70話 襲撃

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

時系列としては64話後
再びアイト視点になります。
 イーブイの里からレベルグの街に帰ってきたアイトとヒビキは、手紙を渡した事の報告と返事の手紙を渡すためにギルドの団長室に訪れていた。
部屋の窓からは、夕焼け色の光が差し込み、少し暗くなりかけていた室内の中央には、出発する前より積まれた資料や本が減った机と少し疲れ気味のカリムの姿があった。

「ん? お前ら帰ってきたのか。 それで、リーブはなんて言ってた?」
「あ、返事の手紙を貰ってきてます」
「ほう。 どれ……」

アイトとヒビキに気づいたカリムは2匹ふたりから手紙を受け取り、内容に目を通すと静かに息を吐いた。

「……ふぅ。 よし、大丈夫そうだ。 お前達も手紙の配達、ご苦労だったな」
「いえいえ、俺らも船を作ってる間は暇だったんで」
「ところで、手紙には何て書いていたんです?」
「まあ、ちょっと心配事があってな。 念のために気を付けるようにと送ったら、了解したって返事がきた感じだ」
「へぇー、そうなんですか」

 なにかはぐらかされたようにも感じたが、組織の上に立つ者同士の会話内容なんて軽く話せる内容ではない事ぐらいわかるので、アイトも追及はしなかった。

「失礼するでござる。 ……おや、お主達は」

 不意に団長室の扉が開き、1匹のポケモンが入室してきた。

「アセビさん! どうしてここに?」
「そいつは俺が呼んだんだ。 敵の本拠地を叩きに行くんだ。 戦力は多いに越したことはねぇだろ?」

 カリムの言葉に頷いて同意の意を示すアセビ。
アセビはシュテルン島でアイト達がDPに襲われた際に助けてくれたポケモンで、アイト達がレベルグに帰るまでの間、特訓をつけてくれたポケモンの1匹だ。
見た目がフタチマルと言うポケモンなうえ、三度笠を被り、ホタチと言う名前の貝を刀のように使う戦い方、そして口調など、あらゆる要素で侍っぽいポケモンというのがアイトの中での印象である。

「それで、俺に何か用か?」
「たいしたことではないのでござるが、拙者の弟、シンを見ておらぬか?」
「シン? ああ、あのミジュマルか。 見てねぇな」
「そうでござるか」

 シンと言うのはアセビの弟であるミジュマルの名前であり、シュテルン島でアイト達も何度か話した事があった。

「シン君、いなくなっちゃたんです?」
「うむ。 拙者が少し目を離した隙に街ではぐれてしまい、先に戻っているやも知れぬと、ここに戻ってきたのでござるが、当てが外れたようでござる」
「じゃあ、俺らも探すの手伝いますよ。 アセビさんには世話になりましたし」
「そうですね。 1匹で探すよりみんなで探したほうが早いです!」
「かたじけない」

アセビがお礼の言葉を言ったちょうどその時――
――パァン!!
外から何か大きな音が聞こえ、座っていたカリムが慌てて立ち上がり、窓の外を見る。
その動きにつられるように、アイト達も空いている窓から外を見ると、何やら街の上空に赤い煙が舞っている様子が見えた。

「なんです? あの赤い煙は?」
「緊急事態の合図だよ! 街でなんかあったんだ! おい、お前らは急いで街に行け! 俺はサラと現状把握と動ける救助隊の奴らに指示を出す!」
「わかりました! 行くぞ、ヒビキ」
「は、はい!」
「拙者もシンが心配ゆえ、街に向かうでござる」
「わかった。 お前ら、くれぐれも無茶するなよ」

 会話が終わると、それぞれが慌ただしく団長室を後にし、アイトとヒビキ、そしてアセビは急いで街の方へと向かった。

――――――――――――――――――――

 街についたアイト達が目にしたものは、ポケモンの集団が街で暴れまわり、街のポケモン達は暴れるポケモン達から我先に逃げようとパニック状態になっている光景であった。
なんとか街の警備にあたっているポケモン達が避難誘導をしているおかげで、逃げるポケモン達による二次被害は起きていないようだが、このままだと二次被害が出るのも時間の問題だ。
それに――

「――あいつらDPか!」

 街で暴れているポケモン達は全て、感情の無い目つきをし、表情が一切変わらない。
これは心が存在しないダンジョン内にいるポケモンの特徴の1つであり、普通のポケモンとDPを瞬時に見分けられるようにキョウから教わった知識であった。

