第8話 涙と笑顔と

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 シルバの出現させたパンとスープのおかげで全員がお腹一杯になるまで食べることができ、満腹感と元々の疲労感で子供達はアカラやツチカも含めてぐっすりと眠ってしまった。
 残されたのはミールとチャミとシルバとなり、ミールは既に子供達をあやしながら少しずつうつらうつらとしているようだ。
 一つだけ例外があるとすれば、ヤブキと名乗ったクルミルだけは眠そうにしたままシルバに張り付き、なんとかシルバ特有の幻影の力について教えてもらおうとしていることぐらいだろうか。
 無論教えられるものではないためシルバも無理としか答えないのだが、流石に眠気が勝ったのかシルバにしっかりとくっ付いたままいつの間にか寝息を立てていた。



 第八話 涙と笑顔と



「ようやく眠ってくれたか。まさかここまで好かれるとはな」
「シルバは優しいからね。みんなの事、しっかりと一人一人に付き合ってくれたんでしょ? 子供達が楽しそうに教えてくれたわ」
「優しい……か。そういったことはアカラやお前に任せてたつもりだったんだがな」

 眠ったヤブキをベッドに寝かせ、戻ってきたシルバは口調こそ淡々としているが随分と疲れた調子でそう呟く。
 チャミはシルバにそう告げたが、シルバの意外な返答に少しだけ目を見開いた。
 シルバとチャミは船では何度か喋った事はあったが、しっかりと二人だけで話したことは少なかったためか殆ど二人きりになったその空間で、チャミは何を話すべきか少し悩む。
 本来ならばチャミとしてはすぐにでも次の目的地をシルバに教え、すぐにシルバに石板を取りに行かせたいところだが、昼にベインと出会った事によりチャミの心は大きく揺れていた。
 いざ切り出そうとなるとチャミの中にある良心が『本当にそれでいいのか?』と訴えかけてくる。
 今に始まった事ではないが、既にチャミのせいで苦しんだポケモン達の数は計り知れないだろう。
 チャミ自身両親をこの戦争で失い、身寄りの無かったチャミは路頭に迷うしかなかったのだが、そこで彼女を救ってくれたのはミールだった。
 同じような境遇になりながらも逞しく生きている兄妹同然のポケモン達が居ることも知り、これ以上みんなが苦しまないよう、少しでも笑ってくれるように考えてジャーナリストとなり、みんなに色んな事を教えてあげるようにしていたはずだったが、今のチャミがしていることは同じような境遇のポケモンを沢山生み出しているだけなのだ、と心の中で後悔だけが募ってゆく。
 そして遂にこの島も他人事ではなくなってしまった。
 本当にベインが約束を守り、このゆりかご園だけは攻撃しなかったとしても、他の村や町にいるポケモン達は間違いなく襲われる。
 そう考えれば自分の記憶の奥底にある恐怖が蘇り、思わず身を竦めそうになってしまう。
 一日でも早くこの島での仕事を終わらせて離れてしまいたいが、その間にもしもこのゆりかご園が襲われたらと考えると恐怖で身動きが取れなくなる。
 シルバに投げかけるべき言葉は次の目的地であると分かっているのに、お門違いにも助けてほしいと声を出しそうになり、自分の愚かさが今更悔しくなった。

「ねえ……シルバ……」
「どうした」
「船で言いかけてた事なんだけど……。もし、もしも私があなた達を裏切って、このゆりかご園を護るために働いたら……あなたは私をどうすると思う?」

 本当は聞くべきではない最悪の質問だろう。
 自分は裏切り者であるということをわざわざ告げるような質問であることは勿論チャミ自身も分かっていた。
 だが、せめて聞いておきたかった。
 シルバはチャミの言葉にはすぐには答えず、少し遠くの方を眺めてからチャミを見つめなおす。

「どうもしない。前も言った通りだ。例え俺一人になろうと俺は旅を続けなければならない。お前には護りたいものがあり、俺には成さねばならない事がある。ただそれだけだ」
「その裏切りが今まであなた達を監視し、石板を出現させることだったとしたら?」
「変わらん。付いてきたいのなら勝手に付いてくればいい」
「……!? なんで……? 私のせいであなたはアギトを殺す羽目になったのよ!? アカラの両親やツチカの父親……。それだけじゃない、このゆりかご園にいる子達まで……私のせいでここに来る羽目になったかもしれないのに……!」

 シルバの言葉を聞いてチャミは叫ぶように告げた。
 その顔にはいつものような余裕はなく、今にも泣きだしそうな表情となっている。
 それを見てシルバの胸は痛みを覚え、どうするべきか考えていると自然とそんな半狂乱になりそうなチャミの首に手を掛けてそっと抱き寄せた。

