25.きんのたまおじさん

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 ひとけのない草むらに一人の男性が立っていた。彼は通りかかったトレーナーに声をかけていた。
「それはおじさんのきんのたま! 有効に活用してくれ!」
 ポケットから金色に輝く球体を取り出し、トレーナーの手に収める。トレーナーは首を傾げながら、何に使うか分からないそれをかばんにしまい、怪しい男から逃げるべく走ってその場を去った。
 男性は自分を、「きんのたまおじさん」と自称していた。道行くトレーナーにきんのたまを渡し、彼らにとってヒーローとなることを望んでいた。
 トレーナー界は、バトルに負けたら所持金の半分を取られてしまう、厳しい世界だ。金欠が原因でトレーナーを引退する子供は多い。
 そこで彼は、トレーナーにきんのたまを配った。きんのたまは5000円で売ることができる。
 彼はトレーナー達から、感謝されるだろうと思っていた。


「はい、どうかしましたか?」
「それはおじさんのきんのたま! 有効に活用してくれ!」
「いや、別にいらないです」
「そんなこと言わないで、もらっておきなよ! きっと良いことがあるから!」
 最初はこのように、嫌がる子供が多かった。話しかけた途端逃げる子もいた。
 しかし除々に、子供たちの間にきんのたまが5000円で売れることが浸透していく。
 最近は、喜んで受け取る子供も増えた。
「ありがとう! 大切にするね」
 感謝される度に男は嬉しく思う。これでまた目的に一歩近づけた。
 男は子供たちから「きんのたまおじさん」と呼ばれることを期待していた。
 きんのたまをもらった子供たちは、親しみをもって「きんのたまおじさん」と呼んでくれると信じていた。


 一年後。
「さあ、今日もはりきって配るとするか」
 男性はいつもの場所に立った。
 すると……。
「こんなところにいるの?」
「あそこ! あの人が配っている!」
「いた! 噂は本当だったんだ!」
 一年経つと彼は、子供たちの間でかなり知れ渡っていた。
「(ついにやった! これまでの努力が報われた)」
 ところが……。
「5000円! きんのたまください!」
「え?」
 聞き間違いかと思った。いつも通りきんのたまを渡す。
「ありがとう5000円のおじさん! おかげで助かるよ!」
 聞き間違いじゃなかった。
 男は子供から「5000円」と呼ばれていた。
「あ、5000円だ! もらいにいこう!」
 他の子供たちも男の元へ来た。彼らも男を「5000円」と呼んでいた。
「やった! 5000円から5000円がもらえた!」
「ありがとう! みんなにも5000円がここにいること知らせるね!」
「……」


 男は呆然と突っ立っていた。
 一切悪気のない子どもの背中を、見ることしかできなかった。
「いやー、子供って残酷だよね」

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