第2章 第8話

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読了時間目安:39分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

彼岸女
「………」


現在、私たちは食事を取っていた。
まぁ、ここまでそれなりに時間もかかってたし、一時の休憩とするには丁度良いかもしれない。


守連
「ハムハムハムッ!!」

阿須那
「守連は相変わらずやな…」

羽身
「あの身体にどんだけ入るんでっか?」

タイナ
「ある意味人体の神秘ですよね…」


皆守連ちゃんの食べっ振りに驚愕する。
いやもう皆解ってるはずなんだけど、それでもやっぱり驚くよね…
守連ちゃんは色とりどりの料理を片っ端から平らげていく。
ちなみに料理はラーズが軽く用意してくれた物だ。
この店は一応喫茶店だし、厨房位はあって当然だろうしね。


ラーズ
「カルラ様、どうぞ…」

カルラ
「……あ~ん」


カルラもそうやって怠惰に食事をこなす。
ラーズはカレーライスをスプーンで掬い、カルラの口に持って行ってやったのだ。
本当に、自分から動くのを嫌がるタイプだね…



「……」

彼岸女
「…何か気になる事でも?」


雫は私の隣で訝しげな顔をしていた。
食事に文句があるわけでも無く、一体何を考えているのか…?
こういう時、雫の思考が読めないのは面倒だね…
まぁ、私は元々読心術には長けてないエスパーだし、そういうのは専門外なんだけど…



「昭和レトロの世界観で、こんな洋食だらけの食事を取るっていうのもね…」

彼岸女
「そうでもないかもよ? 昭和30年代には洋食が一般普及しだした頃だし、こういう食卓もそんなに違和感は無い」
「それとも、雫は和食派かい?」


「別にその辺はどっちでも良いわよ…」
「ふーん、人間の歴史ってそういう物なのね…」


雫はひとりで納得し、そのまま食事を取る。
やれやれ、何かありそうな雰囲気なのにね…
雫的には、口にしたくないって事かな?


守連
「ハムムッ! お代わり!!」

阿須那
「まだ入るんか…以前よりもパワーアップしとらんか!?」


まぁ体格も大きくなってるしね…身体が大きくなれば食べる量もそりゃ増えるでしょ。
とはいえ、守連ちゃんにかかったら本当に食料の危機だね…



………………………



守連
「ふ~! 満腹満腹~♪」

阿須那
「あの量を本気で食い切ったな…」

羽身
「10人前は軽くありましたで?」

タイナ
「本当に、胃の状況を見てみたいですね…」


結局守連ちゃんは、テーブルに盛られた全ての料理を綺麗に平らげた。
私たちは各々必要な量だけを食べており、守連ちゃんだけがひとひで食べ続けていたのだ。
さしものラーズも調理に奔走していたね…お気の毒様。


ラーズ
「やれやれ、片付けも大変ですねこれは…」


ラーズはとりあえず全ての皿を超能力で宙に上げ、洗い場に持って行った。
フリーザーって割には、エスパー的な能力を使うんだね…
新種のリージョンフォームみたいだけど、タイプその物が違うって事か。


カルラ
「………」

守連
「……」


その時、守連ちゃんがカルラをふと見つめる。
カルラは食事を終え、ダルそうにしていた。
ハッキリ言って、だらしないを通り越した姿だ。
表情からもやる気が全く感じられない。
守連ちゃんはそんなカルラに向かって、こう話しかけた…


守連
「…貴女は、どうしてこんな戦い方をするの?」

カルラ
「……?」


カルラは面倒そうに視線だけを守連ちゃんに向ける。
守連ちゃんはやや真剣な顔で、じっとカルラの反応を待っていた。
数秒程静寂が走った所で、カルラはようやく言葉を放つ。


カルラ
「……面倒、だから」

守連
「面倒なのに、こんなルールで戦うの~?」


守連ちゃんの気持ちは解らなくも無い。
まぁ、ルールに関してはカルラが決めてるわけでもないしね…
カルラは能力の制約的に、あまり実戦向きじゃないだろうし…


守連
「貴女は、本当にあんなゲームが楽しいの?」

カルラ
「……楽しい」
「……むしろ、それ位じゃないと意味が無い」


言い切った後、カルラのダルそうな目が守連ちゃんの目を捉える。
その瞬間、守連ちゃんは背筋をビクッと震わせた。
一見無感情にも思えるカルラの表情だけど、その本質はやはり七幻獣。
あくまで、アレは敵のひとりだ…それも幹部クラスの…ね。


阿須那
「守連、下手な甘えは止めぇ」
「アレはあくまで敵や、馴れ合うのは無理やで?」

守連
「…そういうつもりじゃないけど」
「でも、敵意を全く感じないから」


敵意…か。
確かに、カルラから直接それを感じる事は無いかもしれない。
だけど、それはカルラの能力があるからでもある。
『怠惰』の力はあらゆる感情を抑制する物だ。
敵意は勿論、殺気すら放たずに彼女は相手を殺せるだろう。
だからこそ、怖いんだよね…こうやって直接相対すると。



