アサギシティ

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読了時間目安:56分
コータスをはじめとする、ポケモン達と一緒に旅をする少女の話。

※別サイトに投稿していたものを加筆、修正しています。


───夕暮れ時。アサギシティに隣接する砂浜。

とある少女が、膝を抱えて波打ち際を見つめていた。10歳にも満たないその面持ちはしかし、どこか沈痛である。

どういった事情で、夕方の浜辺で膝を抱えているのかはわからないが、何事か釈然としないものがあるような、そんな様子だった。






「……はぁ」

「ななこちゃんのばか」

「かみさまなんていないんだわ」

「……たかしくんもななこちゃんもかみさまも! みんなみんな大っキライ!!」






 頭の中のモヤモヤがふくれあがっててっぺんに達したのか、誰かの名を叫び、整理しきれない感情をあらわにする。近くに転がっていた手頃な石を掴み、彼女は立ち上がった。






「バカー!!」






 この世全ての不条理への怒りから出た罵倒。激情に任せ、彼女はそれを夕焼けの海に向かってぶん投げた。

こんな時間だ。周りに人がいない、と思えばこそ思いきり叫べるし、このような真似もできるのだろうが。

 彼女のそばに、ちょうどカイリューが降り立っていた。よく見れば、少女(こちらは10代前半くらい)をお姫様抱っこしている。

カイリューと、抱きかかえられた少女は、先客の少女がぶん投げた石をなんとなしに目で追う。

 年端もいかない子どもの投げた石だ。投げられてすぐ、水面に消えた。

 水面から視線を戻したふたり。少女と目が合う。






「……見た?」

「見てない」






 見たに決まっている。だが、彼女の目が「見ていないと言ってほしい」と切実に物語っていた。カイリューもどこか遠くを見ている。空気の読める奴だ。

アサギシティに到着して早々、幼い子どもに優しい嘘をつくか、残酷な現実をちゃんとわからせるか、の選択をしなければならなくなってしまうとは。旅とはわからないものだ。

こんな年端もいかない子どもに、残酷な現実を突き付けられるほど、カイリューに抱っこされている彼女は大人ではなかった。

スルーして立ち去るという大人の選択肢もとっさに思いつくことができなかった。

 縁あって、アサギシティまでカイリューに運んできてもらった少女。ちょっとした、ほんのちょっとしたアクシデントで、わけあって、彼女を運んでくれた郵便配達屋のカイリューは、彼女を砂浜におろすと、一緒に抱えていたクーラーバッグを差し出した。少女は、握りしめていたキャスケットをかぶり直し、クーラーバッグを受け取る。








(ようやくたどり着いた、と思ったらとんだお出迎えを食らってしまった)



(そっとしておいた方がいい雰囲気だ。さっさと立ち去ろう)

「それじゃ私はこれで……」

「あ、あの!」

「うぐぇ」






 踵を返したところを、ウエストポーチを掴まれ、ベルトが腹に食い込む。変な声が出た。






「ど、どこまできいてました!?」

「えっ何!? 何が!?」

「あたしのひとりごと!」






 ほぼ全部しっかり聞こえていたのだが、ここいらでちゃんと大人の対応をしておくべきだろうと思い至った。






「何も」

「何も聞こえてないよ?」

「きこえてたんだね」

「カイリューをつれだったあおいおんなのひとはなんでもおみとおし……おかあさんのいってたことはホントだったんだ……」






 超ピンポイントでこれっぽっちも根拠なさそうなお墨付きまで付いてきた。カイリューを思わず見上げる。気まずそうだ。彼女だって気まずかった。

 カイリューが幼女を見……ん? 2度見した? そして、「やっべ」
とばかりに口を手で覆うと、そそくさと立ち去ろうとする。

 気まずいからってそんなさっさと逃げようとしなくてもいいのでは? カイリューのウエストポーチを掴む。あからさまにうろたえた。カイリューのウエストポーチを掴む少女のウエストポーチを掴む幼女。夕暮れ時に何をやってるんだろう。でも離さない。旅は道連れ、世は情けだ。お前も地獄に落ちるんだよ。







「おねーちゃん、どこにいこうとしてるの?」

「アサギシティだけど・・・」

「はっ」

(今ハッとするようなこと言ったかな私)

「あの、あの!」

「あたし、たまきです!」

「とまるとこきめてないなら、うちにくればいいんですけど!」

「しょくどうなんで!」

「え?」

(泊まればいい? 食堂だから……??? わけがわからないよ)

「だんじて!」

「おやどしてるたかしくんのうちにはいかないほうがいいんですけど!」

「あたしのひとりごといわれたらこまるとかないんですけど!」






 全て説明してくれた。自分が万が一そのたかしくんとやらの宿に泊まるようなことになって、万が一たまきの独り言を、万が一たかしくんに漏らすようなことがあると、彼女は困るらしい。

 ぷるぷると震えながらウエストポーチを掴む様は必死だ。ちょっと笑いそうになってしまうくらいに。






(誰にも言わないから、とか言っても信じてもらえなさそう)

(でも、食堂なんて宿泊できないよね……この子にホイホイ着いていったとして、押し掛けるだけ迷惑だろうし)






 うっかり連続釣りに興じてしまったため、予定より遅くなってしまった。ここからアサギシティに向かったとして、到着する頃に宿に滑り込むにはギリギリの時間だ。






(変にこの子の家の前で横着して時間が遅くなっちゃうと、たかしくんとやらのところに限らず、宿に泊まることすら難しくなる)






 ポケモンセンターに泊まる、にしても、実はあそこ無料で宿泊できるので、競争率が高いのだ。日が沈む頃になってしまっては勝ち目は薄い。悩ましいところだ。ウェストポーチを掴んでぷるぷる震えているたまきの必死さが、判断を狂わせる。何逃げようとしてんだカイリュー、お前も地獄行きだって言ってるだろ。

 困った顔をしていたカイリューだったが、突然空を見上げる。「な、何だあれは?!!」と言わんばかりの迫真の表情。つい、たまきとそろって振り向いてしまった。あらまぁ、きれいな夕焼けだわ。

その隙をカイリューは見逃さなかった。ウエストポーチを掴む手の力が緩んだのを見るや、すり抜けるようにカイリューは飛び去っていった。






「はっ、『あ、UFO!!』!?」






 超・古典的な、よそ見トラップに引っかかってしまった事実に愕然とする。カイリューはすり抜けたが、彼女はたまきの"つかみ"を脱していなかった。だってボタン連打とか苦手なんだもん……。

 飛び去っていくカイリューの姿はもう見えなくなっている。なんてやつだ。アサギシティに届けたから仕事終わり、だなんて薄情すぎやしないか。閉店時間になった瞬間、問答無用で入り口を閉鎖するようなものだ。目の前でそれをやられたこちらはどんな気持ちで家に帰ればいい? でもスタッフ側からすれば、1人対応したらそのあと来た人の対応もなし崩し的にしなきゃいけなくなるから、その後の仕事に支障が出る。仕方ないことなのはわかっていた。

でも、それを全て飲み込めるほど、彼女は大人ではなかったのだ。そして、ウソハチのような目でこちらを見上げてくる幼女を振りほどいて逃げられるほど、ドヒドイデにもなれないし、そもそもそんな腕力を持っていなかった。