「苦しいなら吐き出せ。お前はまだ逃げられる立場だろう。アギトと同じだ。戦いたくないのなら逃げ出せ」

 何時振りかに誰かに頭を撫でられながらチャミは宥められ、自分の過ちや後悔の全てを吐き出したのに、シルバはそれを受け入れてくれた。
 思わず涙が溢れ、シルバに体も巻き付けて泣きじゃくった。
 それこそ幼い子供に戻ったかのように声も殺さずに泣き喚いた。

「どうしたの!? チャミ」
「何でもない。ただ彼女の中で嫌な事が爆発しただけだ。だが、このままじゃ子供達が起きるだろう。少し二人で散歩でもしてくる」

 うとうととしていたミールが起きて心配そうにチャミとシルバを見つめたが、シルバがそう言ってチャミに絡みつかれたまま一度ゆりかご園を出てゆく。
 外は月明かりが鬱蒼と茂る大木の葉の隙間から差し込み、木々に据え付けられた証明のおかげもありそれほど暗くはない。
 しかし夜に外を出歩く者もおらず、静かな村の中を林間道の板を鳴らす音とチャミの泣き声が響き渡ってゆく。
 暫くもしない内にある程度気は紛れたのか、涙は止まらないものの声を上げることはなくなった。

「私だって逃げ出したい……。でも逃げ出せばこの島の人達が……ゆりかご園やママが……!!」
「どうすればそうならない?」
「……えっ?」
「どうお前が俺を利用すればそうならないで済むのかを教えろ。その通りにする」

 泣きながら話すチャミの身体を少しだけ引き剥がすようにしてシルバとチャミの目が合うようにし、シルバはしっかりとチャミにそう言ってみせた。
 チャミには正直、シルバが何を言っているのか途中まで理解できていなかったが、シルバの目を見て本気で自分を利用してでも守りたいものを守れ。と言っているのが理解できた。
 だからこそチャミの涙は更に溢れて止まらなくなる。
 シルバの言葉は確かに温かみが無いのかもしれない。
 しかしその言葉に込められた思いはとても優しく温かであることをシルバ自身は知る由もない。
 だが寧ろその優しさがチャミを苦しめる。
 もしもチャミがシルバを利用し、それが原因で次はアカラやツチカが人質に取られたのならもうチャミ如きでは成す術がない。
 戦う力も持たず、自分よりも賢い相手を欺く事など到底不可能だ。
 そうなればシルバはまた化物のような戦いをしなければならなくなる。
 ベインが相手かはたまたチャミ自身か、アカラやツチカをシルバが葬らなければならなくなった時にきっとシルバは正気のままではいられないだろう。

「もう……この島が攻撃されることは決定事項なの……。全ては私のせいで」
「お前のせいじゃない。いずれそうなっていた。ただそうする理由を探していただけだ」
「でも! そうじゃなきゃ……私がこんなに中途半端にならなければ! せめて大切な人たちだけでも守れたのに!」

 チャミはもう一度シルバにしっかりと抱きついて涙を流しながら小さな声で語ってゆく。
 自分のせいで長い平和が続いていた虫の島にもまた悲劇が訪れると考え、既に約束を破られた以上このまま従っても余計にアカラやツチカ、シルバ自身を危険に晒すだけだとしか思えず涙が溢れる。
 非道にもなりきれず、かと言って自分の大切な人達を巻き込んだとしても愚行を止める勇気も無く、ジレンマに揉まれてただ心を擦り減らすことしかできない。

「そのためにお前は誰かを殺せるのか? もしも次に出会った他人をお前自身が殺せば全てチャラにされるとして、お前はそれを選択できるのか?」
「……無理に決まってるでしょ」

 シルバの言葉にチャミはすぐに答えた。
 普通の感性を持つ者なら誰だってそうだろう。
 いくら赤の他人と謂えど、その人にも家族がいると自然と考えるものだ。

「そうだろうな。もしそれができるのなら、それこそお前達が言う"化物"だ。一度俺はそうなった。アカラやツチカ、お前を護るために戦う必要の無かったアギト達を皆殺しにした。それがアギト達にとっても救いになると判断し、他にあったであろう選択肢を選ぶことを放棄した。お前はそうなるな。心が痛むのならお前は間違った事をしていると理解できている何よりの証拠だ」

