第二節 粗暴な彼女、放浪中にて

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読了時間目安:16分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

1話も読みやすく改稿しました
【2話】


「お願いします!助けてください!」

 地面で丸くなりながら、フキに涙を溜めた瞳で訴えかける少年。どこか脳裏にワンパチの姿を想起させる姿だった。
 彼は背中に同じようなキリキザンの模様を刻まれている、くたびれた男達に袋にされている真っ最中だった。

「おいおいここを通ろうっていうのに、俺らに通行料の一つもねえんじゃ義理が立たねえってもんじゃねえのか坊ちゃんよォ!」

「いや違ッ!?僕はここに迷い込んだだけで!」

「酒屋に入っちまったらチャージ料払うのは当たり前だろう?俺らのショバに入っちまったら、払うもん払ってもらわないとなぁ?」

「知りませんよ僕まだ未成年なんですっ!?」

 側から見てもどこぞの半グレか、ギャングの集まりのよう。
 何度か彼らからもチラチラとフキへ視線が突き刺さり、思わず首をポリポリと引っ掻いた。

「おう姉ちゃんどうかしたんか?なんか用でもあるんか、あぁ?」

 彼らはどうやら、この場に居合わせても去ろうとしない奴が気になる様子。ゴロツキどもは路地裏に現れた新たな闖入者へ向けて、怪訝そうな表情を向けた。
 その注目を一身に集めながら、思わず目を瞑って大きくため息をつく。助けを求める少年の瞳を真っ直ぐ見据えると、キッパリと一言。

「運がなかったな。それじゃあ頑張れよ」

 そう言ってイイ笑顔を浮かべ、右手をあげてヒラヒラと振ると、くるりとその場に背中を向けて歩き出そうとする。
 ゴロツキたちは不干渉を崩さない態度を見て、ニンマリと相好をいやらしく歪めた。

「いや待ってください!こんな状況の僕を見捨てることってありますか!?普通助けてくれたりする奴ですよね!」

 それでも去りゆく背中を呼び止めたのは、先程の少年の声。さっきまでより切羽詰まった様子で、藁にも縋らん勢いだった。
 ただ脳裏によぎるのは、面倒事を起こすなと口酸っぱく言い留めてきたリリーの姿。。面倒くさそうな顔を隠す気力もついぞ無くし、今一度振り返った。
 そのまま数歩少年の方に歩み寄り、彼を見下ろす。物分かりの悪い小僧に言い聞かせるように、勤めて猫撫で声を心がける。

「いいか?面倒ごとに巻き込まれるのはお断りなんだよ。それにだ、アタシが助けようとすれば、そこの怖―いお兄さんにもれなくガン付けられるわけよ」

 周囲のゴロツキ達を見回した後、少年の身なりを見回してから言葉を続ける。

「そもそも道に迷ったのか知らねえけどよ。あんた不注意だぜ?良いとこの坊がこんな掃き溜めに足を踏み入れたらどうなるか、バカでもわかるだろ」

 ピシャリと言い放つと、少年は二の句が告げない様子。
 アタシは少し足早に、その場を後にした。





 日も傾き空が藍色になり始めた頃。予定されたリーグ開催のため、改修工事が行われているリーグドームへと戻ってくる。
 残念ながらあの可哀想な少年に会った以降の釣果は素寒貧。ただ一日クソ暑い中歩き回る結果に終わった。

「フキさんお疲れ様です!ってうわ…いつにも増して機嫌悪そうですね」

「うるせえ」

 会場の総合受付に入るなり、リーグ委員に軽口を叩かれる。思わずブスッとした表情がより深まるが、こればかりはどうしようもない。
 しかし運営の奴らも慣れたもので、笑ったまま特に意に介した様子がない。