……今夜は、野宿を覚悟するか。悲しいけど。






「うん、じゃあ、たまきちゃん。案内をお願いします」






 頼んだ瞬間、たまきの笑顔がぱっと弾けた。夜も迫っているというのにまぶしい。「こっちだよ!」そのままウエストポーチを引っ張って走ろうとする。






「うん、わかったわかった。わかったから引っ張らないで」






 おふとんで寝たかったなぁ、そりゃあ寝袋にも慣れてるけどさ……頬をつたう悲しみ一粒。






「おとうさん!このひとうちにとまりたいんだって!」

「いいぞ!」

「今部屋がひとつ空いてるしねぇ」

「飯代込みで2500円だ!」

「お夕飯まだでしょ?」

「今日はまかないメシだ!」

「おかわりもあるわよ?」

「風呂も使っちゃってくれ!」

「バスタオルは重ねてあるのを使ってくださいね」

「いっしょに入ってもいい!?」

「この部屋で寝てくれ!」

「お布団は押入れから出しときましたから」

「いっしょにねてもいい!?」






───翌朝。






「うちはスクランブルエッグにケチャップをかけるんだけど、だいじょぶかい?」

「それでお願いします」






 だんなさん(あるとさん、というそうだ)が火を通していたフライパンにそのまま、といた卵を落としていく。今しがたささみの切り身を、ケチャップを和えながら炒めていたのだが、卵の方もケチャップで味付けするらしい。

おくさん(そぷらのさん、とのこと)が白飯をぽふ、ぽふ、とよそっていく。たまきは神妙な面持ちで、パックから白菜の漬物を小鉢に詰めている。押し込むようにギュッと詰めているのだが、いいのだろうか。

 その風景を前にしてただ口を開けて待つばかり、というのもはばかられたので、何か手伝えることはないか訊ねたのだが、あるとさんに「お客様は座ってな」と朗らかな笑顔でたしなめられてしまった。なので彼女はちょこん、と置物に徹していた。

 昨晩、彼女を連れ立ってここ、ソプラノ食堂に戻ってきたたまきは、両親に宿泊を宣言。あるととそぷらのはそれを快諾。あれよあれよという間に夕飯をご馳走になり、お風呂をいただき、あたたかいふとんで快眠を貪った。ほぼずっとたまきがそばにいたが。

 手持ちのポケモンたちを見せた時の、たまきのボルテージの上がりようといったら、まるで数年来欲していたオモチャをプレゼントされたかのようなはしゃぎようだった。シザリガーの甲殻をぺちぺちと堪能し、ラプラスの吐息に身悶えし、オノノクスの腕にぶら下がる。そこから寝るまでずっと、2人は一緒にいた。思わぬ宿泊オプションだった。

 超・お世話になった。

 聞けば、たまきは次の誕生日にポケモンをもらえることになっているのだという。「メガニウムに興味をもたれたときは困っちゃったわ」と、そぷらのさんは苦笑いしていた。いきなり最終進化系を渡すわけにもいかない、ということだろう。無理だろうし。






「メガニウムならチコリータで折れてもらえるけど……カイリューを欲しがったりされなくてよかったわ」

「カイリュー……といえば」






 昨夜たまきが言っていたのだった。「カイリューを連れ立った女は何もかもお見通し」と。何のことなのだろうか。

 自分に手紙を誤配したカイリューと、何か関係があるかもしれない。そう思うと、静まらない好奇心がむくむくと膨らんでいく。よし、聞いてみよう。






「たまきちゃんが言っていたんですけど、カイリューのこと……何かあるんですか?」

「カイリューのこと? よく聞かせてるのよ、私のおじいちゃんの話。多分それに出てくる子のことじゃないかな」






 そぷらのいわく、彼女の祖父が若いころ、世は戦争の最中だった。若者が徴兵され、祖父も多分に漏れず戦地へ赴くことになったという。

 送り出してくれた人々は彼の"栄誉"を褒め称え、同期の人間が「敵を皆殺しにしてくれる」と息巻く。戦争へのモチベーションを盛り立てるムードが世を取り巻く中、祖父は後悔に苛まれていた。

 自分が生きて帰れる可能性は低い。こんなことなら故郷にいた想い人に、気持ちを伝えておけばよかった。……という、諦めから連なる後悔。

 そんな折、彼の元に現れたのだ。カイリューをつれだったおんなのひとが。

彼女は「あなたへの届け物だ」と、便箋を手渡し、加えて言った。






「いかにも"やり残したことがある"って顔をしてるわね。そんなに思い詰めるくらいなら、もっと必死にあがいたらどう?」






 受け取った手紙は想い人からのものだった。内容は「どんなに臆病に逃げ回っててもいい、あなたが帰ってくることだけを願っています」というもの。

 祖父は決意した。そうだ、たとえ腰抜け、根性なしとどれだけ罵られてもかまわない。何としても生き抜いて、あの人のもとへ帰るのだ。

 同期が勇猛に突貫し散っていった中で、彼だけは命からがら生き延び、故郷へ帰ることが叶った。負傷から片腕に後遺症が残ったものの、戦後は穏やかに暮らした。彼の帰りを待っていた人とともに。

あの手紙をもらわなければ、きっと自分は死んでいただろう。彼女の想い───自分への想いを、知ることすらなく。

 それが、そぷらのの祖父母のはなし。

 


 

「おじいちゃんは、"あの配達人が連れたカイリューは神様の足をもっとるんじゃ"とか言ってたわねぇ」

「たまきちゃんが言ってたのは、そういうことだったんですね。おみとおしって。」

「でも、考えてみれば当たり前よねぇ。配達の人は手紙をおばあちゃんから受け取ってるんだもの。おじいちゃんと思い合ってるなんて、すぐわかったんでしょうよ」

「そうですね」

(その当時に、逃げ回ってもいいからどうか帰ってきて、なんて内容の手紙を出したら、検閲で止められてたに決まってる)






 カイリューの郵便屋さんとそぷらのの祖母の間にあったやりとりについては、なんとなく察せられるというものだ。それについて深掘りするのは野暮だろう。彼女はそう判断した。

 しかし、配達人とカイリューか。郵便屋のカイリューと紙一重の存在に、何らかのつながりを感じざるを得ない。

 ああ、それにしても卵がおいしい……。






「白菜もおいしいでしょ! あたしがつけたんだよ!!」

(ちょっとしょっぱいかな……ギュッとなってるし……)










 そぷらの食堂での一宿二飯。夕飯もボリューミーだった上、朝食までしっかりごちそうになったにもかかわらず、たまきの父、あるとは昨夜のとおり2500円でいいと言うものだから、しのびないことしのびないこと。せめてものお礼に、残っていたドライフルーツを差し上げた。

 現在、食堂を出てコータスとたまきを連れ歩きしているところである。






(たまきちゃん、なんでついてくるんだろう。ジョウトでは見かけないコータスが物珍しいのか、はたまた私がたかしくんとやらに遭遇するのを危惧しているのか)

「ちなみに私は今、アサギの灯台に向かっています」

「そこには灯台の心臓にして、アサギシティの名物ポケモンである、デンリュウのアカリちゃんという子がいるそうです」

「昼間はのんびりうとうとしている様子が見られるんだとか」

「だれにいってるの?」

「ただの習慣だよ」

「こぉ」

「へんなのー」

「アカリちゃんなんていつでも見られるのにぃ」

(そりゃあアサギ在住の君はそうだろう)

「コータスあついねぇ」

「こっ?」

「なんでコータスだしっぱにしてるの?」

「……一緒に歩きたいからかな」

「コータスのんびりやさんだよねー。なのに? ふーん……へんなのー」

(心外な)

「コータスってかわいい?」

「かわい……くはないね」

「おねーちゃんはかわいいよね」

「は? あ、ありが……とう?」

「……」






 コータスをぺたぺたとさわるたまきから、なにか期待のこもった視線を向けられていることに気づく。なんだ、どういう意図だ。急に褒められても生返事しかできないぞ……?