「やれやれね…守連のその性格は否定しないけれど、それでももう少し警戒はすべきかもね」
「2年前のあの時と同じ思いは、したくないでしょう?」

守連
「!!」


守連ちゃんは右腕で身体を抱き、唇を噛み締める。
口元から若干の血を滴し、彼女は自分を戒めているかの様に震えていた。
あの時、か…私も当事者ではあるけど。


彼岸女
「…そう言えば、真姫は元気にしてるかい?」

カルラ
「……? 知らない…黙示録後は見てないし」


見てない…ね。
となると勝手に姿を消したか、それとも消されたか?
いや、王の性格的に消す事はまず有り得ないか。
だとすると、泳がされてるか…まぁその内遭遇はするかもしれないね。
彼女の心境を考えると、どんな枷が与えられてるだろうか?とは思うけれど…

どうせ、ロクでもない枷でしょ…色欲だし。


阿須那
「…その真姫ってのは誰の事や?」

彼岸女
「七幻獣のひとりさ…色欲のダークライ」
「もっとも…今は枷でも付けられてどうなってるか」

タイナ
「枷…ですか?」

阿須那
「確か、裏切りモンに付けられるやっちゃろ? その真姫ってのはこっち側のポケモンなんか?」


私は聞かれてう~ん…と唸る。
そして頭をポリポリ掻きながら、私は軽くこう言った。


彼岸女
「むしろ、恨まれてるかもね~私が作戦失敗したせいで枷付けられたろうし…」

阿須那
「って、アンタのせいかいな! つか作戦って何や!?」

彼岸女
「私と真姫で結託して、枷を外そうって作戦」
「まぁ、あの時の真姫に枷は付いて無かったけどね」
「真姫も王には不満たらたらだったし、都合が良かった…」
「成功すれば、真姫にとってもノーリスクで裏切れる予定だったから」


まっ、結局失敗して私は愚者になったわけだけど。
結果、私の枷は無事に外れて今はある意味フリー。
真姫に関しては、お気の毒様としか言えない立場だね。
…勿論、悪気は全く無いんだけど。


彼岸女
「とりあえず、真姫に関しては期待しない方が良い」
「会っても多分敵だろうから」

守連
「…どうして、そこまでして混沌の王は私たちと戦うのかな?」


守連ちゃんは耳を垂れ下げ、しゅん…と俯く。
まぁ、彼女らしい悩みなんだろうけど、ね。
私は髪をかき上げ、片目を閉じて軽く告げる。


彼岸女
「王はただ遊びたいだけなのさ」
「私たちは、所詮…おもちゃ箱の中にいる人形でしか無いんだから」

カルラ
「……貴女は、王を倒したいの?」


唐突に、あのカルラが発言する。
私は若干驚くも、少し俯いて小さく答えた。


彼岸女
「…別に、王の事は正直どうでも良い」
「ただ私は、大切な物を取り戻したいだけだから」


勿論、その為に王と戦うのはやぶさかじゃない。
立ちはだかるなら、立ち向かうだけだからね。


タイナ
「おもちゃ箱…ですか」
「まるで、私たちの世界みたいですね…箱庭の様な、そんな世界」


タイナは小さく語る。
確かに、彼女の世界はあまりに閉鎖的な狭い世界だった。
多分この世界と同様に、舞台装置でしか無い世界なんだと私は推測する。
つまり、あくまで王が用意したジオラマでしかないって事だ。
タイナたちは、そういう意味でそこに置かれた人形って訳だね。


タイナ
「私たちの世界以外にも、箱庭が多数存在する」
「そして、本当の空は…別の世界にある」

羽身
「本当の空…? 何の事でっか?」


タイナはゆっくりと天を仰ぎ、しばし黙する。
ここはあくまで室内だ、上には天井と照明器具が映るのみ。
そんな天井を見ながら、タイナは静かに話し始めた。


タイナ
「この世界も、限られた空間の中に存在している箱庭でしかありません」
「私は、何処かに存在する本当の空を見てみたい」
「ただ作られた空ではなく、何処までも広がる大いなる空を…」

羽身
「???」

阿須那
「解らんのやったら無理に頭を使うな…」

羽身
「ほな阿須那はんは解るんでっか?」

阿須那
「…それはまた別の話や」


解らないんだね…まぁ、説明しろって言うのも難しいけど。
タイナは研究者だ、新たな研究テーマを前にしてそれを解き明かしたいんだろう。
彼女にとっての本当の空…そんな幻想的な研究は、本当に終わりがあるのだろうか?
それでも、彼女は進み続けるんだろうけど、ね。


カルラ
「………」

彼岸女
「君は、本当に王を信じているのかい?」


私はカルラにそう尋ねる。
彼女から答えは帰って来ないが、多分何とも言えないのだろう。
いや単純に面倒だから考えたくないって事も有り得るけど!
それでも、彼女は彼女なりに正義があるはずだ。
怠惰と言っても、彼女はひとりのボルケニオン。
人格的に怠惰な訳じゃないはずなんだから。

…まぁ、あくまで本人の個性だって言ったら何も言えないけど!


ラーズ
「主は、あくまでご自分の意志に従ってここにおられますよ」

カルラ
「………」


洗い物を終えたラーズが突然現れ、そしてそう告げる。
カルラはダルそうな顔をしているが、否定もしなかった。
自分の意志で、か…だけど、それも王の設定した舞台での話なんじゃないのかな?