 そう言ってチャミの頭を撫でながら遠くを見つめるシルバの胸は……心は痛みを主張していた。
 だがシルバはただ静かに泣くチャミを落ち着かせることだけに集中し、余計な事は考えないようにする。
 そうして一頻り泣き終わり、ようやくチャミの心も落ち着いた頃に今一度チャミから今後の目的を聞いてゆく。
 この島には古来より伝わる"時の揺蕩う祠"という場所があるらしく、そこでは時間という概念が薄いのだと伝えられている。
 そしてそんな祠には過去から未来まで全ての時に存在する伝説のポケモンが住んでおり、全ての時を見守っているとのことだった。
 そのため"時の揺蕩う祠"の周囲は一般人の立ち入りは今でも禁止されており、祠のある場所は厳重な警備の元管理されている。
 本来の目的ではシルバの旅の理由をウルガモスシティに住む島長であるウルガモスのソルに直接話し、許可をもらってから向かう予定だったが、島の混乱に便乗して目的を果たせと言ったベインの言葉を察するに強行突破してでも今すぐに石板を持って来いという事であると判断したため、心苦しいが竜の軍の進軍が開始した際に混乱に乗じて祠へと急行することとなった。
 肝心の"時の揺蕩う祠"のある場所は今シルバ達のいるマユルドビレッジからそう遠くないキレイハナタウンであるとのことだったため、翌日準備が完了し次第全力疾走で向かい、石板を入手した後に竜の軍の誰かしらの隊長と接触して石板を渡すことが賢明だろう。とシルバのアドバイスも反映したプランを採用した。
 そして今回の任務は謂わば島民への裏切り行為でもあるため、アカラはツチカには作戦の詳細は伝えずに今回はただチャミの先導の元、避難するだけにすることとなった。
 石板を手に入れるために動き回るのはシルバのみとなれば、もしも祠への強行突破がバレたとしてもシルバ以外が罪を被ることはないため、それが最もこの島の住人へも自分達の旅へも被害を与えないだろうと判断した結果だ。

「でも本当にそれでいいの? もしも今の私が演技で、本当は竜の軍の諜報員として元々動いていた……とか考えないの?」
「お前の行動と言葉には嘘が無い。信じる理由はそれだけで十分だ」

 泣き腫らし少しだけ赤くなった目から流れていた涙を拭いながらチャミはシルバに聞いた。
 だがシルバは微塵も揺らがない信頼をチャミに伝えたからか、ようやくチャミの顔には以前のような笑顔が戻っていた。
 森を吹き抜ける夜風に久し振りに子供のように泣いて温まった頬を冷ましながら、チャミとシルバはゆりかご園へと戻っていった。
 帰り着くとミールは心配そうな顔でチャミをみつめたが、チャミの顔が晴れていたからだろう。
 特に深くは聞かず、まだ起きていた三人もようやく眠りに就く。
 翌日、朝のゆりかご園はいつもと変わらず朝食の準備やベッドの片付けなどを子供達が率先して行い、食卓に全員が付く頃には寝ぼけ眼を擦っているような子もいなくなる。
 全員で手を合わせて新鮮な野菜のサラダとパン、そしてコーンスープをみんなで食べてまたみんなでテキパキと食器を片付けてゆく。
 シルバとチャミは朝食を食べている間も周囲の音などをかなり警戒して聞いていたが、どうやらまだ竜の軍が攻め込んできたような喧騒は聞こえてはこない。
 本当ならばまだ周囲の状況を警戒しておきたいところだが、あまり気を張りっぱなしでは身が持たないし周囲に怪しまれてしまうためチャミの方はいつも通りに振る舞うことにした。
 シルバは常時あまり喋らないため周囲を警戒してもあまり気取られないため周囲の警戒を続けていたのだが、今日はそういうわけにもいかず朝から元気一杯の子供達にあちらこちらと連れ回される。
 以外にもゆりかご園に着いてから一番の人気を誇っていたのは周囲の子供を不安にさせないか心配していたシルバ自身で、そうなるとも思っていなかったのか周囲を警戒する余裕も無くなりただ振り回される子供達に注意を払うことで一杯一杯となる。
 ベインの言っていた言葉が嘘ならこのまま何も起きないのだが、流石にそんなことはあり得ないだろう。
 しかしもうすぐ昼になりそうという時間になっても何も起きなかったため流石にこれ以上時間を浪費するわけにはいかず、チャミが買い物へと出掛けるついでに周囲の村の情報を手に入れることとなった。

「ママ! みんな! 今すぐ避難場所まで移動するわよ!」

 帰ってきたチャミは血相を変えて部屋へと飛び込んできた。
 どうやらチャミの予感は当たっていたようで、既に他の村では侵攻が始まっているとの情報を得た。
 チャミ達の元まで情報が届くのが遅かった理由はベインが宣言した通り、チャミ達のいる村とは反対の方向から竜の軍が侵攻したためであり、更に付け加えるならば長い間侵攻されていなかったせいで情報の連携が疎かになっているのが原因だった。
 ミールの先導の元、ゆりかご園の子供達とアカラ、ツチカを連れて近くにある避難用のシェルターとなっている場所までの退避を開始する。
 そしてそれを合図にしてシルバとチャミは目を見合わせてから頷き、歩いてゆく子供達の一番後ろを付いて行く振りをしてシルバだけその場から離れた。
 既に目的地であるキレイハナタウンまでの道筋はチャミから地図のメモ付きで把握しているため、単独行動をしても問題はない。
 林間道を飛び降り、疾風の如く木々と村の間を走り抜けてゆく。