 彼女は「たまきちゃんもかわいいよねー」を求められていたことに気づかないまま歩く。コータスの抗議の視線にも、だ。

 灯台に到着した。






「土産物コーナーあるけど、あとででいっか」






 階段を登っていく。やはりたまきもついてきた。期待の視線はまだ向けられていた。ところで、体力にまったく自信のない我が身なのだが、果たしてたまきはアカリちゃんのいるフロアまで、私をそんな目で見ていられるかな? そんなことを考える彼女だった。










「……なんか2階に上がったらバトル挑まれたんだけど。ジェントルマンがひとり、通路を彩る置物になった」

「これ、げんだいアートっていうジャンル?」

「倒れ伏しても前に進む意志を絶やさない姿勢……タイトルは、「止まるんじゃねえぞ」かな」






 どうして、ポケモンバトルに負けただけで倒れ伏しているのか、人差し指一本だけのばしているのかはわからない。この人の趣味なのだろう。ポケモンはボールに戻しているし。






「「灯台には、暇を持て余して観光客をカモにしてるトレーナーがいる」って、おかあさんがいってた」

「マジか」

(その言い方だと多分、まだ何人かいるってことだよね)

「しかたない。この子で戦うようにしよ」

「こぉ……」

「しょぼくれたフリやめてよ。君に連戦させると、消耗が怖いから……」

(素早さの低いポケモンは、こういうとき損だよなぁ)






 一戦交えるだけならまだしも、連戦するとなれば、後手に回りやすいコータスは、微量ではあるもののダメージが蓄積していってしまう。加えて、コータスのおぼえている技は、場所柄撃てないものや、あまりたくさん撃てないものが多い。

ポケモンに要らぬ負傷をさせるのはやはり、彼女にとって気が進まないことなのだった。こういう時は、速攻に限る。

 やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。

そういう、先人の言葉もある。






「オノノクス! ダブルチョップ!」

「ダブルチョップ」

「ダブルチョップ」

「ダブルチョップ」

「ハサミギロチン!!」

「ダブルチョップ」

「ダブルチョップ」

「ダブルチョップ」

「ハサ(ry」






「到着ー……」

「バオォン!」

「オノノクスつよいねー」

「こぉ」






 ダブルチョップとかたやぶりハサミギロチン。タスキだろうががんじょうだろうが関係なく、容赦なく一撃で叩き潰す。意外にも器用にみねうちもこなす。オノノクスは、旅の道中の便利屋だった。本当に器用な奴で、バトルをしているとふとした瞬間に彼のセンスが垣間見える。

 私のポケモンじゃなかったら、かなりいいところまでいくトレーナーの手持ちになってたんじゃないだろうか、そんなことを思ったりもするときもある。……ん、なんか異議ありげにこっち見てる。連戦させたのがお気に召さなかったのだろうか。そんなことを思う彼女はちょっとニブい子だった。






「灯台について聞いた話ですが、一般に解放されているフロアの一部はちょっと前まで階段が通じてなくて、最上階に行くためには隠し通路みたいなとこを通らなければいけなかったらしいです」

「1フロア分飛び降りるスポットがあった、なんて噂を聞きました」

「いやいやそんなまさか(汗)」

「まさか……ねぇ?」

「で、最上階に来たわけですが……」






 仕切り窓の向こう、自分の部屋で、アカリちゃんはお昼を食べているようだった。

 灯台の光源はアカリちゃんが一手に担っている。先ほどまではそのためのトレーニングをしている様子だった。今は休憩中。サファリや牧場で柵をへだてて眺める感覚とは違う。アカリちゃんを囲む環境もある程度機械的なので、なんだか工場見学してるみたいだな、と思った。アカリちゃんが仕事人のように見えてくる。






「アカリちゃんかわいー」

(子どもってなんやかんやカワイイモノカッコイイモノに素直だよね)

「そういえば、デンリュウってメガシンカするらしいね」

「メガシンカ……なかなかお目にかかれないって話だけど・・・」

「死ぬまでに1回くらいは体験してみたいな。見る方でいいから」

「……」

「アカリちゃん、アンニュイなご様子だね」







 たまき。彼女の目はアカリちゃんではなく、オノノクスに向いていた。アカリちゃんなんていつでも見られるのに、という彼女の言葉が脳裏をよぎった。たまきはやはり、自分のポケモンが物珍しくてついてきているのだ。

 そういえば、誕生日にポケモンをもらうと言っていたか。






「たまきちゃんは、どんなポケモンがほしいの?」

「おねえちゃん、くれるの?」

「あげないよ」

「なぁんだ」

「「ふふふっ」」

「私はコータスもオノノクスも、ムクホークもシザリガーも、ラプラスもドリュウズも。みんな大事だからあげられない。ごめんね」

「いいよ」

「ありがと」

「あたし、おとうさんのミチオがほしいって言ったの。そしたら「ミチオはお父さんの大事な相棒だからダメ」って言われちゃった」

「メガニウムがいいって言ったらおかあさんは「チコリータから育てないといけない」って。チコリータかわいくないでしょ」

「えー、そうかな? かわいいよ。メガニウムもかわいいけど。」

「メガニウムはつよそう、でしょ?かわいいとはちがくない?」

「かわいいよー?」

「……あたし、ほしがっちゃダメなのかなぁ」

(どうしてそうなる)

「ほしいって言っても、もらえないんだ。もらえても言われるの。白のほうにすればいいのに、とか、ピンクのほうがかわいいのに、とか」

「そういうもんなんだ?」

「おねーちゃんはそういうのないの?」

「うん。あんまりね」

「1回だけ欲しがってみたことはあったんだけど、それはもらえなかったな」

「なにが……ほしかったの?」

「……別のものをもらったから、いいんだけどね。たまきちゃんは、なんでメガニウムがほしいの?」






 はぐらかされたことに気づいていないものの、たまきは釈然としない顔をしていた。が、自分の話に戻され、一転して口を"へ"の字にしながら答える。






「バクフーンにつよいオーダイルに、つよいから?」

「ごさ……最初にもらえるっていう3匹の話か」






 ジョウトで初心者トレーナーがもらえるポケモン、ワニノコ、ヒノアラシ、そしてチコリータ。その最終系の話。語尾が疑問系なあたり、だれかの受け売りなのだろう。どうやら、たまきはメガニウムが心底欲しい……というわけではないらしい。

