心配事

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それでもいいという方がいたら読んで頂けたら幸いです。
「あっ、切れちゃった……ユウカさん、大丈夫でしょうか」
 霧の大陸のとある二階では宿も経営している食堂、その中にあるカウンター席に座った、両手に竜の首を携えたポケモンがおぼんいっぱいに盛られたきのみを食べながら何かをぼやいていた。
 まあ、なんというか、やはり今朝のユウカの夢に出てきていたのはサザンドラだった。夢への干渉はムンナの能力だった気がするが、そこは流石の命の声、人間の世界でユウカを誘い出したときのように夢へ干渉できるポケモンの能力を使ったのだろう。
「おやおや、いつになく真面目な顔だねえ。何かあったのかい?」
 サザンドラがいつものようにきのみの破片を撒き散らしながら食べるのでもなく、彼女(??)にしては落ち着いてきのみを食べていることが気になったのか、この数年前に改装された宿兼食堂の主である『スワンナ』が羽で器用に持っている新聞から目をそらし、サザンドラに軽くそう聞いた。
 しかしスワンナは普段サザンドラが死ぬほどお世話になっていたとしても一般のポケモン。そしてサザンドラが抱えている事情はおよそ五年ぶりの世界の危機。どう考えても軽率に相談していい内容じゃない。それと個ポケ的にお世話になっているスワンナを巻き込みたくないという思いもあり、サザンドラはことを明らかにせずごまかすことにした。
「いやぁ〜、まあ、色々ありまして……」
「また世の中がおかしな方向に向かってるのかい?」

……え?

「えっ、いや、違いま
「少し前に起きた石化事件のときも、あんたはそんな反応してたしねえ」
「……さ、流石です……」
 職業柄か、あるいはスワンナがもともとそういったポケモンなのか。
 食堂にいるときのサザンドラの様子を観察し、そしてよく知っていたスワンナは一つだけの返事から、サザンドラがどのような事情を抱えているのかまでをも看破した。サザンドラもこれには返す言葉が見つからず、素直に認めることにしたようだ。
「どのようなことが起ころうとしているのかまではまだ分かっていないんですけど、まあー、分からないからですね。人間の世界から助っ人の方をお呼びしたんです。それで少し向こうの様子も見たいなーと思ったのですが……」
「見れなかったのかい?」
 そこそこ察しのいいスワンナが続く言葉を予想したが、サザンドラはこれに対し首を横に振った。
「繋がりはしましたよ、繋がりは。でもあれ絶対お腹空いてましたよ!?それも結構危ないぐらい!!ほんとにどうしましょう!!?」
 と、現状最大の憂い事を打ち明けたサザンドラは背を丸め頭を抱え始めた。
 スワンナはその状況を想像してやや引きつった顔をし、
「それならあんたの目の前にあるきのみでも送ってあげたらいいんじゃないか?」
 頭を抱えながらリンゴを食べているサザンドラに解決策を持ち出した。
「そうしたいのは山々なんですけど……」
 それを聞いてもサザンドラは浮かない顔だ。言葉から察するに、自分の食料は渡したくないという食い意地を張っている訳ではないらしい。
「何か問題でもあるのかい?」
「ユウカさんが具体的にどの辺りにいるのかが分からないんです……あっ、ユウカさんっていうのは私がお呼びした方の名前です」
「それは……どうしようもないねえ……」
 そう、実はこの竜正確な座標を設定する前にユウカをポケモンの世界に飛ばしたのだ。
 不特定多数が問答無用で空からボッシュートされていた八年前に比べると遥かにマシになってはいるのだが、自分が連れてきた人の位置が分からないのはそれはそれで致命的だ。当時のサザンドラは物量でゴリ押していたのでそこまで配慮が行き届いていなかったのだろう。そして今回はそれが露骨に現れたといったところか。なんにせよこれに関してはサザンドラが悪い。
「大体の場所は分かってるんですけどぉ……なんだか今まで行ったことが無いようなところでぇ……」
「ふぅむ……おっ、もしかしてここなんじゃないかい?」
 サザンドラから八方塞がりを感じたスワンナは、おもむろに自分の見ている新聞の一面にピンときて、それをサザンドラに見せた。
「どれです!?」
 実際に八方塞がりになっていたサザンドラは希望の光のような声を聞き、スワンナの掲げる新聞に勢いよく顔を上げた。ちなみにユウカは元気です。
 その一面の見出しにはこう書かれてあった。


[新たな新天地、『星の大陸』見つかる]