「うおー!! ヤベ―!! はえー!!」
「誰だ」

 シルバが走り出すと何故かまたシルバのすぐ後ろ、具体的に言うならば後頭部の辺りから声が聞こえてきた。
 まさかと思い髪束を上から撫でてゆくと慣れないむにゅんとした感触がシルバの手に触れる。

「うむぅ」
「お前またいつの間にくっ付いてきたんだ」

 変な声が聞こえたそのもちもちした物体を鷲掴みにし、顔の前に持ってくるとまたしてもいつの間にシルバにくっ付いていたのか、その速度を楽しんでいた様子の鼻息を荒くするヤブキの姿がそこにあった。
 今すぐにでもヤブキを皆の元へと返したいが、チャミ達が目指しているシェルターの場所をシルバは知らず、更に今引き返せば最悪アカラ達に作戦がバレて身動きを取れなくなる可能性が高い。
 そのためシルバは少し考えたが、ヤブキ一人ならば何かがあっても守れると考え、自分の髪束の中にズッと押し込んだ。

「ヤブキ。暫くそこから動くなよ」
「分かった! そんかわりオレにそのなんでも出す方法教えてくれよ!」
「だから教えることができない技術だと言っただろ。諦めろ」
「えー。オレだって糸をぴゅーんって木に飛ばせば、木と木の間をしゅしゅーん! って飛んでいけるんだぜ? シルバはそういうことしないの?」
「木と木の間を……。ヤブキ、それはどうやるんだ?」
「どう……って、こんな風に糸を吐いて……」

 髪束から顔だけを出したヤブキはシルバ達のすぐ右隣にあった気の枝に糸を吐きつけ、振り子の原理を使ってグインと飛び、次の枝にまた器用に糸を吐いてくっ付く。
 その木をそうやってぐるぐると回りながら登っていき、シルバよりも高い位置でヤブキは誇らしげに胸を張る。

「……そうか、何か物を作り出して動かすだけがこの力の本質ではなさそうだな。ヤブキ、感謝するぞ」
「へへーん!」

 シルバがそう呟くと誇らしげにしているヤブキをさっと拾い上げてまた髪束の中へと戻し、先程ヤブキが見せたようにシルバは自分の腕から糸を遠くの木まで射出し、以前行ったツルを引き戻す時の感覚で一気に糸を縮める。
 するとシルバの身体は糸が射出された時のようにグインッと一瞬で持ち上げられ、恐ろしい加速力で木々の間へと放り出された。
 後は先程ヤブキが見せてくれたように、シルバの体重を支えられそうな太い枝を探して糸を射出し、振り子の原理とゴムのような収縮による射出を上手く使い分けて走っていた時よりも更に早い速度で、崖も道も何もかも無視した移動を始める。

「スッゲー!! はえー!! シルバもオレと同じ事がすぐにできるようになった! だったらこれは? これは出来る?」
「悪いが慣れない事をしている最中だ。話し掛けるのは後にしてくれ」

 速度に感動しているヤブキはシルバに自分が出来る他の技術を見せようとしていたが、流石にシルバも今までやった事のない移動方法を行いながら余所見をする余裕はないため、顔の傍までよじ登ってきていたヤブキを髪束の中へと押し戻しながら答える。
 ヤブキのヒントとシルバの機転もあってチャミが予想していた時間よりもかなり早く目的地であるキレイハナタウンへと辿り着いた。
 目的地だったキレイハナタウンは見る限りまだ襲撃された様子はなく、本当ならば襲撃されるまで待った方が良いのだろうが、このまま襲撃されるまで待っていれば既に攻撃を受けている村や町のポケモン達がどんどん傷付くだけであるため、周囲の様子を伺いながら目的地である祠の方へと向かってゆく。
 町中は流石に目立つわけにはいかないため普通に歩いたが、周囲は既に虫の島が攻撃を受けた事による不安が伝播しており、周囲のポケモンへ注意を払える者の方が少ないといった様子だ。
 そのためかようやく目的地である祠への入り口を見つけたのだが、明らかに警備が厳重になっており鎧を着こんだ兵士達が忙しなく動き回っており、とてもではないが流石のシルバでも気付かれずに侵入することは難しいだろう。

「ねーねー。糸出せるんでしょ? 葉っぱで服作れる? オレは頑張って小物ぐらいなら作れるようになったんだけど」
「ちょっと静かにしててくれ」

 どうすれば最も穏便に済ませられるかシルバが物陰から窺っていると、また髪束から出てきたヤブキがシルバの顔の横に張り付いて話し掛けてくる。
 そんな緊張感の無いヤブキをむにゅんと掴み、髪束の中へと押し込むが、暫くもしない内にまた顔の横へと移動してくる。