ラーズ
「王が我々に何かを指示する事は基本的にございません」
「つまり、カルラ様がここにおられるという事はそういう事」

彼岸女
「あくまで、私たちを始末する為に現れたって訳か」

ラーズ
「いえ、主はただ遊びたいだけですよ」


全員が、は?という顔をした事だろう。
その発言はそれ位意味不明だった。
いや、遊びたいって…それで何でデスゲームやらされるの?
彼女の趣味が色々アウトなのはよく解るけど、それでも何で?


ラーズ
「あくまで、今回の企画は主を楽しませる為のイベントです」
「ですので、勝敗に関してどうこう言うつもりもありません!」
「ただ、貴女方は真剣に戦えば良い!」
「その結果、主が認めるのであれば…貴女方には報酬として次の世界への道を授けようというだけですので」

阿須那
「何やそら!? ほんなら何でウチはこんな世界で2年も無駄に生活させられたんや!?」
「せやったら、ウチひとりでも戦わせたら構へんのちゃうんかい!!」


阿須那ちゃんの言い分も解らなくはない。
この企画が本当にカルラの気分だけで組まれたのだとしたら、阿須那ちゃんは相当無駄な足止め食らった事になるからね。


ラーズ
「残念ですが、それに関しては王の設定に準じておりますので」

彼岸女
「やはり、所詮この世界も舞台装置か」


私はきっぱり言い捨てる。
ラーズも特に否定はしなかった。


タイナ
「…舞台装置、つまり守連さんたちにとって『2年』の経過、という共通点が全て王とやらの設定したシナリオだと?」


タイナは流石に気付いた様だ。
そう…『2年』なんだ。
守連ちゃんも阿須那ちゃんも、共通して2年の時を過ごしていた。
そしてその節目で私と出会い、世界を超える鍵を得る。


彼岸女
「…成る程ね、全部私と雫が絡んでるわけか」

ラーズ
「さて、そこまでは私には計りかねますが…」
「少なくとも、主が貴女方を待っていたのは確かですよ?」
「主は、あくまで彼岸女さんのゲームが見てみたいと言っておられましたので」


全く迷惑な話だね…良くも悪くも全て私と雫次第って訳だ。
守連ちゃんも、阿須那も、それに巻き込まれた形…
いや、彼女たちは自ら望んでその道を選んだに過ぎない。
2年という時間は、確かに目的の為とすれば無駄だったかもしれないけど…
だけど、その2年間で確実に得られた物もまたあったはずだ。


彼岸女
「この調子だと、他のメンバーも同じ経験をしてる可能性は高いね」


「全て、王がプログラムしたストーリーの設定って訳ね」

阿須那
「ざけとんな…一体、何の意味があるんや?」

タイナ
「そんな王のお遊び…となれば、意味など特に無いのかもしれませんね」

彼岸女
「だろうね、王は楽しめればそれで良い」
「その為になら、2年なんて単位に意味は特に無いんだろう」

守連
「…やられる方はたまった物じゃないけど」


守連ちゃんは項垂れながらそう言う。
まぁ、そりゃそうか…RPGに例えるならクリアにリアル2年かかる様なゲームはほぼクソゲーだろうからね。


羽身
「ん~要はその2年間って所がキーワードなんでっか?」

阿須那
「いや、せやから特に意味は無いんやって…」

羽身
「せやのうて! 聞いとる限りやと、阿須那はんにはまだ仲間がおるんでっしゃろ?」
「せやったら、そのお仲間はんも2年間別の世界で過ごしとる…っちゅう事や!」
「そこに、ホンマ意味は無いんでっか?」


羽身ちゃんの言う事が、私には少しだけ引っ掛かった。
ここまで、2年という共通点…それ以外にも何か無いのか?
例えば……


彼岸女
(タイナと、羽身ちゃん?)


思えば、これも共通点なのでは?と、私は考えてしまった。
出会いはただの偶然? 私にはそうと言い切れない。
タイナと守連ちゃんの出会いは、もしかしたら必然だったのでは?
阿須那ちゃんと羽身ちゃんも、出会うべくして出会った関係に思える位、存在に違和感が無さすぎる。

もし王が作った世界なら、タイナや羽身ちゃんはただの1キャラクターに過ぎないはずだ。
世界をクリアすれば、一緒に消えてしまう存在…
タイナに関しては、私が望んで連れて行く事を決めたけど、羽身ちゃんはどうなんだ?
それとも、『そうなる』前提で王は世界を創ったのか?


ラーズ
「ふふ、答えは出そうですか?」

阿須那
「アンタは答えを知っとるんか?」

ラーズ
「さて? 私には何とも…」


ラーズはワザとらしく肩を竦める。
知ってるけど、言いたくないって雰囲気だね。



「………」


雫は無言で何処から取り出したのか、スケッチブックに何かを書き始めた。
そして無言のまま、それをラーズの背後に回って阿須那に見せる。
そこに書いてあったのは…



『知っているが、お前の態度が気に入らない』


阿須那
「舐めとんのか!! ってか、知っとるんかやっぱり!?」

ラーズ
「いやいや、ネタにマジギレされても…」


ラーズは殊の外冷静に反応した。
意外にもネタの神に愛されていた様だ。


彼岸女
「こら雫…今時そのネタ解る人はレアだと思うよ?」


「おのれ…元ネタのゲームは神ゲーだというのに!」

彼岸女
「まぁそれは否定しないけど…今やるには微妙に敷居が高いのがね」
「かといってPS移植とアニメの方は黒歴史も良い所だし」


「アレに手を出すのは愚行よ!! 特にアニメは止めておけ!!」
「個人的にはオリジナルをお勧めするわ! ボイスは無くても十分! っていうか、やるならやるでちゃんと演技指導しろスタッフゥ!!」


…と、雫の魂の叫びが店内に木霊した。
うん、完全に脱線したね!!
とりあえず閑話休題!!


