1-5 引きずりたいもの

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読了時間目安:15分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください


 俺とジュウモンジは、それぞれのモンスターボールからポケモンを繰り出す。

「出番だ、ハッサム!」
「リオル!」

 奴が出してきたのは、赤いフォルムが特徴的な鋼・虫タイプのポケモン、ハッサム。ジュウモンジのハッサムは、奴ら<シザークロス>の代名詞のようなポケモンだ。
 一方俺が出したのは格闘タイプの青くて小柄なポケモン、リオル。
 レベル的にはもうとっくにルカリオへ進化していてもおかしくないのだが、何故か進化しないままである。
 リオルは俺の顔を見るなり、何の用だ、とでも言うがごとく睨みを利かせ、それからそっぽを向いた。

「リオル」

 俺はもう一度、その青い背中に呼びかける。
 先程のジュウモンジの言葉に、何も感じなかったわけではなかった
 俺だって、リオル達とちゃんとした信頼関係を築けているとは思わない。
 正直、こいつらとどう向き合っていいのか分からない。
 だが分からないからって諦めてしまうことが、いけないことも分かっている。
 分かっては、いるんだ。

「頼む」

 かすれるような声で、俺はリオルに言う。今の俺にはこれが限界だった。
 リオルの耳が、一回ピクリと動く。
 こちらを振り向いてくれるわけでもない。了承してくれたのかは判らない。
 でも、今の俺はリオルに託すことしか出来なかった。

「それじゃあ、このコインが地面に落ちたらバトル開始だ。いいな」
「ああ」

 俺の了承を得てから、ジュウモンジが指でコインを弾く。
 コインは夜空にきらりと輝いて、回転しながら落下していく。
 そして、地面に接触した瞬間、ほぼ同時にお互いが指示を出していた。

「『バレットパンチ』!」
「『でんこうせっか』!」

 まずは両者、先制技同士の対決。指示のスピードは、ジュウモンジが俺を上回る。
 弾丸のごとく飛んでくるハッサムの拳。
 リオルはスピードと小柄な体を生かし、かわし、いなして懐へ体当たりを入れた。
 しかし、リオルの攻撃をものともしないハッサム。
 やはり、並の攻撃では通じない。
 ならば、格闘技を畳みかけさせる。

「『けたぐり』!」
「おっと、そうはいかねえぜ!」

 ハッサムがその場でジャンプして、『けたぐり』を器用にかわす。

「そのまま懐へ『はっけい』!」
「させるか!」

 着地の瞬間を狙い強打を入れるべく、俺はリオルに『はっけい』を指示する。
 再び懐を狙おうとするが、流れる動作で放たれるハッサムの足払いがそれを邪魔する。

「ジャンプ!」

 俺とリオルは方針を変え、飛び上がって空中から『はっけい』の波動でダメージを狙おうとした。
 だが、その目論見は奴の掛け声によって崩れ去る。

「それを待ってたぜ! 追撃だハッサム、『ダブルアタック』!」

 その指示で俺は、足払いは『ダブルアタック』の一撃目だったことに気付く。
 間髪入れずに飛んできた二撃目の鋏を、空中のリオルはかわしきれない。
 ハッサムの鋏はリオルの尾を捕らえた。

「上へ投げ飛ばせ!!」
「くっ……!」

 尾を掴んだハッサムは、リオルを振り回し、勢いをつけて思い切り上空へと投げ飛ばす。
 夜空に放り出されたリオルに、さらに追撃の指示をハッサムへと出すジュウモンジ。

「一気に押し切るぞ! 『エアスラッシュ』!」
「『きあいだま』で相殺しろ!」

 フィールドの空気が風となり、ハッサムに集まっていく。
 リオルは空中で体勢を立て直して両手にエネルギーをチャージした。
 そして放たれ、衝突する両者の技。
 ぶつかり合った瞬間は切迫していたが、空気の刃が、エネルギー弾を切り裂いた。
 強烈な『エアスラッシュ』が、リオルに襲い掛かる。
 咄嗟に腕を交差し、ガードしても防ぎきれない。