たかが1日ほど過ごした仲にすぎないが、なんとなくそんな気はしていた。

 たまきとのおしゃべりの中で、自分の手持ちポケモン達や、他人のポケモンに興味いっぱいなのはわかったが、たまき自身は夢中になっているポケモンがいるわけではないようだったからだ。メガニウムの話題もあまり出ては来なかった。

 "運命の出会い"をしていないだけなのか、自然と自分の肌に合うものを手に取っていくタイプなのか。あるいは、授かったものでうまくやっていける人間なのか。

そんなことは昨日今日知り合っただけの彼女にわかるはずもないが、思わず考えてしまっていた。

私はどのタイプだろう、とか。






(運命の出会い、みたいなのはもう済ませてしまってる気がするな…)

「こぉ?」

「コータス、なんか言ってるよ?」

「トイレいきたい、とかじゃないかな。けっこう歳みたいだから……いてっ」

「あー、ずつきされてるー!」

「……そろそろ降りよっか」






 おみやげ買って灯台を出た。こういう時に買うものは食べ物だけと決めている。






「おねーちゃん、たべるのすきなんだね」

「うん、好きだよ」

(根なし草が残るもの───アクセサリーとかストラップとか───を増やしても荷物になるだけだしね)

(さて、この町にお世話になるのもこれくらいでいいかな……ジム戦、て気分でもないし)

「ん?」






 たまきが見当たらない。はぐれた? と思ってくるくると辺りを見回す。すぐ見つけてホッと一息。

 たまきは1人の男の子と対面していた。剣呑な雰囲気だ。もしや。






(あの男の子がゆうべ、たまきちゃんが口にしてた、"たかしくん"?)

「あのさ、きのう……」

「うるさい! ばか! しらない!」






 三拍子揃った綺麗な拒絶だ。キッ、と睨みつけて走り去っていく様も小気味良い。このワンシーンでショート動画が作れそうだ。勝ち取りたいものもない無欲な馬鹿にはなれなさそうな感じの。

 たまきに発言をシャットアウトされてしまった少年は、彼女がフェードアウトするまで硬直。その後、これまたわかりやすく肩を落とした。俺ァ世界一の不幸な人間だぜぃ、と言わんばかりの、深刻そうなため息も聞こえてくる。

 言い寄って袖にされた、にしては様子がおかしい。そういう輩はだいたい、「しかたねーや、次行こ次ー次ー」とさっぱりした割り切りを見せるものだが。粘着しているタイプだろうか。

 と、何を思い直したのか、たまきちゃんの逃げた方と関係ない方角へ走り去っていく。海辺の方角と思われるが。






「彼、追いかけた方がいいんじゃない?」






 走るのは苦手だから、歩いて追いかけることにする。

海辺に移動した。






「あれ?いない……たしかにこっちに来たんだけど」

「こぉ!」

「えっ?岩場の方?」

「あ、ほんとだ。いる」



「いないなぁ……」






 岩陰を覗きこみ、その度に一喜一憂している。彼は何かを探しているようだった。だが、いかんせん探し物をする場所がよくない。少しでも足を滑らせようものなら、ずり落ちて大怪我でもしかねないような……






「あっ……」






 言わんこっちゃない。完全に足元がおろそかになっていたのか、彼はバランスを崩し、落ち───

───そうになったところを、ムクホークが掴んでいた。






「なにこいつ!」

「ムクホーク、ナイスキャッチ!」

「たまきといっしょにいたおねーちゃん?」

「君、たかしくんだよね? こんなとこで何してたの? 危ないじゃんか」

「サニーゴをさがしてたんだ」

「サニーゴを? なんで?」

「たまきにいわない?」

「いわないいわない」

「…………たまきとけんかしたんだ」

(ケンカ? 告白されてフった、みたいのじゃなくて?)

「へぇ……どういう風に?」

「あいつがさ、すきな子いないの? ってうるさいからさ」

「ななこちゃんがすきっていったんだ」

(ついに"ななこちゃん"が出てきた)

「ななこちゃんって?」

「クラスのみんながななこちゃんのことすきなんだ」

「だから、おれもそうだっていったんだ」

(何が"だから"なんだろ)

「そしたらたまきのヤツ、おこってにげちゃったんだ」

(……わけがわからん、けど)

「たけしくんは」

「たけしじゃないよ、たかしだよ」

「おれを強くて固いいしの男みたいにいわないでよ」

「失礼、噛みました」

「いいや、わざとだ」

(かみまみた!……じゃなくて)

「わざとじゃないってば、ごめんごめん」

「たかしくんは、たまきちゃんと仲直りしたくないの?」

「したいよ! だからサニーゴを探してるんだ!」

(おお即答。そこでサニーゴ探しに戻ってくるのか……って)

(いやわけがわからねーよ)






 意図が読めず首を傾げた。どういうことなのだろう。みるみる赤面するたかし。そのまま、何も言わずに走り去っていってしまった。






「あっちょっ……逃げられた」






 赤面して逃げた理由も、サニーゴを探していた理由もわからないままだ。

解消されない疑問にうーんうーん、と唸っていたら、くぅ、とお腹が鳴った。

怪訝な顔をするコータスを無視して、ソプラノ食堂に戻ることにする。お昼にしよう。






(たかしくんは町の方に走っていったし、大丈夫でしょ。いざという場合に備えて、ムクホークも残してきたし)

「私は昼飯を食う」

「おかえりトレーナーさん! ご注文は!?」

「カツ丼、のセットメニュー……はざるそばで」

「あと、ちくわ天単品でください」






※アサギ食堂のメニューを知らないシャラサブレイーターは、やまだうどんのメニューを参考にしています。でも今、うどんか+200円でラーメンなんだよね。これ書いた頃、たしかざるそばも選べたんだけど。






「やっぱ大食らいだな! ガッハッハッハ!」






 カウンターの向こうでざっぱざっぱと豪快に食器を洗っているあると。テーブル席の方を見ると、お昼休憩らしきサラリーマンや、土建屋の人、学生のグループなどが目に入った。その人たちの食事の音や、話し声や、笑い声でがやがやしていて、店内は雑然としている。でも妙に落ち着く。この時間帯の大衆食堂の雰囲気は好きだった。






(隣の一心不乱に定食を貪ってるこの人も……この人も……ん? この人……)






 生姜焼きをじゅわ、とほおばり、ごはんをぽっふ、とほおばり、もきゅもきゅと幸せそうに噛み締めている。その姿はなんだか見覚えがあった。

知り合いではない。その姿を見かけたことがあるのは、電子媒体だったか掲示物だったか。直接の対面で、ではないことだけは確かだ。






(こいつジムリーダーのミカンじゃね)

「はむ───ッ!」

(あ。目、合っちゃった)






 見られていた、と認識したものによるものか、顔が赤くなっていくミカン。カァァ……とオノマトペが添えてあるようにすら見える。視線をそらしたつもりで下に向けると、重なった食器類が目に入った。すさまじい量を食していらっしゃるようだ。

視線の不自然な停止から、食器類の量に気づいたことに気づかれた。






「こ、ここここっここれはちちちち違うんです!!」

(何が!)

「こ……っ、このお皿は……そう! あたしの前にいたお客さんが───前のお客さんが! 残していったものなんですっ!」

(わかりやすい嘘っ!!)

「じゃなかった!」

(無理があることに気づいた!!)