守連
「あ、あはは…ゲームかぁ、久し振りにちゃんとしたのをやりたいね~」

阿須那
「ちゅうか、これそもそも元の世界に戻れるんか?」
「まぁ、聖が本気出したら全部元通りにしそうやけど…」


「それはどうかしらね…混沌の王が完全に世界を創造しなおした以上、それを完全崩壊させて新たに創造しなおすのは、私の力じゃ難しすぎるわ」

彼岸女
「そうなの? 雫のフルパワーならそれ位の奇跡は起こせると思ってたけど」


「元々、私の起こせる奇跡はそこまで万能じゃないの」
「そもそも私の食料は『夢』であり、行使するのも『夢』を現実にするだけ」
「もう見れない夢を叶えるのは、不可能なのよ?」

阿須那
「よう解らんな~そもそも夢なんて自由に描けるもんとちゃうん?」


「確かに描くのは自由…だけど、見れるかどうかは本人次第」
「いかに聖が私の力をフルに使ったとしても、今の貴方たちを全て捨て去って元に戻すのは、無理だと思わない?」

守連
「…聖さんなら、やるって言いそうだけど」


「やるやらないじゃないの、無理なのよ?」
「仮にやっても失敗する、そしてその結果どうなるかは…知ってるわよね?」


雫は目を細めて守連ちゃんにそう言う。
守連ちゃんと阿須那ちゃんはふたり俯いて耳を垂れ下げる。
そう、無理な願いは叶えられない。
仮にやっても、世界ごと全てを消し去ってしまう…それが、雫のデメリットなのだから。


彼岸女
「…もし暴走させたら、宿主ごと消えるの?」


「そうよ、そして私はその度に次の宿主候補がいる世界に移動する」
「そうやって…私はいくつもの継承者たちを渡って来たのだから」


創造主たるあの世界のアルセウスが造り出した夢見の雫…それに宿った夢を喰らう愚者。
あのアルセウスは、初めから雫という愚者が宿る事を想定していたのか?
それとも、愚者という存在はあくまで突然変異で産まれるものなのだろうか?



「…まっ、私が意志を持ったのは風路が継承した後だけどね」

阿須那
「風路はん、から?」
「ほんなら、聖に継承される前からアンタは意志を持ってたんか?」


雫はコクリ頷いて、コップに残ってたジュースを飲む。
そして軽く息を吐き、雫は椅子に座ったまま両足をプラプラさせてこう言い始めた。



「創造主のアルセウスが何を考えていたのかは解らないわ」
「だけど、私が誕生したという事は確実に意味がある」
「恐らく全てを予期した上で夢見の雫を造り、正しき継承者を求めたんだと…私は推測しているわ」


正しき継承者…風路が現れるまでそれは存在しなかった。
あのアルセウスが諦めかけていた中、最後の最後に産まれた正しき心の継承者…
それが風路であり、雫は後の聖君にも引き継がれた。
だけど、それでも悲劇は避けられなかった。


彼岸女
「…アルセウスの暴走の時、雫は何を思った?」


「別に何も? ガキの癇癪にいちいち目くじら立てるのはバカらしいでしょ…」
「結果世界がどうなろうが、私には関係無いわ」
「私は自分が生きる為に、最適な宿主を探すだけ」
「一介のアルセウスが暴走する程度で折れる様な宿主なら、私は必要としないわ」

阿須那
「言いたい放題やな…本人が聞いたらどんな顔するか」


きっと呆れてため息を吐くだろうね…
私でも想像が着くよ。
結局聖君はその後、全部何とかしちゃったんだから。


ラーズ
「…とはいえ、それで黙示録を延長されては世界の均衡が崩れてしまいますがね」


「…結局、創造主のアルセウスは自らの限界まで子供を守る決断をした」
「世界の均衡を崩してでも、聖が育つのを待ったのね…」
「その成果もあり、聖は愚者の器として相応しく成長した」
「その後、混沌の王が無理矢理干渉し、遂に黙示録は起きたわけだけど…」

彼岸女
「聖君は、崩壊の奔流に飲まれて消えてしまった…」


私は歯を食い縛ってあの時の事を思い出した。
後少しだった…と思っていた。
油断はしてたかもしれない、それでもやれると思ってた。
結局、私は王の掌で踊っていただけ…聖君はその犠牲になってしまった。
だからこそ、私は全てを賭けてでも聖君を救う!


