第3章 第5話

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読了時間目安:25分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

華澄
(6人の…眷族)

賢城
「どないした? まだ何か気になるんか?」


拙者は、フィア殿が消えた後もまだ先へ進んでいなかった。
迷いがあるわけではござらん…ただ。


華澄
「…フィア殿は、結局1度たりとも拙者たちを傷付ける事はしませんでしたな」

スミルノ
「確かに、私(わたくし)に放った技もわざわざ相殺するだけにとどめておりましたし…」

賢城
「…ふん、それがどないした?」
「そんなもんは、今考える事とちゃうやろ?」


確かに、賢城殿の言う通りではあります。
ただ、フィア殿の残した言葉は確実に拙者達との戦いを想定した言葉…
果たして、あの先に待つイベントとは?

拙者は覚悟を決め、闇の先へと続いている暗き道に向かって走り出した。
一切の光が入らない漆黒の闇を無言で駆け抜け、やがて拙者達は微かな光の射す出口へと辿り着いた。
そしてその先にいたのは、拙者達が探していた張本人…!


華澄
「ア、アリサ殿!?」

アリサ
「…ようやくお出ましかよ、待たせやがって」


アリサ殿はひとり、コンテナの様な木箱に座って待っていた。
周りはビルの壁に囲まれており、酷く暗い…
街灯だけが頼りな位の灯りですが…一体何処なのでしょうか?

ちなみにアリサ殿の服装はややパンクなスタイルで、いかにもな不良の風貌。
頭にはエースバーン特有の白い耳がピンと立っており、耳の穴は黄色なのが特徴です。
そして炎の揺らめきを思わせる様な、赤く短い髪。
あれから2年も経った以上、大きく印象が変わっておりますな…


華澄
「…アリサ殿、もう帰りましょう」

アリサ
「何処へ? アタシの帰る場所はアタシが決める!」

スミルノ
「アリサ様、アンドレイ様がお亡くなりになられました…どうか屋敷にお戻りを」

アリサ
「それがどうした? アタシはもうひとりで生きていける…」
「アタシに身内はいない、アタシはずっとひとりだった!」
「お前等なんざアタシには必要無い! それをここで証明してやる!!」


そう言ってアリサ殿は地上に降り立つ。
赤い瞳に金色の瞳孔が光り、彼女は戦闘態勢に入った。
拙者は同様に構え、迎え撃つ態勢に入る。


賢城
「…やれんのか?」

華澄
「やります! 例えアリサ殿の手足をへし折ってでも、連れて帰るでござるよ!!」


拙者はそう言って右手に水を圧縮する。
アリサ殿は炎タイプ…殺さない様、少々手加減せねばなりませぬが。


アリサ
「ふん…! イチイチ気に入らないんだよお前は!!」


そう言ってアリサ殿は足元にあった小石を蹴り上げる。
それは軽く帯電し、みるみる内に電撃を纏う球体へと変貌していた。
拙者は驚くも、冷静に対処する。
アリサ殿が蹴り抜いた電気の球は真っ直ぐに拙者へと向かって来る。
拙者はそれに対して瞬時に身を引き、ギリギリでかわした。
そしてそのまま、右手から『ハイドロポンプ』を発射する。
しかし、真っ直ぐアリサ殿に向かったそれはジャンプで回避され、そこから更にアリサ殿の技が拙者を狙う。


華澄
「!!」

アリサ
「ちっ!」


アリサ殿は上空から拙者に向かって蹴り抜こうとするも、拙者はそれを容易く回避した。
次に拙者は『水手裏剣』を3枚練る。
そしてそれを同時に投げ付けてアリサ殿の隙を突いた。
…が、アリサ殿はそれすらも大ジャンプで回避し、今度は上空から火球をオーバーヘッドで蹴り落として来る。
拙者はそこから横に飛んで壁へと張り付き、そのまま三角飛びの要領で上空へと狙いを付けた。


ドオオォォンッ!!


賢城
「!?」

スミルノ
「賢城様、ここはお退きください」


さっきの火球が地面に着弾し、大爆発を起こす。
それに怯んだ賢城殿を案じてか、スミルノ殿は退く様に促した。
このままでは巻き添えもありますな…そんな事を気にもかけませぬか!