「枚数が必要なんです!」

(枚数?!)

「10枚で! 1回!! ルーレットが回せるんです!」

(無添くら○司!)

「ブフッ!!」

「はわっ!!」

「ッ・・・じゃ───なくて!」

(ま、まだ続くの!!)

「は、は、はぁ…は…はァ……」






 見ているこちらが不安になりそうなほどの浅い呼吸を繰り返している。こちらとしてはツボにハマりかけていて大変申し訳ない、という一方でこのあと一体何が出てくるんだ、というよこしまな期待でミカンを見つめてしまっていた。






「は………ハガネールの鱗なんです!!!」

「金属でしょ! ホラ!!」

「シャ、シャキーーン!!!!!!」

「ブフゥッ!!!」

「ひいぃぃぃ!!」

「はいよ!カツ丼セットお待ちィ!!」

「くっ……ひひひひっ……くひっ……ひっひっひぃっ……」






 食事の様子を見られただけで、どうしてここまでテンパり倒してしまったのか。ミカンに対して抱いていたイメージが盛大にぶっ壊れた彼女は、完全にツボにハマって、突っ伏したまま動けなくなってしまった。ミカンはその様子を見ながら気まずそうに、ちょっと遠慮がちに、しれっと食事を再開していた。

 笑いのドツボから彼女が帰還したとき、カツ丼は少し冷めていた。それでも出来立てのそれはおいしかった。肉は変わらずジューシーだったし、ご飯も蒸れず粒が立っている。ボリューミーなのに食べやすい。不思議な箸の進み方だった。ケチャップの風味を感じたような気がしたが、たぶん気のせいだと思う。

ざるそば。気づいたら全部吸い込んでいた。おいしいそばほど、気づくとなくなっているものだ。替え玉……はやめておこう。

 カツ丼とざるそばを食べ終わる頃を見計らってか、ミカンが話しかけてきた。




「旅の方ですよね?」

「はい、そうです」

「ジム戦なら、いつでもお相手できますよ?」

「いえ、私はトレーナーですけど、この町に来たのは、ホントただの観光なので……すみません」

「しかも、お食事、中の と こ ろ……お邪魔してっ、フヒッ……ホント、スミマセン(血眼)」

(笑うな……ッ! 耐えろ私……耐えるんだ……ッ)

(せっかくこの町のことをよく知っている人、それもジムリーダーに会えたんだ……ッ! 訊かなければ!)

「むしろ、慣習とか、習俗とか、そういうことの方に興味があるん……フヒッ、で!!」

「慣習、ですか?」

「はい、それで……」

「さっき、男の子が必死な様子でサニーゴを探しているところを見てしまって……」

「何か、特別な意味でもあるのかな……って気になってるんです」

「ミカンさんは何かご存知ですか?」

「ああ、そういうことね」

「多分、その子は誰かと仲直りしたいんじゃないかしら」

(お、大正解だ)

「それで、なんでサニーゴで仲直りなんですか?」

「ほら、サニーゴの頭のサンゴは、折れても生えてくるでしょう?」

「特性もしぜんかいふく───まれにさいせいりょくの個体もいるそうだけれど───だから、治る、直ることや元通りになること、という意味合いで縁起のいいポケモンとされているんです」

「なるほど」

(で、なんでそれをあんな熱心に"探す"んだろう? 見かけた気がするだけど……)

「特に、子ども達の間では───」

「珍しい、水色のサニーゴを見つけると、どんなに派手なケンカをしてしまった相手とでも、すっかり仲直りできる」

「そんなジンクスが浸透しているみたいです」

「え」

「きっとその男の子も、水色のサニーゴを探していたんでしょうね」

「あ、あの、たたた、ただの迷信、なんですよ……ね?」

「はい、もちろんそうです」

「でも、そのサニーゴを仲直りしたい相手に見せることで、『あなたと仲直りしたいんだ』っていう気持ちをあらわせる」

「だから、まったく意味のないこと───とは思いません」

(ガッデム!!)

(水色のサニーゴいる! 私持ってる!! 穫れたてピチピチ!!)






 思い返せば、郵便屋のカイリューが誤配した手紙にも、そんなことが書いてあった。サニーゴの存在は、関係修復の象徴なのだ。

 だからって、自分がたまたまゲットしてるとかそんな偶然ある? あるんですね。困った。






「あ、おねーちゃん帰ってきたんだね。おひる、うちでたべてたの?」

「あら。たまきちゃん、こんにちは」

「ミカンちゃんこんにちはー。ごはんおいしかった?」

「おなかいっぱいになったわ。ごちそうさまでした」

「どういたしまして」






 えっへん、と自分の仕事ではないのに胸を張っているたまき。案の定あるとにツッコまれている。

 サニーゴ……イロ……ピチピチ……と意識が明後日に飛んでいっている少女の脇で、お勘定、と代金を置くミカンに、たまきが続ける。







「おねーちゃん、灯台のトレーナーみんなに勝っちゃったんだよ。オノノクスひとりで」

「まあ! 灯台の人達、なかなかバトルジャンキーなんですよ? 全員に勝つなんて大したものだわ」

「よかったら、このあとバトルしませんか?」

「え、私、ジム戦はちょっと……」

「ただのバトルです。腹ごなしに、ね?」






 意味深にニコニコしているミカン。たまきにもまた期待の眼差しを向けられている。せっかくだし、するか、バトル。この場合、ちょっとお茶するみたいなものだ。

 カツ丼セットのお会計をすませる。ごちそうさまでしたー、と3人一緒に食堂を出、浜辺の方へと向かった。ポケモンバトルくらいはできそうな一角がある。

 ミカンと距離を取って向かい合う。ふと少し離れた場所の、波打ち際と陸地の方の景観の間取りに気が向いていた。そのあたりは確か、昨日カイリューに降ろしてもらった場所だった。学生服を着た数人がぱしゃぱしゃとたわむれている。思い返せば自分もたびたび浜辺にきているのだが、そういえば水遊びはしていなかったな、と思い至る。あとが大変だしなぁ、と息をついた。

 ミカンと街の外から来たトレーナーが戦う、ということで興味津々のたまきは当然ついてきているので、後ろから見ているように注意した。






「たまきちゃんは、私の後ろにいてね」

「うん……!!」

「いくわよ、ハガネール!」






 ミカンの投げたボールから出てきたハガネール。全長は9mほどだろうか、鎌首をもたげた高さは3、4mほど。ミカンとは少し間を置くように向かい合っているが、それでも……






「でかい……!!」





 強みについては説明不要。だが、ジムリーダーのポケモンと思って対面すると、これがさらに大きく見えるような錯覚に陥る。これほどの存在感がある相手だと、体の奥の方、根源的な恐怖を掻き立てられる。笑いそうになる膝、食いしばらないと鳴る歯と震える唇。見上げている目は思わず逸らしたくなる。

 まさに怪獣。これだけの体躯のポケモンと相対するのは、初めてのことかもしれなかった。






「ざり?」

「うわぁっ!?」






 驚いて飛び上がる。いつの間にボールから出ていたのか、隣にシザリガーがぬぼーっと立っていた。

 自然体すぎんだろ……。ハガネールもいるのに、勝手に出てきて「なんでバトルしないの?」とばかりに自分とハガネールを交互に見ている。スタンスが他人事すぎる。なんでこんなマイペースなんだ。誰に似たんだ? コータス?