「リオル!!」

 リオルは吹き飛ばされ、背中から荒野の大地に叩きつけられた。
 弱点の技をまともに食らってしまい、大ダメージが残るリオル。
 それでもリオルは、足をよろつかせながらも立ち上がろうとする。しかし、なかなか上手くいかない。
 ハッサムが、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。
 ジュウモンジが、ゆっくりとこちらに語りかけてくる。
 まるで、勝負は決したと言わんばかりに。

「配達屋」
「……なんだ」
「てめえが勝って配達を完遂しても、俺らの仲間になっても……どちらに転んでも、その贈り物をポケモン達に届けられるって寸法なんだろ?」
「……ああ」
「だったら、これ以上無理する必要は、無理を強いる必要はねえんじゃねーか?」
「…………」

 ハッサムがリオルの目の前まで辿り着き、リオルを見下ろす。
 俺が拳を握ると、どこからともなく、声が聞こえた。

「ビー君! ポケモンが諦めてないのに、トレーナーが諦めちゃダメだよ!」

 声の主は、見なくても誰か分かった。
 そいつへの悪態交じりに、俺はリオルへ声をかける。

「諦めてないさ。だから、もう少しだけ協力してくれ」

 リオルは小さくだけれども、頷いてくれた。頼もしい頷きだった。

「そうかよ。そんじゃ、楽にしてやんなハッサム――『シザークロス』!!」

 ジュウモンジとハッサムは、決め技でケリをつけようとする。
 大技を仕掛けようとするハッサム。
 奴らの油断は、十分に誘った。
 その両腕を大きく振りかざすモーションを
 俺とリオルは待っていた。

「地面に『はっけい』!」

 リオルの放った攻撃が、フィールドを崩す。
 足場を崩されたハッサムの両鋏がリオルの横を通過する。
 ハッサムは咄嗟に体制を整えようとしてその場で踏ん張ろうとした。
 その動作のおかげで隙が出来る。

 短く、速く、丁寧に、
 がら空きになったハッサムの足元に
 決めてやれリオル

「『けたぐり』」

 ジュウモンジが目を見開く。
 俺はミラーシェードを調整した。
 ハッサムはバランスを崩し、前面に倒れてしまう。
 その隙にリオルはハッサムの背に飛び乗る。
 今度こそハッサムは、逃げられない。
 決着の瞬間だった。

「『はっけい』!!」

 辺りに俺の掛け声とリオルの攻撃音が、鳴り響いた。


*****************


 リオルの攻撃を受けたハッサムは、目を回して気絶していた。

「……すまねぇハッサム。よくやってくれた」

 戦闘続行不可能となったハッサムに、ジュウモンジはフィールドに足を入れて近づき、言葉を投げかける。
 ハッサムの頭を一撫でしてから、モンスターボールに戻した。

「リオル、戻って休んでくれ」

 俺もリオルをモンスターボールに戻そうとしたところで、ジュウモンジに呼び止められた。

「おい」
「なんだ、俺達の勝ちだが……」
「そうじゃねぇだろ」

 ジュウモンジが不満に思うのは、勝ち負けの事ではないようである。
 何に対して文句があるのか、というのは理解していた。
 渋る俺に対し、ヨアケがジュウモンジに加勢する。

「ジュウモンジさんの言う通りだよ。ちゃんと、言葉にしないと伝わらないよ?」
「そうだよ、リオルは待ってるよ!」

 「そうだそうだ」と赤毛の少女の言葉に俺とリオルを除いた一同が同意する。こんなところで意気投合すんなよ。
 周囲の視線をいっぺんに浴びて、俺は若干怯んだ。

 ポケモンに声をかけて、ねぎらう。
 それは、他人にとっては簡単なことかもしれない。
 だが、俺にとってはどうやら難しいことのようである。
 どうしてそんな、当たり前のことがしんどいのか解らない。
 けど、そういう事は、他人に促されてするものではないのは、知っているつもりだった。
 だったら、言われる前にやれ、とは思うが……

