第58話 更なる味方

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 ガバイト自身を止める。ガブリアスがはっきりそう言ったのをヒトカゲ達は聞いていた。そう、司令塔であるガバイトを止めればグラードンは機能しないはずだという考えだ。

「ほう、俺を止めるってか。やってみな。グラードンに近づくことさえ無理だろうけどな」

 当の本人は至って余裕の表情だ。自分の計画が失敗するはずがないと、頭の中で豪語しているに違いない。その自信は、やはりグラードンが自分の手中にあることからくるのだろう。

「じゃあ、すぐにやらせてもらう」

 静かにガブリアスがそう言うと、他のメンバーがすぐさま動き始めた。ゲンガーは浮遊して、ボーマンダがガブリアスを、メタグロスがバシャーモを乗せてグラードンの近くまで移動する。
 ヒトカゲとルカリオは近くに身を潜めているようメタグロスに指示されたため、ひとまず様子を見させてもらうことにした。チーム・グロックスの戦いを目にする初の機会でもあるからか、期待している。

『“ドラゴンクロー”!』

 先手を打ったのはガブリアスとボーマンダだ。飛行速度を保ったまま一気にガバイトめがけ、エネルギーを集中させたツメを振り下ろそうとする。

「“シャドークロー”で対抗しろ」

 ガバイトが命令すると、グラードンが左手で“シャドークロー”をつくり、飛んでくるガブリアス達に向かって振りかざした。火花を散らす程の勢いで互いのツメがぶつかり合った。
 力の押し合いになったが2人の力だけではグラードンに通用するはずがなく、すぐに負かされてしまい、ツメを振る勢いで吹っ飛ばされてしまった。

「じゃあ私も行こうかしら。はっ!」

 ガブリアス達の後方からすぐにゲンガーが現れ、何やら黒いオーラを持つ衝撃波のようなものをガバイトに放った。指示が間に合わず命中してしまったが、ガバイトにとっては強風が吹いたような感覚しかなかった。

「何だ、ただの“かぜおこし”か? ナメた真似しやがって」
「あら、そんなことないわよ? これが私のやり方なんだから」

 ゲンガーの言ったことが何を意味しているかはわからなかったが、ひとまずガバイトは相手にせず、ゲンガーの後ろからさらに迫ってきたバシャーモ達に目を向けた。

「いくぞバシャーモ。“アームハンマー”!」

 バシャーモがその場で飛び上がると同時に、何とメタグロスはバシャーモに向けて“アームハンマー”を当てようとしたのだ。メタグロスの前足が勢いよく横から迫ってくる。

「よしきた!」

 すると、タイミングよくバシャーモがメタグロスの“アームハンマー”に足をつけ、その技の勢いで、まるでビリヤードの球の如く弾き飛んだのだ。

「いくぜ、“スカイアッパー”!」

 普段の数倍の速さで上空へ向かっていくバシャーモ。その先にあるのは、グラードンの顎だ。ガバイトは意表を突かれて指示が追いつかず、“スカイアッパー”は見事命中した。

「…………」

 グラードンは何も言わず、自分を攻撃したバシャーモを睨んでいる。相当怒っているらしく、“ひでり”がさらに強さを増し、近くにある草を枯らしてしまった。

「怒らせただけじゃねぇか。敵わないとわかっている相手に何故突っ込む?」
「これでいいのだ。俺様の判断に間違いはない!」

 バシャーモは自信満々にそう答えた。実は、今の攻撃でグラードンの注意は完全にバシャーモにいっている。その隙をつけばガバイトに攻撃ができると考えたのだ。

「準備は整ったな。行くぞ、お前ら」

 成り行きを見ていたガブリアスが指示を出す。先程と同じく、ガブリアスとボーマンダ、ゲンガー、そしてバシャーモとメタグロスの順に配置についた。

「練習どおりに行きますように。“シャドーボール”!」

 まずはゲンガーから。グラードンへ向け、以前ヒトカゲ達が見たことのある“シャドーボール”――“りゅうせいぐん”を思わせるように大量にくりだしている。

『“りゅうせいぐん”!』

 それとほぼ同時に、ガブリアスとボーマンダが本物の“りゅうせいぐん”を放った。ドラゴンタイプのエネルギー弾が空中で花火のようにいくつもの小さい弾に分かれ、グラードンに降り注ぐ。
 グラードンは“りゅうせいぐん”と“シャドーボール”を一気に浴びることとなった。怒りが込み上げ、自身の意思で“はかいこうせん”を放って応戦している。
 “りゅうせいぐん”の被害はガバイトにも及びそうになっている。注意が完全にそちらへ向いていると判断し、バシャーモとメタグロスがガバイトに突っ込んで行った。

「“コメットパンチ”!」
「“ブレイズキック”!」

 2人による、光を纏った拳と炎を纏った脚での一斉攻撃。不意をつかれたガバイトに抵抗する間もなく、攻撃をくらって吹っ飛ばされてしまった。宙に投げ出されたガバイトはかろうじて、グラードンの尾から出ている刺にしがみつくことができたようだ。

(す、凄ぇ……)