 と、シザリガーは何か指し示している。足元……ドリュウズのボールを取り落としていた。






「ぽちっとな」

「あっ、押した!」





 指し示したハサミでそのままボールのスイッチを押してしまった。光がはじけ、ドリュウズが飛び出す。

周りを見回し、ハガネールを見上げて静止。キョトン、としている。明らかにドリュウズは状況がわかっていない。






「じゃ。」






 シザリガーはボールに戻った。戻りやがった! 何しに出てきたんだあいつ。ドリュウズと顔を見合わせる始末だった。

たまきはすっごく嬉しそうにしてる! ……何がそんなに面白かったのだろう。





「ドリュウズ……でいいのかしら?」

「あ、はい。この子でいきます」

「りゅうず。」






 待たせてしまっている状況に、引っ込みがつかなくなったようなところもあり、首肯してしまっていた。

ドリュウズも状況が飲めたらしい。ざざっ、と自分の足場を掻いて、地形を確認しているようだった。乗り気のようで助かった。

 彼女は気づいていないが、シザリガーが場を読まず出てきたことで、ハガネールへの恐怖感がごまかされていた。シザリガーが意図したものかどうかはわからないが。






「ドリュウズ、ね」






 ミカンはそう呟くと、ふところから何かを取り出す。

さらり、と塩風が吹いて、ミカンの黒いボレロとワンピースが揺れる。ハガネールの後ろに立つミカンの手元で何かがキラリと輝いたように見えた。

直後、ミカンの手から鎖のような2対の閃光が弾ける。それはハガネールからも伸びた同種の光と結びつき、ハガネールは光に包み込まれた。






「メガシンカ!」






 バオン!!と、ハガネールを包んでいた光と、光の鎖が弾け飛ぶ。そこから姿を現したハガネールは様変わりしていた。

 凶悪な顔つきはさらに鋭利さを宿し、体表から剥離したものか、金属質の皮膜が本体を守るかのように浮遊している。平時よりも増した金属質の輝きは、角度によって虹色に見える箇所もある。そして明らかに、体のサイズも一回り大きくなっていた。






「デカすぎんだろ……」

「どりゅう……」

「すごーい! すごーい!!」






 開幕メガシンカ。人生初の生メガシンカ。灯台でのひとりごとが前振りになってしまった。たまきは有頂天だ。






「来なさい!」

「ド、ドリュウズ! ドリルライナー!!」






 ミカンに気つけされ、咄嗟に指示を出す。駆け込んでいくドリュウズ。勢いをつけ踏み切り、跳躍。バシン、とツメと頭部のツノをかち合わせ、攻撃形態になる。閉じる直前に加えた"ひねり"が、ドリュウズの体に螺旋の回転を生じさせた。

ハガネールめがけ、ドリルライナーで突貫する。

 それを黙って看過するミカンではなかった。






「すなあらし!」






 ハガネールの肥大化した突起のブロックが、猛烈な回転を始める。浮遊する皮膜とともに浜辺の砂を巻き上げ、みるみるうちに荒れ狂う砂に覆われた世界を作り出す。視界を妨げられ、砂の束に横っ面をひっぱたかれる。

はがねタイプであろうと至近距離ともなれば、砂の勢いとの質量に耐えられない。ドリュウズの攻撃はハガネールに届くことなく、もみくちゃにされてドリュウズは弾き飛ばされてしまった。

 彼女のドリュウズの特性は、すなかきではなかった。






「ドリュウズ! 大丈夫!?」

「グルアァ!!」






 立ち上がり、自身の健在を示すドリュウズ。あたたまってきた、というところだろうか。

 砂の壁の向こうで、ハガネールが暗く待ち構えている。砂嵐はまるでハガネールの体の一部のようだった。






「ハガネール! ヘビーボンバー!」






 腹の底に響くような声を上げ、ハガネールはまさかの跳躍を見せた。鋼の体を伸ばし、ただ落ちてくる。質量に任せた乱暴な一撃。だが、その体躯ゆえに脅威たりえた。

 ドリュウズに逃げるのを指示し、自分も数歩下がる。ドリュウズはハガネールに向かって左側に走り抜けるように移動した。直撃はまぬがれる。

 だが、ハガネールの着地の衝撃は地面を縦に打ち震わせた。後ろ手にかばったたまきとともに浮遊感をあじわう。見れば、直撃を避けたにもかかわらず、ドリュウズは吹っ飛ばされていた。

 バランスを崩して地面に膝を着きながら、ドリュウズを目で追う。転げていたものの、致命傷は受けていないようだ。声を発しようとして、口の中に砂が入っていることに気づく。苦い。吐き出す。

 ハガネールは砂浜に体を投げ出した態勢だ。すなあらしに守られてはいるが、攻撃するなら今だ。






「ドリュウズ! ドリルライナー!」






 つのドリルを指示するつもりは毛頭ない。以前格上の相手に一撃必殺技がまったく効かなかったことは忘れていなかった。そんなチャレンジをしている気持ちの余裕は、今は一切なかったのだ。

 身を起こすハガネールに突貫するドリュウズ。しかし、体に傷が入る様子が見られない。ハガネールもドリルライナーを受けて平然としている。






「ハガネール! ドリュウズに向けてそのまま転がって!」

「いィ?!」






 なんと、起き上がるのを待たずさらに質量攻撃をしかけて来た。こんなのロードローラーで潰されるようなものだ。「潜ってドリュウズ!!」地面に逃げるドリュウズ。ハガネールは波打ち際でローリングを止めた。

 砂嵐が吹き荒れている。

 ドリュウズを探す彼女の前で砂がぼこり、と盛り上がり、間もなくドリュウズが飛び出してきた。無事だ。ほっと安堵するが、ドリュウズは流石に消耗を見せていた。少し潰されたのだろう。動きにぎこちなさも見えた。

 起き上がり、ハガネールはすでにこちらを見ていた。先ほどまでその見た目から来る威圧感で押されていたが、今はもう見てくれだけではない。この砂浜を蹂躙したその実績をもって、ハガネールのプレッシャーはこのバトルを支配していた。

 ドリルライナーは功を奏さなかった。ローラー攻撃を紙一重で回避してもダメージを入れられた。ドリュウズがどれだけ必死に立ち回ろうと、ハガネールはその体を振り回すだけで、アドバンテージを取り、不利を押し付けてくる。体格差の現実。

 どうして、こんな徹底したバトルをするのか。茶飲み話でもするようなもの、と軽く考えていた自分を蹴ってやりたかった。茶をしばかれている。ミカンはどうして、ここまで本意気で戦うのだろう。

 ミカンが口を開く。






「最初に言い忘れていましたけど、この勝負で勝ったら食堂でのことは一切忘れてもらいます」

(根に持ってたァー!!!)