「そういえばシルバってゾロアークなんでしょ? だったら変装とかもできるんじゃないの?」

 不満そうな声を上げながらヤブキがシルバの知らない単語を呟いた。

「変装……というのはどういうことだ」
「えー。自分の事でしょ? 前にゾロアークに見せてもらったんだけど、他のポケモンに化けたり、自分の姿を見えなくしたり、逆に自分そっくりな幻影を作り出してそっちを囮にしたりとか……」
「それだ……。ヤブキ、教えれるかは分からんが糸を使った技術ぐらいなら今度教えてやろう」
「マジで! やったー! 約束だからね!」
「ああ、約束しよう。お陰でどうすればあの警戒を潜れるか閃いた」

 ヤブキが教えてくれたゾロアークの幻影の本来の使い方を聞いている内に、シルバは妙案を思い付く。
 それこそヤブキが教えてくれなければ思い付きもしなかった発想であったため、シルバは素直にヤブキを褒め、軽く頭をポンポンと撫でてから一度祠に近い建物の傍へと移動する。
 今一度ヤブキに暫くは静かにしていることと、勝手に髪束から出てこない事を言い聞かせ、必要な物の作成とタイミングを計る。

「おーい!! 誰かこっちにいたぞ!」

 そうこうしている内に兵士の内の一人が何かを見つけたのか、他の兵士達を呼んでシルバ達のいる物陰へと走ってきた。
 そのままではシルバ達が不審者として扱われるかと思われたが、駆け付けた兵士達が見たのは縄で縛られた兵士の姿だった。

「だ、大丈夫か!? 誰にやられた!?」
「助かった。いきなり後ろから縛られたから姿は見えていないが俺の後ろの方へと逃げていったはずだ」
「あっちだな! 半分は俺についてこい! 残りは警備を固めろ!」
「大丈夫か? 立てるか?」
「ああ。大丈夫だ」

 縄で縛られていた兵士は解放されると、自分を縛り付けた兵士が逃げたと思われる後方を指差す。
 兵士自身はその逃げた相手を追従せずに警備隊の方へと戻っていき、しっかりと兜を被り直して気を引き締めて祠への入り口を警備し始める。
 が、勿論逃げた敵などいるはずもなく、半分の兵士は偽の情報に踊らされているだけだ。
 鎧を着こみ、警備隊の中へと戻ったのは変装したシルバであり、次々と隊長の指示に従って配置に付く兵士達の動きに紛れてこそっと祠への道を進んでゆく。

「……この先は流石に警備兵はいないようだな。チャミの話だとこの辺りは時間の流れがおかしいと言っていたから当たり前か」

 道の端にある岩や木の陰に身を潜めながら進んでいたが、どうやら警備を行っているのは入り口の周辺のみだったらしく、兵士が見当たらないため途中からは普通に道を歩いてゆく。
 祠への道は不思議な薄暗さが続いており、全体がまるで洞窟の中にいるように薄暗い。
 しかしその暗さは特に不気味な雰囲気ではなく、寧ろ懐かしさや何処となく安心感を覚えるような不思議な暗がりとなっている。
 そうして進んでゆくと道の中央を遮るように黄色と黒で彩られた警戒を意味する縄が張られており、それがシルバの視界の先にある人工物らしき物体の周囲をぐるりと囲んでいる。
 そしてその恐らく祠だと思われる物体は奇麗に切断された岩で組まれているのは分かるが、既に崩壊して石造りの社だったと思われる塊になっている。
 だが崩れた祠は何故かその薄暗い空間でもまるで木漏れ日の日差しを受けているかのように明るく、うっすらと緑色の光を受けているように見える。

「ねえねえ。ここってどうなってるの? なんか変な感じだけど」
「さあな。しかしこの感覚は一度経験した気がする」

 ヤブキが髪束から頭を出して周囲を見回し、シルバに質問したが、勿論シルバもこの場所は初めてのため知らない。
 だがその空間はシルバにとって何故だか心地良く、このまま居続けてもいいと思えてくる。
 とはいえここは静かそのものだが外では今も竜の軍勢の侵攻が行われているため、いつまでものんびりとしているわけにはいかない。
 そう考え祠へと進んでゆくと、シルバの中にある懐かしさや安心感が次第に強くなってゆき、眠気も無いはずなのに何故か目を空けているのが非常に困難になる。
 日溜まりの中で横になっている時のようなとてもリラックスできる感覚に陥り、次第に考えが纏まらなくなってゆく。

『お帰りシルバ。僕のところでは少しだけ休んでいくといいよ』
『誰……だ……? 駄目だ……瞼が開けられない……』

 崩れた社に寄りかかるようにしてシルバは動けなくなり、聞き覚えのあるような無いような声が心に直接優しく語り掛けてくる。
 しかしそれが誰かを思い出そうとしても頭が回らず、閉じた瞼は鉛のように重く動かすことができない。
 眠っている場合ではないと頭では理解しているが、何故眠っている場合ではないのかが思い出せなくなり、次第に何を思い出そうとしていたのかすら分からなくなっていった。