「あっそういえば聞きました?ウチのドームのビルエリア、なんだか学者さん達の学会で貸し切りらしいですよ」

「ってことはもしかして上の会議室が?」

「ですです。確かフキさんってあそこ、寝床として使ってましたよね」

「げっ、てことは部屋には戻れねえのか?今日一日散々だな…ま、しゃあねえ。夜には使い終わるだろうし、それまで待つか」

「そう言うと思って一部貰っておきましたよ、タイムスケジュールの書類」

「お。気が効くじゃねえか。あんがとな」

 リーグ委員がピラリと差し出した書類を受けとり、ざっと目を通す。

「ヒウン大学分子生命科学科主催研究総会…?うーわ、読んでるだけで頭痛くなてきやがるな…もっと短く纏めろっつーの」

「学者さんは正しく伝わることの方が大事ですから、わかりやすさは二の次ですよねぇ。なんでもイッシュ地方の大学が主催らしいですよ」

 思わず眩暈がしてきたので腕をできる限り伸ばして書類を遠ざけながら、目を細めて細かい部分を読み進める。

「はー、まあウチの建物ムダに金掛かってて広いもんな」

「にしても夜の8時までやってんのかよ。ご苦労なこった」

 リーグに設置されている、モニターの電子時計をチラリと見やる。まだまだ終了までの時間は遠い。
 思わず眉間を揉み解したフキだったが、そこにリーグ委員の不思議そうな声が掛かる。

「そういえばなんですけど、そもそも他の四天王のお三方みたいにちゃんと家なりアパートなりに住んだりしないんですか?」

「あー、アタシ家とは喧嘩別れっつうか、親父には半分勘当同然で追い出された感じでさ。あんまりどっかに身を固めると昔の家族と会っちまいそうで…」

「つまりはバツが悪いってことですね」

 その言葉に苦虫を噛み潰したような顔をしたが、ややあってゆっくり首肯する。

「……。まあ、先に委員長ちゃんに筋通したから寝る分には許可取ってあるぞ。アタシが勝手に占領してるわけじゃないんだぜ?」

「フキさんなら勝手に占拠してても誰も文句言わなさそうですけどね。なんてったって狂犬ですよ?世間の評判」

「言わしとけ。アタシだって筋は通すさ」

「それじゃあ僕はこれからスタジアム設営の準備があるので、ここらで失礼しますね。多分ビルエリアの受付に言えば今日のタイムスケジュールもらえると思いますので」

 そう言ってリーグ委員は、もう観客のいない閑散とした受付ロビーを小走りで駆けていく。

「おーう。頭脳労働はゴメンだが、鉄骨運び肉体労働なら呼んでくれよ。どうせ会議室空くまでやる事ねえからな。っても、ポケモンみんなセンター送りだからあんま期待すんなよ」

「下手な僕らのポケモンよりも動ける人はフキさん以外に知りませんよ、フィジカルお化け!」

「そんなに働かせんだったら、後でジュースの一杯でも奢れよ!」

 そう言って少しだけ口角を上げたフキは、リーグドームへと歩を進めた。





 リーグエリアと異なり、きっちりとした格調でビジネス色の強いビルエリア。しっかりとスーツを着込んだ受付対応の者が、顔を蒼白にしているところだった。

「フフフ、フキさん…!あ、あの、まだ学会が終わってましぇん!」

「おう、教えてくれてあんがとな。あと別に取って食ったりしねえからそんなにビビんなよ」

 彼女を前にして萎縮しっぱなしのビルエリア受付に調子を崩しながら、どうしたものかと首を捻る。
 ゴミ片付けが思いのほか忙しく、フキがビルエリアにやってきた際には、時刻はもう午後10時を回っていた。
 ベタベタと肌に纏わりつく服の感覚が気持ち悪いが、リーグエリアは9時閉館。それに伴って併設されているシャワールームも使えない。

「しょうがねえ、バレねえようにビルのやつ使うか。会議の邪魔しなきゃ怒られねえだろ。うん」

 ビル受付対応の人が顔を真っ青にして倒れそうになるのを尻目に、小言を言われないようその場をさっさと後にする。

 飲みかけの温くなったサイコソーダをグイと一気に呷って、口元をグイと手で拭う。そのまま慣れた手つきで空いたボトルを放り投げ、かなり離れた所に置かれたゴミ箱に狙いを違わずゴール。
 アタシが外すわけもないので、ゴトンと音が鳴る頃にはもうエレベーターの中へ進んでいく途中だった。