華澄
「アリサ殿! そこまで拙者が憎いのでござるか!?」

アリサ
「そうだよ!! お前の存在その物が許せない!!」
「だから、ここでお前を消してやる!!」


拙者は刀状の『アクアブレイク』で斬りつけるも、アリサ殿はそれを右手で無理矢理受け止めていた。
痛みは有るであろうに、それでも憎悪の視線を向けて拙者に膝蹴りを見舞ったのだ。
流石の拙者も空中ではかわしきれず、腹に貰ってしまった。
しかし、拙者はそのまま反撃に移る。
今度は口から『冷凍ビーム』を放ち、アリサ殿の左足を凍らせたのだ。


アリサ
「姑息な真似を…!」

華澄
「まだまだ青い証拠でござるよ!!」


アリサ殿はこちらの予想通り炎の熱で左足の氷を解かす。
拙者はそこから真下に『ハイドロポンプ』を放ち、空中で軌道を変えた。
即座にアリサ殿の左足から火球が飛び出す。
拙者はそれを予測回避し、更に壁へと張り付いた。


アリサ
「ちっ…! 鬱陶しい奴め!!」


アリサ殿はそのまま地面に着地する。
拙者も1度地上に降り、仕切り直しとなった…


華澄
(おかしいでござる…あれから2年も経ったとはいえ、アリサ殿がここまでのレベルになるでござるか?)

賢城
「…あの嬢ちゃん、元々あんな強かったんか?」

スミルノ
「いえ、流石にあれ程の動きとパワーはとても…」
「才能は誰よりもあったかもしれませぬが、華澄様の動きに付いて行けるレベルには到底…」


そう…元々アリサ殿は喧嘩をする事も多く、同世代の仲間からすれば頭ひとつ抜けていた。
しかし、それはあくまで子供の喧嘩止まりのレベルであり、ここまでの戦闘をこなせるレベルでは決して無かったのです。
無論、あれから2年も経った以上経験次第では無くも無いのでしょうが…


華澄
「アリサ殿…一体どの様にして、それ程の力を手に入れたのでござるか?」

アリサ
「コレはアタシ自身の力だ…! お前を殺す為にアタシが身に付けた!!」


その時…アリサ殿の背後に、何やら禍々しい気を感じた。
それは今まで見た事の無い類いの気であり、明らかに異質な気…
未だに疑問は拭えぬ…何故、アリサ殿は拙者を憎むのか?
ここまでの殺意を込められる程、拙者とアリサ殿に接点があったか?


華澄
(やはり解せぬ…! この憎悪の正体は、もしやアリサ殿の物では無いのでは!?)


アリサ殿はその禍々しい気を膨らませ始める。
その時、拙者は見た…アリサ殿の肉体が変性していくのを。
長い耳は更に伸び始め、足元にまで到達しようかと言う程の長さになる。
そして足元からは炎が巻き上がり、やがてそれは巨大な火球へと変化した。
その火球はまるで人の顔を模したかの様な模様があり、アリサ殿はそれに乗ってこちらを見下ろす。

こんな変身は…始めて見る!


華澄
(まさかメガ進化の類い!? 愛呂恵殿や鐃背殿と同様のパワーアップ形態なのか!?)

スミルノ
「あれは『キョダイマックス』!! しかし、肉体のサイズを維持したままですと!?」

賢城
「何やそれは!? 一体どういうこっちゃ!?」


こちらの疑問も晴れぬ間に、アリサ殿は攻撃態勢に入る。
その場で後方一回転し、右足で火球を蹴り抜いたのだ。
そして巨大な火球は一直線に拙者へと向かって来る。
拙者は両手を構えて全力で水を放出した。
…が、火球の威力が高すぎて拙者の腕ごと水は蒸発し、大爆発を起こす。

拙者は服をボロボロにし、そのまま吹き飛んで地面を転がってしまった…


華澄
「…ぅ、ぐぅっ…!!」


拙者はそれでも歯を食い縛って立ち上がる。
アリサ殿は意に介さず今度は電気の球を足で作り、それを蹴り抜いた。
すると電気の球は地上に着弾したと同時、一気に拡散して地上全てを雷で覆う。
拙者はすぐに『草結び』を仕掛けてタイプを変えるも、火球に蔦は焼き付けされ技は無効…拙者は痺れに耐えながらも何とか踏みとどまる事には成功していた。


華澄
(この技は一体何だ!? 威力も効果範囲もデタラメ過ぎる!!)


今ひとつのダメージでさえ、気を抜けば意識を持っていかれかねない程の威力だ。
キョダイマックス…一体何なのだそれは!?


華澄
(このままではマズイ…! 後一撃耐えられるかすら…!!)


