようとする。
 ソテツがモジャンボに指示を出そうとする、だがモジャンボは凍ってしまって動けない。
 ドンカラスと共に飛び立つハジメの足に、俺は無我夢中でしがみついた。
 空中へと飛び出して、山村が小さくなり始めたころ、ハジメは俺を振り落としにかかった。
 それに対して俺は、さっきから溜まっていたことを、精一杯堪えていた不満を叫んだ。

「どいつもこいつも、俺のリオルに何しやがる!!」
「くっ、離れろ……!」
「リオルを取り戻すまで、絶対、放すもんか……!」

 リオルもハジメの腕に噛みついたりと抵抗している。
 奴もこのままの状態では逃げ切れないと判断したのだろう。

「ならば、お望み通り、返してやろう」

 皮肉にも俺が望んだ通り、ハジメはリオルを空中に放した。

「リオル!」

 すぐさまハジメの足から離れ、反射的にリオルをキャッチし抱き寄せる。
 そして、そのまま俺とリオルは落下していった。
 手持ちの飛行タイプのポケモンを出さねば、と行動しようとしたが、焦ってしまいボールを取りこぼしてしまう。
 万事休すかと思ったその時――――金色の波が、ボールを包み込んだ。
 その波へと片手を伸ばす。すると、その波間に腕を掴まれた。
 走り抜けていた視界が安定し、周囲の山脈の姿がはっきりとなる。
 澄んだ青空のと同じぐらい青い瞳が、金糸のような髪の間から、呆れたような視線で俺を見た。

「もう、リオルは私が助けに行くって言ったのに……無茶ばっかりして!」

 デリバードに乗ったヨアケに助けられて、安堵が湧き上がる。感謝の念を言おうと思ったが、聞き捨てならない一言があったので、俺は彼女に訂正を求めた。

「俺が助けるって言ったろ」




*********************


 それから、【トバリタウン】の入り口にて、ソテツとガーベラを見送った。

「それじゃ、オイラ達は一旦戻るよ。ははは、任務失敗だ」
「まあ、カビゴンが捕まえられずにすんだから、まだマシなんじゃないかな?」
「そこのところは感謝しているよ。アサヒちゃん、ビドー君」
「……アキラさんの処遇はどうなるんだ?」
「彼女は利用されただけ、ということで今回は見逃します……でも、次はないですからね……まったく」
「あー、すみません、でした……」

 アキラさんが処罰を受けなくてよかった。と安心していると、ソテツに耳打ちされた。

「ビドー君、キミは一人じゃないから、大丈夫だよ」

 その言葉の意味は、今の俺には正直よくわからなかった。ただ、励まされたのだろう、と思うことにした。
 これにて今回の件は落着、とまではいかないが、ひと段落はついた。流石に俺もリオルも体力が戻り切っていないので、今日は先ほどの宿屋で休ませてもらうことにした。
 ヨアケだけ先にソテツ達と行ってもいいんじゃないか、と提案したが、

「私はビー君のバイクのサイドカーにもう少し乗りたいからいいや」

 やんわりと、さりげなく図々しく断られる。いやまあ、さっさと行かれるよりは、まだ……って何考えてんだが。
 アキラさんも傷ついたユキメノコを手当するために、同じ宿に泊まることになる。それぞれ別の部屋で、各々休養を取った。
 夕食は三人で取った。アキラさんにきのみについて教授してもらって、それなりに盛り上がった。


*********************


 その晩、昼間ずっと横になってたせいか寝付けなかったので、リオルと一緒に体力を取り戻しがてら散歩でも行くか、と部屋を出る。
 宿を出ようとしたところで、アキラさんに一緒にいっていい? と声をかけられる。別に断る理由もないので、一緒にぶらりと散歩をした。
 【トバリタウン】をぐるっと半周して帰り道にさしかかった辺りで、ふと、アキラさんが立ち止まる。
 それから彼女は神妙な面持ちで、俺に謝った。

「ごめんねビドー。リオルも。ひどい事しちゃって」
「別に、気にしちゃいねーって……アンタも騙されてたんだし」

 確かにムカついたりショックを受けたりしたが、結果的にアキラさんはリオルを傷つけることはなかったのだ。
 それに、アキラさんだって、今回の件では被害者でもあるのだから。彼女を責めるのはなんか違うと思った。
 悪いのはハジメだ。そう締めくくろうとしたら、アキラさんは静かに首を横に振った。

「いいやー、それは違うと思う」
「何でそう思うんだ? アイツはアキラさんを駒としか見てなかったんだぞ」
「うーん、所詮憶測だけどさー、ハジメはアタシが捕まらないように、あんなこと言ったんだと思うんだー」
「捕まらないように、って?」
「見てこれ」

 アキラさんが手のひらを見せる。そこには、見慣れないきのみが一つ乗っかっていた。

「アタシの知らない、めずらしいきのみだよ」
「それ、どうしたんだ? まさか……?」
「……そー、ハジメにリオルを取られた時、手に握らされたんだ」

 その言葉を聞いて、悔しいが納得してしまった。
 要するにあれだ、ハジメはアキラさんとの約束を守っていたのだ。
 密猟の共犯者としてアキラさんを巻き込んだからこそ、彼女を突き放して、罪を自分一人で引き受けたってことか。

「あーでも、違う可能性もあるけど、アタシはきのみもらえて満足している。だから、アタシの事で、彼を怒らないでくれないかな?」

 俺の怒りはとんだ筋違い、ということだったのかもしれない。

「それでも俺は、アイツが気に食わないな」

 静かに呟いた言葉は、暗闇に溶けていった。


*********************


 宿屋前に帰ってくると、ヨアケがライブキャスターのテレビ電話で誰かと話していた。
 盗み聞きするつもりはなかったが、切迫しているようだったので、声をかけるのがはばかられた。

「――――どうしたのアキラ君、なんか珍しく取り乱しているけど」
『アサヒ、落ち着いて聞いてほしい。ユウヅキが……』
「ユウヅキが、どうしたの」

 アキラという名前の男は、僅かに躊躇した後、ヨアケに残酷な現実を突きつけた。












『ユウヅキが“闇隠し事件”での誘拐の容疑をかけられた』





 ――――――ヨアケの捜し人が、“闇隠し事件”の容疑者?




第三話 コーヒーブレイクと甘い罠 終。
第四話前編に続く。

ゲストキャラ
アキラさん:キャラ親 天竜さん
アサヒと連絡を取る旧友、アキラ君:キャラ親 由衣さん

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