「相手がDPならば遠慮はいらぬでござるな」
「でも、なんでDPはこんな大勢でこの街を襲って来たんですかね?」
「さあな。 けど、被害をこれ以上広げないためにも救助隊の応援が来るまで、俺達がここで食い止めないと」
「そうですね」
「シンの事は気がかりでござるが、今はこちらを優先する方が賢明でござるな」
「行くぞ!!」

 アイトの声を合図に3匹は一斉にDPに向かって行った。



『いいか、DPっていうのはな。 所詮はダンジョンにいたポケモンが外に出てきただけだ。 基本の戦い方や気を付ける点もダンジョン内と変わらない』
『DPは感情がないから、どんな状況でも躊躇なく攻撃行動をする。 だが、基本的には全て単調な攻撃で工夫が無い。 落ち着いて相手の攻撃をみればかわす事は容易だ。 ダンジョンと違って、空間が開けている外ならなおさらな』
『あいつらを相手にする際に気を付ける事、それは圧倒的な数。 あいつらは1匹、1匹がそこまで脅威じゃない分、集団で行動している事が多い。 戦闘する時は常に敵の位置を把握し、退路を確保しながら戦う事を心掛けろ。 落ち着いて1匹、1匹倒していけば数的不利も解消される。 焦らない事が重要だ』
『だから、まず戦闘が開始されたらすることは状況確認だ。 敵の数、味方の数、周囲の地形や障害物の状況。 これを大雑把でも把握するのとしないとじゃだいぶ変わる』



 シュテルン島で特訓した際にキョウから言われた言葉を思い出し、まずは、周囲の状況を把握する事に意識を向けたアイトはざっと周りに視線を向けた。
この場にいるDPの数は9、それに対してこちらは3。
周りは建物が多くある街中で、背後では街のポケモン達が逃げまどう状況だ。

「……へへっ、この状況で退路の確保とか、まともにできるわけねぇーじゃん」

 絶対に退くことが出来ない状況だと再認識したアイトだが、その表情は不安に駆られるどころか軽く笑みを浮かべていた。

「ようは全員倒すしかないってわけだ。 わかりやすくていいじゃねぇか!」

そう言って、自らを鼓舞したアイトはたくさんいるDPのうち、飛行能力があり、後ろに抜けられたら1番厄介なヤンヤンマに標的を絞った。

「あの飛んでるトンボみたいな奴は俺に任せろ! ヒビキとアセビさんはあの足が早そうな2匹を優先的に倒してくれ!」
「わかったです!」
「承知!」

 アイトの指示に従い、ヒビキはヨーテリーに、アセビはポチエナに標的を定め、他のDPに囲まれないよう立ち回りながら、確実に攻撃を当てていった。

「スピードならあれです。 ジュエルチェンジ、トパーズ!」

 ヒビキは胸元にあるペンダントに魔力を注ぎ込み、掛け声とともにイーブイの進化形の中で、もっともすばやく、でんき技が得意なポケモンへと姿を変えた。

「激しく轟く、電光石火の黄! 心さえも痺れさせる稲妻! トパーズスタイル、サンダース!!」

 サンダースへと変身したヒビキは持ち前の素早さを活かして、ヨーテリーを翻弄し、他のDPからの攻撃に当たらないよう立ち回りながら、敵に囲まれたら『ほうでん』をすることで、退路を確保する戦い方を展開した。
 一方、アセビは両手で1つのホタチを刀のように振るい、ポチエナを圧倒し、相手が体勢を崩した隙に、ホタチを自分の顔の横に構え、『シェルブレード』で展開した刃先を相手に向けて素早い突き技を放った。

「三の型 蒼突」

 その攻撃が決め手となり、倒れて動かなくなったポチエナはあっという間に光となって消えていった。
 アセビがDPを1匹倒した瞬間を視界の端で捉えたアイトは、自分も負けていられないという気持ちになり、目の前を飛んでいるヤンヤンマに牽制として『かえんほうしゃ』を放ち、怯んで高度を下げた所に『ほのおのパンチ』を命中させ、地面に叩き落とした。
 その光景を見た他のDP達が自らに接近してくるのを感じ取ったアイトは、後方の避難しているポケモン達の方へ逃れようと飛び上がったヤンヤンマに『ブレイズキック』を当てて、他のDPに向けて弾のようにぶつけた。
 アイトの攻撃により、接近していたDPはヤンヤンマもろとも壁に叩きつけられ、ヤンヤンマ自身は体力が尽きたのか、光の粒子となって消えていった。

「うしっ! 上出来だな」

 その結果に小さな笑みを溢すアイト。
 この調子で確実に倒していけば、街のポケモン達が避難するまで耐えられそうだ。
と思ったのもつかの間――

「キャアアア」

背後で避難しているポケモン達の方から悲鳴が上がった。
その声に慌てて視線を向けると、水色の体をしたトカゲのようなポケモン――ジメレオン――が街のポケモン達に向けて、手の平から無数の水を放つ攻撃をしていた。