「……星の大陸、ですか?」
「「星の大陸!!!!??」」
「おっと?」
「っ!?なんです!!?」
 呟いたあとすぐ後ろから来た大きい声が私の耳を貫いた。
 振り返ってみると、何やら食堂の床にエンターカードやら色々なものを広げているエーフィとブラッキーが大きく目を見開いてこちらを見ていた。彼らの奥の方ではケルディオが色々なものと格闘している。
「ええっと……星の大陸がどうかしたのですか?」
 おそるおそる、といった調子でサザンドラは星の大陸という言葉に過剰な反応を示した二匹に聞く。よく見ると彼らの目の下には薄っすらとくまが浮かび上がっていた。
 サザンドラに対しエーフィが不安定なテンションで答える。
「そう!その……星の大陸に行けるようにエンターカードを作ってるの!!」
 どうやらとんでもないことを企んでいるようだ。しかし、エンターカードを使ってその星の大陸とやらに行けるようになるとしたらサザンドラにとって非常にありがたい。
 というのもサザンドラやエーフィとブラッキー、ケルディオも所属しているチームは同時にパラダイスを運営していることもあり、年中チーム全体で金欠を起こしている。ちなみに使ったお金の内訳は道具一割パラダイス三割食費六割である。
 そして新大陸のパスポートなんぞどうせお高いに決まっている。うちにそんなもの買える余裕は無いのだ。おそらく目の前の三匹も同じ心情だろう。
「そ、それでそのエンターカードはいつ頃に完成しそうですか?」
 できるだけ急ぎたいサザンドラは完成の見通しを二匹に聞く。ユウカは元気です。
「もっ、もう俺たちには分からない。向こうで頑張ってるケルディオに聞いてく、れぇ……」
 どうやらブラッキーたちは既に限界に達していたようだ。それだけサザンドラに伝えると二匹は揃って前のめりに倒れ込み、疲れ切った表情で深い眠りについてしまった。
「だっ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃないだろうねぇ……とりあえずその子達端っこに寄せといて、後で私が上に運んどくから」
「あっ、ありがとうございます」
 やはり頼りになるママさんだ。お言葉に甘えてすやすやと寝息を立てている二匹を先程までサザンドラが座っていたところに寄りかからせ、ブラッキーが遺してくれた言葉を頼りにケルディオに
「今回の発見で大陸は六つああそれと世界の秘境も合わせたら合計で七個タイルエントリーは必要になるねでも七マスだと形が不安定だしやっぱり三かけ三の正方形にしないといけないかなそうなるとまず既存の六枚はいいとして星の大陸と残りの余白のカードをどうするかだな新聞見た感じで大体の座標は分かるからやっぱり面倒なのは余白のカードだねああでも全部のカードを配置するとしたら並べ方は固定化されるねなら余白分は青で埋めちゃおうというかどうせ地脈や龍脈の配置も変わってるだろうし少し方式変えてみようかいやでもそれだとロマンなくなっちゃうし主要の地脈を算出するまではちょっとお預けかなああはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 やばい。
 目にハイライトが無いってレベルじゃない。口角が張り付いたかのようにつり上がっててよく分からん言葉の羅列を口にしていると思ったら壊れたかのように笑い声を上げ始めた。目の下なんかあの二匹の比じゃないぐらい深く黒くなっている。
 一体どれほど徹夜すればこうなるのか。いっそ八年前のムンナの方がもうちょっと活き活きした顔をしていたのではないか?
 狂気の笑い声は食堂にこれでもかというほどけたたましく響き、周囲のポケモンにご迷惑をおかけする域にはもう既に達していたので、あの笑い声を止めるためにサザンドラは意を決してケルディオの気を引くことに決めた。
「あっ、あのぉー、ケルディオさん?」
「ああ何だ誰かと思ったらサザンドラじゃないか一体どうしたんだい」
 どうしたはこっちのセリフだ。もう言の葉の全てが棒読みになっていて句点も読点も何もない。
 話す話題があって良かったと心底思いつつ、サザンドラはケルディオに先程ブラッキーにした質問を聞いた。
 が、
「うーん大体あと三ヶ月はかかるなああっはははははは」
「さんっ……!?ちょ、ちょっと!もう少し早められないんですか!?」
 予想以上に先が長い。とてもではないがあの状態でユウカさんが三ヶ月も耐えられるとはとても思えないのだ。事態は一刻を争う。できる限り早く作って欲しいのだが……
「ロマンをかなぐり捨てれば二週間でできそうだけどそれはもうエンターカードと呼べないから駄目。ぼくもうねる。おやすみ〜」
「ほんとに急がないといけな……おーーーい!起きてくださーーーーーい!!!」
 ロマンだかなんだかを無くせば割とすぐにできるらしいが、ケルディオはもう完璧に寝てしまったようだ。この様子だとケルディオが次にいつ目を覚ますかも分からない上、彼の話では少なくともあと三ヶ月はかかる見込みらしい。
 パスポートも買えない、テレポートは一回行ったことがないと使えない、終わりの見えない海の上を飛んでいくなんて論外だ。

……


「ユウカさん……強く生きてください……」

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