「ふぃー、やっぱ夏場のシャワーは最高だぜ。身に染みるってか」

 シャワーあがりで湯気を漂わせながら、頭をワシワシとタオルで拭うフキ。
 いつもの和服姿に戻れば、やはりどこかしっくりときた。小声で独りごちながら抜き足差し足、暗いビルの廊下を進んでいく。

 本来ならばそのままビルの階下へ戻って行くはずだったがその道すがら。会議室に備えられた扉の隙間から、一筋の光が漏れていることに気づいてしまった。
 普段からよくビルを使っているからこそ、そこが会議室だとすぐさま気付く。

「…見るだけ、見るだけならセーフ」

 どことなくこんな遅くまで会議室を使い続けている団体が気になってしまう。思わずそわそわと落ち着きなく、光に誘われるむしポケモンの如く裂け目へ吸い込まれた。
 そのまま息を潜め身を屈めると、そっと隙間を覗き込み様子を伺う。

 そこにはスーツを着込んだお歴々の足元しか見えない。足を組んだり揺さぶったり、だいぶ長い時間が経って疲れているようだ。
 そこでボソボソと話し声が聞こえるので、そっと壁に耳を当てる。代わり映えのしない机の下なんぞ見ていても面白くない。

『君の仮説の話は分かった。論理に幾分かの筋が通っていることも認めよう。だが、それでも荒唐無稽の域を出ない事は否めないね』

『それはっ…!証拠さえあれば…!』

『いかなる理由があれど、その証拠の入ったUSBはおろかPCごと紛失したのは君の過失だろう。さて、これ以上この場で有意義な議論が出来るのかね?』

「あーあ、可哀想に。よく分かんねえが、だいぶ絞られてんなこりゃ」

 どうにかあくびを堪えながら、自分とは無縁の話を聞き続ける。

『話を軽く聞き齧っただけでも、荒唐無稽で話が飛躍しすぎだ。もはや子供の絵空事と言ってもいいだろう』

『さて、何か他に申し開きでもあるかい?下手な考え休むに似たり、これ以上無駄な時間を僕らに使わせないでくれ』

『………以上で、発表は、終わりです』

 最後にそう告げた声は掠れながら震えていた。例え顔が見なくとも、どんな表情か簡単に想像がつく。

「やっぱ頭のいいお歴々は怖えなったく。最後なんてほぼ泣きかけじゃねえか」

 多分明後日あたりには忘れてしまいそうな同情を示したのも束の間、壁の向こう側はにわかに騒がしくなる。

『さて、夜も更けてきましたがまだレストランは空いていますかね?』

『本来より大分時間が押してしまいましたからね。もうお腹がペコペコですよ』

『まあ、ウラヌシティは荒野のオアシスに作った観光歓楽街。むしろこのくらいの時間からが1番楽しいですよ』

 床を踏み鳴らす音が雑多に増え、会話がそこかしこで弾み始めていく。耳を当てずとも煩雑な音が外に漏れ始めた。

「別にアタシがいても構いやしねえだろうけど…まあバレねえに越したことはねえか」

 そう呟きながら再び忍び足でそそくさとその場を後にする。ややあってぞろぞろと、会議室から歓談に夢中な学者たちが出て行った。
 その場に少し残された、皮脂と制汗剤のツンと鼻につく匂いに思わず顔を顰める。
 懐から会議室の窓の鍵束を取り出した彼女は、足早に電気がつきっぱなしの会議室へと向った。
 そのまま部屋に入ると、そこにはなかなか素敵な光景。机の上には飲みかけのペットボトルが放置され、ペンやハンカチが置き忘れられている。それと、机に突っ伏した人間も。

 とりあえず匂いがキツい会議室の窓を大きく開け放つ。入り込んできたぬるい風に思わずブルリと身震いする。けれどこの臭いに比べたらその程度マシに思えた。
 そのまま机にある飲みかけのペットボトルをゴミ箱に投げ捨て、忘れ物を同じく残されていたハンカチで器用に包み、それら全てを廊下に出す。
 最後に、机に突っ伏した人間の首根っこをむんずと掴む。そのまま廊下へポイと投げ捨て、ようやく部屋が綺麗になった。
 ここで投げ捨てられたその人は、廊下の上でモゾモゾと震えながら起き上がる。そのまま足元もおぼつかない様子で、アタシの元へと歩み寄ってきた。
 頭半分低いそいつはアタシの肩をガシリと掴むと、喉を震わせ思いの丈を絶叫。