「クソッ! 1匹見落とした!」

苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるアイトだが、ここで助けに行けば、自分が対峙している他のDPもついてきてしまい、最悪の事態になりかねない。
しかし、だからといって襲われている街のポケモン達を放っておくわけにもいかない。
 どうすればいいのかと迷っていると、アイトの横を赤いマントを羽織った、黒い影が通り過ぎていった。

「えっ」

 アイトの口から思わず言葉が漏れた時には、すでに黒い影はあっという間に街のポケモンを襲っていたジメレオンの正面に回り込むと、鋭い蹴りを放ち、ジメレオンをアイト達がいる方向に向かって吹き飛ばした。

「あいつは姿を消せるポケモンだ。 敵の特性ぐらい、把握しとけ」

 ボロボロの赤いマントを翻し、振り向きながらアイトに視線を向ける黒い影のようなポケモン。 マーシャドーの姿がそこにあった。

「お前、どうして?」
「そんなことより船はどこで作ってる?」
「え?」
「敵の狙いは船の破壊の可能性がある。 ここにいる雑魚どもを囮にしてな」
「なんだとっ!?」

 確かにDPはダークマターの操る敵の1つにすぎない。 救助隊の戦力を削ぐだめに街の破壊を目的としてDPを送り込んでいる可能性もあるが、自分達の本拠地に乗り込もうとしている敵を叩くには、手っ取り早くその手段を奪ったほうが確実である。

「この雑魚共は俺が相手してやる。 お前らは船を守ってこい」
「でも、わたし達、船を造っている場所なんて知らないです」
「知らなくても心当たりぐらいあるだろ。少なくとも俺よりこの街を知っているはずだろ」
「そんなこと言ったって――」

 そこまで言いかけて、アイトはある事を思い出した。
シュテルン島に行く時、そして帰ってくる時に自分達が何に乗っていたのかを。
船を造っている場所は知らないが、船がある場所なら知っている。
そのことに気がついた。

「ヒビキ、港だ! 造りかけだろうが、船を置くとしたら港しかない」
「あっ! そうです! あの広さならありえるです!」

 実際の港がどれほど広ければ大きいというのかは、わからない。 だが、レベルグの港はアイトが目にしただけでも波止場が3箇所あり、倉庫と思われる建物もいくつか存在していたので、船を製造している可能性は十分ある。

「見当がついたなら、さっさと行け!」
「で、でも……」
「いいから行け!! 囮にかまけて船を沈められてもいいのか!?」
「……わかった。 ここは頼む」
「アイト君!?」
「大丈夫だ。 ここはアイツに任せて俺達は行こう」
「だけど……」
「心配無用。 拙者もここに残るでござる!」

おそらく、ヒビキは1度敵対したシャドーであっても心配なのだろう。
その事情を察してか、アイト達の会話をDPと戦闘しながら聞いていたアセビが聞こえるような大声で言った。

「……ヒビキ」

アイトはヒビキの頭を優しくポンと叩き、逡巡するヒビキの目を見つめ、無言で首を縦にふった。
ヒビキはDPと戦闘を繰り広げるシャドーの方に視線を1度向けたが、後ろ髪を引かれる思いを断ち切るように首を左右に振り、アイトと視線を合わせると力強く頷いて見せた。

「行きましょう、アイト君!」
「おう!」

 2匹ふたりはアセビとシャドーに背を向けて、港を目指して駆け出していった。

「……チッ。 やっと行ったか」
「お主も素直じゃないでござるな」
「どういう意味だ?」
「船を守るだけならばお主が行っても問題はなかったはずでござる。 だが、お主はあの2匹を、街のポケモン達を守ることを優先したのでござろう?」
「……船を探すのが面倒だっただけだ。 お前こそ、あいつらと行かなくていいのか?」
「敵の数が目の前にいるだけとは限らぬ。 それに、拙者は弟とはぐれてしまったゆえ、弟に危害が及ばぬよう、なるべく敵は倒しておくのが最善だと考えたでござる」
「……弟か」
「どうしたでござる?」
「……何でもない。 俺はあっち側を片っ端から倒す。 お前は残りを倒せ」
「雑な指示でござるが、承知したでござる!」

 残ったDPを倒すべく、突っ込んで行ったシャドーに合わせるようにアセビもDPの群れに突っ込み、街のポケモン達へ被害が及ばぬよう、確実にDPを倒していった。
戦闘シーンの描写って書くの難しいですよねー(^_^;)

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