第14話 ~鋭い凶器と鋭い狂気~

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読了時間目安:20分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

主な登場人物

(救助隊キセキ)
 [シズ:元人間・ミズゴロウ♂]
 [ユカ:イーブイ♀]

(その他)
 [スズキ:コリンク♂]

前回のあらすじ
シズの過去を探るために、その手がかりになり得る情報……"プレーン"という人物についての情報を聞いて周りながら、救助隊として活動する2週間を過ごしていた2匹。しかし結局、目標の足取りはつかめずにいた。
そして、今日――救助隊キセキは"伝説の情報屋"と名乗る謎の人物主催のバトル大会が開かれるとの情報を受け取る。
彼らはその大会に参加するため、先輩救助隊のスズキから訓練を受けることにしたのだった。

一方で、その大会の裏では知恵の探求を第一とする"伝説の情報屋"と、とある救助隊が取引をしていたのだ。
その目的は、意味は、一体。
「つかれた……」
「文字通り"朝から晩まで"ってかんじだったよね……」

スズキと戦闘訓練の約束を取り付けた、その同日。
あのまま夕方になるまで基礎技術をたたき込まれ、今はその帰り道。

「あのくらいじゃないと大会に間に合わないのはわかるけど、すごく厳しかった」
「興奮すると口が悪くなるみたいだね、スズキってさ」
「そう、それだ!"ふざけるなっ!"って叫ばれたときは、ボク、びっくりしたよ。すぐに謝られたけど」
「謝るぐらいなら、最初から言わなきゃ良いのに。シズもそう思うでしょ?」
「……えっ?」

シズとユカは雑談を交わしながら、赤く染まったシーサイドの街をゆったりと歩く。
シズのこの様子を見るに、すっかりこの場所になじんできたみたいだ。
あるいは、人間が絶滅している……すなわち、元いた場所には絶対に帰れないことが判明したおかげで、何もかも吹っ切れているだけなのかも知れないが。

「まぁ、とにかく頑張ろっか!」
「う、うん。そうだね……」

とにもかくにも、三日後に行われる予定の大会は、シズにとってとても重要だ。
ほんの少しでも自分の記憶を取り戻す手がかりがあるのなら、ほんの少しでも自分の過去を知れる機会があるのなら、元いた人間の社会に帰還することが出来ないとしても……
大会の主催者は"伝説の情報屋"を名乗るほどだ。手がかりを持っているのなら、すがったって良い。












「……なぁ、スズキ」
「なんだ?」

ここは、どこかの建物の中。冷たいコンクリートで作られた石の箱。
おそらくは人間の遺跡の一つであろうそこで、スズキと"もう1匹のポケモン"が話している。

「人間の武器を持ち出すポケモンに対して、この"集団"も人間の武器を持ち出すようになった……という事実は、前にも話したよな」
「そうだな」

――今から**年前のこと。とある救助隊によって、非常に保存状態の良い人間の遺跡が発見された。
一種の情報保管施設と思われる"それ"の発見を皮切りに、人間の遺跡が大量に見つかるようになり、それを一因として人間の技術を再現しようという動きが加速。それは遺跡の情報によって大成功し、ポケモンたちは技術的なブレイクスルーを得ることが出来たのだとか。

「……おれたちポケモンが、人間の武器を使うのは正しいのだろうか」

……しかし、その"ブレイクスルー"が持ち込んだものは素晴らしい出来事だけではなかった。倫理的に議論する必要のある技術が簡単に再現され、一部ではその技術を巡って様々な"収拾のつかない事態"が発生しているのだ。

「さあな。どちらにせよ、俺は戦うだけだ」

そして、この場所でも"収拾のつかない事態"がおきている。
スズキの"話し相手"が言う、人間の武器を持ち出す犯罪者たちの出現がそれである。

「でもさ、武器はダメなんじゃないか?だって、こっちの意思に関係なく――」

では、"人間の武器"が抱える倫理的な問題とは何だろうか。
それは他者の介入の余地がない、自然的な物理現象によって相手を傷つけることに起因する。ポケモンの側である程度コントロールが利く"ワザ"と違って、簡単に相手の皮膚を引き裂き、臓器を射貫くのだ。
つまり……使用すれば、使用した側の意思にかかわらず相手は死ぬ。

「それがどうした?敵だって殺してくる、こちらが殺したとしても――」
「そんな理屈じゃないッ!」

……いつの間にか"話し相手"は激昂していた。スズキはなにか、いわゆる"地雷"を踏んでしまったのだろうか?