彼岸女
「必ず…やり遂げる!」

守連
「うん、きっと出来るよ♪」

阿須那
「まっ、それが出来んかったら何の意味も無いからな!」


「精々良い夢を見れる様になりなさい…そうすれば、奇跡は私が起こしてあげる♪」


私たちは結束を改めて固める。
まだ、私は家族とは認められていないけれど、それでも救いたいという意志は同じだ。
だけど、その為には…


タイナ
「…守連さんの大切な家族、ですか」

羽身
「知らんけど、そんだけ阿須那はんには大切な男なんやな~」


このふたりの力がどうしてもいる。
後ふたつのゲームに、私たちは何としてでも勝たなきゃならないのだから…


カルラ
「………」

ラーズ
「どうぞカルラ様…食後のデザートです」


そう言ってラーズはダラけきったカルラの口にスプーンを差し込む。
カルラはほんのりと表情を和らげ、ヨーグルトを堪能していた…


彼岸女
「…緊張感削がれるなぁ~」

阿須那
「悪趣味な性癖さえ無けりゃ、人畜無害のゆるキャラに見えるからな…」

守連
「うん…せめて無害なゲームで遊べたら良いのに」


カルラにそんな趣味があるとは私も知らなかったからね。
しかも怠惰の力を使えるから、直接戦闘はほぼ許されないというオマケ付き。
って言うか、緊張感削がれるのも能力の一環なんじゃ!?


阿須那
「とりあえず、次は何をやらせるつもりや?」

ラーズ
「それでは、先に見せておきましょうか…」


ラーズはスプーン片手に、空いた方の手で指パッチンをする。
すると部屋は暗くなり、1ヵ所のみがライトアップされた。
そこにあったのは……


阿須那
「な、何やあのデカイ樽は!?」

守連
「いくつも穴が開いてるけど…コレって~?」


そう、その形状は間違いなく見た事のある玩具の巨大化版!
かの1975年から、あのクソゲーメーカーで有名な○カラトミー(当時は○ミーで販売)が作り出した定番玩具!!



「守連危機一髪ぅ!?」

彼岸女
「いや、確かにピカチュウ版もあったけどね!?」

ラーズ
「そう! これはそれを等身大にし、挑戦者はあの中に捕らえられてもらいます!」
「おっと、どうぞカルラ様…」

カルラ
「………」


ラーズは説明しながらもカルラに奉仕する…面倒な事を。
カルラもカルラで空気読めば良いのに…説明には興味無いんかい!


羽身
「見た事無いゲームやな…ルールは何なん?」

ラーズ
「簡単ですよ…あの樽に剣を突き刺し、生きたまま脱出出来れば勝利です!」

タイナ
「樽に、剣を!?」

阿須那
「成る程、モノホンの刃物(ヤッパ)でやろうってか?」

守連
「そ、そんなの刺さったら流石に死んじゃうよ~!」

彼岸女
「まぁ、デスゲームだしねぇ…死ななかったら意味無いし」


とはいえ、かなり危険なゲームでもある。
単純明快なゲームだけど、完全に運否天賦なのだから…
スリルどころの騒ぎじゃないぞ、コレは…?


ラーズ
「ちなみに、当然ですがそのままのルールではありませんよ?」


ラーズはカルラにデザートを食わせながら背中越しにそう言う。
もう、先に食べさせてから説明すれば良いのに…


ラーズ
「…マインスイーパーというゲームは知っていますか?」

彼岸女
「色や数字を便りに地雷を避け、全ての安全なマスを探すゲームだね」
「…成る程、そういうルールか」


私が一足先に気付くと、ラーズはククク…と笑う。
私は舌打ちするも、そのルールの恐ろしさを垣間見た。


彼岸女
「…全ての安全マスを剣で刺せってわけか」

ラーズ
「イグザクトリー! それこそが黒ひげマインスイーパー危機一髪!!」
「ちなみに、仮に全部刺さっても生きていたなら勝利に致しますよ?」
「生きていれば…ですが!」


ラーズはそう言って、超能力で剣を必要本数分出して来た。
私はそれを見て疑問に思う。
大きくはなっているものの、剣はプラスチックの玩具だったのだ。


彼岸女
「? 刃物じゃないんだ…」

ラーズ
「流石に本物で仕掛けを施すのは面倒でしたので…」
「これは単なるスイッチ作動用で、当たりに刺されば樽の中から刃物が伸びる仕掛けです」



「ま、まるで鉄の処女(アイアンメイデン)ね…」


言い得て妙だね…原理は全く違うけど。
そっちは入った時点でアボンだし…


守連
「マインスイーパー、結構難しいんだよね~」

阿須那
「聞いた事はあるけど、やった事は無いなぁ~」

羽身
「全く解らへん!」

タイナ
「…1度、テストプレイを見せてもらっても?」

ラーズ
「そうですね…それでは、軽く実演といきましょう!」


ラーズはそう言ってカルラの食事を終えさせ、こちらに振り向いて樽に向かう。
そして剣を1本持ち、それをひとつの穴に刺した。
すると、ガシャン!と音がし、刺した穴の周囲にいくつか数字が現れる。

図にするとこう…


111
1穴1
111


彼岸女
「…つまり、今のが当たり」

ラーズ
「そう! これは流石に運が悪いと言えますが、この時点で身体には刃が突き刺さります!」
「まぁ、死ななければこの後は楽になりますがね~」


そう、あの形という事はあの穴の周囲全ての穴が安全という証拠になる。
つまり、8本分は一気に刺せる…安全に。


ラーズ
「では、次は下の穴に…」


ラーズは真下の穴に剣を刺す。
ちなみに、この樽の穴は本家と違い並びが千鳥になっておらず、マインスイーパーと同様、正方形の並びになっていた。
穴は縦4マス、横は8マスの32個。
本家黒ひげよりも少し本数は多いね…


彼岸女
(だけど、マインスイーパーのルールを知っていたらいくらなんでも簡単すぎないか?)


