教会の跡地から旅立ったの日の翌日、只今セローナの町でストリートファイト中……
そういう訳だから、物語開始は今しばし待て。
男性トレーナー:「ゴロンダ!!のしかかり!!」
【 ゴロンダ 】
こわもてポケモン / 高さ : 2.1m / 重さ : 136.0kg / 格闘 ・ 悪タイプ
気性が荒く、ケンカっ早いが、弱いものいじめは許さず、仲間への情は厚い。
竹の葉っぱの揺れで、敵の動きを読む。
拳で語るタイプ。ガタガタ言わずにぶん殴り、ダンプカーもふっ飛ばす突進をかます。
その豪快な性質に惚れこむトレーナーも多いが、ゴロンダのトレーナーになりたいなら、拳で語り合うしかない。
アーシェ:「ワカシャモ!!火の粉!!」
相手のボディプレスを回避したワカシャモが、追撃の火の粉をゴロンダの顔に吹きかける。
男性トレーナー:「くっ……火の粉で牽制してきたか……。」
アーシェ:「敵が怯んだこの好機を逃すな!!ワカシャモ、二度蹴り!!」
火の粉を顔面に受けて怯んだゴロンダの背後に、ワカシャモのニ連蹴りが炸裂した。
男性トレーナー:「やりやがったな!!ゴロンダ!奮い立てる!」
相手トレーナーの指示を受け、ゴロンダが自身の攻撃力と特殊攻撃力のステータスを上昇させた。
……ゴロンダに特殊攻撃力は必要無いと思うのは、私だけだろうか?
まぁ、育成方法や技構成は人それぞれだよな。
アーシェ:「自分のステータスを上げてきやがったか。けど、上がったのは攻撃力関係だけで、防御面に関してはそのままのはず……ここは一気に攻め落とす! ワカシャモ、つつく攻撃!」
男性トレーナー:「させるか!ゴロンダ、巴投げ!」
ワカシャモの攻撃を耐えたゴロンダがワカシャモに掴みかかろうと、太く逞しい腕を伸ばしてくる。
アーシェ:「ワカシャモ!!体格的にも、レベル的にも、いろんな意味で、あのパンダマンに1度でも掴まれたら終わりだと思え!!つつくは中断!攻撃を回避して、火の粉で牽制だ!!」
ワカシャモ:「 (。`・ ω ・) ” 」
振り下ろされた両腕を回避し、ゴロンダの背後に回り込んだワカシャモが火の粉を放つ。
男性トレーナー:「くっ!!速い!!」
アーシェ:「特性『 加速 』のおかげで徐々に速くなるし、小回りが利くからな……さぁ、これで終わらせるぞ!!ワカシャモ、二度蹴り!!」
* * * * *
セローナの町・ポケモンセンター。
ナース:「それでは、ワカシャモとイワークをお預かりしますね。」
アーシェ:「あぁ……はい、お願いします。」
先程のバトルやその後続けて挑まれたポケモンバトルで無事に勝利を収めたものの、思いの外ダメージを受けたワカシャモとイワークをナースさんに預けて、近くにあったソファに腰掛ける。
アーシェ:「ふぅ……疲れた。いや、まぁ……実際に疲弊してんのは、ワカシャモとイワークなんだろうけど……さて、とぉ!」
2匹が回復するまでの間、読書を楽しもうと思って荷物の中から本を取り出した……と、ほぼ同じタイミングで、私の目の前の机の上に、モーモーミルクが入った瓶が小さく音を立てて置かれた。
アーシェ:「……ん?」
「うふふ。さっきのポケモンバトル見てたわよ。良い試合だったわね。」
声がする方を見ると、1人の優しそうなお姉さんが立っていた。
緑色のふわふわしたロングヘアー。
カッターシャツの上からキャビンアテンダントを彷彿とさせるような丈の長い藍色の服を着こなしている。
いや……まぁ、そんなことより……
アーシェ:「そいつはどうも……で?これは?」
女性:「それは見物料ってことで。良い試合を見せてもらったお礼……かしら?私からの奢りよ。」
アーシェ:「………………いただきます。」
『 出された物は有り難く頂かなければならない 』
そう古事記にも書かれている。
とりあえず、私はテーブルの上に置かれたキンッキンに冷えたモーモーミルクを一気に飲み干し、読書を再開する。
女性:「もう1本、どう?」
アーシェ:「腹下すわ。遠慮しておく。そんなことり…………見た感じ、あんた……何かの仕事の最中じゃねぇのか?」
女性:「あら?どうしてそう思うの?」
アーシェ:「いや、別に……ただ、何もねぇのに、そんなスーツをピッと着こなして……旅人って感じには見えなかったからさ。私みてぇな、くだらない人間に話しかける時間があるなら、早く仕事に戻った方がいいぜ?」
女性:「うふふ。そうね、ついさっきまで仕事をしていたんだけれど……良いのよ。仕事はもう終わらせて、今は休暇中だから。あっ……そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は『 ティア 』。よろしくね。」
アーシェ:「ん?あぁ……私はアーシェ・バーンハルウェン。最近ポケモントレーナーになったばかりの人間だ。」