「……………………ありがとう、リオル」

 結局、小声で無愛想な感謝の仕方になってしまう。
 リオルはフンと鼻を鳴らし、そっぽ向いた。

「声が小さいが、まあいいか」

 奴らの許しを受けて、俺は視線から解放される。何だか腑に落ちない流れだった。
 リオルをモンスターボールに戻すと、ジュウモンジ達が、拠点の入り口からどいた。

「ほらよ、通りな配達屋。届けるんだろう、荷物を」
「ああ……そうだ、ヨアケ、手伝ってくれないか?」
「うん、いいよ」

 俺に続き、ヨアケも建物内に入ろうとし、ジュウモンジに確認をとる。

「私も入っていいですか?」
「構わねえよ。だが、やらないとは思うが、暴れたらつまみ出すからな」
「ありがとうございます」

 二人とも許可が下り、中へ入った。
 <シザークロス>の奴らにも手伝ってもらいながら、ポケモン達をトラックから降ろしていく。
 全部で二十数体のポケモン達が集まった。
 俺はわざわざ彼女に梱包し直してもらった小包を、ポケモン達の代わりに開ける。
 それから、中にあった贈り物を取り出した。

「あのお屋敷のお嬢様からのプレゼントです」

 そして、俺は静かに、贈り物に添えられた小さな用紙を読み上げる。

「“ケロマツの『マツ』様へ”」

 ポケモン達の中にいた一体のケロマツが、反応する。
 こちらへやってきたケロマツの首に、贈り物である黄色いスカーフを巻いてやった。
 呆けたように巻かれたスカーフを見つめるケロマツ。
 ふと、ケロマツの目から滴がこぼれ始めた。
 ケロマツを心配して、ポッポが駆け寄る。そのポッポの名前も、俺は呼ぶ。

「“ポッポの『からあげ』様へ”」

 ポッポが目を見開いて、こちらを見る。食わないから、警戒するなって。
 恐る恐る近づいてきたポッポの首にも黄色いスカーフを掛けてやる。
 スカーフを身に着けたポッポは、しおらしくその身をスカーフに委ねる。
 二体の悲しげな様子に、ホルードが怒りを表しながら、俺の元へ歩み出てきた。仲間思いな奴なのだろう。
 次に俺はホルードの名前を言った。

「“ホルードの『これはヒドイ』様へ” ……ってなんだよおやのお前こそ酷いだろうがっ」

 自分がそんな名前つけられたら嫌だろうに、このようなニックネームをポケモンにつけるとは。
 半ば同情しながらホルードにスカーフを渡そうとする。ホルードはスカーフに書かれた文字を見るなり、悲壮感溢れる表情をした。
 ホルードは俺からスカーフをひったくり、投げ飛ばす。
 床に落ちたスカーフをジュウモンジが手に取った。
 ジュウモンジはスカーフの刺繍に気付き、目をやる。
 それから奴は、俺に怒声を浴びせた。

「てめえ……逃がされたポケモンに、昔のおやの事をいつまでも引きずらせるつもりか!」

 ジュウモンジがスカーフを俺に突き出す。スカーフにはポケモンの名前と共に、そのおやの名前も刺繍されていた。
 ポケモン達は、自分達のおやのことを思い出して、今まで堪えていたものを堪え切れなくなってしまったのだろう。
 懸念していた事態になってしまったということだ。
 だが、想定内である。
 俺はジュウモンジからスカーフをもぎ取り、そして先程の奴の発言に指摘をした。

「逃がされたんじゃなくて、引き受けたんだろ。勝手に逃がしてんじゃねーよ」

 言葉を詰まらせるジュウモンジを置いておいて、俺はホルードへ向き直る。
 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃに歪めるホルードの頭を撫で、語りかけた。