拙者はその場から何とか動き、少しでも撹乱しようとする。
だが、先程の痺れがまだ尾を引いている為、思う様にスピードが出なかった。
しかし、ここで諦める訳にはいかぬ!

拙者は全力で『水手裏剣』を1枚に収束させる。
そしてそれを全力で投げ付けて火球を切り裂こうとした。
着弾と同時、凄まじい蒸発音と共にアリサ殿の火球は水手裏剣とせめぎ合う。
拙者の全てを込めた水手裏剣…! これならば!!


アリサ
「その程度の水が…一体どうしたぁ!?」


アリサ殿は再度後方一回転し、火球を蹴り抜いて更に熱量を高めた。
その結果、拙者の水手裏剣は完全に蒸発して消滅する。
拙者はもはや動ける状態ではなく、完全に放心してしまっていた…


華澄
(拙者の…水が、炎に勝てない…と?)


その光景はもはや悪夢でしかない。
本来相性有利な水が炎に貫かれるのだから…
そしてそれは、拙者の力量が完全に劣っているという事の証明でした。


スミルノ
「華澄様お退がりを!!」

賢城
「爺さん、ひとりで無茶をすな!!」


何と、咄嗟の判断かスミルノ殿が割って入って来た。
そしてスミルノ殿は『守る』を使用し、拙者を庇う。
その後から賢城殿が背中を支え、アリサ殿の火球はスミルノ殿に着弾。

しかしスミルノ殿の展開したフィールドは完全に砕かれ、大爆発を起こして巨大な火柱が噴き上がる。
スミルノ殿と賢城殿は共に吹き飛ばされ、背中から地面に落ちて動かなくなった…


華澄
(…こ、このままでは!!)


拙者は、死を覚悟する。
このままでは間違いなく負ける!
しかし、拙者は何としても負けてはならない。
諦める訳には…いかない!!


華澄
(何が出来る? 何をすれば良い? 拙者には何が残っている!?)


短い時間で自問自答を繰り返す。
そして、たったひとつだけ残された手段があったのを拙者は思い出した…
それは、まだ黙示録が始まる前の話に遡ります……



………………………



華澄
「これを拙者に?」


「そうだ、お前にしか使えんからな」


それはとある日常の1幕…ある日、拙者は藍(らん)殿に呼び出されて城を訪れていました。
そして藍殿が使っている地下研究室にて、拙者はひとつのカプセルを渡されたのです。
ただそれは真っ黒なカプセルであり、異様な雰囲気を醸し出していました…


華澄
「…これは一体何でござるか? やけに怪しい薬に見えますが…」


「『特性変化カプセル』というのを知ってるか?」


特性変化カプセル…確か、ポケモンの持つ特性を変化させる薬でしたかな?
しかし、拙者には確か効果が無かったはずですが…?


華澄
「これがそうだとして、拙者の『変幻自在』の特性は変え様が無いのでは?」


「だから、お前専用だと言ってる」
「ソイツは、俺様が試作したかなり特殊なヤツだ…」
「お前の中に本来存在しない、とある特性を一時的に引き出す事が可能となる…が」
「効果時間は相当短い上に、お前の精神すらも変貌させかねない」
「…だから、可能な限り使うな」

華澄
「使うな? それならば何故今これを?」


拙者がそう聞くと、藍殿は目を細めて腕を組む。
そして椅子の背もたれにギシッ…ともたれ掛かり、静かにこう告げる。



「…もし、本当にどうしようもなくなった時には使え」
「ただし、その後の副作用は一切保証しない」
「お前以外に試しようもない以上、試作の域を出ないのは実に遺憾だが…」
「今後…その力が必要になる日が来るかもしれん」
「そんな事態に陥った時、頼れる物がソレしか無くなったなら…」
「後悔する前に、試してみる価値はあるかもしれない」


その時の藍殿の表情は非常に険しい物でした。
いつもならもっとおちゃらけたイメージのある藍殿でしたが、この時だけはまるで自分が後悔するかの様な雰囲気を醸し出していましたからな…



………………………



華澄
(…今使うのか、アレを?)


拙者は尚も自問自答する。
薬は常に身に付けていた。
投獄中はスミルノ殿に預けており、今は再び自分で保管している。
だが、本当に使わなければならないのか?