ティア:「そうなの?それじゃあ、同じポケモントレーナー同士、仲良くしましょ。アーシェちゃん。」
アーシェ:「……仲良く……ねぇ……」
私は自分の目の前に差し出された右手に視線を落とし、それを握り返すかどうか……一瞬、躊躇してしまう。
ティア:「どうしたの?」
自分の両親、ヴァン神父……私は大切な人を既に3人も亡くしている。
このティアと名乗る女性が、私にとって大切な人になるか……初対面の今、何の保証も確証も無いけれど、それでも……こんな私と親しくして、今後災難に巻き込ませるというのは、つまらない話だ。
アーシェ:「私は……」
ナース:「アーシェさん。お預かりしたポケモンの回復が終わりましたよ。」
何か良い感じのタイミングで流れたナースさんの施設内アナウンスを聞き、私は目の前で笑顔のまま手を差し出していたティアを横目に席を立った。
ティア:「アーシェちゃん?」
アーシェ:「悪いな。別にティアのことが気に入らないとか、そういう話じゃねぇんだ。ただ……私なんかと関わるくらいなら、あんたには自由気ままに旅をして、自分の仕事をちゃんとしてほしい。だから………ごめん、『 よろしく 』 はしない。モーモーミルク、御馳走様でした。」
ティアにそれだけ伝え、ナースさんから元気になったアチャモとイワークが入ったモンスターボールを受け取り、そのままポケモンセンターを後にした。
* * * * *
次の町へ向かう街道。
アーシェ:「………………って、おい!?何であんたは私に付いて来てんだよ、ティア!」
ティア:「え?」
私の歩く数歩後ろを、ティアが静かに着いて来ていた。
気配に気づいて私が振り返ると同時に、彼女もピタッ!と動きを止め、私が歩き出したらまた同じように歩き出す……それが、あのポケモンセンターを発ってから数十分くらい続いている。
アーシェ:「いや、そこで小首を傾げられましても……私が何か間違ってることを言ってるみたいじゃねぇか。」
ティア:「だって、アーシェちゃんが言ったんじゃない。『 自由に旅をして、ちゃんと仕事をしろ 』って。だから私は自由に自分の意志でアーシェちゃんに同行しているだけよ?」
アーシェ:「うっ……言った…………確かに言ったけど、そういう意味じゃなくてぇぇぇ…………あぁ~もうっ!」
ティア:「大丈夫?アーシェちゃん。カルシウム足りてる?モーモーミルク、飲む?」
アーシェ:「さっき飲んだわっ!はぁぁぁ……何かもう、1人で騒いでるのがアホらしくなってきた。わかったよ、あ~!はいはい、私の降参ですよ。まったく……だけど、ティア。私の旅に同行してくれるのは良いけど、1つだけ約束!」
ティア:「何かしら?」
アーシェ:「私はただただ気ままに旅をしているだけだ。目的も無ければ、いつ終わる……飽きてやめるかも解らない、そんないい加減な旅だからさ、もし!旅の道中で何か仕事や予定が入った場合は、ティアは迷わずにそっちを優先すること!私の旅に付き合わせて、あんたの人生……っていうか職を台無しにしたくねぇからな。」
ティア:「アーシェちゃん……」
アーシェ:「約束できるのか?できねぇのか?まぁ……私としては、ティアは美人で大人なお姉さんだから、これくらいの約束は守ってもらいてぇところなんだけど……な?」
ティア:「もう……おだてても、モーモーミルクしか出ないわよ?」
アーシェ:「ミルクはもういいって……」
ティア:「そう?美味しいのに……」
アーシェ:「それは知ってる。んで?私の言った約束……守れるのか?守れねぇのか?」
ティア:「えぇ、了解。ちゃんと守ると約束しましょう。」
アーシェ:「そっか。それじゃあ……」
今度は私からそっと、ティアの前に右手を差し出す。
アーシェ:「さっきは私が拒否しちまって、ごめん。ちょっと、思うところがあって……な。だから改めて……今度は私から。これからよろしく、ティア。いろいろとたくさん迷惑をかけるかもしれねぇが、一緒にゆるゆると、この地を旅しようぜ!」ニコッ
ティア:「えぇ!こちらこそよろしくね、アーシェちゃん。仲良くやっていきましょう。」ニコッ
アーシェ:「そうだな。仲良くやっていくうえで、1つ私の個人情報を教えておく。」
ティア:「あら?何かしら?」
アーシェ:「私はミルクも飲むけど、コーヒーの方が好きだ。」
私が差し出した手を、ティアが優しく……だけど、しっかりと握り返してくれた。
ちょっと前の自分なら、おそらく 『 馴れ合いは好きじゃない 』 とか何とか言って、頑なにティアの同行を拒否、拒絶していたと思う。
知らないうちに、少しずつ私も変わっているのか……なんて、らしくないことを考えつつ……
今は新しく 『 人間 』 の仲間ができたことを、素直に喜ぶとしましょうか。