「帰る場所がなくても、帰りたい場所や相手がいて何が悪い。どうしてそう簡単に忘れられると思うんだ」

 言い聞かせるように、なだめるように、遠く離れてしまった相棒に思いをはせながら俺はポケモン達に告げる。

「相手が大切な存在だったのならば尚更、忘れられなくても、いいんだ。引きずりたいだけ、引きずればいい。そうしながら、前に進んだっていいじゃないか」

 ポケモン達は互いの顔を見合わせる。目を閉じて、考え込んでいるポケモンもいた。
 しばらく経った後、一体、また一体と鳴き声で名乗り出て、スカーフをねだった。
 ヨアケにも手伝ってもらい、全てのポケモン達にスカーフを届けることに成功する。渋っていたホルードも、最終的には耳にしっかりと装着していた。
 こちらをじっと見つめるポケモン達にヨアケが締めくくりの言葉を贈る。

「名前はね、名付けたおやと名付けられた子の大切な繋がりであり、証だと思うんだ。だから、新たなパートナーに巡り合って、別の名前を名乗ることになっても、自分が持っていた唯一の宝物を忘れないでほしいな。それが、お嬢さんの願いでもあると思うから、ね」

 頷く者もいれば、黙っている者、鳴き声で返事をする者など、各々違う反応を見せた。
 これから先、こいつらには色んな道が待っているだろう。
 それでも俺は、こいつらならば乗り越えられる気がした。
 そう信じたかった。

「それじゃ、俺の仕事はここまでだ。お前らの幸運を願っている――達者でやれよ」

 ポケモン達と<シザークロス>達の視線を感じながら、俺達は入口をくぐる。
 最後に俺は一度だけ、奴の方へ振り向いた。

「後は任せたからな、ジュウモンジ」
「カッ、いちいち言われなくとも分かってんよ。配達屋ビドー」

 頭を掻きながら、ジュウモンジも俺達に背を向け建物の中へと姿を歩き出す。
 俺達も背を向けて、荒野を歩みだした。



 赤毛の少女が、ふと疑問に思ったことをジュウモンジに尋ねる。

「そういや、ジュウモンジ親分の名前って、本名じゃないよね?」
「お頭の本名って何て言うんすか?」

 クサイハナ使いの男も、便乗した。
 他のメンバーも次々と聞き耳を立てる。
 ジュウモンジは彼らの態度に呆れながら、はぐらかした。

「さあな、んなもん忘れちまったよ」


*****************


 星空の下、俺はバイクを押しながらヨアケと荒野を歩いていた。バイクを走らせてもよかったのだが、なんとなく歩きたい気分だったのである。

「今日の所はあの屋敷に泊めてもらえると、助かるんだがな……」
「そうだね。報告も、したいしね……」

 夜も遅くになっていたのと疲れのせいか、会話がなかなか発展しなかった。
 それでも歩き続けていると、突然、ヨアケが足を止める。

「ヨアケ?」

 彼女の表情は暗がりでよく見えなかった。
 だが、とても真剣な表情をしているように、見えた。
 この時、何故だか俺は、予感していた。
 嫌な予感ではない。かといっていい予感でもない。
 不思議な感覚だった。
 さっき屋敷の前でした予想とも違う。
 それと似ているけど、もっと大きな何かが動こうとしている、そんな予感だった。

 彼女は俺の名前を呼んで、尋ねた。

「配達屋ビドー君。私達をある人の所へ届けてもらえませんか?」

 俺はヨアケの申し出をざっくり切り捨てる。

「断る。生ものは取り扱っておりません」
「えー」
「あと、俺のバイクはタクシーじゃない」
「そうだよね……ゴメン」

 がっくしと落ち込むヨアケ。その落ち込みようが半端じゃなかったので、俺は渋々ながらもヨアケに質問した。

「ちなみに、届け先はどこで相手は誰だったんだよ」
「届け先の場所はわからない。相手は私の……私のずっと、追いかけている相手」

 ヨアケが胸に手を当てて、瞳を閉じる。
 まるで、思い人の名を口にするかのように、ヨアケ・アサヒはその相手の名前を口にした。


「――――現在指名手配中の、“ヤミナベ・ユウヅキ”という男性、だよ」




第一話 追跡者ヨアケ・アサヒと配達屋ビドー 終。
第二話に続く。

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