「――そんなに殺すのが嫌なら、この"集団"から離脱すれば良い。ここのモットーは"来る者拒まず、去る者拒まず"だったよな?」
「お前だって同じだろう!殺すことを、お前は――」

突如として、壁がべったりとした赤に染まった。
それに合わせて、"話し相手"は地面に崩れ落ちる。

「は……?おい!?」

気がつけば、"話し相手"の動きは止まっていた。声もとまっていた。何もかもがとまっていた。
壁にへばりついた赤が血液であると理解するのに、さほど時間は掛からなかった。

「クソッ、銃火器か!」

そうだ。"話し相手"は射殺されたのだ。何らかの弾丸で、頭に一発。
ならば相手にも同じ目に合わせてやると、スズキは粗末な鞄からリボルバー拳銃を取り出した。
ポケモンたちによってかなりの小型化が成されているため、コリンクの前足であってもある程度容易に取り扱える。威力もほぼそのままだというのだから、ポケモンの力は恐ろしい。

――"ぶっ殺してやる"。
もっとも、今握られている道具がどこから来たにせよ、スズキの心は変わらなかっただろう。



「――うわっ!?」

スズキは寝床から飛び起きた。心拍数は強烈な高さで、息は上がりきり、前足で体のどこかを拭ってみれば汗でびっしょりと濡れている。
その興奮のままに右に左に視界を回すが、どこにも異変はなかった。この場所はいつも通り、木材で組まれたただのあばら家だった。

「……また、昔の記憶か」

スズキは起き上がり、粗末な窓から外の様子を覗いてみる。
ぱらぱらと軽く小さい雨が降る明け方だった。

「全く。過去の行動を嘆いたところで、今が変わるわけでもないのに。馬鹿みたいだ……」

スズキには暇になると自分の前足を見つめるクセがある。自分の前足が、青い色をしている確証を得るために。自分の手が、真っ赤に汚れていないことを証明するために。
……今この瞬間もそうやって、一瞬の安らぎを得ている。

「……いや、やめよう。シズたちとの約束もある、こんなところで立ち止まってはいられない」

スズキは今日も、惰性で歩き続ける。












「……雨天決行ぉ?」

ユカは素っ頓狂な声を上げた。
この雨の降り方はぱらぱらとか、ぽたぽたとか、そんな甘っちょろいものじゃない。大量かつ大粒の雨が思いっきりザーザーと音を立てて地面に叩きつけられているのがはっきりと視認できる。

「そうだ。このくらいなら屁でも無いだろう?」

そんな中スズキは身体一つでユカたちの家にやってきたというのだから……案の定、ものすごくびしょ濡れだ。

「まぁ、ボクにとっては多分都合が良い気候だと思いますけどね。でも、スズキさんとユカは大丈夫かどうか……」

そもそも、ミズゴロウというポケモンは水中で生活し、水中で眠る。当然水気への適応度はかなり高く、陸上で活動できる多くのポケモンにとって悪天候とされる雨でもミズゴロウにとってはむしろ好都合。
――もちろん、シズにとって好都合だったとしても、それ以外の知り合いたちが同じであるとは限らない。風邪をひいてしまうのでは?

「"不思議のダンジョン"に挑む以上は、常に雨が降る土地にも遭遇するかも知れない。これも経験だ」

「たくましいな、この人」……シズは呆れたような、そして賞賛するような、二つの意思が混じり合ったような声で小さく呟いた。












「――雨に打たれているときには、寒さを感じないものだ」
「それって、哲学?」
「"戒め"だ」
「ふーん……」

「何の会話だよ」……スズキとユカの雑談を端から聞いていたシズは、そう心で呟いた。
――ここは、シーサイドの街。普段ならば潮風の匂いが漂ってくるのだが、雨が降り注いでいるおかげで今は泥臭さでいっぱいだ。
そして、道行くポケモンたちは自分の身体よりいくらか大きい葉っぱを担いで即席の傘としたり、あるいはフード付きの布をかぶって雨除けにしたりしている。……ミズゴロウのシズはともかく、何らそう言った対策をしていないユカやスズキは周囲からみてかなり異様に映るだろう。