 陰で見ていたヒトカゲとルカリオはただただ驚愕していた。これが探検家の実力と言わんばかりのものを見せつけられ、凄いの一言しか言えなくなっている。
 そしてガブリアス達の予想通り、ガバイトという司令塔が崩れたため、グラードンはそれ以上何もせずに動かないままだ。作戦は成功したと、全員の顔が綻んでいた。

「はっ、はっ……や、やってくれたな貴様ら……」

 息を切らし、何とか体勢を立て直したガバイトに更に追い討ちが加わる。ガバイトが1番近くにいたバシャーモに攻撃しようとした際、急に胸が苦しくなりだしたのだ。

「ぐっ!? な、何だこの痛みは……」

 胸の苦しみにより再び体勢を崩すガバイト。そんな彼のもとにやって来たのは、嬉しそうな表情のゲンガーだった。何か仕掛けたのかと尋ねながらガバイトは睨みあげる。

「それね、さっき私がかけた“のろい”よ。“かぜおこし”なんかじゃないわよ?」

 “のろい”――それはゴーストタイプの者が使うと、自分の体力を半分削る代わりに、相手の体力もじわじわと、瀕死になるまで削っていくという技だ。ゲンガーが最初に放った技はこの“のろい”だったのだ。

「の、“のろい”だと? なら何故今頃になって……」
「それはね、あなたがグラードンの司令塔だったからよ」

 ゲンガー曰く、直接戦闘に出ている者でないと、技の効果が現れないという。つまり、数分前まで実際に戦っていたのはグラードンだけであるため、ガバイトに“のろい”をかけても効果が現れず、バシャーモに攻撃しようとした今はガバイトが戦闘に出たため、“のろい”が始まったということだ。
 このままではガバイトは間違いなく瀕死状態になり、完全に敗北を喫することになる。それだけは絶対に避けたい、その一心で起き上がり、大声でグラードンに命令した。

「グラードン、“かみなり”!」

 刹那、“ひでり”によって晴れていた空が黒色に染まり、雷鳴が鳴り響く。そして“かみなり”はグロックスのメンバー全員に落ちたのだ。

『ぐああぁっ!』

 “かみなり”によって全員が怯んでいるうちにガバイトは再びグラードンの頭部近くの刺まで登りつめた。するとどうだろうか、胸の痛みがきれいになくなった。司令塔の座に戻ったことで、“のろい”の効果が切れたのだ。

「俺が敗北など……あり得ん! 今すぐ貴様らを逝かせてやる!」

 ガバイトは本気で怒っている。そのため、今まで指示していなかった禁断の技――“一撃必殺”が可能な技の名前を、大声で口にした。


「……“じわれ”!」


 グラードンの足が強く地面に叩きつけられると、技名のとおり地割れが起こった。その裂け目は“かみなり”によって倒れたチーム全員を一直線で結んだ。
 このレッドクリフが真っ二つになってもおかしくない程の亀裂が地面に出来た時には、チーム全員がぐったりとした表情になっていた。
 じめんタイプの攻撃が普通なら効かないボーマンダでさえも、“かみなり”のダメージでその場から動けなかったことで、瀕死に追い込まれた。
 一方、“かみなり”が効かないガブリアスでも、脅威の速さで襲ってくる“じわれ”から逃れることはできなかった。息絶え絶えの状態である。

「さあ、ヒトカゲ! ルカリオ! 出て来い! 貴様らも始末してやる!」

 一層狂気に満ちたガバイトの叫び声を聞き、2人は大人しく姿を現すしかなかった。その横では、勇敢に戦ってくれたメンバーが苦しそうに唸り声をあげている。

「す、すまん。まさか、こうなるとは……」

 悔しさいっぱいの想いが詰まった声でガブリアスが呟く。他のメンバーも同様に、小さく謝罪し始める。しかしそれに応じる程の余裕が2人にはなかった。
 勝ち目はあるのだろうか。それしか考えられなかったのだ。2人の表情が強張っているのにガバイトが気づき、精神的に追いつめていく。

「あの有名な探険家ですらこうなる。ましてやお前らならなおさらだ。神頼みも無駄だ」

 ガバイトの言葉を耳にした、その時だった。ヒトカゲはあることを思い出したのだ。危険を承知して近くにある自分のカバンからあるものを取り出し、ガバイトに見せつけた。

「まだ、僕達にはこれがあるんだからね!」

 ヒトカゲがガバイトに見せつけたのは、アイランドを旅立つ前にもらった『海神笛』だ。そしてそれを吹くとやって来るのは、その笛を授けた本人――海の神ことルギアである。

「何だそれは? 笛なんかが何の役に立つってんだ?」

 この笛のことをガバイトは知らない。ルカリオに「待ってて」と小さく告げると、ヒトカゲは静かに笛を吹き始めた。
 何て不思議な音色なんだろうと、吹いている本人が思ってしまうほど、柔らかく、澄んだ音色をしていた。これにはガバイトも手出しをせず、終わるのをじっと待っていた。
 笛を吹き始めてから程なくして、後方から何者かの気配を感じ取ったヒトカゲは笛を吹くのを止めた。後ろを振り返ると、確かにあの神様がこちらに向かってきていた。
 銀色の翼を持ち、竜のような姿をした、海の神・ルギアだ。

「汝の命に従い、我すなわち海の神、此処に参りけり」

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