 おとなげなくないか。これは、自分が勝負を投げたからってミカンの気が済む、というような話ではない。大蹂躙されてドリュウズが完全KOするまで終わらない、ガチンコの勝負だったのだ。そんなのってないよ……。






「……おねーちゃん」

「?」

「ドリュウズ、ハガネール見てるよ」






 たまきの見るドリュウズを、自分も見た。ハガネールから落とされている視線。ドリュウズはそれを受け止め、ハガネールをまっすぐ見ていた。

 ああ、そうか。ドリュウズはこの勝負に、最初から乗り気だった。あれだけの一方的な攻勢にさらされても、ドリュウズの士気はまったく削がれてなどいなかったのだ。自分の後ろに立つたまきですら、それが見えている。

茶飲み気分でいたのは自分だけだ。そう気付かされた。あやうくドリュウズの気持ちを不意にするところだった。恥ずかしい。






「ドリュウズ! 勝ち目はまだあるよ!」

「りゅう!!」

「ハガネール、アイアンテール!!」






 尻尾がさらなる煌めきを纏い、ハガネールは前傾する姿勢をとった。頭を支点に、尻尾をドリュウズめがけ振りおろす。直上ではなく、斜めから切り込んでくるような軌道。





(ドリュウズならかわせる!!)

「ドリュウズ、ブレイククロー!!」






 ハガネールが機敏でないこともあって、アイアンテールの予測線からドリュウズは余裕をもって回避することができた。そのままふところに潜りこみ、ブレイククローを叩き込む。


『効果はいまひとつのようだ……』


 はなから承知の上だった。大事なのはそのあとに見えたもの。確信をもって、ドリュウズに指示を出す。





「ドリュウズ、距離をとって!」

「逃しません! ころがりなさいハガネール!」






 ローラー攻撃。これはもう一度見たものだ。警戒はして当然。ドリュウズ自身もそうだったのだろう。支持するのとほぼ同じタイミングで身を引いていた。

 ドリュウズが目で追う場所を、彼女も見ていた。






(ドリュウズが考えていること……多分私と同じはずだ)

「ブレイククロー!!」






 ハガネールがローリングを制止したタイミングで、ドリュウズはハガネールの体を足場にして飛びかかった。しかし、浮遊する皮膜に弾かれ、ブレイククローはかなり浅い入り方となってしまった。

今回は失敗。だが、この作戦が一番有効なはずだ。ドリュウズとの足並みもいい。引き続きハガネールの攻勢を余裕をもって回避するようにしつつ、ブレイククローでの削りを継続する。

 威力も範囲も絶大であることに変わりないが、ドリュウズが駆け回ってくれているおかげで、彼女はハガネールとの距離感も掴めてきた。

 だが、一方のミカンも、ハガネールへの順応を見せるドリュウズのテンポを掴み、それを崩す算段を用意していた。






「ハガネール! じしん!!」






 ハガネールが重機の前面のようなアゴを地面に叩きつける。破壊の衝撃が砂浜を駆け、それは中距離で立ち回っていたドリュウズの体を駆け抜け、打ち据えた。



『効果はばつぐんだ!!』



 体を"く"の字に折りながら、ドリュウズが砂の壁を切るようにとばされる。






「ドリュウズ! 平気!?」

「ぐらぅあ!!」

「よかった……」






 立ち上がるドリュウズ。どうにか戦闘は可能な様子だが、消耗は深刻だ。

 対するハガネールだが、先ほどから振われる技を見ていて思ったことがある。

火力が見た目以上に高い気がする。

 当初こそ、その巨躯だからなせるものと思っていたが、ある程度見慣れた今、そのわざを見ると、不自然に強すぎる。現に、ローリングをしているときと技を振るっている時では、地面を抉っても差があるのだ。

メガシンカによる何らかの強化か? 何らかのブーストを受けていることに違いはなかった。

 なんにせよ結局のところ、彼我のアドバンテージ差は依然として変わっていないのだ。だからこそ、ぐずぐずはしていられない。勝負時は今。 

小は大を兼ねられない。狙うのは一点突破のみ。






「ドリュウズ、距離詰めて!!」

「ハガネール、じしん!!」






 ミカンも、ドリュウズが勝負に出たことを感じ取ったのだろう。ハガネールに決定打を指示した。

だが、それを待っていた。






「ドリルライナー!!」






 駆け込み、跳躍。地面を走る衝撃を回避し、ドリュウズは鋼を穿つ質量弾へと変形する。

じしんを撃った直後の動けないハガネール。その側面、先ほどから執拗にブレイククローで殴りつけた、その場所にドリルライナーで突撃した。






「 ヴ ガ ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」






 ハガネールから初めてこぼれた悲鳴。ドリュウズはハガネールの首元にヒビを穿ち、深々と突き刺さっていた。しかも、そのまま身を捻り、回転し続けている。刺したナイフをこじるようなものだ。ハガネールの絶叫は当然のものだった。






「ドリュウズがハガネールにささっちゃってる……」

「ハガネール! 振り落としなさい!」






 ぶんぶんと上半身を振り回すハガネールだったが、体に対してドリュウズが小さく、突き刺さっていることもあってか、抜けない。






「ドリュウズ、もう一息だよ! そこから押し込んで!!」

「抜けないか……なら、ハガネール! そのままドリュウズを地面にたたきつけて!!」






 さらに深く突き刺さってしまうリスクもあるというのに、ミカンの判断は早かった。ジムリーダーとしての経験のなせる技。ハガネールはドリュウズを打ち付けるように地面に身をたたきつける。ドリュウズを押しつぶすようにではなく、横からぶったたくようにだ。この判断力もまた、ミカンの相棒としての期間の長さによるものだろう。ドリュウズと、突き刺さっていた部位のカケラが宙を舞う。







「ドリュウズ───!!!」

「アイアンテール!!!」






 空中で捕らえたにもかかわらず、ドリュウズを打ち据えた尻尾は彼を離すことなく砂浜に叩きつけた。アイアンテールの威力とハガネールの重さが完全に乗った一撃。

 倒れ伏したドリュウズは、もう立ち上がる事はなかった。

 砂嵐が収まっていく。






「──────」

「ドリュウズを、ボールに戻してあげて」

「───は、はい!」






 ミカンに指摘され、ドリュウズを呼び戻す。ボールを握る手が、震えていた。

 勝てなかった。

ここだ、と思った。ドリュウズもそれに応えてくれた。会心の一撃を見舞えたはずだったのに。

 届かなかった。






「ハガネール、おつかれさま」






 光が弾け、ハガネールの姿が元に戻る。ドリュウズに受けた傷はそのままだ、ミカンは素早くハガネールをボールに戻した。






「とてもいいバトルでした。ブレイククローで同じ場所を狙い続けてハガネールの防御力を下げ、ドリルライナーで一発逆転。あともう何手か後だったら、負けてたかもしれません」