一般的なマインスイーパーなら、100マス以上が割と普通だ。
これだと低難易度過ぎる、最初の1本目にさえ気を付ければノーミスも難しくもないけど…


ラーズ
「フフフ、疑問ですかね? ではこの数字を見て何か気付きませんか?」


ラーズはそう言って2本目を突き入れた穴を指差す。
すると、そのあなの数字は全く違う結果を示していた。
私はギョッとなり、その数字に注目する。


彼岸女
「配置が、変わってる!?」

ラーズ
「そう! このゲームでは安全な穴を刺す度に当たりの位置が変わります!」
「つまり安牌1本刺せば、他の安牌の配置が変わるという事!」
「どうです? 少しは緊張しますかね?」


ラーズはククク…と笑う。
実に悪趣味な仕掛けだけど、マインスイーパーのルールは変わってない。
つまりただ面倒にしただけで、時間が余計にかかるだけだという…
数字見て安牌探すのが基本なんだから…


彼岸女
(とはいえ、長くやればやる程ミスは生まれやすい)


要は集中力の問題だ。
途切れれば、思いもよらないミスをする可能性はある。
果たして、無事に切り抜けられるか…?


彼岸女
(ルールは本当にそれだけなのか?)


私は顎に手を当てながら考える。
黒ひげのルールとマインスイーパーのルールの複合。
しかも、安全な場所を刺せば地雷の位置が変わるという変則ルールだ。
とはいえ、マインスイーパーの基本を覚えてさえいれば、そんなに難しくは無いとも思える。

…が、それを差し引いても問題はある。


彼岸女
(あくまでやるのは、タイナか、羽身ちゃん)


私は後ろにいるふたりをチラ見して様子を窺った。
タイナは冷静だね、やるなら構わないって顔だ。
対して羽身ちゃんはやや顔をしかめている…簡単とはいえ、知らないゲームの複合なんて流石に危険すぎるか?


阿須那
「…タイナ、やったか? アンタ、こんなん自信あるか?」

タイナ
「…そう、ですね」
「頭を使うタイプの物でしたら、それなりに自信はありますが」
「運に関して言えば、何とも言えません」


阿須那ちゃんの問いにタイナは淡々と答える。
やはり、ここはタイナだろうね…その方が無難のはず。
阿須那ちゃんも覚悟は決めたって顔だ、考えは一致してるね。


阿須那
「…なら、任せて構へんか?」

タイナ
「ご希望とあれば、何とかしてみましょう」

羽身
「…ウチは頭使うのはちょっとなぁ~」

阿須那
「それは誰も期待してへん…せやからタイナに頼んどるんや」


ラーズも、解っててこのゲームを選んだ感じだ。
まるで、タイナじゃなきゃダメ…みたいなルールのゲームを提示してきている。
しかし、そうなると若干違和感が生まれるのも事実だ。


彼岸女
(それも、このゲームが終われば確信になるかもしれないね)


私も覚悟を決めてタイナの背中を優しく押す。
タイナは緊張もしてないし、特に精神面で問題は見られない。
想像以上に図太い性格みたいだ…まぁ、素で実の姉を殺せる様な面も持ってるからね。

自身を狂人と言って憚らない人物だ、逆にこういったデスゲームでは便りになるのかもしれない。
ある意味、このゲームでタイナの本性的な何かが見れるのかも?
私は、そんな事を期待しつつもタイナが歩く背中を見ていた…



………………………



ラーズ
「それでは、挑戦者の方は樽の中へ!」

タイナ
「………」


私は一瞬でその場から消え、次の瞬間には樽の中に収まる。
あくまで短距離のみですが、テレポートの応用です。
ちなみに、私は技としての『テレポート』は習得出来ませんのであしからず。

樽の中は非常に狭く、身動ぎも出来ない程ですね。
この状態ではギミックの回避はまず出来ない。
あくまで、ルールは死ななければ勝ち。
生存優先を心掛けて進めるしかありませんね…


ラーズ
「さて、それではゲームを開始します! さぁタイナさん、正面モニターに映る画面から、どの穴を刺すか番号を指定してください!」
「縦、横の順で数字を言ってくだされば結構!」
「まずは運試しです!」


ラーズさんの高らかな台詞と共に正面の巨大モニターに方眼紙の様な表が映し出される。
縦4列、横8列の計32マス…果たして、当たりは何マスあるのか?
私はまず無難な位置を攻める事にした。



X12345678
1ロロロロロロロロ
2ロロロロロロロロ
3ロロロロロロロロ
4ロロロロロロロロ


ちなみに表はこんな感じですね…


タイナ
「…では、2-2を」

ラーズ
「分かりました、それでは誰でも好きな方が剣をお刺しください!」
「誰も希望が無いのでしたら、私がやらせていただきますが?」

彼岸女
「なら私がやる」


彼岸女さんはそう言って自分から志願する。
他のメンバーは何も言わなかった…任せる、という事でしょうね。
彼岸女さんは玩具の剣を手に持ち、番号の浮かび上がった樽の穴から、私の指定した穴に剣を刺す。
カチリ…と何かスイッチの様な音がし、私は少しだけ感情を揺るがした。