――微睡みから目覚めると今までとは違う小さな影がシルバを見下ろしていた。
 妖精のような小さな羽を動かし、ふわふわと浮かぶその影は彼を見下ろして不思議そうに首を傾げる。

「毎日毎日同じ事の繰り返しを続けてて飽きないの? 君なら他に幾らでも出来る事なんてあるでしょ?」
「飽きなどしませんよ。毎日が幸福で満ち足りていますので。それに私達からすればこの毎日は同じ事の繰り返しなどではありません。ただの一度たりとも同じ日は無いのです。それに私自身、こうする事が好きなのです」

 言葉を返すとその影は少し驚いた表情を見せて、小さく微笑んだ。
 決して言葉には出さなかったが、どうやらその返事を聞いて納得したらしい。

「そうなんだ……。もしその言葉が本当なら君の望む幸せと、僕達の望む幸せは同じものになるかもしれないね。もしかすると君にあるお願いをすることになるかもしれないけれど、その時はまた君に会いに来るよ」



 ふわりふわりと浮かんでいたその影は輪郭を緑色の淡い光を残しながらシルバの視界から流れてゆく。
 意識がはっきりとするとそこはまだ縄の前であり、獣の島の時のようにいつの間にか石板を手にしていた。
 しかし一つだけ違うことがあるとすれば淡い緑色の光だけは確かにそこに軌跡を残しており、その軌跡だけはまるで時が止まっているかのように揺らぎもしなければ薄くなることもなくその祠の周りを漂っている。
 それはあの記憶の中で見た影とよく似た形をしており、シルバが気が付くとその影は他の伝説のポケモン達同様に光の姿となって祠の上に腰掛けた。

「何回目だっけ? こうやって会って直接話すのって」
「分からないな。未だ記憶は曖昧だし、何を思い出せているのか俺にも分からん」

 その光の言葉にシルバは言葉を返したが、何故かその光は嬉しそうに声に出して笑った。

「うん。今回で随分と君らしくなったかな? もうそろそろ心配事の方が少ないだろうし、後はゆっくり楽しく"鍵"を集めていけばいいよ。また今度、色々聞かせてね」

 その光がそう語ったかと思うと、今まで漂っていた光も含めていつの間にか視界から消えていた。
 今度はシルバが言葉を返す時間も与えず一方的に話すだけ話して消えたが、シルバとしてもあまり長々としていないのは今の状況では有り難い。
 手にした石板を髪束の中へと入れてシルバの顔に張り付いたまま感嘆の息を漏らし続けるヤブキも髪束の中へと戻し、その場を急いで後にする。
 入り口付近までは道なりに歩いてゆき、警備兵達の様子を伺いながらまた何事も無かったかのように端の方からこそっと出ていき、小走りに走る兵士達の列の少し後ろについて走りながら警備兵達の一団を離れた。

「よし、これでもう鎧は要らないな。さっさとチャミ達に合流するべきだな」

 深く被っていた兜や鎧を脱ぎ捨てて建物の裏でそれらに触れて消し、来た道を少しだけ駆け足に戻ってゆく。
 シルバの使う実体化する幻影は非常に便利なように思えたが、この変装をするためにヤブキからのヒントを元に試したことで出来ることと出来ない事がはっきりと分かった。
 本来ならばゾロアークの使う幻影は周囲の風景も巻き込んだかなり広範囲を対象とした風景を好きなように見せる能力だが、シルバはそういった風景の見え方だけを変えたりといった普通の幻影を投影する事が出来ない。
 出来るのであれば今回の潜入も周りに自分の姿だけが見えないようにするだけで十分だったのだが、わざわざ変装した理由はそういう事だ。
 また生きている他のポケモンに干渉したり、自分自身の姿を変えることもできないため、変身や他のポケモン達を一時的に別の物に変えたりといった回避方法も不可能である。
 逆にできる事はシルバがイメージする物体の生成。
 これによって生成した物体はシルバの意思に従って自由に動かすことができ、糸やツルのように伸縮させて利用することもできれば、鎧を生成してあたかも警備隊であるかのような格好になったうえで、縄と目隠しを生成してそれらを操作して自分自身を縛る。
 こうすることでまるで襲われたかのようにしか見えず、不要になれば消去することもできるため変装や移動用に利用する分では非常に便利な代物だ。
 そして町から十分に離れきるとキレイハナタウンへ来た時と同様の方法でマユルドビレッジへと急いで戻ってゆく。
 それほど時間は経っていない認識だったが、シルバが帰りの道を行く頃には遠くから悲鳴が聞こえており、既にこちら側のかなり深くまで竜の軍が攻め込めるほど時間が経ったことを意味しているため、既に慣れた手つきで森と村の間を滑るように突き抜けてゆく。
 シルバとてできる事ならばその悲鳴の主を助けたいが、全員を助けるために取るべき最善の手段は一人一人を助けることではなく今すぐに石板をチャミに渡し、チャミから竜の軍の者へ渡すことだと判断した。
 そうして村まで戻ると当初シルバとチャミが予定していた通り、避難が完了したチャミは単身でゆりかご園へと戻ってシルバとの合流を待機していたため、問題なく合流することができた。