華澄
「………」


賢城殿もスミルノ殿も動かない…死んでしまっているのかどうかも、こちらからは解らない。
アリサ殿はゆっくりとこちらに歩み寄って来る…自らの手でトドメを刺すべく。
拙者は無意識に胸の谷間から包装されたカプセルを取り出した。
幸い、形も崩れてはいない…効果はいかほどの物かは定かではありませんが。


華澄
(拙者が本来持つはずの無い、秘められた力…!)


拙者はカプセルを握り締め、それを包装ごと口に入れる。
そのままソレを無理矢理飲み込んだ。
直後、体の奥からすぐに違和感が迸る。
突然焼ける様な痛みと共に、拙者は大声をあげて苦しんだ。

これが…例の副作用!?


アリサ
「? 何だ、コイツ…!」

華澄
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「がぐっ! がはぁぁぁぁっ!!」


まるで体の内部から虫に食われる様な痛みが、全身を蝕んでいた。
拙者は意識を失う事も出来ずに、その痛みに精神を晒される。
だが、やがて急速に痛みは収まり拙者は息を整える事が出来た。

数分位の間だったろうか?
気が付けば拙者の頭は妙にスッキリしており、ゆっくりと体を起こして立ち上がる。
そしてギロリ…と横目にアリサ殿の目を捉えた。
アリサ殿の表情は何かに驚いているかの様な顔であり、明らかな動揺。
拙者はそれを見て考えるよりも早く、その場からアリサ殿に飛び掛かった。
不意打ち気味に動いたせいか、アリサ殿は明らかに反応が遅れており、回避に失敗する。

拙者はそのままアリサ殿に飛び付き、首元に容赦無く噛み付いた…
勿論、 ゲッコウガは『噛み付く』という技は覚えない。
つまりコレはただの本能的な攻撃であり、ただの反射的行動に過ぎなかったのです。


アリサ
「ぐぁぁっ!?」


拙者はそのままアリサ殿の血肉を噛み千切る。
数mm程度の深さではあるものの、アリサ殿は首から血を吹き出して怯んでいた。
拙者はすぐにアリサ殿を蹴り飛ばして地面に着地する。
そして口から噛み千切った肉片を地面に落とした…

その後、拙者はどんどん体温が上昇していくのを感じる。
そして抑えようの無い何かの衝動にかられ、拙者は体を震わせて呼吸を荒らげる。
やがて、拙者の何かが『変質』していくのを理解した。
拙者は…拙者でなくなる?


アリサ
「ぐ…! クソがぁ…!! 一体…な、何が……」
「何をしやがったテメェ~!?」


アリサ殿は怒りに任せて再び火球を蹴り放つ。
拙者は朦朧とする意識の中、ただ右手を前に出してその火球を受け止めた。
同時に水を集めて収束させる。
そのまま…ひとつの水弾と化した拙者の『ハイドロカノン』は、火球を消滅させてアリサ殿へと向かったのだ。


アリサ
「!?」


凄まじい水音をたてて、アリサ殿は人形の様に吹き飛ぶ。
辺りに水を撒き散らし、一帯は水浸し状態になっていた。
ふと、そこに出来た水溜まりに映る自分を見た時、拙者は目を疑う事に…


華澄
(な、何だ…これは、拙者…なのか?)


拙者の額には赤い角が真っ直ぐ立っており、その横には黒い角と青い皮膜の様な物が付いている。
そして背中には十字剣の様な水が纏われており、明らかに今までの拙者とは違う異質な雰囲気でしかなかった…


華澄
(まさか…コレが、拙者の別の特性だと?)


藍殿は確かに言っていた…拙者専用の特性変化カプセルだと。
コレが…この姿に変化する事が拙者の特性なのですか?


アリサ
「クッソ…クソクソクソッ!! 何なんだその力は!?」
「何で今のアタシが押される!? ふざけんなぁ!!」


アリサ殿は尚も怒りと憎悪を向けて拙者に襲いかかって来る。
拙者はそれを見向きもせずに、ただ手を掲げてアリサ殿の回し蹴りを止めてみせた。
更に連続で高速蹴りを放つアリサ殿ですが、今の拙者には止まって見える速度…
ただの1発も貰う事無く、拙者は全てを片手で捌いて逆に蹴りで返してみせた。
それを顔面に食らったアリサ殿は血を吹き出して吹っ飛び、壁に背中を叩き付けられる。
衝撃で壁はガラガラと崩れ落ち、アリサ殿は体から大量の気を噴出させてしまう事に…
その勢いはまるで爆発のごとき凄まじさであり、アリサ殿を纏っていた悪しき気は全て天へと消えていった…

それを見て、拙者の姿も元の姿に戻る。
直後、拙者は糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた。
凄まじい反動が今の拙者を襲っている。
もはや指1本も動かせない程であり、文字通り虫の息も同然の様でした…

これが…藍殿の危惧していた事態なのでしょう。
あの力を使えば、例え勝ったとしても生きていられる保証は無い。
だからこそ…藍殿は極力使うな、と。


華澄
(ダ、ダメか…? しかし、ここで意識を失うわけにはいかぬ!)