恐怖はさほど無いものの、これも人間心理と言った所ですか…
まぁ、厳密には私はポケモンなのですが。


ラーズ
「どうやら、安全マスの様ですね…それでは周囲の状況をどうぞ!」


OOO
OXO
O11


出た表はこれ…確か1と記載されている隣のどこかの穴には、当たりのある穴が隠されているとの事。
事前に大まかなルールは聞いていましたが、成る程。


タイナ
(これを繰り返して、全ての穴を刺せば終了…という訳ですか)


私はすぐに次のマスを指定する事にした。
とりあえず1本1本…確実に埋めて行きましょうか。


タイナ
「次は2-3を」

彼岸女
「分かった」


彼岸女さんはすぐ右隣の穴に剣を刺す。
カチリ…と音が鳴るも、特に何も起こらなかった。


羽身
「…え!? 何で当たりの可能性がある右に行ったんでっか!?」

阿須那
「勘で行ったんか? せやったら相当度胸あるな…」


実際には勘ではありませんが…まぁ結果オーライだったので良しとしておきましょう。
さて、次の表は…?


OOO
OXO
111


当たりの配置がまた変わり、そう出ましたか。
しかしこれも、先程と同様同じ攻め方で構わないでしょう。


タイナ
「2-4」

彼岸女
「よし」


彼岸女さんはそのまま安全マスを刺す。
そして次の表が表示された。


11O
1X1
O12


タイナ
「……!」


私は若干ながら狼狽える。
この形…果たして安全マスは?


羽身
「…あれ、どないするんでっか?」

阿須那
「…どのマスも被弾の可能性がありそうやな、こら運ゲーやで」

守連
「…あれ? でも普通マインスイーパーだったら、数字が書かれてるマスは選べないよね?」
「この場合、どう見たら良いの?」

彼岸女
「!! そうか、そもそも考え方自体が違う…?」

ラーズ
(フフフ、気付きましたか)
(そう、このゲームは普通のマインスイーパーではありません)
(剣が刺さっていない穴であれば、数字が表示されてる穴も選択は可能)
(あくまで表示されている数字は、そこに当たりがあるかどうかの指標です)


全員が動揺する中、私は冷静に考える。
既に剣が刺さっている左に1という事は、その上下のどちらかに当たりがあるという事。
その内、左下が反応無しという事は…左上が確定という事ですね。

最初の剣の時点で、仕様はおおよそ理解しました。
私の推測が間違ってないのであれば、答えはここのはず…


タイナ
「1-5」

彼岸女
「よし…」


彼岸女さんはやや顔をしかめながらも剣を刺す。
そして、何も起こらなかった…どうやら答えは出た様ですね。
私は軽く目を瞑り、頭の中でここまで推測を整理する。
数秒後…私は目を開いてモニターの表示を見た。


1O1
111


阿須那
「な、何やこれ!?」

守連
「周りが全部1~?」


私は冷静にその情報を読み解く。
慣れていない人間なら難解そうにも映るかもしれませんが、全く難しくは無い。
この場合、危険マスは既に確定しているのですから。


タイナ
「1-6を」

彼岸女
「………」


彼岸女さんは、少し冷や汗をかいていた。
何か、不安がある?
私は、その原因を考えてみた…

そして、私はその意味にすぐ気付く事になったのだ。


タイナ
「…ひとつ、質問よろしいでしょうか?」

ラーズ
「どうぞ」

タイナ
「このゲーム、刺した穴の周辺にしか数字は表示されませんが」
「好きな穴を刺す事は出来るのですよね?」

ラーズ
「もちろん、そうでなくてはゲームが成立しませんので」

タイナ
「では、離れた穴を選ぶ場合はレーダー無しで選ぶ事になる…と?」

ラーズ
「その通り、スリリングでしょう?」


ラーズさんはワザとらしく煽る様に笑顔で答える。
私は軽く息を吐き、次の表示を確認する事にした。


3O3
353


阿須那
「ちょっ!?」

守連
「え~?」

彼岸女
「回避…不能パターン!!」


まさか、そんな事になるとは…
端を攻めて行く事で逃げ道を失ってしまいましたか。
しかし、それならそれでやるべき事はひとつです。


タイナ
「3-3をお願いします」

彼岸女
「…これも、賭けか」


彼岸女さんは覚悟を決めて剣を刺す。
そしてカチリと音が鳴り、判定は…


ズブリ…


そんな生々しい音が私の膝から鳴り響く。
チキチキチキ…と妙に古臭い装置音を鳴らしながら、私は針の様な何かに太股を貫かれる事となったのだ。
そう、賭けは…負け。


彼岸女
「…!!」

タイナ
「…ご心配無く、想定内の傷ですので」

ラーズ
「おやおや、思い切った選択でしたが大丈夫ですか?」
「まだまだ序盤戦…出血多量で死んでしまってもゲームは負けですよ?」


私は痛みに耐えながらも、状態を把握する。
直径、およそ10㎜前後の針でしたね…太股を貫かれた、という事は刺した剣の位置に針が出る仕組み。
しかも、出た針は刺さったままで抜かれる事は無い。
それならば、出血多量で死ぬ可能性はまだ低いですね。