「でも、勝てませんでした」

「そうね。とても息の合った、いいコンビネーションだったけど、あたしたちの方が上手でした」






 ふふん、と胸を張るミカン。その姿を見て力が抜け、笑ってしまっていた。





「ナイスファイト!!」






 背後から聞こえてきた声に振り向くと、波打ち際で遊んでいたグループがこちらに向かって拍手をしていた。いつのまにか観戦されていたらしい。

 照れくさくて、思わずトレーナーのフードで口元を隠してしまっていた。ミカンが口を開く。






「では、食堂でのことは忘れるように。」

「……せっかく忘れてたのに」






 ミカンが手を差し出す。そっと握り返す。手の震えはまだ収まっていなかった。ミカンの手も少し震えていた。






「あたしはジムに戻りますね」

「それでは、さようなら」

「ありがとうございました」






 ミカンを見送る。後ろ姿が綺麗で、見とれてしまう。自信を持って生きている人の背中だ。どうしたら、あんなふうにかっこよくなれるのだろうか。

 ハガネールとのバトル。わずかな時間、何もかも忘れて確信のままにドリュウズと突き進んだあの瞬間の果てに、自分はみっともなく負けた。

 もっと勝利を重ねたら、ポケモン達のポテンシャルを十全に活かして戦うことができるようになったなら、そうなった自分に、誇りを持てるようになるのだろうか。






「おねーちゃん。かっこよかった」

「そうだね、ミカンさん。すごい人だった」

「あたしは! おねーちゃんとドリュウズがかっこよかったよ!」

「え」

「あたしも、あんなバトルできるかなぁ?」

「……たまきちゃん次第だよ」






 微笑む彼女を見上げるたまき。

 ───たまきは、この時のことを一生涯忘れることはなかった。昨日知り合ったおねえさんと過ごした時間。画面の中でしか見たことのないような圧巻のポケモンバトル。ジムリーダーミカンのハガネールが苦戦するトレーナーとドリュウズ。父も母も、同級生もいない。自分だけがこの出来事を知っているのだ。

 自分のポケモンと一緒に、こんなバトルをしてみたい。生まれて初めての情熱が、たまきの胸に湧き上がっていた。

 そんなことを、熱い視線を贈られている彼女は知る由もない。

 ただ、慰めてくれてうれしいな、昨日今日はお世話になったし、この子のために何かしてあげられたなら……とだけ思った。






(私、今……超・お節介なことしようとしてる)

「……たまきちゃん」

「なぁに?」

「たかしくんと仲直りしたい?」






 たまきは、自分の服の裾をにぎってもじもじしたあと、唇を尖らせてうなずいた。






「たかしくんが、たまきちゃんに言いたいことあるって言ってたよ」

「岩場の方にいたから、行ってみたら?」






 たまきが走り去っていく。その後ろで、彼女はふところからボールを取り出す。サニーゴの入ったダイブボール。今はロックされているので、バトルでくりだすことはできない。

 だが、サニーゴを自由にしてやることはできる。





「本気? ゲットしてあんなにはしゃいでたのに」

「うん」

「たまきちゃんには、たった半日でいろんなものもらっちゃったから」

「これも何かの巡り合わせかなぁって。"この感覚"は、大事にしたほうがいい気がするんだ」

「そんなこと言ってぇ、そいつの扱いを決めあぐねてるから、ぶん投げようとしてるだけじゃないの?」

「……そうなのかな。そう、なのかも」

「でも、私にはコータス達がいるし? それで十分だし?」






 彼女はたまきの跡を追いかけた。










「うわっ!」






 たかし、何度目かの転倒。そして何度目かのムクホークの手助け。ムクホークがたかしを安全そうな足場に放る。これも何度目かのこと。






「あだっ」

「ぴぃぴぴるぴぴぃ」






 何事か小言を口にしたムクホークだったが、当然たかしにわかるわけもない。すると突然、ムクホークは明後日の方角を見やり、そのまま飛び去っていってしまった。たかしは慌てて声を張り上げる。






「何回もありがとうな!……いっちゃった」

「さにっ!」

「えっ……あ゛っ!! みずいろのサニーゴ!」






 あまりのことに声を張り上げたたかしだったが、サニーゴはそれに驚くこともなく、たかしによっていく。おそるおそる抱き上げるたかし。






「うわっ、ホントかよ……」

「やった……み、みつけちゃった! たまきのとこ、いかなきゃ!」






 帰ろうと振り向くと、むすっとした顔でたまきが立っていた。驚いて飛び上がるたかし。






「おわひゃっ!! そ、そんなとこでなにしてんだよ!」

「あたしに、はなしがあるんでしょ?」

「べ、べつにな……」

「さにぃ?」

「ッ……うん、ある」

「で、なぁに?」

「あのさ、じつはさ」

「きのうおれ、うそついた」

「え?」

「ななこちゃんがすきっていったの、うそなんだよ!」






 たまきは目が真ん丸になっていた。






「みんな、ななこちゃんのことすきだけど、おれそんなにすきじゃないし!」

「じゃあなんで、きのうはななこちゃんっていったの?

「だって、たまきがずっときいてくるから」

「でもウソいわなくてよくない?」

「あ、あわわわわそれはその……」

「なんで?」

「そそそそっ、それはおいとこう!」






 サニーゴと対照的に、顔が真っ赤になっているたかし。






「なんで!」

「ウ、ウソついてごめんなさい!」

「なんでおいとくの!?」

「それもいったんおいとこう! ごめんなさい!」

「よくわかんないんだけど!」

「ずっとおれとなかよしでいてください!!」

「うひゃぁっ……」







 サニーゴを突き出すたかし。固まるたまき。ふたり揃ってオクタンのように真っ赤になっていた。サニーゴは状況をよくわかっていない様子だったが、ニコニコと笑っていた。






「ゆ、ゆるしたげる!!!」

「あ、ありがとうな」

「……サニーゴ、あたしがもらっていいの?」

「い、いいとも!」






 逡巡したたかしだったが、勢いに任せてサニーゴをたまきにつきつける。

たまきが今度ポケモンをもらうのだという話は以前聞いていた。そもそもサニーゴを探していたのはたまきにあげようと思ったからだ。本音を言えば、惜しい、と思うところもあったが、それで引っ込めてしまっては本末転倒───と思ったわけではなかったが、何だかカッコ悪い、くらいのことはたかしにも考えられた。

サニーゴをそろりと受け取ったたまき。自然と笑顔がこぼれる。そうだ、いつも見慣れたこの笑顔がまた見たい一心だったのだ。満足したたかしも、笑顔になっていた。






「ありがと! サニーゴのこと、大切にするね!!」

「かえる?」

「うん、かえろ」






「……ふぅ」

「ちっちゃい子の間って不思議だなぁ……」

「なんか微笑ましいけど」






 自分は恥ずかしくて言えないから相手の気持ちを聞いて。

正直に答えるのは恥ずかしいから嘘ついて。

嘘に踊らされ友達に嫉妬して。

そんな、子ども2人のつたないすれ違いなんて、きっかけがひとつあればあっさり元通りになるのであった。






「ぶっちゃけ、私がお節介しなくても、そのうち仲直りしたんだろうなぁ」

「それでもお節介しちゃうあたり、モモちゃんはおひとよしだよね」

「……こほん」

「手つないで帰っちゃって……ちっちゃい子はかわいいよね!!」

「あのサニーゴ、はりきりだしね!! 迷信なんてそんなもんだよあはははは!!!」






 彼女はアサギシティを離れる。まるで照れくささから逃げるかのように。

つづく。









「あれ、ひさしぶりだね。手紙? また私に?」

「……あぁ、これ。一回間違えたんでしょ。やっぱりおっちょこちょいだなぁ……」

「……そっかー。なんだ、バレたのか」


───そぷらのの祖父が帰還した当時。彼の帰りを喜びながらも、祖母は思った。

「そんな手紙出してない」

そしてそのことを、そぷらのは知らない。

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