【第078話】魂の分割、悪手な勇み足

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:6分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください




ーーーーー何十回目かの場面転換……お嬢は目を覚ます。
周囲に見えるのは真っ暗な闇。
上も下もわからない、そんな空間だった。
「ここは……うっ!」
「まねっ!?」
それに加えて、何かが内蔵の奥から這い上がってくるような感触がある。
見渡してもジャックの姿は見当たらない。



ここでお嬢は理解する。
この場面が今までの3人称視点ではなく、ジャック本人の1人称視点であるということを。
そして先の場面がサンドの爪が体内に食い込んだ所……SDの発現の原因となった場面だ。
であればこれは……
「SDの力が発言する瞬間………!」



お嬢が気づいた、その直後であった。
内臓の感触が一層強くなり、それは全身にまで広がっていく。
「うッ………!」
得も言われぬ不快感が四肢の先端にまで走る。



しかしその不快感はすぐに消えた。
むしろ全身の感覚が冴え渡ってさえくる。
「あ……あれ?」
更に襲ってくる違和感。
普段とは大きく違う感覚。



「音が2つ聞こえる……光も……臭いも……」
片側は人間のソレだが、もう片方は明らかに人間ではない何かの感触だ。
……そう、これがSDの『感覚共有』。
一部の思考や感覚を、ポケモンとその適合者が同時に享受できるようになるものだ。
彼らの魂は、分割され混ざり合う。
まさにSoul Divide(ソウルディバイド)の名の通りの現象だ。
それをお嬢は、身を持って追体験していた。





ーーーーーいつの間にか、お嬢の意識が遠のいていた。
「そっか……場面が……。」
気づくと場面は切り替わり、そこは病院の一室であった。
目の前のベッドには、重篤状態の少年が寝かされている。
間違いない、彼はジャックだ。
どうやら元の3人称視点に戻ったようだ。



「うぃるっ!うぃるるっ……!」
隣で保護カプセルに入れられたサンドが、心配そうに鳴き声を上げている。
自らのせいでジャックが傷ついてしまったと自覚しているからこそ、彼の生死が気にかかって止まないのだろう。
何とも痛々しい様子であった。



やがてしばらくして、ジャックは目を覚ました。
「ッ………ここは!?」
起き上がった彼は病室を見渡す。
生死の縁を彷徨っていた彼は、無事に生きて帰ることが出来たのだ。



しかし彼の姿は、大きく変わり果てていた。
顔色が随分と悪くなり、幾らかやつれたようにも見える。
そして何より……髪の殆どが銀色に染まってしまっていた。
SDの発現者に見られる共通の症状……体毛の脱色だ。
彼は正真正銘、適合者としての在り方を強いられる事となったのだ。



しかしそんな事よりも、彼には大事なことがあった。
「うぃるるっ!」
「さ、サンド……無事だったのか!」
隣のカプセルに居たサンドと共に、彼らは互いの無事を喜びあった。



やがてジャックの意識が戻ったことを知った医師が、急ぎ足で駆けつける。
「ジャックさん……!よくご無事で……!」
「っ先生……此処は?」
「レンジャーの方が発見して此処まで搬送してくださったんです。あと数十分遅れていたら危ないところでした……。」
医師はほっと胸をなでおろす。





ーーーーー場面が飛ぶ。
先のジャックが目覚めたところから1週間が経過した。
医者は、
「念の為に今後数年は安静にすること。特にバトルは控えたほうが良い。」
とジャックに告げた。
しかし当の本人は、
「悪いが約束している相手がいるんだ。アイツと戦うまでトレーナーは止められない。」
とだけ言い残し、そのまま病院を後にしてしまった。
彼はエンビとの決戦のために、と再び歩みだしたのであった。
……それが最悪の選択となることも知らずに。



ーーーーー約1年の時が過ぎた。
この間、彼はイジョウナ地方だけでなく他の場所にも赴き、多くのトレーナーにバトルを仕掛けていった。
その勝負の結果は全てが圧勝。
ただでさえ敵なしの実力者であったジャックが、SDの力を手に入れてしまったのだ。
まさに水を得たコイキング、カモネギにながねぎである。



やがて4回目のイジョウナリーグ開催の日がやってきた。
お嬢はリーグ会場のスタジアムへと再び立っていた。
観客席には例年より多くの人が押し寄せ、凄まじい盛り上がりを見せる。
無敗のトレーナー2名……エンビとジャックが出場する、というだけで各地から人々が集まってきたのだ。



……しかしだ。
その観客たちは案の定、唐突に動かなくなってしまった。
場面再生の停止だ。
「………そろそろ来るんじゃないかと思ってたわ。」
お嬢はそう言って、目の前に顔を向ける。



そこに居たのは……当然、スエットだ。
同じ景色を見てきたであろう彼女に、お嬢は大声で問う。
「どうだったかしら?ジャックのこの1年は。」
スエットは答えた。
「……憎いほどに輝かしい。なぜ貴方があれを拒むのか、分からない。」
「そうね……アンタにはまだ分からないでしょうね。」



そう言ってお嬢はボールを取り出し、臨戦態勢となって構える。
彼女を分からせるには、次の場面を見せてやるしか方法はない。
そのためには、此処で彼女と戦うしか無いのだ。



「……私は、貴方を認めない。貴方より劣っていることなんか、認めない……!」
「フン、何とでも言いなさい。」





スエット戦、4番目の勝負が開幕する。





評価・ご感想お待ちしております。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。