タイナ
(幸い、身動き出来る程のスペースもありませんし)


私は冷静さを取り戻し、改めてモニターを見る。
そして表示された数字を便りに、次の手を考えた…



………………………



タイナ
「…4-8を」

彼岸女
「…!!」


あれから1時間近く経ち、私は何度か当たりを引きつつもゲームを進めていた。
ここまでで食らった数は、計4ヶ所。
左太股、右横腹、左肩、右足首です。
被害はそれなりにあったものの、残りは僅か3ヶ所。
1-1、2、3の3ヶ所のみ…ですが、これが最大のネックでもあります。


阿須那
「…ここまで来て、また博打か」

羽身
「しかも、数字によっちゃ無理もありまんがな!」

守連
「それよりも、あの3ヶ所はどこに刺さっても致命傷になり得る!」


そう、ここまでの被弾はあえて食らっても大丈夫そうな位置に食らった結果です。
ここまでのプレイで、当たりの数は恐らく有限だと私は読みました。
つまり、食らえば食らう程被弾率は下がる…
4本目を食らった後は露骨に安全マスが増えたという事は、残りは僅かのはず。


タイナ
「…1-2をお願いします」

彼岸女
「ままよ!」


彼岸女さんは一瞬躊躇するも、しっかりと剣を刺す。
もう何度も聞いた音が耳に響くも、針は動かない。
私は痛みに耐えながらも、しっかりと冷静にモニターを見た。
そこに写っていた数字の内、左は当たり、右は外れを示している…


タイナ
「…1-3」

彼岸女
「よしっ!」


これで、残りは1-1のみ。
ですが、ここが安全かどうかは全く解らない。
果たして、どうなるでしょうか?


ラーズ
「さぁ、残る穴もラストです! 最後の剣をどうぞ!!」


ラーズさんは大袈裟なポーズを取ってそう煽る。
彼岸女さんは冷や汗を滴しながらも、最後の剣を手に取った。
そしてそれを、両手でしっかりと持ち…最後の穴に突き刺す。
すると…最後の穴から最後の仕掛けが動作した。


タイナ
「…!!」


ブシュ!と音がし、私の右胸が貫かれる。
私は口から血を吐き、体を震わせた。


阿須那
「アカン! 最後の最後でやらかしよった!!」

守連
「タイナさーん!!」

羽身
「…でも、まだ生きてるっちゅう事は」


ガシャン!!と大きな音がし、私の体から針が抜けて樽から飛び出される。
私は人形の様にぶっ飛び、血を噴き出しながら彼岸女さんにキャッチされた。


彼岸女
「うわ…これは酷いね」


「でも、死んでないのね? 心臓を貫かれてるみたいなのに」

タイナ
「…ご心配無く、ギリギリ心臓には刺さっていませんので」


私は血を吐きながらも、しっかりとそう答える。
しかしながら、血が抜けすぎて意識は朦朧としてした。
このままでは、少なくとも失神するでしょう。
ですので…私は蝕腕を頭上に動かし、その握り拳から一滴の水を垂らした。
それが私の体に当たると輝きを放って波紋となり、周囲に広がっていく。
すると私の血は止まり、傷は僅かながら塞がった。


彼岸女
「な、何だこの技!?」

阿須那
「ウチ等にまで広がってんで!?」

守連
「何だか、癒される~♪」

ラーズ
「…『命の滴(いのちのしずく)』、ですか」
「ブリムオン…いえ、その進化前のミブリムが産まれながらに覚えている、他者を癒す事の出来る回復技ですね」


私は呼吸を整え、意識を辛うじて保つ。
そして、ゲームに勝利したのを確信した。


彼岸女
「これで…残るはラストバトル!」

羽身
「ようやくウチの出番でっせ!」

阿須那
「不安しかあらへんな…」

ラーズ
「お見事です! ここまでやるとは正直思いませんでした…」

彼岸女
「……本当に」
タイナ
「…そんな風には、思えませんが?」


私は彼岸女さんの言葉を遮ってそう聞く。
彼岸女さんは驚きながらも私を見ていた。
私はこの時点で推測している、『ある事』を尋ねてみる。


タイナ
「…ここまでの、ゲーム」
「私たちに、クリア出来る前提の物だったのでは…?」

ラーズ
「…それはそうでしょう、クリアの出来ないゲームはゲームではありませんので」


私が聞きたいのはそういう事では無い。
とはいえ、今それを聞いても…さほど意味はありません、か。
とにかく、自分の役目は果たした…
後は…少し眠る事にしましょう。


彼岸女
(タイナも、同じ疑問を抱いていた…)
(それが真実だとしたら、一体何の意味がある? )
(カルラは…本当に何も考えていないのか?)

カルラ
「………」


カルラの瞳は変わらず怠惰に輝いていた。
やる気が微塵も感じられず、ただダラけて虚空を見つめている。
だが、その体から発せられるオーラは、やはり異質だった。
果たして、そんなカルラの真意は?










『とりあえず、彼氏いない歴ウン千年のポケモン女が愛する男を救う為に戦う。後悔する暇も無い』



第8話 『タイナ、黒ひげマインスイーパー危機一髪!』


…To be continued

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