「シルバ! どうだった!?」
「大丈夫だ。無事に全く事を荒げずに石板を手に入れてきたぞ」
「えっ……シルバが……」
「どうした?」

 手に入れた石板をチャミに渡したシルバの顔を見て、チャミは思わず動きを止めた。
 シルバはそんなチャミの様子を見て不思議そうな表情を浮かべる。
 そんなことをしている暇はないのだと分かっても、チャミにとってそれは何も考えられなくなるほどの衝撃だった。
 そう、シルバが不思議そうな表情を浮かべているからだ。
 その前にチャミに石板を渡した時にはシルバの口角は上がり、間違いなく微笑んでいた。
 だからこそチャミは今にも泣きそうになってしまう。

「シルバが……笑ってる……」
「そうなのか? 案外自分の事は自分じゃ分からないもんだが、今はそれどころじゃないだろ。行くぞ! この島を救いに」

 シルバはそう力強く言い、チャミに手を差し伸べる。
 無表情で淡々とした喋り方だったシルバとは似ても似つかわしくない表情と声で話すシルバは、チャミにとってしてみれば違和感が凄かっただろう。
 だがその差し伸べた手と言葉は間違いなく昨日の晩のシルバのそれと同じで、チャミの過ちも後悔も分かった上で全てを救おうとしていることだけはしっかりと分かった。
 チャミはツルを伸ばしてその手に乗せ、今にも泣きそうな表情のまま笑顔を作って大きく頷く。
 それを見てシルバはすぐにチャミに髪束の中へと入るように指示し、入りきったのを確認するとシルバはすぐに悲鳴が聞こえてくる方へと走り出し、木と木の間を糸を使って一気に突き進んでいった。


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 場所は変わり、虫の島の防衛軍と竜の島の侵攻軍が激しくぶつかり合う戦場のど真ん中。
 ベインが告げた通り今回の戦いには"竜の翼"に所属する戦力が全て投入された熾烈を極める戦闘となっていた。
 その中には勿論深い樹木の林を縫うように飛んでゆくドラゴとレイドの姿もあり、彼とその部下達が次に攻撃するよう指示を受けた村を目指して進んでゆく。
 その道中でもドラゴ達の前に多くのポケモン達が立ちはだかったが、この島の住人の大半は虫タイプか草タイプであるため、ほとんどのポケモンはドラゴの放つ火炎放射を受けて一撃で沈んでいった。

「ドラゴ隊長! 目的の村が見えてきました! 攻撃を開始しますよ!?」
「……悪く思うなよ。全隊俺に続け!」
「レイド隊長! 我々の攻撃目標も見えました!」
「やるしかないよな……。行くぞお前ら! 村を徹底的に破壊しろ!」

 ほぼ隣り合った位置にあったチェリムビレッジとイトマルビレッジをドラゴ達は発見し、二人の部隊は奇麗に分かれてそれぞれの村へと降り立つ。
 警備の数こそ多いものの、ポケモン達はチャミが言っていた通り長い平穏に慣れていたせいか、誰もが目の前におり立ってゆく竜達の姿に彼等は既に震える。
 とてもではないが力で勝るドラゴ達に心でまで負けているような彼等では太刀打ちもできない。
 次々にドラゴ達へ葉っぱカッターやリーフストームで応戦しようとするが、拙い彼等の動きではドラゴの動きを捉えることは出来ずに素早く避けられて、カウンターの火炎放射による薙ぎ払いを受けてその身を焼かれる悲鳴を上げてゆく。
 その光景を目にする度にドラゴは顔を顰め、視線を逸らすが攻撃自体は止めずすぐに繭や木でできた燃えやすい家を次々と焼き払う。

「許せとは言わん。だが恨んでくれるな」

 燃え盛る村の中央でドラゴは何処か遠くを見つめながら呟く。
 バチバチと音を上げながら燃えてゆく家々が焼け落ちてゆくのを眺め、自らの与えられた任務が完遂されてゆくのをその目で見届ける。

「シルバ! あっちも燃えてる! 水! 水をビューッ! って出して!」
「了解。島が賑やかなのは良い事かと思ったが、ここまで村が多いのも逆に考え物だな!」

 そんなドラゴ達の上を飛ぶような速度で現れたシルバが、両手をブンッと大きく広げるとその腕から波紋が広がるように水が湧いて燃え盛る家々に降り注いでゆく。
 何事もなくその村が焼け落ちてゆくのを見守るだけだと考えていたドラゴは、頭の上から突如降り注いだ大量の水に驚きながら顔を拭い、目の前に立っていたシルバの姿に気が付いた。