「そこは!慰めてくれる所じゃ!ないんですか!」

 ビリビリと、誰もいないそのフロア中に少年の声が木霊した。

「キィキィうるせえよズバットかお前は。今すぐ暗い街ん中放り出すぞ」

「待ってくださいよ!こんな落ち込んだ人にその仕打ちは無いんじゃないですか!?」

 握られた手を軽く振り払うと、まじまじとその男の顔を見る。何だか、どことなく聞き覚えのある声なのだ。
 眉間に皺を寄せ数秒。頭から記憶を引っ張り出した後、ポンと手のひらを叩いた。

「ああ、お前昼間のワンパチ男か!こんな所でまた会うなんて奇遇だな!」

「ワンパチ男?」

「ああいや、こっちの話だ。いやースッキリした」

 得心がいってバンバンと少年の背中を叩いた。その様子に少年の方がポカンと口を開け、頭の上に疑問符を並べる。

「いや、僕、そんなジョウトの服着た人見たら忘れないはずなんですけど…いやでもその服どこかで…」

 今度は少年が頭を悩ませはじめたが、自身の顔を指差すと「んだよ察し悪いなぁ」と思わず声が漏れる。

「いやアタシだよ。ほら、昼間に会ったじゃねえか。お前が蹴られてたとき」

「…っあ!あぁっ!ああああぁっ!」

 ぱくぱくとコイキングのように口を開閉しながら、アタシの顔とヘソだし部分を交互に指差しながら何度も見返していた。失礼なやつだ。

「でもだったらなんで、服なんかに見覚えが…?」

「あー、そりゃ、うちの姉さんと姐さんに負けてモデルにされたからだな…ほら、これ」

 主人の意図を読み取って懐から飛び出てきたスマホロトムを操作すると、一つのページを探し出して少年に差し出す。
 そこには、セレブリティ社刊行の有名なファッション雑誌が表示されていたが、その表紙を飾るのは見覚えのある彼女の姿。
 ページの下には『四天王フキ、まさかのモデルデビュー!?』とクソ恥ずかしい文言がデカデカと書かれており、そこまで目を運んだ彼はワナワナと口元をヒクつかせた。

「し、し、し、四天王ぅぅぅうう!?カフッ…」

「うわコイツ泡吹いて倒れたぞ」

 2度目となる絶叫と共に、ついぞ情報の衝撃に耐えきれなくなり頭から床に倒れた少年。
 その様子を見て、ガシガシと頭を強く掻くのだった。


◆◇◆◇◆◇◆


「貴方たちは間違っていませんよ。むしろ、南部の人たちのために尽くしてると言ってもいい」

 ギラギラとガラの悪い装飾がなされた部屋の下座で、男は優しげにそう告げた。
 向かって上座に座るのは、恰幅のいいガマゲロゲのような相貌の男。彼はニンマリと相好を崩すと、手を揉み込む。

「ええ、ええ。その通りなんですよ、もともとここは私たちの土地だったのに。土足で踏み入った者どもが、我が物顔で私たちを食い物にしたのです」

「その為に貴方がそういう人達の受け皿を作った、でしょう?誰にでもできることじゃない」

「まさか!『先生』の人脈があってこそです」

 下座にいる『先生』と呼ばれた男の姿こそ見えないが、声音はとても穏やかなものだった。

「でも、そこに住まう人のために動いたのは貴方だ。そこは変わりませんよ」

 パチパチと拍手が部屋を木霊し、やがてガマガエル顔の男−マフィア、『ビシャープ・ファミリー』の二代目頭目はいやらしく顔を歪める。

「それでは、先ほどの件に関しては、手筈通りにお手伝いいただけるのですね?」

「ええ、これまで通りに。そしてこれからも」

 そう言い残すと『先生』と呼ばれた男は部屋を後にする。
その際に触れた扉には、大きくキリキザンのステッカーが刻まれていた。
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オレアくん
身長164
ゆるい天パの、オレンジが買った髪
そばかすとかありそう

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