「……どうでも良いですけど、あの布かぶってるポケモン、きちんと雨除けできてるんでしょうか?」
「これは人間の歴史だが――"防水加工"は、俺たちが思うより古い時代から成されている。
さすがに通気性の確保についてはまだ再現できていないが、水をはじくだけのものなら今でも作られているな」
「そっか、ボクの鞄も防水ですもんね」

以前からもシズは、そういった情報をほんの少しだけ知っていたが……
スズキの口ぶりから察するに、"この時代のポケモンたちは人間の知識を模倣することで技術力を手にしている"らしい。
普通に生きる上ではあまり役に立たないかも知れないが、覚えておいて損はないだろう。



「ちょっと、あいつ捕まえてよ!あんたら救助隊でしょぉ!?」

……突如として、女性の声が聞こえてくる。声の方向に注視してみると、そこには見るからに息の上がったツタージャの姿が。
そして彼女が指さす方向には、黒いフードをかぶった、見るからに怪しいリオルがいた。かくとうタイプの"はもんポケモン"。
ポケ混みを乱暴にかき分けて、ツタージャから逃げようとしているようだ。

「あのツタージャも救助隊か……シズ、ユカ、走れるか?」
「いけます!」
「救助隊として見過ごすわけには、だよね!」

シズたちは満場一致で、リオルを追いかける判断を下す。

「ありがとぉ!……それと、気をつけて!そいつ凶器持ってるからぁ!」

凶器?凶器だって!?
……その情報について色々と言いたいことはあるが、今はそれどころではない。
まずは、アイツを捕まえてからだ!












「しつこいんだよ、この野郎っ!」

泥と水しぶきにまみれて走りながら、リオルは乱暴な言葉を吐きかける。
……しばらく追いかけているうちに、雨と風はより一層強さを増し、まるで嵐のような様相を呈してきていた。

「この方向……アイツ正気か!?船で逃げるつもりだぞ!」

スズキは街の地形からたたき出した推察を、走り続けて息が上がり気味になったシズたちにも聞こえるように大きく叫んだ。
……この天候で船を使う!?



「ここまで来りゃあこっちのもんだ!逃げ切ってやる!」

それからさらに追いかけているうちに、海岸沿いの道へとやってきていた。
海は予想通りの大荒れで、どう考えても小型の船は出せないだろう。
だが、そんな状態でリオルは木製の貧弱なボートに乗り込んだというのだから、本当に正気じゃない。

「クソッ、間に合わないか!」

リオルはクリート(船を陸地につなぎ止めるための設置物)からロープを外し、これまた貧弱そうな帆を広げて、陸地から離れていく。
このままでは逃げられてしまう!――そう思った瞬間のこと。

「逃がすかぁーっ!!」

ユカはなんと、ワザ"でんこうせっか"を使用し、ボートへと急接近。ここだというタイミングを見つけ、ボートにジャンプで飛び乗った。

「やめろ、自殺行為だ!」
「ユカぁーっ!」

そのままボートは嵐の強風を受け、陸地からどんどんと離れていく。
このままじゃ、数日後に水死体で……なんてことになりかねない!危険だ!

「シズ!飛び込め!」
「えっ!?」

スズキは突然に叫んだ。……確かにミズゴロウのシズなら、流されることはあってもエラ呼吸のおかげで死にはしない。それに、この嵐の中でも泳げる見込みだってある。

「お前は水生生物だろう!ついでに俺も連れて行け!」

……だが、その次に飛び出た台詞はどう考えたっておかしかった。
水中で呼吸できる器官も持っていないのに、この大荒れの海に自分も連れて行けなんて、異常にも程がある。

「なっ――!?スズキさんはだめですよ!それこそ自殺行為で――」
「やれ!」












「なんなんだ!本当に叩きのめすぞ!?」
「やってみなよ!ここで戦うことの意味が分かってるならね!」

……このボートの大きさは、小柄なポケモンをプレス機にかけたみたいにぎゅうぎゅう詰めにして、やっと十数匹乗れるかどうか。人間にすれば四人乗りが限界くらいだ。
そこに食料やらなんやらが入った箱をいくつか積んでいるのだから、少なくともポケモンのワザを利用した大々的な戦闘は不可能と言って差し支えないだろう。
――しかし。