アリサ殿の無事だけは確かめなければ…!
もし今ので死んでしまっていたら、拙者はアンドレイ殿たちに合わせる顔がござらぬ!!
そう思った拙者は這いずりながらもアリサ殿の元へ向かう。
だがその時…更に拙者を追い詰める事態が。



「縹 華澄…! そんなにも、そんなになってでも生きたいのか!?」

華澄
(!? ま、まさか…更に新手が!?)


その者は、フィア殿と動揺にボロ布を被って正体を隠していた。
だがフィア殿と違い、この者には明確な敵意がある。
拙者はもう戦えぬ…! こんな…こんな事で、全てを失うのですか!?


華澄
(拙者の…拙者の力が足りぬせいで、それが…神の裁きだとでも?)


「もう良いでしょ? アンタなんか、ここで消えれば良い…!」
「ゲームオーバーよ! 華澄!!」

フィア
「それはマスターが設定したシナリオにはありません」


フィア殿の声がした。
もう拙者には周りが見えはしない…ただ、意識だけを残して這いずり続ける。
アリサ殿を助ける為に…!



「これがマスターの望む結末って事!? どう見てもゲームオーバーでしょう!?」
「私が勝った! 私の『憎悪(Odio)』がコイツを殺すのよ!!」

フィア
「違います、勝ったのは華澄さんです」
「最終的な姿はどうあれ、あのエースバーンを撃破した以上貴女の負けですよ…『ディオ』さん?」


何やら言い争っているのが解る。
それより、何者なのですか…ディオ? 憎悪(Odio)…とは?


ディオ
「…っ! 良いわ、今回だけ見逃してやる!」
「だけど、忘れるな華澄!? お前だけは絶対に私が殺してやるから!!」


そんな捨て台詞を受けて、拙者はチラリとだけ彼女の方を向いた。
そこで唯一目に写ったのは、彼女の足元からチラリとだけ見える魚の尾びれの様な物。
そしてその瞬間、拙者は全身を震わせて『思い出す』…!


華澄
(う、そだ…そんな、そんな事…ある訳!)

ディオ
「何よ…? そんな気に入らない目で私を見るな!!」

華澄
「…み……り…ど、の」

ディオ
「!? 止めて、その名で私を呼ぶなぁ!!」


彼女は怒りのままに拙者を水で吹き飛ばす。
奇しくもそのお陰で拙者はアリサ殿の側まで移動出来、彼女の安否を確かめる事が出来た…


華澄
(アリサ殿…良かった、生きておられる)


拙者は安心してそのまま意識を断つ。
もう…限界で、ござるな。



………………………



ディオ
「…っぅ!」

フィア
「…貴女の憎しみが深いのは理解しています」
「ですが、忘れないでください…今の貴女はマスターのポケモンであるという現実を」


私はそう言ってディオさんを宥める。
しかしディオさんの心の底に巣くう憎しみは何よりも深く、そして力でもあります。
今はまだ…マスターの為に動いて貰わなければ困りますからね。


ディオ
「…もう良い、先に戻るわ」

フィア
「はい…後の事はお任せください」


そう言ってディオさんは先にマスターの元へと戻る。
後は私が最後の処理をするだけですが…


華澄
「………」

フィア
「…最後まで、真のエンディングには辿り着けませんでしたか」
「ですが、貴女はディオさんの憎しみに勝ってみせました」
「ですので、今回だけはその健闘を称えて温情をかけてあげましょう…」
「生き残りたいのであれば、救いたいのであれば…また」


私はそう言って、自分の持つ特別権限でゲームルールの変更を行う。
本来ならばもう一週…という所ですが、あくまで救済措置です。
勿論、タダではありませんがね。

私の発動させたプログラムをマスターが承認して走らせる。
同時に世界は金色の粒子に包まれて1度リセットされる事に…
そんな中、この場にいる特別な『4人』だけを私は別の扉に放り込む。
後は、私も戻るだけですね…マスター、すぐに参ります♪



………………………



華澄
『…ここは?』


拙者は意識も曖昧な中、突如街を歩いていた。
自分の姿を見ると、それは普段の日常の頃を思い出せる姿でした…
そして周りをグルリと見る…そこは、まさに拙者たちが聖殿と生活していた世界その物。
ここは、元の世界なのでござろうか?