「まさか本当にこの島にお前が来ているとはな……」
「ドラゴか。お前なら丁度良い。事情を説明するからこいつから石板を受け取ってくれ」
「!? どういうことだ? お前と会っていなかった期間など一ヶ月にも達していない。一体何があった?」
「男児三日会わざれば……だっけか? まあ色々とあったよ。それについてお前と話すのはまた今度だ。今はさっさとこの無駄な争いを終わらせたい。協力してくれ」

 シルバの姿を見てドラゴは警戒し、戦闘態勢を取ったが軽く微笑んでから普通に話し掛けてきたシルバの姿に思わず驚愕した。
 感情すらも凍てついたかのような反応を見せていたシルバと話したのは数週間程度前であるのにも拘らず、既にそこにいるシルバの雰囲気はドラゴが知っている記憶の中のシルバにそっくりになっているからだ。
 思わず自分の目を疑ったが、ドラゴの言葉に対して答えてゆくシルバの言葉は表情と共によく変わり、協力を求めた時には思わず懐かしささえも感じるほどに人間味に溢れていた。

「できる事なら協力してやりたいところだが、生憎こちらも背に腹は代えられん状態でね。何が何でもこの島の村を破壊しなければならない」
「どういうことだ? 石板が目的じゃないのか?」

 石板を差し出しながら話し掛けたシルバにドラゴは首を横に振って返事をし、言葉を続けた。
 その言葉を聞いてシルバは難しい表情をしてみせたが、シルバの言葉にドラゴは首を縦に振って答える。

「無論石板も目的の一部だ。だが、今回の作戦はこの島の村の内半分を壊滅させろというものだ……。石板が手に入った所でその目的も達成させなければ本部は今回の任務を完遂したとは認めてくれない」
「どうしてもか?」
「どうしても……だ。分かってくれとは言わん。だが、俺には例え誰かを傷付けたとしても守らなければならない者がいる」

 ドラゴの語るその言葉は口にすらしたくないのだろうという想いがひしひしと伝わってくる。
 今までの作戦は全て石板を手に入れることが目的であったため、島民への攻撃は単なる石板を隠しても碌なことはないという脅しであったため、徹底的に潰す必要などなかった。
 ドラゴ自身、戦う事自体を望んでいたわけではないため可能であれば島民が逃げることを待ったりしていたのだが、彼の部隊にもヒドウ直属の部下が編成されているため下手なことは出来ない。
 そのため諦めてドラゴは戦うしかなかったのだが、シルバはその言葉を聞いてあっけらかんとした顔で話し始める。

「そうか。なら"村だけを"半分ぶっ壊してくれ。島民に被害を加えるのは今の作戦からだと目的ではないんだろ?」
「何? いや……確かにそうだが、それは詭弁だ。とてもではないがそれで許してくれるとは思えん」

 シルバの申し出は突拍子も無い物だった。
 しかし、村だけを破壊したとしても島民への直接的な被害が今回初の命令であるため、村だけを破壊するような屁理屈が通用するわけがないためドラゴは申し出を断ろうとした。

「分かってる。死体が必要なんだろ? 壊れた村は作れないが、"死体"なら俺が作り出せる。そんでついでに今俺の髪束の中にいるチャミから受け取った事にして石板も届けてくれ。悪い話じゃないだろ?」
「……そんなことができるのか?」
「できる。だがそれにはお前の協力が必要不可欠だ。協力してくれるか?」
「いいだろう。俺だって殺す必要がないのならこれ以上殺したくない。先にレイドにも協力してもらえるように話してこよう」

 そう言ってドラゴはその場を離れてすぐに横の村で暴れているレイド達に声を掛け、戦うのを止めてもらった。

「シルバ、悪いが今からやる事には目を瞑れ」

 ドラゴとレイド、二人が一つの村に集まってシルバと話をする前にドラゴがそう言うと、自分達の部隊の後方にいた兵士に飛び掛かり、一瞬にして味方であるはずの兵士を屠る。
 だがそれを止める者も驚く者も特におらず、すぐにでも逃げようとした数名の兵士を全て屠るとドラゴとレイドはシルバの前へ歩み出た。

「これで今だけは全面的に協力できる。何をすればいい?」
「成程、部下の体だが実際はお目付け役か。まずはチャミ、出てきてくれ」
「何々? 何がどうなったの?」
「お前は出てくるな。子供にはちょっと刺激が強すぎる」
「むにゅう」

 シルバに呼ばれて髪束の中から出てきたチャミにつられてヤブキが飛び出そうとしたが、既に焼けた遺体やドラゴ達がたった今殺した死体の転がる光景は子供に見せるわけにはいかないため、顔を出すよりも早く動きを止めて髪束の中へと押し込む。
 そして必要なメンバーが出揃ったところでシルバは全員に作戦の説明を開始した。

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