「言ったな!」

リオルは持っていた鞄から一本のナイフを取り出した。
こう言った武器は助走などの予備動作が最小限に済み、狙った場所へピンポイントに損害を与えることが出来る。この状況であれば、倫理観的な問題はともかくとして賢い選択だとは言えるだろう。

「なっ!?」
「……あのツタージャの話、聞いてなかったの?」

ユカは一歩後ずさる。今まで命知らずとも言える無茶を幾度となく繰り返してきた彼女でも、凶器を向けられては――直接的な死の臭いに当てられてしまっては、そうなるのも必然と言えるだろう。

「とにかく――死んでしまえっ!」

リオルは予想に反せずナイフを振るう。
ユカはとっさに躱すが、ギリギリかすってしまったらしい。鋭い痛みに思わず左耳を押さえた。
……当然のことながら、出血している。

「こ……この、卑怯だ!」
「卑怯!?この島に暮らしているポケモンの方が、よっぽど卑怯だろっ!」

もう一撃、ナイフの斬撃が飛んでくる。ユカはまたも躱しきれずに、右前足に損傷を負った。
このボートは狭すぎるし、とてつもなく揺れる。いつもの感覚で避けるのは不可能だ。

「世界をみようともせず、自分たちだけが甘い幸福に浸かって!」
「このっ……野郎!」

躱しているだけじゃダメだと、ユカは力強い声とともにリオルへ殴りかかる。
しかし、こう言った戦い方においては相手の方が年季が入っているらしく、ナイフで迎撃されてしまい、右前足の怪我を増やすだけの結果に終わった。

「あぁっ――!」
「みんな、ひどい目に遭わせないと……目を覚まさせてやるんだよ!」

そして、これで最後と言わんばかりに、リオルは力強い一撃をユカの胴体に浴びせた。
ひどい痛みに、ユカは思わず倒れ伏す。

「……さか……恨みだよ、それは……」
「――うるさいッ!」

ユカの台詞がカンに障ったのか、衝動的にリオルは蹴りを放つ。
ユカは小さな船体の縁に勢いよく衝突し、そのまま動かなくなった。

「がぁッ……」
「もう我慢ならない……思いつく限りの、ひどい目に……」

ユカを叩きのめして調子に乗ったのか、あるいは以前からおかしかったのか……
リオルはその声に狂気を混じらせながら、ナイフを握り直す。
こいつを、このまま――



「わかりましたっ!」

――刹那、少年の声が聞こえた。
どこだ、どこだと、リオルは周囲を見回したが、声の主はどこにも見当たらない。
空耳か何かとリオルが思った、そのとき。

「いけーっ!スズキさぁーん!」
「ぶちのめしてやる、このクズ野郎が!」

水中から、2匹の青いポケモンが飛び出してきたのだ。

「な……なんだ!?」
「暗殺者か何かだよ、お前を始末するためのな!」

スズキは素早くリオルにつかみかかり、右前足でナイフを弾き飛ばした。
波の音に比べて小さく貧弱なポチャリという音が、かすかに聞こえる。

「シズ!」

相手が武器を持っていないのならば、ミズゴロウの強靱な筋力によって拘束は容易だ。
スズキの呼びかけに応じ、シズは素早くリオルを押さえ込んだ。

「縛るぞ!」
「はいっ!」





「ユカ、ユカ!」
「……大丈夫だ、傷は浅い」

リオルへの対応を終えたシズたちは、ユカへと関心を向ける。
……ひどくボロボロになっていて、見るに堪えない。複数の切り傷に加え、大きな打撲痕が一つ。
こんな無茶をするからだと小言の一つでも言ってやりたいところだが、意識を失っているらしく、声をかけても返事は帰ってこなかった。

「リオルが……"種族的な傾向"がアテにならない最たる例だな」

リオルと言えば……より正確にはその進化形のルカリオと言えば、正義感的な思考が強い事で有名だが、それがこんな凶行を起こすなんて世も末だ。

「こんなことして、ただで……」

そして、そのリオルは縛られてもなお、もぞもぞと動いて逃れようとしている。
もし逃れることが出来たとしても、結局は嵐の海に放り出されるだけだというのに。

「さっきからうるさいぞ!黙ってろ!」

スズキはしびれを切らし、リオルの腹部を強烈な勢いで踏みつける。
一瞬小さな嗚咽が聞こえ、それからリオルはしゃべらなくなった。

「ユカ……なんとか、帰る手段を考えないと」
「一番望みがあるのは、このボートを使ってまっとうに帰還する事だが……」
「――ああっ!壊れてる……舵が、無くなってる!」