華澄
『………』


拙者は何も考えずに覚えている道を歩いて行く。
すると、道路の横にある小さな公園に目が行った。
そこは、聖殿や風路殿がよく遊んでいたと言われる公園でした。
今もそこは閑散としており、誰も遊んだりはしていない。

そんな中、ふと拙者は公園に足を踏み寄りベンチに座る。
そして誰もいない中…拙者は誰に語るわけでもなくこう呟いた。


華澄
『拙者は…やはり罰を受けたのでしょうか?』


声は何処からも返ってこない。
かつて、拙者は神様に尋ねた事があった…
そしてそれを聞いた神様の答えは…


華澄
『人は…生きている限り、罪を重ねている』
『しかし、それを罰するのは…』


拙者はひとりで考え続けた。
しかし、答えは何ひとつ出ない…
結論等、出せるわけもない。

やがて拙者は立ち上がり、公園から出てとある場所を目指した。



………………………



華澄
『…誰も、いない』


辿り着いた先は、聖殿の家。
拙者達…の、家。


華澄
『…拙者は、本当に家族なのですか?』


その答えを返せる者はいない。
ならば、決めるのは自分自身だ。
なのに…今の拙者にはその答えを出す事すら出来なかった。

拙者は唇を噛みながら家の中に入る。
鍵はかけられておらず、容易く扉は開いた。
そして拙者は玄関に踏み込んでスリッパの数を見る。
守連殿、阿須那殿、女胤殿…そして、聖殿と拙者……の。


華澄
『…これ、は』


そこにあったのは、拙者のスリッパでは無かった。
よく見ると他のスリッパも微妙に違う?
拙者は不可思議な違和感を覚えながらも、部屋に向かう事にした。
そして自分の部屋であったであろう部屋のドアを開けると、拙者は背筋を凍り付かせる様な衝撃を受ける。


華澄
『……そう、で…ござるか』


拙者は完全に理解した。
やはり、この家は拙者の家では無かったのだ。
この部屋は、拙者の物ではない。
この部屋の持ち主は、とても大雑把で、不器用で、だけど純粋で…そして高飛車で……


華澄
『何故……なの、ですか?』


拙者は部屋の中で跪き、ただ泣く事しか出来なかった。
世界は、神はやはり拙者に罰を下したのか?
だからこそ、拙者にあの様な裁きを?
やはり拙者は……


イテハナラナイソンザイダッタ?



『それを決めるのは、自分自身だ』

華澄
『!? だ、誰でござるか?』


拙者は背後から声をかけられ、涙を流したまま振り向く。
そこに立っていたのは、謎の女性…
美しき金色の髪を長く伸ばし、顔には同色の仮面を被っている。
服は体にピッチリと張り付いている黒いスウェットスーツみたいな物を身に付けていた。
一見すると不気味にも感じる存在であり、背中に生える禍々しい黒き翼はまるで悪魔を思わせる姿…
一体、この方は何者なのですか?



『…どうやら、異物が迷い込んだか』
『全く…面倒だけを押し付けてくれる物だな』

華澄
『あ、貴女は一体!? いやそれよりここは何処なのです?』


『それに答える必要は無い、お前はすぐに別の世界へ移送させる』


彼女はそう言うと右手に突如出現させた大鎌を持って空間を切り裂いた。
すると、そこから光の溢れる何かが現れ、拙者の心を洗い流すかの様な安心する輝きで拙者を促している…


華澄
『…この先には』


『お前の行くべき世界がある、もう迷うな』


その方は見た目こそ恐ろしげなものの、ただぶっきらぼうなだけで優しい心根の方の様でした。
何となく拙者はその方を見て疑問を浮かべてしまう。
拙者…この方を見た事が、ある?
しかし、それは…いつだった?
拙者が何かを思い出そうとしていた所、突然溢れる光が拙者を吸い込もうとしていた。
拙者はそれに抗う事も出来ず、ただ光に吸い込まれる。

最後に、謎の女性から一言だけ…告げられた。



『お前が道を外さねば、また会う事もあろう…』










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第5話 『その先に通ずるは…地獄なのか?』

第3章 『雪降る摩天楼に舞う忍』 完


…To be continued

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