――シズたちは、救助隊のツタージャの希望を叶え、リオルを捕まえることには成功した。
……しかし、このおんぼろボートから陸地へと帰還する手段がない。船の制御をとるためのパーツが無くなっていたのだ。おそらくは、嵐の波にもまれているうちに限界が来てしまったのだろう。
スズキをこのボートに連れて来たときのようにシズがなんとかする、というのも思いついたが、さすがにスズキとユカ、そしてこのリオルの3匹を連れて行くとなると水の抵抗が強くなりすぎるし、そもそも意識のないユカを嵐の中生きて返すのは困難だ。

「落ち着け、シズ。まだ木箱の中を調べていないぞ。もしこの木箱がリオルの積んだ物なら、パーツの代わりが用意されている可能性はある」
「でも、見つかったとしても……」

スズキの言うとおりにスペアのパーツが発見できたとしても、この大きな波に揺られ続けるボートの上で、無事に取り付けが完了できるかどうか分からない。
そして、もし取り付けられたとしても、この大波の中でボートを制御するのは難しいなどというものではない。
このボートが今まで横転していないことすら、不思議なほどなのだから。

「不可能だった場合も、シズだけは生きて帰れる」
「スズキさん、ボクは……」

シズの顔に影が落ちる。グレーに染まり、中途半端な明るさを持つ空に似合ってはいるかも知れないが、このまま動きを止めたままででいて貰ってはシズ以外のポケモンにとって迷惑でしかない。

「諦めろ。現実は――」
「ボクはッ――!」

シズを感傷の世界から現実に引き戻そうとして、強く、厳しい台詞を投げかけようとしたスズキ。
だが、それより力強いシズの声に遮られてしまった。

「ボクは、いやだ!この場にいる、誰だって見殺しにしたくない!このリオルだって、死んで良いはずはないんです!」

「シズだけは生きて帰れる」。その台詞が引き起こした、とても強く、感情的な台詞。
……シズにとって、自分のせいで誰かが死ぬと言う状況は、耐えがたい苦痛だ。だからこそ"あのピチュー"を救う選択をしたし、ユカをかばう行動もとった。"大規模天候操作事件"の解決にだって尽力したし、何より、今放った言葉も……

「なに言ってやがる!?ユカをこんな血まみれにしたのはコイツで、今こんな状況になっているのも――」

しかしスズキは、シズの感情の噴出を自分が引き起こしたことに気がつかなかった。
それどころか、妙に感情が湧き上がるのを感じ、それに任せて勢いよく反論を試みたのだ。

「――そんなに助けたきゃ、ネガティブシンキングはやめろ。分かったか」

スズキはハッとして、先ほどの衝動的な言動から一転した、落ち着いたような言葉を投げかける。
こんなところで喧嘩をしている場合ではないのに、自分は何を……
まずは、生きて帰ることを考えるべきだというのに。

「……はい。まさか、こんなことになるなんて」

シズにとっても、争いは本意では無かった。
2匹は黙って、木箱の中身を漁り出す。



「……冗談だろ?」
「スズキ……さん?」

突然、スズキは絶望を含んだ声を上げる。どこか、あらぬ方向を向いて、視点をずっとそこに固定して……
シズもそちらに注視してみると……とてつもなく巨大な波がこちらに襲いかかって来ているではないか。

「スズキさん、ボクに捕まって!ボクはユカとリオルを――」
「無理だ、間に合わ――」

瞬間、床がぐらりと揺れる。そのまま船底は角度を鋭くし、高度を上げ……数秒と立たないうちに、シズたちは海へと放り出された。

「ぐぁあああーっ!?」
「なんとか耐えてください!意識のない方を先に……えっ?」

不幸はそれだけでは終わらない。自分の身体に落ちる、四角く大きな影に気がついたシズは空を見上げるが、なんとそこにはこちらに向かって落ちてくる木箱の姿があった。
それはこちらが避けようとするまもなく、シズの脳天に直撃し……そこで、シズの意識は途絶えた。

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